地方創生SDGsが大きな話題を呼び、ビジネスチャンスを生んでいる。本記事では、地方創生SDGsの意味を改めて解説し、世界的な動きや日本国内での動きを詳しく解説していく。地方創生SDGsの官民連携事例や自治体と企業のマッチングイベントも紹介するので、自社ビジネスにつなげたい経営者はぜひ参考にしてほしい。
目次
地方創生SDGsがなぜ注目されているのか
日本において、東京一極集中はかねてより問題視されてきた。東京にヒト・モノ・カネ・情報が集中することで、地方の人口減少や衰退が加速し、同時に人口密度の高さや環境問題によって、東京はより住みにくい街となり、住人のQOLが低下する。このような問題を是正するために生まれたのが、「地方創生」という考え方だ。
また、より暮らしやすい社会を実現するためには、自治体同士の情報交換、政府と地方自治体の連携、行政と民間企業の連携などが欠かせない。しかし、なかなか連携は進まず、情報も取り組みも分断され、財政難に苦しむ自治体も生まれている。このような問題を解決するため、SDGsの考え方に注目が集まっている。
地方創生とは
地方創生とは、東京一極集中を是正して地方の人口減少に歯止めをかけ、地域経済を活性化して日本全体の活力を上げることを目指す取り組みのことだ。
地方創生に関しては、第二次安倍政権で掲げられた政策目標で、2014年には「まち・ひと・しごと創生法」が成立しており、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、次の4つの基本目標が掲げられている。
- 稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする
- 地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる
- 結婚・出産・子育ての希望をかなえる
- ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる
SDGsとは
SDGs(エスディージーズ)とは、「Sustainable Development Goals」から取った言葉で、日本語では「持続可能な開発目標」を指す。「誰一人取り残さずよりより社会の実現を目指す世界共通の目標」として掲げられ、2015年9月の国連サミットにおいて全会一致で採択された。
SDGsでは、2030年を年限として次に挙げる17の国際目標が掲げられている。
1 貧困をなくそう
2 飢餓をゼロに
3 すべての人に健康と福祉を
4 質の高い教育をみんなに
5 ジェンダー平等を実現しよう
6 安全な水とトイレを世界中に
7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
8 働きがいも経済成長も
9 産業と技術革新の基盤をつくろう
10 人や国の不平等をなくそう
11 住み続けられるまちづくりを
12 つくる責任つかう責任
13 気候変動に具体的な対策を
14 海の豊かさを守ろう
15 陸の豊かさも守ろう
16 平和と公正をすべての人に
17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGsに関する世界的な取り組みとしては、次のようなものが進んでいる。
・JICAによる西アフリカの教育開発支援
・UNICEFによるトイレ増設
・有志によるビーチクリーン
・企業によるプラスチック製品を製造しない取り組み
また、SDGsの取り組みをスコアリングしランキングにした結果、1位はスウェーデン、2位はデンマーク、3位はフィンランドで、上位3ヵ国を北欧諸国が独占した。なお、日本は17位で、「教育や平和」では高いスコアを獲得したものの、「ジェンダー平等」や「気候変動対策」でスコアが低い傾向が見られた。
地方創生とSDGsのつながり
地方創生SDGsとは、地方創生においてもSDGsの考え方を取り入れようという動きのことだ。日本の全体最適を目指すことで、地域課題の解決が加速するなど相乗効果が生まれ、政府・自治体・民間企業・住民の全てがメリットを享受できることを目指す。
つまり、SDGsの理念を参考にしながら地方活性化に取り組むことが、政府や自治体が推進する街づくりの道筋であり、企業にとってはビジネスチャンスにもなり得るということだ。
地方創生SDGsの官民連携事例4つ
地方創生SDGsは、既にいくつかの実施事例がある。ここでは、具体的な地方創生SDGsの官民連携事例を、内閣府の公式ホームページから4つピックアップして紹介する。
1.UPWARD株式会社:災害時の罹災証明のスピード発行
UPWARD株式会社は、2020年7月の熊本県の豪雨被害を受けて、「UPWARD」のライセンスを無償提供した。
水害が発生した際には、早期再建のために迅速な現地調査を行い、罹災証明書を発行する必要がある。同社が提供するアプリケーション「UPWARD」は、位置情報とモバイルCRM(顧客管理システム)を掛け合わせることで、罹災証明のスピード発行を実現させた。
