社会の変化を見誤ると大きなビジネスの失敗に繋がる? コロナ禍で起業家が信じるべきは「ビジョン」と「指数関数的成長」
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起業家教育全米No.1・バブソン大学とともに、起業に関する論文や事例を基に「失敗」にフォーカスした連載 起業家の「失敗学」。 今回は、「指数関数的な変化」「心理的バイアス」の2点に着目して、起業家や起業を志す皆様に役立つ情報をご紹介させていただけたらと思います。

スマホ、Netflix...我々の想像を遥かに超えるスピードで社会が変化することがある
2020年は、新型コロナウイルスの影響による社会の変化を強く実感する1年になり、2021年の年始は例年と大きく異なる様相で迎えました。これほどまでに社会の大きな変化を体感することは、人生において稀な出来事ではないでしょうか。皆さんは、この10年間で私たちの生活、ビジネス、社会がどれほど変わったと感じていますか?ここで、一度2010年から2020年までの10年間で社会にどんな変化があったのかを振り返ってみたいと思います。

例えば、今や多くの人が当たり前のように使っているスマホ。10年前はまだ持っていない人のほうが圧倒的に多く、今とは真逆の構図でした。「今スマホを持っていない人」と「2010年にスマホを持っていた人」は同じ構成比なのです。たった10年でスマホがここまで社会に普及したことは何よりも驚くべきことで、この状況を2010年に予期できた人はそう多くないのではないでしょうか。このように我々の想像を遥かに凌駕するスピードで、社会が大きく変化することが多々あります。

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(画像=JAFCO)

社会の大きな変革は、ビジネスにも直結します。アメリカ最大手のビデオ・DVDレンタルチェーンのBlockbusterは、まさにこれを見誤った例です。Netflixができた1997年、Blockbusterは定額制オンライン動画配信サービスの魅力に気づいていませんでした。そして2004年にようやくオンラインでの配信をスタートし、一度大きく売り上げを伸ばしました。

しかし、Netflixに対して、当時のCEOが" みなさんがNetflixを持ち上げることに、率直に言って困惑しています。...Netflixはうちにできないことをやってるわけではない、うちがすでにやったことをしているだけです。" と語るほど、定額制オンライン動画配信サービスを脅威に感じてはいませんでした。さらにBlockbusterがNetflixを5000万ドルで買える機会がありましたが、それすらも断固として拒否するほどだったのです。Netflixは急激に成長し、2012年にはBlockbusterを倒産にまで追い込みました。このように、我々が想像している以上に、ビジネスでも大きな変革は起き得るのです。

この社会的変化を捉えられれば、大きなビジネスチャンスをつかむことが可能となる一方で、これらの変化を見誤ると、既存のビジネスが立ち行かなくなる可能性もあります。この見誤りは、挑戦しない失敗、市場のポテンシャルを見誤る失敗、方向転換の失敗に強く結びつきます。

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人間は、予測できない未来を過小評価し、指数関数的な成長を読むことができない
では、そもそもなぜ人はこの社会の変化を過小評価してしまう傾向にあるのでしょうか。これには、大きく二つの要因があると考えられます。

一つは、「未来と過去に対する認識の非対称性」です。ハーバード大学のダン・ギルバート心理学教授の研究では、「人は未来と過去に対する認識の非対称性がある」とはつまり、「同量・同等の変化でも過去の変化と未来の変化では異なった認識を得る」ということを発見しました。過去を振り返るには記憶を「想起」すればいいだけですが、未来を思い浮かべるのには「想像」が必要になります。 想像することは大変難しいことであり、急激な変化の先にある未来を想像するのはより困難です。このような心理的バイアスがかかり、我々は未来の変化を過小評価してしまうのです。

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もう一つの理由は、私たちの「線形的な考え方」にあります。これはハンスロスリング著の「ファクトフルネス」にも出てくる直線本能です。私たちは物事を考える際に線形的に考えてしまいます。しかし、多くの物事は指数関数的な変化を起こします。これは古くから認知されている心理的バイアスと考えられています。有名なインドの逸話を一つ紹介します。

13世紀インドのある日、Sissa Ben Dahirという人物が美しいチェス盤を作りました。それを王様にあげたところ、王様はそれを大変気に入り、Sissa Ben Dahirに対して望むものをなんでもやろうと伝えました。それに対して、Sissa Ben Dahirは以下のように言いました。「では、1つ目のマスに1つの小麦、2つ目のマスに2つの小麦、3つ目のマスに4つの小麦、4つ目のマスに8つの小麦を。これを64個のマスでほしいです」。王様は快諾しましたが、なんと41個目のマスで1兆個以上の小麦になり、世界中の小麦を集めても足りないことに気づきました。Sissa Ben Dahirに対し、「このチェス盤を作る才能より、この提案を思いつくことのほうがすごい才能だ」と称賛したと言います。

この逸話から分かる通り、ヒトは常に指数関数的な伸びを感覚として捉えにくく、実際には我々が思っているよりも、はるかに大きく数値が伸びていくことがあります。

次は車の事例を見てみましょう。

以下の2つのオプションがあった時に、一定距離を走った場合の燃費の改善量はどちらのほうが多いと思いますか?

