テレビCMなどでも目にすることの多いSDGs。「何となく聞いたことはあるが実はよく理解していない」という人も多いのではないだろうか。トレンド感のある言葉だが人類社会を守るためには、継続的に取り組んでいくことが必要だ。SDGsを真に理解するため、各局面における問題点を探っていく。
目次
SDGsの社会的な問題点と考え方
SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択されて現在いたっているが、なかにはSDGsに対して消極的な意見も見られる。SDGsについての考え方を改めて確認していくこう。
SDGsは倫理的に正しい?
SDGsへの社会的な関心は、着実に高まりを見せている。しかし「SDGsがはたして良いことなのか・必要なことなのか」という根本的な疑問の声も少なくない。SDGsが掲げる17のゴールは、誰もがそうした世界を望む人類社会の「ウィッシュ・リスト」ともいえるだろう。国連全加盟国が賛同していることを見てもこの点については反論しようがない事実だ。
みなが同じように幸せに長く暮らせる社会の実現は、理想的である。しかし現実には、地球環境全般が危機に瀕していることを各国が理解している。世界的に頻発する災害や紛争を何とかしのぎつつ昨日と同じ生活をしている国も多い。その半面、持続不可能になることへの恐れをどの国でも漠然と抱いているというのが本当のところではないだろうか。
SDGsの「正し過ぎること」への不信や実現への不安があることも事実だ。壮大過ぎるテーマに対して「今さら何ができるのか?」という疑問が生じるのは当然の反応かもしれない。特に社会に対して大きな影響力を持たない中小企業では、微力であることを理由に消極的な姿勢になりがちなのもうなずける。
単独では成功しないことを理解する
どれほどの世界的大企業でも単独では地球規模で改革を起こせない。世界に冠たる強大な経済力を持つ国際企業でも地球環境や各国の社会環境を変化させるまでの影響力は持っていないだろう。各個人・企業が周囲を巻き込みながら社会的な課題として取り組んでいくことで初めて実現できることは多い。はじめは、小規模な取り組みでも賛同や共感の力を得れば世界的な動きとなる可能性もある。
現時点でいえるのは、「取り組まないこと」が企業にとって最大のリスクになり得るという点だ。自社の持続可能性として「100年後も存続できるか?」という視点を持って考えて欲しい。社会が崩壊すれば当然企業は存在できない。長期的な視点から利益最大化を考えたときエネルギー環境・自然環境・社会環境がマイナスの変化をすれば自社はどうなってしまうかという視点が必要だ。
現在と同じ経営が続けられるだろうか。例えば持続可能な社会が実現できる場合、取り組んだ企業は、その流れに乗ることができる。取り組みは「有志」であるが取り組まないリスクを考えるべきだろう。SDGsには、数値目標の適正度など不確かな面もあるが、取り組みを否定する理由とはならない。世間の流れに同調するのではなく自社にとってSDGsがどのような意味を持つのかを真剣に捉える必要がある。
SDGsに取り組む企業の問題点
SDGsに企業として取り組んだ場合の問題点を見ておこう。
SDGsウォッシュに陥る
「SDGsウォッシュ」とは、SDGsの本質を理解せずに表面的に参画している「ふり」をする行為だ。SDGsウォッシュと見なされて社会的信用低下を招いた事例は少なくない。SDGsウォッシュに当たる行為としては、以下のようなものがあげられる。
- SDGsのロゴやアイコンを表示しているだけで活動の実態がない
- 具体的な取り組み達成目標を定めていない
- エコ・環境保全・保護活動などの言葉を使っているが、根拠のない広告
- 自社とは関連性のない画像を使用するといった誤解を招くような表記・表示をする
- 実態を隠し良い面だけをアピールする
特に社会から厳しい目を向けられているのは、SDGsへの賛同をアピールしながら、その陰で社会規範に反する行為があった場合だ。具体的には、以下のような例がある。
- リサイクルやエコ素材の活用を謳うアパレルメーカーが海外で児童労働に関わっていた
- 自然エネルギーに賛同姿勢を見せながら石炭火力発電事業への多額融資を行っていた
- クリーンエネルギー事業のための大規模な自然破壊した
など
SDGsのメリットがない
SDGsの取り組みがボランティアと同義になり経営戦略と結びつけられないことも問題だ。活動が一過性のものとなっていたり、企業としてのメリットを無視したりすれば取り組みは定着しない。SDGsの取り組みを単なる「社会貢献活動」と捉えているうちは、企業側にベネフィットがもたらされず、長続きしないだろう。そのような活動は、社員や株主を説得できないため、社内外の賛同も得られない。
そうした意味でも自社の得意分野とまったく異なる活動をしている企業は「持続可能」の本質を理解していないといえる。ある企業が植林活動を行った場合、以下のような道筋をつけて本業との関連を考えなければ自社に戻るものはないだろう。
- その活動は何のためにするのか
- その後どうしたいのか
- 事業にそれがどうつながるのか
- どう継続させるのか
SDGsの取り組みには、倫理面と自社利益といった総合的な観点が必要だ。例えば太陽光発電は環境にも良いが、企業にとって災害時のリスクへの備えにもなる。「エネルギー源の確保」という意味では、自社事業への保険といえる。また環境・社会貢献による信頼性の向上が企業経営の安定につながる。活動をどのようにメリットとして活かせるのかを見ていかなければ、企業が行うSDGsの取り組みは頓挫しかねない。