実際に、 2016年熊本地震と比較し、災害40日後の交付状況は43%から61%に改善した。また、支援内容の公平性や正確性を保つため、受付時に正確な物件位置情報に基づき、住民と認識のすり合わせを行うことで、発行漏れや重複を防ぐように工夫した。
コロナ禍により、近年の災害対応では情報の集約がますます重要となっている。同社は、クラウドサービスの強みを活かし、モバイルWi-FiとiPadのみの環境下でもリアルタイムで情報集約ができる仕組みを確立した。
関連プレスリリースは、読売新聞や産経ニュースを始め、約80社に掲載された。今後、他の自治体でも「UPWARD」の導入が進む可能性がある。
2.北陸グリーンボンド株式会社:水銀灯からLED照明への大規模移行
2013年に、水銀汚染防止のための国際条約が締結され、2020年12月以降は水銀灯の製造は原則禁止となった。LED照明への移行が進められているものの、水銀灯が残っている場所も多くある。
このような現状を受け、北陸グリーンボンド株式会社は、照明の更新工事に乗り出した。
金沢市内の小中学校体育館74施設と市営体育館7施設に設置されている照明約3,000灯(ほぼ水銀灯)を調査した上で、LED化の更新工事を行い、その後10年間の維持管理を行う。証明の調査設計・施工・維持管理は、地域に精通した地元企業に依頼する。
LED照明への移行によって、地域経済の活性化だけでなく、地球温暖化効果ガス削減や汚染物質の低減などさまざまな環境問題の改善が見込める。
3.一般社団法人こども食堂支援機構:寄付つき非常食で子どもを支援
「子ども食堂」とは、子どもが1人でも行ける無料または低額の食堂のことだ。民間から始まった取り組みで、全国へと広がった。子ども食堂は、経済的に困窮している家庭の子どもが健康を維持し、社会から大切にされているという実感を育む大切な場となっている。
埼玉県は、こども食堂支援機構が製造企画する寄付つきの非常食を、一般企業に向けてPRした。企業が非常食を常備することで、街全体の防災力が向上し、寄付金額は子ども達の健全な育成のための取り組みへと活用される。
さらに、消費期限が近くなった非常食は、県内の子ども食堂に寄付をする。子どもたちが健康的な食事をとれることに加え、企業としても廃棄コストがかからないというメリットがある。また、フードロス・プラスチックゴミの減少によって、環境問題にもプラスの影響がある。
製品そのものは開発済みなので、企業にPRするだけで、どの自治体でもすぐに取り組むことが可能だ。今後、埼玉県は埼玉オリジナル製品の開発も検討している。
4.長野県:登録制度で地元企業のSDGsの取り組みを推進
長野県は、「SDGs推進企業登録制度」を創設し、製造業・建設業・サービス業などさまざまな業種の547事業者を登録した。
登録企業は、専用ロゴマークをPRに活用できる。また、SDGsを切り口に製品・サービスを展開する事業者に対して、補助や経営アドバイスも行う。さらに、登録企業同士の交流を促進するため、登録交付式や交流会、マッチングの場を提供した。
長野県は登録企業数1,000社を目標として、引き続き普及啓発活動を行っている。また、他県からの関心度も高く、すでに長野県の事例を参考に、制度を創設する自治体も登場している。
自治体と企業をつなぐ地方創生SDGsのマッチングイベント
内閣府の地域創生SDGs事例からもわかる通り、地方創生SDGsを推進するには官民連携が欠かせない。官民連携を加速させるため、自治体と企業をつなぐ地方創生SDGsのマッチングイベントも開催されている。
「2021年度地方創生SDGs官民連携プラットフォームマッチングイベント」は、2021年9月に開催された。なお、コロナ禍による対面開催が困難となり、Zoomを使用したオンライン開催となった。午前中は内閣府地方創生担当大臣の挨拶に始まり、基調講演やパネルディスカッションが行われた。休憩をはさみ、午後からはマッチングイベントの時間が設けられた。
企業にとっては、自治体のニーズを知る貴重な機会となり、自治体にとっては、企業が持つ最新の技術やノウハウを知る機会となる。
地方創生SDGsマッチングイベントの参加企業と、セッション内容をいくつか紹介する。
地方創生SDGsマッチングイベントには、「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」に登録して申込を行うことで参加でき、マッチングイベントの他に、オンラインセミナーイベントも開催されている。
地方創生SDGsはこれからの時代のキーワード
SDGsは国際目標であり、地方創生は今後の日本の経済発展に欠かせない。地方創生SDGsは、今後ますます重要性を増し、大きなビジネスチャンスとなっていくだろう。
地方創生SDGsは、企業にとっては自社商品・サービスを広める機会となり、自社の認知度向上にもつながる。自治体や住民にとっても、企業の商品・サービスによって暮らしやすい街づくりが進めば、大きなメリットになる。
地方創生SDGsのような、新たなビジネスチャンスにつながる情報にアンテナを張り、イベント等も賢く活用しながら、時代の流れに乗って事業の成長発展を目指して欲しい。
文・THE OWNER編集部