A. 10km/Lの車を20km/Lの車と替える
B. 20km/Lの車を50km/Lの車と替える

直観的にBを選びたくなった方が多いのではないでしょうか。しかし、答えはAになります。この問題を最初に見た時に頭の中でこのような図を浮かべたのではないでしょうか?

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このような線形のグラフを思い浮かべた方が多かったと思いますが、実際に数学で解いてみると、燃費と消費量は実は指数関数的な関係性なのです。つまり以下の図のような関係性になります。

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人間は、このような指数関数的な変化は感覚的に捉えるのが非常に難しく、これをExponential Growth Bias(指数関数的成長バイアス)と言います。多くの事象において、まず指数関数的な変化なのか、線形的な変化なのかを的確に捕らえる必要があります。同時に指数関数的な変化があると数値上は理解ができても、それを感覚的に捉えるのにはさらなるハードルがあります。

直近10年間の指数関数的な変化を辿った事例
それでは、実際に指数関数的な変化を辿った事例を振り返ってみましょう。もしかしたら、今あなたが参入しようとしている市場もこのような変化を遂げる可能性を秘めているかもしれません。

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こちらは直近10年間における、一人一日当たりのオンライン利用時間です。モバイル端末については、最初の三年間の伸び幅は5分以下ですが、この増加スピードは加速し、2016年以降は毎年10分以上の増加が続いています。

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こちらは直近10年間における米国内で走行している電気自動車の台数とバッテリーパックの価格です。台数に関しては指数関数的な変化が見られます。

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指数関数的な変化は、ビジネスの世界だけではありません。学問の世界でも同じです。上記のグラフはCas9関連(ゲノム編集技術関連)の年間文献数です。2012年の論文数はわずか1本でしたが、今では年間3000以上の論文が書かれています。2012年時点でここまでの急激な増加を見込めた人は多くなかったのではないでしょうか。

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世界を大きく変えた新型コロナウイルスもまさにこの事象のひとつです。一週間前まで数人の感染者だったのが、数日で爆発的に増加し、桁が次々と変わっていきました。もちろん、対策を講じることでこのような指数関数的な変化をなるべく抑制しようとする動きもあり、実際に日本の感染者数の増加は線形的な増加になった時期もありました。

まさに、私たちがこのような爆発的に増える指数関数的な変化を的確に捉えることが難しかった2020年だったということです。

起業家は、「現時点」ではなく「未来」の指数関数的成長を信じて挑戦してほしい
指数関数的な変化は、最初に急激な変化が起こることもあれば、後々に周りが予想するよりはるかに大きな変化が起こることもあります。

今は変化が起きてない、今はニッチな産業でしかない、そんな中で将来会社は大きくなるのだろうか、起業家にはそんな気持ちでビジネスの成長を諦めてほしくはないと考えています。あなたが思っている以上に、将来は大きく変わる可能性があるのです。2030年も今私たちが想像している以上に、社会が大きく変わっていることは間違いありません。

先述の通り、人間には変化を過小評価してしまう傾向があります。したがって、もしあなたが将来指数関数的な成功を遂げると信じるビジネスを考えていたとしても、"現時点"では理解を示してくれる人は決して多くはないということもあるかもしれません。しかし、ご自身の中で、「この市場・ビジネスは近い将来大きく変わるんだ」という強い想いや確信があるのであれば、このような心理的バイアスに囚われずに、自身のビジョンを信じ、その実現に向けて挑戦してみても良いのではないでしょうか。

バブソン大学山川教授のコメント
未来と過去に対する認識の非対称性や直線本能のような心理的バイアスは生活の中だけではなくビジネスの中でも生じるバイアスです。今は少しばかりの変化や成長であっても、わずかな時間で急激に加速することが多々あります。市場や事業の将来性を線形的に捉えてしまい、過小評価してしまう、その間に別の事業者に先行されて乗り遅れてしまうというニュースはよく聞くのではないのでしょうか。このような失敗は怠慢ではなく、これらのような心理的バイアスからくるのかもしれません。

同時にこのバイアスは参入のチャンスです。"Live in the future to get to the future." 世の中の動向、特に人が気づいていない間に起こっている急激な動きに着目すること、あるいは未来を生きる・想像することで、自らが未来を創造することができる。自分の事業に強く将来性を感じるのであれば、現状の変化を指数関数的にとらえ、自信をもって進めてみるのも良いのではないでしょうか。