インタビュー|遠山 功(INSIGHT LAB株式会社 代表取締役 CEO and Founder)
イスラエルに進出する日本企業
2010年以降、「スタートアップネイション」として、急激な経済成長を遂げたイスラエル。日本企業のイスラエル進出も目覚ましく、JETRO(日本貿易振興機関)の発表によると、2019年の時点でイスラエルに活動拠点を持つ日本企業は90社を超えているとのこと。進出社数は、この10年で3倍近い急速な伸びなのだそうです。
確かに、2000年代が始まった頃には2~3社程度が小さな拠点を置いているだけだった日本の商社も、現在では三菱商事、住友商事、三井物産、豊田通商といった何社もの大手総合商社が進出し、日本人駐在員をイスラエルに配置するようになりました。
また、イスラエル人起業家と話をしていても、日本のVCからの資金提供を受けているという話もよく聞きます。
そんなイスラエルと日本の経済的な繋がりの中で、ちょっとユニークな視点からイスラエルに進出をしたINSIGHT LAB。今回はそのINSIGHT LABのCEOを務める遠山功さんにインタビューをし、INSIGHT LABの取り組みについて、またイスラエルと日本の関係について、お話を伺いました。
イスラエルとの出会い
INSIGHT LAB CEOの遠山功さんは、学生時代の飲食店でのアルバイトの経験から、データを利用した効率的、かつ血の通った接客についてのヒントを得て、ビジョンを確立。会社勤めを経験したのち、2005年にデータ分析基盤コンサルタント会社(当時の名称はI-ways) を設立したそうです。
―――遠山さんはイスラエルにINSIGHT LABの子会社を作られましたが、その歴史といいますか、生い立ちについて少し教えていただけますか?
遠山CEO:はい。私は会社を立ち上げてからMBAも勉強しているのですが、やはり「安定」に腰を落ち着けると成長が妨げられると思っています。常に10年20年先を意識して、動き続け、新しく構築しなおさなければいけない。そういう流れから友人とともにシリコンバレーやエストニア、ベトナムといった、INSIGHT LABの今後についてのヒントを得られるような場所を視察していた時に出会ったのがイスラエルです。
開放的な雰囲気と素朴な人なつっこさがあるのに、そこに「スタートアップネイション」として世界に名をとどろかせる最先端技術力と、強力なセキュリティー思考を持ち合わせているところに大きな魅力を感じました。
それから、日本とは正反対のマインドセットですね。失敗を恐れず、小さく縮こまることを良しとしない。イスラエル人は「Think Outside the Box」という言葉が大好きですけれど、常に既成の事例にとらわれないようにする考え方に可能性を感じました。
そこで意を決して、2019年に、現地法人を立ち上げたのです。
―――なるほど。遠山さんとイスラエル、感じ方というかフィーリングがぴったり合っているようなところがありますね。
遠山CEO:そうですね。私は、日本の子供たちにプログラミングを教える「ツクル」というプログラミングスクールを2016年に立ち上げました。INSIGHT LAB沖縄支社において、「ツクル」を通じて、子供から諸大学の学生や教授、約15,000人に近い人たちにこのプログラムを使って学んでもらったのです。今では、このツクルのプログラムクエストは、オンラインで誰でも学ぶことができますが、子供たちや若者もプログラミングを学ぶ機会が豊富にあるイスラエルは、非常に私の興味を引きましたし、参考にしたい点もたくさんありますね。
―――そういえば、遠山さんは大学の講師もしていらっしゃるんですよね?
遠山CEO:はい、そうです。私の母校である東京電機大学の非常勤講師として「技術者のための経営学」を教えています。自分が今まで社会から受け取ってきたものやもらったものを、今後は少しずつ、還元してく立場になりたいと思っています。そういった意味でも、イスラエルで受けた新しい刺激を、日本に持って帰るというのは、やりがいのある仕事でもあると思っています。
イスラエルでのINSIGHT LAB
―――INSIGHT LABはデータ分析基盤を専門とするコンサルタントですよね。イスラエルでは、どんなことをなさっているのですか?
