独占インタビュー|河合 士恩 (在イスラエル日本国大使館 広報文化班長)
今やSNSの時代。プライベートのみならず、ビジネスやエンタメでもSNSインフルエンサーの活躍が話題になっています。大使館も例外ではありません。在イスラエル日本大使館の公式フェイスブックページの登録者数は1万6千人を超え、更に増え続けている勢いです。投稿すれば「バズる」大人気ページになった裏では、広報文化班の努力と日本文化を伝えたいという熱い想いがありました。
今回は、広報文化班長の河合士恩氏にお話を聞きました。
20年来の夢をかなえイスラエルへ。
外交官になり、イスラエルで活躍することを希望していた河合氏。しかしイスラエル赴任までは長い道のりでした。
元々英語が好きで国際関係に興味があった河合氏は、大学卒業後にイスラエルのキブツ(集産主義的協同組合)に1年ほど留学し、ボランティアをしながらヘブライ語を学習したそうです。
「世界中から人が集まるキブツで、日本人は自分一人だけでした。その中で日本についていろいろな質問を受け、説明する経験をしました。もちろん当時はまだただの若い留学生で外交官ではないのですが、自分にとっては”日本代表”として日本の事をしっかり説明するということが、すごくいい刺激となったのです。
その時に心地よく、自分に合ってると感じ、外交官として働けば日本の事を世界に伝えられると思ったのがきっかけだったんですよ。」
キブツでの留学経験が刺激となったと語る河合氏。外交官になる前から外交官としての気質を持ち合わせていたようです。
そして日本へ帰国した後、外務省に入ります。外交官になるにあたり、ヘブライ語を専門の言語として希望したものの、割り当てられたのはロシア語。ロシアへ2年間の語学留学、カザフスタン赴任、モスクワ赴任や東京のロシア語圏の関連部署に勤務し、外交官としてのキャリアを積みます。
夢であったイスラエル赴任を半ばあきらめかけていたところ、テルアビブのイスラエル大使館広報文化班のポストが空くという外務省内の公募を発見した河合さんは、迷わず応募。見事に採用されて20年来の夢を叶えました。
ずっとイスラエル赴任を夢見ていたという河合さんですが、一体イスラエルの何がそんなにも彼を惹きつけたのでしょうか。
「なんでイスラエルが好きなのか理屈ではうまく説明できませんが、それはクラスの女の子をなんで好きなの?と聞かれ、ロジカルに説明できないように、自分でもなにかイスラエルに惹かれるものがあり、思い入れがあったのだと思います。」
2年でフォロワー倍増!インフルエンサー顔負けの文化発信とは
現在、在イスラエル日本大使館の外交官として活躍されている河合さんに、仕事内容を伺いました。
「コロナウイルスの感染拡大前は、日本文化を伝えるイベント、レクチャーやワークショップを企画・運営していました。イスラエルでは和太鼓や書道、日本語の先生など、日本と繋がりがある方がたくさんいらっしゃいます。そういう方々のありがたい協力を得ながら、大使館として、日本に関心を持っているイスラエル人との繋がりの場を提供することを大切にしています。
コロナウイルス感染拡大後はそういうオフラインのイベントが一切できなくなったので、全てオンラインでのレクチャーに切り替えました。」
特に最近の取り組みで印象的だったのが「日本語プロジェクト」。日本語に関心のある人のために、日本語の基礎を日本食や観光といったテーマにからめつつ5回にわたりレクチャーするプロジェクトです。このプロジェクトは大成功し、参加人数は延べ1500人以上と大反響でした。
大使館の取り組みの中で、特に注目を集めているのがフェイスブックページ。投稿するやいなや「いいね」の嵐。投稿内容は幅広く、日本のニュース、日本語、アート、料理など様々です。最近人気だった投稿は「落ち葉アート」。日本人も知らないような興味深い文化を日々配信しています。
自分が面白いと思わないと誰が見ても面白いと思わない