SDGs活動で本業に支障が出る
SDGsの取り組みで本業に支障が出るのは本末転倒だ。「自社に合わない施策を無理やり推し進める」「他社の取り組みを丸ごと真似する」といったように取り組みの方向性の誤りが原因であることが多い。担当者に任せきりにしてしまい該当社員の本来の業務が滞る場合もある。また経営者が社会・環境に寄与することに気を取られ過ぎ、売上や利益が落ちるケースもあるだろう。
SDGsの取り組みが空回りしている状態で社内の空気が悪くなり、本事業に悪影響を及ぼすことも考えられる。SDGs取り組み前に行う手間や負担、コストに関する設計・計画の見通しが甘いとこれらの問題が発生しやすい。取り組みにかかる負担に対しては、回収することを踏まえた長期的視点が必要だ。
SDGsの取り組みで未来が見えない
「とりあえず」の取り組みは、自社の未来が見えてこない。「持続可能」への理解不足から自社の将来につながらない施策を行う企業も多いのではないだろうか。自社の経営ビジョンとSDGsの目的をすり合わせ、接点について見直していくことが必要となるだろう。企業が将来的に目指す姿のために行うSDGsの取り組みであってもまったく問題はない。
今実施していることが何につながるのかの道筋を明確にすれば自社に合う施策の方向性が見えてくるだろう。
SDGs目標達成の問題点
SDGsの取り組み目標を目指す過程で見られる問題点を見ていこう。
中だるみ・途中放棄
SDGsの取り組みで多いのが当初の勢いがあっという間に失われ、あいまいな成果となってしまう問題だ。原因としては、企業の現状や能力にそぐわないなど、目標値の設定が不適切であることが多い。実現不可能な目標から現実的な目標への見直しを行い、長期・中期・短期で段階設定をする必要がある。一つひとつの施策が履行されず取り組みが立ち消え状態となるケースも考えられる。
内部の理解不足や現場との意識共有ができていないために社内の協力が得られないことから発生しがちな問題だ。取り組みの意義を全社的に理解することに時間をかけ、土台を固める作業を実施することが大切である。社内での合意形成にはある程度の時間がかかることに留意しておこう。社員のSDGsへの理解度の低さは、SDGs推進を阻む最大のリスクとなりかねない。
目標の実像がSDGsの観点にそぐわない
SDGsの活動のはずが実は目先の利益が目的となってしまっていることもある。外部からの非難を受ける可能性があるため、要注意だ。原因はSDGsの社会的な流れを単純な「ビジネスチャンス」と考えていることにある。たとえば、発展途上国の教育水準の向上を謳い、教材販売を行うといったものがある。地元の経済状況を把握しない価格設定では、富裕層しか購入できずSDGsの考えとは一致しない。
企業イメージの向上のために取り組み姿勢のみをアピールしているが内実を伴わないとSDGsウォッシュと見なされる恐れがある。そのため取り組み前の目標・実施内容とSDGsとの整合性の十分な確認が重要となる。また実施途中でもズレをなくすための定期的なチェック・評価も求められる。社内だけではなく第三者的立場からの客観的な意見を取り入れるとSDGsからの逸脱を回避できるだろう。
企業がSDGsの問題点を克服するためには
企業がSDGsの取り組みにおける問題点を解決、回避するためのポイントを見てみよう。
自社の課題を把握した上で取り組みを進める
SDGsの取り組みに対して自社のどの部分が障害となりそうなのか、あらかじめ課題を把握しておくことで円滑な推進が可能となる。企業理念との一致・社内の理解・意識共有を目指して丹念に会話を重ねていくことが必要だ。社内コミュニケーションが不足している状態ではうまくいかないため、活発な討議によりSDGsへの理解を深める工夫も欠かせない。
真剣な話し合いを通じて社員の「自分ごと」としての意識を引き出すことが期待できる。各部門や支社、下請けなどのマネジメントの最適化により、SDGsウォッシュを回避する全社の統一的な行動を図っていくことも重要だ。SDGsの施策について人員・時間・コストを捻出する際には、回収や将来的な利益との関係性を検討する。目先の損得に捕らわれてばかりいると効果的なSDGsの取り組みができない。
自社独自の取り組みを考える
どれほど他社の取り組みが素晴らしく見えても真似事では継続できない。たとえ同程度の規模であっても社員の構成や企業の成長段階など置かれている環境は異なる。参考例を踏まえながら自社ならではの取り組みを考えていくことが必要だ。大々的に打ち出しても後が続かないのでは意味がない。段階を踏みながら拡大・継続していく姿勢が最終的な目標達成への近道となるだろう。
本業とからめた独自性のある取り組みでは、建具・パーティションを扱う企業による高齢者が使いやすい福祉施設向けのドアの開発といった例がある。この例のような本事業の延長上であれば多少の失敗も大きなダメージにはならない。「なぜ今、うちの会社がコレを行うのか?」という自信が持てる取り組みこそが対外的にも説得力のあるSDGsの活動となる。
SDGsに内在する問題を理解しておこう
SDGsの取り組みは、人類社会にとって必要なものであり大きな意義を持つ。しかし企業が行動を起こす際には、遭遇する可能性がある問題点について理解しておかなければならない。SDGsの本質を踏まえながら自社事業と相性の良い活動に着手していこう。