SDGsへの取り組みは最近の社会の流れとなりつつある。しかし、具体的な内容はというと、よくわからないという人もまだまだ多いようだ。国内におけるSDGsの取り組みや進捗はどうなのだろうか。取り組みに向けた流れや基本的な疑問について解説していく。
目次
SDGs取り組みの現状
はじめにわが国全体のSDGsと企業の動きを紹介していく。
全体での動きが鈍い日本
2015年9月の国連サミットでSDGsが国際的な目標として採択されてから、2021年時点で丸6年が経過している。日本でも政府主導のもとで、さまざまな取り組みがなされてきた。しかし世界的な評価で見ると決して高いとはいえない。2021年6月に公開された「Sustainable Development Report 2021」によると日本のランキングは165ヵ国中18位だった。
2017年以降は順位が上がっておらず、目標達成度を示すスコアでも過去最高値を更新できていない。この評価は、SDGsの目標別での達成度が測られている。遅れが目立つ指標のうち企業の活動と特に関連性が深いのは、女性の活用だ。内容としては労働環境や賃金格差などだが、ジェンダーの不平等さについてはSDGs以前からあまりに長く問題視されてきている。
せめてもの救いは、取り組みの増減を表す矢印が2020年よりも上向きになっていることだ。
企業での取り組みは半数以下
企業単位での取り組みを見てみよう。帝国データバンクが行った「SDGsに関する企業の2021年意識調査」によると「積極的に取り組んでいる」と回答した企業は39.7%と約4割だった。半数以上は「取り組みなし」という結果だ。企業規模によって取り組み状況は大きく異なり、大企業では55.1%だが中小企業では36.6%に留まっている。
逆にいえば今こそ他社に先んじることができ、取り組みによる差別化のチャンスが大きいともいえるだろう。SDGsの17目標の中で最も力を入れている項目として多かったのが目標8の「働きがいも経済成長も」だった。働き方の多様化による従業員満足度の向上や先に述べたような国全体の取り組みで遅れている項目に注力すれば、社会的な高評価も期待できる。
SDGsの社会的認知度は上昇傾向
取り組みの鈍さに対してSDGsに対する社会的認知度は、急激な上昇を見せている。電通が2021年1月に行った「SDGsに関する生活者調査」によるとSDGs認知率は54.2%で2020年調査の29.1%の約1.86倍だった。特に10代のSDGs認知率が7割を超え、若い世代の関心の高さがうかがえる。興味深いのは、調査対象者全体の3割がコロナ禍を経て関心が高まったと回答していることだ。
「積極的にSDGsに取り組む企業のイメージ」については、最も多かった回答が「社会からの信頼が高くなる」で69.8%だった。さらに「社員の会社への愛着」「優秀な人材の確保」にも影響するとの見方が強い。SDGsの取り組みを通じて、消費者からの高い好感度が得られれば企業経営にとっては好材料となる。
国全体での取り組みの進展・企業の参画が遅れている中にあってSDGsの取り組みによる企業間優位性の確保が期待できると考えられるだろう。
SDGs取り組みの具体的な流れ
ここからは、SDGsへの取り組みを実施する際の具体的な流れを見ていこう。
1.SDGs推進チームの構成
SDGsへの取り組みは、片手間でできることではない。専任で取り組みを推進するためのチーム編成をする必要がある。実働可能なメンバーを選出し、担当者一人に押し付けることがないようにしなければならない。そのためにも経営陣・管理側からもチームに参画するのが望ましい。
2.SDGsへの理解促進
メンバーが勉強不足というのでは、推進チームの意味をもたない。実施に向けて実用的な知識の学習に励み、チーム内での情報共有と認識のすり合わせを行う。同時に社内向けセミナーや啓蒙活動を実施して取り組みへの協力体制の下地を構築することが大切だ。
3.自社の事業とSDGsの接点を探す
SDGsへの取り組みは、自社事業とかけ離れたところでは長続きしない。「自社事業で行える」「オフィス内で日常的にできる」など必要項目を丹念に洗い出し、具体的な取り組み内容を探していく。その際に取り組みに対する課題をあげることで着手後の行動が定まりやすい。取り組み内容のSDGsの目標や指標との関係性を明確にし「現実性がある」「実現可能」といった点に留意しながら具体的な落とし込みをする。
4.目標を設定する
取り組みについては、施策ごとに数値目標を設定し効果を可視化できるようにしておきたい。数値化が難しい場合には、例えば関係者へのアンケート実施など評価方法を工夫しながら必ず行動と対になる目標を設定する。
5.実施と報告・評価
定期的に測定や評価を行い社内外に報告・発表を行う。社内からの意見を収集しながら取り組み施策の改善を重ねる。
SDGs取り組みに向けた注意点
SDGsに取り組もうとする際は、以下のような点について注意が必要だ。
社内での理解・対話がカギ
