

経営に資金が必要なのは言うまでもない。しかし、資金調達の方法や調達する金額についてはっきり答えられる人は少ないだろう。今回は、会社を経営するうえでのファイナンスについて、意味や成功させるための視点、資金調達方法などを簡単に解説する。
目次
ファイナンスとは?
ファイナンスの意味や財務会計との違い、成功させるための視点などを解説していく。
ファイナンスの意味
ファイナンスといえば、資金そのものを連想する人が多い。英語ではfinanceと表記され、財源や資金、財政や財政学、金融や融資などの意味を示している。
会社経営におけるファイナンスとは、資金の調達・利用、収益の分配などをさす。いずれも資金のライフサイクルや会社の成長に関わってくる要素だ。
会社を成長させるためには、事業で高収益をあげる必要がある。それを実現するためには、設備や人材も確保しなければならない。しかし、設備の購入や人材の雇用には資金も必要となる。
資金を集める方法は、デット・ファイナンスやエクエティ・ファイナンスなどが代表的であり、そのほかにメザニンファイナンスやクラウドファンディングなども知られている。
ファイナンスと財務会計の違い
ファイナンスと財務会計を一緒にイメージしている人が多いと思われる。
しかしながら、実際のファイナンスは資金の調達や運営など今後の動きを考えるプロセスであり、財務会計は運営した結果を整理するプロセスである。
また、財務会計では現金・預金の動きと関係なく収益や費用を把握するが、ファイナンスでは実際の現金・預金の動きを把握して将来の意思決定を行うケースが多い。会計の知識だけではファイナンスの意思決定に関与できない。
ファイナンスを成功させるための視点
資金調達では、調達資金の使途となる事業を見極める必要がある。低金利の融資を受けても、収益が低いと投資の対象とはなりえない。
事業が生み出す将来の収益や資金の収支なども見据えたうえで計画を練る。
また、資金調達の方法も慎重に検討する必要がある。全部借入金あるいは全部出資で問題ない場合も少なくない。しかし、返済の観点からは借入金と出資を交えた資金調達が望ましい場合もある。
投資が完了したあとの金銭配分も重要だ。別の投資を行う選択肢や、配当金に回して一連の投資を完了する選択肢もある。
代表的な資金調達方法1.デット・ファイナンス
多くの企業で行われている資金調達方法がデット・ファイナンスである。デット・ファイナンスとは、借入や社債発行などによって外部から金銭を借り入れる方法だ。
借入では、銀行などから直接契約を交わして資金を借り入れる。借り入れた資金を運営して期日までに返済し、発生した利息を支払う。銀行以外の借入先として、信用金庫や信用組合といった金融機関、ローン会社などがある。
社債発行は、有価証券である社債を発行して資金を借り入れる方法である。有価証券の形をとっているため、譲渡を行いやすいのが特徴だ。
デット・ファイナンスの長所
利息は比較的少ないので、多額の資金調達をデット・ファイナンスで行った場合、ほかの方法よりも成功したときの手残りが多くなる。
また、デット・ファイナンスでは一般的に経営権を他人に奪われる心配もない。
デット・ファイナンスの短所
決められた利息や元本を必ず支払う。業績によっては資金繰りが悪化し、最悪のケースでは破産に追い込まれる。
借入を多く実行した場合、貸借対照表における負債の割合が大きくなり、自己資本の比率が下がる。財務諸表を見た関係者が会社の経営に不安を覚えるかもしれない。
そのほか、デット・ファイナンスは利息を相手によって決定できるため、注意しないと支払う利息が多くなる。条件をよく見て調達しなければならない。
代表的な資金調達方法2.エクイティ・ファイナンス
エクイティ・ファイナンスは、企業が株式の発行や自己株式の処分などで資金調達を行う方法だ。
集めた金銭は会社の事業を行うための資本として扱われる。ちなみにエクイティとは株主資本を意味する。株式を持っている人に対して利益から配当を行う。
エクイティ・ファイナンスの長所
エクイティ・ファイナンスでは、基本的に調達した資金を返済する必要はない。会社の財務体制も強化され、財務上の安全性が高まる。
自己資本率が高まることで、他者や銀行、投資家からの評価も上昇する可能性もある。将来性が認められると、資金調達を有利に進めやすくなるだろう。
エクイティ・ファイナンスの短所
株式には株主総会の議決権が備わるので、発行した相手に経営権の一部を渡すことになる。そのため、会社の重要事項を決定する際に、資金調達した相手の同意を得なくてはならないケースがある。
また、会社が破産や解散などで清算する場合、会社財産は借入金など通常の返済に充てられ、株主に対しての払い戻しは後回しになる。
株式の出資者は高い配当を求めるため、株式の発行では出資者に対してより多くの金額を配当したり、株価を上昇させたりしなければならない。つまり、会社が出資者に支払う金額は借入の場合よりも多くなる。
そのほかの資金調達方法2つ
デット・ファイナンスやエクイティ・ファイナンス以外にも資金調達手段がある。メザニンファイナンスとクラウドファンディングについて取り上げてみたい。
資金調達方法1.メザニンファイナンス
メザニンファイナンスは、デット・ファイナンスとエクイティ・ファイナンスの両方の性質を持つ資金調達方法だ。借入金や社債、株式の欠点を補完する意味合いが強い。
たとえば、優先株式がよい例だろう。会社が破産などで清算する際に、残余財産の分配順位をほかよりも優先し、出資金が回収できないリスクを軽減する。なお、優先株式には株主総会の議決権がなく、社債と近い性質を持たせている。
優先順位を落とす劣後債もある。元本と利息の返済や残余財産の分配順位について、通常の借入金や社債よりも優先度を落とす。資金繰り悪化時の返済が滞るのを防ぐ効果がある。
資金調達方法2.クラウドファンディング
クラウドファンディングは、ネット上で不特定多数の人から資金を集める方法だ。購入型、寄付型、投資型などに分類される。
一般企業が多く利用するのが購入型だろう。大抵の場合、実現したい商品などを提示して、必要な資金を集める。ファンディングや資金調達と銘打っているが、実態は商品の予約販売と言って差し支えない。
会社が災害などを受けた際に、将来製造する商品やサービスなどを提案したうえで支援を募る場合もあり、礼状以外に何も提供しないこともある。
自社に適した資金調達で理想のファイナンスを展開
ファイナンスは、資金の意味を示す場合が多い。しかし、会社において資金は調達や配分まで考える必要がある。
資金調達手段には、デット・ファイナンスやエクイティ・ファイナンスなどの種類があり、それぞれメリットやデメリットもあった。理想的なファイナンスを展開できるように、自社に適した資金調達方法を検討してほしい。
文・中川崇(公認会計士・税理士)