事例
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1 はじめに

相続税法において課税対象となる財産の評価については、財産評価基本通達に依拠していますが、財産評価基本通達総則第6項では、「特別の事情」がある場合には個別的・例外的な評価方法を認めています。

先日、財産評価基本通達によらない判断方法で評価を行った更正処分等の取消しが求められた事案において、納税者側の一連の行為が総則6項の「特別の事情」に該当するとして、納税者側の請求を棄却し、更正処分等を容認する判決が言い渡されました。この事例について、以下で簡単に説明します。

2 東京地裁令和元年8月27日判決

《事例》
被相続人Aは、90歳程度の高齢となった当時、本件の争点となっている甲物件(東京都杉並区所在)と乙物件(神奈川県川崎市所在)を取得しました。その当時、Aは、自らが高齢であることから、事業承継や相続税のことを心配して金融機関に相談していました。
被相続人Aは、平成21年1月に、甲物件を総額837,000,000円で取得し、その3/4程度については、金融機関から借入をしました。また、Aは、平成21年12月には、乙物件を総額550,000,000円で取得し、その79%は、金融機関からの融資と妻子からの借り入れでした。
その後、平成24年6月に被相続人Aは94歳で死亡しました。
被相続人Aの相続税申告では、小規模宅地等特例適用後の甲乙物件の課税価格と本件借入金総務総額との差額659,339,359円が他の積極財産から控除され、原告Xらは相続税の負担を免れるものとなっていました。
なお、原告の一人は、平成25年3月に、乙物件を総額515,000,000円で譲渡しました。
原告Xらは、甲乙物件ともに、財産評価基本通達で定める評価方法(路線価評価等)により評価して相続税の申告をしました。
これに対し、課税庁は、評価通達6項を適用し、他の合理的な評価方法として、鑑定評価額により評価し、更正処分等を行いました。
原告Xらが主張する評価額と課税庁が主張する評価額では、ほぼ4倍の乖離が生じたため、原告Xらは、更正処分等の取消しを主張して、訴えを提起しました。

《争点》
①本件甲乙物件の評価について評価通達6項の「特別の事情」が認められるか
②被相続人Aや原告Xらの一連の行為の意義

《原告Xら(納税者)の主張》
①評価通達6項の「特別の事情」とは、課税庁の都合により通達による評価を否定する要件である。そして、その「特別の事情」の該当性の判断に、納税者の相続税軽減目的を加えることは制度趣旨を没却したもので、到底受け入れられない。
②納税者の節税や租税回避の意図を「特別の事情」の判断要素に取り込むことは財産評価における課税庁の裁量の余地を大幅に認めることになり、租税法律主義に反する。

《被告(国)の主張》
①本件通達評価額と本件各不動産の時価との間には著しい乖離があり、本件各不動産の評価について「特別の事情」が認められる。
②本件各不動産に係る本件被相続人及び原告ら等による一連の行為からしても、本件各不動産の評価について「特別の事情」があると認められる。

《東京地裁の判示》
①本件各通達評価額が本件相続開始時における本件各不動産の客観的な交換価値を示していること(評価通達の定める評価方法が合理性を有すること)については、相応の疑義がある。
②経緯等からは、本件被相続人及び原告らは、本件各不動産の購入及び各借入れを被相続人及び自社の事業承継の過程の一つとして位置づけつつも、それらが近い将来発生することが予想される本件被相続人の相続において、原告らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、それを期待して、あえてそれらを企画して実行したと認められ、これを覆すに足りる証拠は見当たらない。
以上から、本件相続における本件各不動産については、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くと、本件各不動産の購入及び本件各借入に相当する行為を行わなかった他の納税者との間で、かえって相続負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、評価通達の定める評価方法は他の評価方法によって評価することが許されるというべきである。そして、本件全証拠によっても本件各鑑定評価の適正さに疑いを挟む点が特段見当たらないことに照らせば、本件各不動産の相続税法22条に規定する時価は、本件各鑑定評価額であると認められる。

3 終わりに

東京地裁は、本件における相続開始間際での不動産取得とそのための借り入れという一連の行為が「特別の事情」であり、各不動産の相続税法上の時価は、鑑定評価額であると結論付けました。
本件のように、通達評価額の乖離に乗じて節税するという対策に対して、司法は厳しい対応を示しました。(提供:チェスターNEWS