「日本関連のニュースやブログなどで様々なトピックを探します。お堅い方法だけでなく、SNSを積極的に活用し配信しています。
この時代、昔ながらの”お堅い”イメージのやり方で情報を発信しても誰も見ないし、ちゃんと見てもらおうと思ったら少しソフトなやり方もしないと、特に若い人には届かないと思っています。」
フェイスブック投稿は写真のみならず動画もあり、常に楽しませてくれるコンテンツ満載です。中でも人気は、河合氏自らが出演しているムービー。かつてキブツで習得したヘブライ語を活かしたオリジナル動画は「ヘブライ語で日本文化を説明する日本人外交官」として話題になっています。
「現地スタッフからのアドバイスで、顔を出して動画で文化発信するのはどうかという話があり、オリジナル動画の配信を始めました。普通のイスラエル人は身近に日本人がおらず、大使館でどんな人が働いてるのかも知らないので、親しいイメージを持たせるためにも、顔を出して動画を配信しています。大使館や外交官というものに対する堅苦しいイメージを崩したい思いもあり、私も撮影などは嫌いではないタイプなので、少しずつブラッシュアップして今に至ります。
SNSの配信において大切にしていることは、茶道や書道などクラシックなものとアニメ、コスプレなどモダンなものを幅広く知ってもらえるよう、バランスを考えて配信することです。
加えて、日本文化の一方的な紹介だけでなく、イスラエルの現地の歴史や文化に寄り添うアプローチも大切にしています。」
一例として、ユダヤ新年のムービーは、ユダヤ新年のシンボルであるザクロの折り方を”イスラエル折り紙センター”と共同で紹介し、イスラエルと日本の文化が交わる素敵なものでした。流暢なヘブライ語で説明する”気さくな外交官”、河合氏も動画が注目を集めた理由の一つでしょう。
日本-イスラエル関係の今後、外交官としてのゴールは
「数字で見られる目標として今のフォロワー数をさらに倍増させたい!」
インフルエンサー顔負けの河合氏。プライベートでビーチを散歩していると「フェイスブックで見たことあるよー」と声をかけられることもあるそうです。
SNS投稿のフィードバックも嬉しいもので「コル・ハカボッド(よくできているね)」などのコメントが多々見られます。この調子ならフォロワー数アップの目標もすぐ達成するでしょう。加えて今後の目標として「未来への種まき」と彼は語ります。
「日本語を勉強する人が特に若い人たちの間で増えるといいなと思っています。それは未来へ向けての種まきで、日本語を勉強した人がアジア学科に進学する、日本に研究者として行く、そして日本をよく知る専門家になる、というような形で20年後、30年後も日本を良く分かっている専門家がいると、両国の相互理解やリスペクトにつながると思います。
でもそういった事は一朝一夕で育つものではないので、地道でなかなか派手さはない仕事ですが、一過性の日本ブームに留まらず、長く日本と関わって日本の事を理解してもらうための目標です。」
日本-イスラエル関係について熱い情熱を持ち、20年、30年後を見据えて活動されている河合氏。
彼は「自分はラッキーだった。今のイスラエル人は日本の事には何でも興味を示してくれる」と語ります。しかし実際は大使館、そして河合氏を筆頭に活動する広報文化班のクリエイティビティ溢れる取り組みのおかげだと私は感じています。
実はとても親日なイスラエル人。日々増え続ける日本に対する興味の裏には、広報文化班の熱意と努力がありました。
最後に河合氏より、ISRAERU読者の皆さんに向けてメッセージを頂きました。
「イスラエルはやっぱり来て、見て、人と話さないとわからない国です。2年間住んでも、わからないこともたくさんありますが。(笑)
小さくても深くて魅力のある国です。普通の日本人の方はイスラエルのことをあまり知る機会が少ないので、こんな面白いところですというのを伝えたいです。そのためにはやはり、是非みなさんにイスラエルへ足を運んでもらい、イスラエルを体感してもらいたいです。」