日本にはスーパーゼネコンと呼ばれる5大建設企業が存在します。そのうちの一社、鹿島建設は、創業1840年 (天保11年) と長い歴史のある企業です。橋、鉄道、ダム、空港、トンネルなどの公共インフラ工事から、工場や高層ビル、大型商業施設などの民間建設事業まで数百のプロジェクトを請け負います。また、建設のみではなく設計、企画から維持管理まで、建設の上流から下流までを幅広く手掛けます。

鹿島建設には、本社の土木技術部内に開発企画グループという、世界の最先端技術を発掘するチームがあります。米国シリコンバレーをはじめ、スタートアップ大国のイスラエルにも高い関心を寄せています。今回は、鹿島建設の技術革新を推し進める、松田 恭明 (まつだやすあき) 氏に、建設業界の今と課題、鹿島建設のビジョンをインタビューさせていただきました。

松田 恭明 (まつだやすあき) 氏
(画像=松田 恭明 (まつだやすあき) 氏)

―――松田様が所属する、鹿島建設の開発企画グループについて教えてください。

開発企画グループは、世界の最先端技術を鹿島建設に導入するべく活動をしています。コロナ禍以前は、月の半分程度は海外にいました。そして現在まで1300社以上とコンタクトを取っています。もともとはシリコンバレーを中心に様々な企業とやり取りがありましたが、イスラエルに研究開発の拠点を置く企業が随分多いのに気づきました。その為、現在ではシリコンバレーに加え、イスラエルにも目を向ける機会が多くなりました。

―――御社が最先端技術の導入を積極的に行うのは、どのような目的があるのでしょうか?

今の建設業界には2つの課題があると考えています。一つ目は少子高齢化に伴う、労働力不足です。現在中心となっている経験豊かな業界従事者は高齢化しており、今後、約10年で約100万人以上の熟練技能者が市場を去ると予想されています。そして今後が期待される若い労働力の参入は十分に見込めません。二つ目としては、建設投資の減少に伴う、建設業界全体のマーケットの縮小です。事業における生産性の向上と効率化は、どの業界にも共通して言えることだと思いますが、建設業界もその例外ではありません。これらの課題を克服するには、最先端技術の導入は欠かせないと考えます。

―――ISRAERUでも取り上げた、イスラエルに開発拠点を置く、ウェザーテックのClimaCellを御社は導入されました。この背景を教えてください。

建設事業には天気に左右される作業や、急な天気の変化で危険を伴う作業があります。事前に正確な天気を把握し、対策を練ることは大変重要です。例えば、クレーン作業は風に影響されるので、いつ、どの程度の強さの風が吹くのか、正確な情報は当日の作業計画に役立ちます。また都市部で突然襲ってくるゲリラ豪雨は、一般の気象情報では把握できません。このような、一般的には得られない気象情報や精度の高い情報に期待してClimaCellを導入しました。現在1年間の実証実験中であり、今後の活用法に期待が高まります。

―――海外から最新技術を取り入れて、それを改良した事例も複数あると伺いました。

はい。例えば、コンクリート工事における配筋作業が大幅に省力化できるラクラクロールマット工法がそれにあたります。この技術は、デンマークの機械メーカーであるPEDAX (ペダックス) が開発したロールマット工法を日本国内で独占契約している㈱スギウラ鉄筋と協業し、改良しました。通常建設現場での配筋作業は、全て人力で行います。面積が広い土木構造物であれば時間も要し、太径の鉄筋であればその重量も大きな負担です。このラクラクロールマット工法は、鉄筋を絨毯のようにロール状に巻き、マットの状態で現場へ運びます。予め一緒に巻き込んだロープを引く事で、簡単に配筋ができる仕組みです。これにより作業員の肉体的負担が軽減されるとともに、安全性の確保ができ、作業時間の効率化が実現しました。

従来の配筋作業(鉄筋の間配り)(鹿島建設websiteより)
(画像=従来の配筋作業(鉄筋の間配り)(鹿島建設websiteより))
従来のロールマット工法(鹿島建設websiteより)
(画像=従来のロールマット工法(鹿島建設websiteより))
展開用ロープ付きのロールマット(鹿島建設websiteより)
(画像=展開用ロープ付きのロールマット(鹿島建設websiteより))
安全に無理のない姿勢でロープを引いて展開 ラクラクロールマット工法(鹿島建設websiteより)
(画像=安全に無理のない姿勢でロープを引いて展開 ラクラクロールマット工法(鹿島建設websiteより))

他には、Boston Dynamics (ボストン・ダイナミクス)社製の四足歩行型ロボット「Spot」に建設・土木分野での実用化に向け、現在改良を加えています。このロボットを利用することで、点検、巡視、安全管理など、今までの人手による作業を代替できます。また四足歩行という特性を活かして、急傾斜地のすべり地帯での調査・測量などの危険作業やその他の適用先も検討しています。

「Spot」による実証実験実施状況(鹿島建設websiteより)
(画像=「Spot」による実証実験実施状況(鹿島建設websiteより))
土木現場でも適用可能な「Spot」(鹿島建設websiteより)
(画像=土木現場でも適用可能な「Spot」(鹿島建設websiteより))

―――今後期待する最先端技術は何ですか?

100年以上前から鉄筋とセメントは建設業界で中心をなす素材です。今後は、それに代わる新素材が出てくることに以前より期待しています。例えば、コンクリートのような質を保ちながら、二酸化炭素の排出量が少ないとか、少量で済むといったような新素材が出てきて欲しいですね。

―――最後に、鹿島建設が目指すビジョンを教えてください。

弊社では「建設現場の工場化」を目指しており、ICT (情報通信) 技術の導入や自動化への取組みを加速させています。今後も最先端技術の導入を積極的に行い、弊社の企業スローガンである「100年をつくる会社」を実践していきたいと考えています。そして建設業界が今まで以上に魅力のある業界となればと思います。

鹿島建設
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