「社内での理解が得られていない」「共有意識が高められていない」といったことは、SDGs取り組みの挫折につながるかもしれない。また活動自体がマイナス要因となりかねない。社内での理解を得るために、勉強会・セミナーの開催、社員に向けた啓もう活動を通じ、自社の事業とSDGsの関係性を具体的に説いていくことが求められる。社内全体が「自分事」としてとらえられるベースづくりが欠かせない。
実際に動いて見なければ分からない点も多々ある。計画で予想していなかった障害が発生する可能性は高い。実施にあたっては、現場の声を適宜吸い上げて課題を抽出し、改善策を練りながら取り組みを進めていく必要がある。
取り組み前の入念な調査が必要
想定以上の障害発生を事前に回避するためには、可能な限りの入念な調査が必須だ。自社の事業運営の現状把握を客観的に行い「計画している施策がSDGsの目標や指標とマッチングしているのか」「自社の能力に見合うものなのか」を判断する。メイン事業に支障がなく無理なく推進できることはもちろん、人員やコスト・作業時間の捻出など現場負担を十分に推算し、取り組みの設計・計画策定を実施していく。
持続可能な取り組みにする
SDGsをトレンドワードのように受け止めてしまうと長続きしない取り組みとなりかねない。始めるからには、自社の将来を見越した活動とすることが必要だ。また単に続けるのではなく将来的な発展性も考慮できるのが理想的な取り組みといえるだろう。自社事業にからめた独自性のある取り組みから将来的なベネフィットが生まれることを意識したい。
持続性・発展性を守るためにも実施中には事業に影響が出ておらず、無理なく推進していることを常に確認する姿勢が大切だ。
ルール違反・法令違反・逸脱行為の防止
SDGsで問題視されているのが、実体のない取り組みやSDGsと謳いながら逆に社会にとって損害を与える活動となる「SDGsウォッシュ」だ。SDGsウォッシュと見なされてしまうと企業イメージが大きく損なわれる恐れもある。表面的ではなく実のある活動とすることは当然だが、加えて関連する事業者に至るまでのマネジメント強化を行うことが必要だ。
不正行為や社会にとって不利益となる行動がないかを監視することも、SDGs参画企業としての責任である。
SDGsの取り組み事例
小規模な組織でもSDGsへの取り組みは可能だ。秀逸な視点から取り組みを進めている事例を紹介する。
販売・サービス業「三藤」
「三藤」はワッペン・エンブレム、帽章などの製造販売を手掛ける企業。国内のSDGs のPR活動に向けて、SDGs バッジやワッペンなどを作製している。提携先のパキスタンや中国の提携工場では持続可能な再生素材を使用したバッジ作りが行われている。
持続可能な労働力の確保、労働者の賃金向上、子どもたちへの教育環境整備などを目標とした取り組みを行っている同社。きっかけとなったのは、公益財団法人地球環境センターなどからの作製依頼だった。自社の試みがパキスタン工場や中国工場の従業員の生活安定、現地の教育環境改善のサポートになればと考えたのだ。
SDGsのPR活動に貢献するだけではなく、企業の認知度アップの効果も得られている。同社の活動は、単に作製するだけではなく持続可能性を鑑みた素材や製造工程まで、細かな配慮がSDGs形式として評価されている。
旅客運輸業「つばめタクシー」
熊本県人吉市で100名ほどの従業員を抱える「つばめタクシー」。離れて暮らす親のタクシー料金を子どもが負担をする「親孝行タクシーサービス」を実施している。全額を子ども負担では利用しにくいということで、負担割合は自由に設定可能だ。
免許返納率の向上や高齢者の事故を無くすという狙いがある。また引きこもりがちな高齢者の認知症予防にも寄与するという。地方ではバスの本数が少ないなど、公共交通機関の利用では自由に移動できないという背景もあるようだ。
高齢者でも行きたいときに行きたい場所へ行けるよう、全国的な展開を視野に入れた取り組みを行っている。
製造業、リユース・リサイクル業「ピープルポート」
リユース・リサイクル業の「ピープルポート」は、小型家電のリサイクルで日本に来た難民に雇用を創出する活動を進めている。難民や人道配慮による在留許可を認められた人を対象とし、仕事と日本語学習の機会を提供。
難民は、日本語が話せないケースや仕事が思うようにできないケースも多々ある。無料の日本語教室があっても「働く」「学ぶ」といった両立が難しいことから生活苦の負のスパイラルが発生するのだ。この状況を改善するために、フルタイムで働ける職場の提供と日本語教室を開催、難民の生活をサポートする。
同社は難民の生活改善はもとより、「資源リサイクル」「子どもの支援」という両面から日本社会に貢献。また自らの社会貢献という難民側の意識向上にもつながっているようだ。
まずは着手への意識を高めることが先決
SDGsの取り組みは多岐にわたる。17のゴール・169のターゲットのいずれかに自社事業が関連している可能性は高い。ほんの少し視点をずらすことで最初の一歩を踏み出すことは難しくないはずだ。まずは、着手することへの意識を高めSDGsへの理解を深めることから始めてみてはいかがだろうか。