遠山CEO:今までは私も2か月に1回はイスラエルに足を運び、現地の様子を肌で感じ人脈を作ってきました。その中でイスラエルのSisense社と業務提携を結び、 Sisenseのナレッジサイト運営や Sisenseを使った業務コンサルタントなどを行っています。
他にも、位置情報収集によるマーケティングプラットフォームや、屋内位置測位ツールを利用したマーケティング戦略など、イスラエルスタートアップの技術を日本市場で活用する可能性を探っています。
さらに、イスラエルは、テルアビブがスタートアップや最新技術の中心地なことは確かなのですが、南部にある街、べエル・シェバのサイバーセキュリティ―・キャピタル構想や、北部の町キリアット・シュモナのTel Haiカレッジやミゲル・インスティテュートを中心としたアグリ&フードテック・キャピタル構想などがあります。
そして、テクニオン工科大学をはじめ、アカデミックな業績を実用化させて社会で活用しようとする動きも、日本に比べればずっと活発ですよね。
また、北部地方都市にチェーン展開し地方のスタートアップ原動力を支える教育とともに、スタートアップの成功を通じた地方都市経済の成長と成功の機会を提供するエコシステムづくりに力を入れるOpenValley社など、産官学+軍の体制で地方の活性化をはかる動きも活発です。
INSIGHT LABはの本社は東京にありますが、北海道、沖縄をはじめ大阪や新潟という日本の地方都市にも支社があります。また、日本のAI研究の第一人者、北海道大学の川村教授もINSIGHT LAB社の顧問です。INSIGHT LABのビジョンは「データ活用を通じてより豊かな社会を実現」することですので、先ほど述べたイスラエルの特徴を活かして、グローバルな地方都市同士の事業提携や大学同士の交流なども視野に入れています。
―――そんな地方まで広くくまなく・・・すごいですね。イスラエルに来る日本企業はテルアビブとその周辺都市をカバーしておしまい、という感じが多いのですが・・・。
遠山CEO:先ほども申した通り、テルアビブがイスラエルのスタートアップの中心であることは確かですので、単純にビジネスのみを考えればそれで十分だと思います。でも、イスラエル人はテルアビブのことを、ちょっとした皮肉も込めて「テルアビブ国」と呼ぶ人もいるくらい、イスラエルでは特殊な場所です。スタートアップ大国イスラエルは、テルアビブだけで成り立っているわけではありません。イスラエルの最先端の技術は大変魅力ですが、結局ビジネスは人と人です。素晴らしい技術を産み出すイスラエル人と厳しい契約条件についてやり取りするうちに、私はイスラエルという国のその奥にある背景にも、とても強い興味をもつ様になりました。
Insight Lab、これからの挑戦。
―――確かに、INSIGHT LABはFacebookなどでもイスラエルの文化や習慣などの紹介もしていますよね。
遠山CEO:そうですね。世界的なコロナ危機の前までは、私もイスラエルに良く足を運んでいましたし、日本企業で興味のある方にはイスラエル企業をご案内していました。ただ、今はそれが不可能なのです。でも私は、やはり日本は内にこもっていてはいけないと思います。こんな時期だからこそ、もっと、INSIGHT LABならではのイスラエルを日本に発信していきたいと思います。
また、2021年には、日本とイスラエルをつなぐ様々なイスラエル人や日本人を取材した本を出版する予定です。二つの異なる文化の間でビジネスをし、その間を行き来する人々・・・。本当に興味深い話をたくさん取材しました。こういった人々の声には、多様化するこれからの日本社会を生きるビジネスマンにとって、今後のキャリア形成や生き方に関する重要なアドバイスがたくさん含まれています。
そしてもう一つ、私には夢があります。約10年後までに、日本のアイディアをイスラエルで揉んで形にして、日本とイスラエルで一緒に「0から1」を生み出すことです。そしてそれを第3国でオフショア開発して、イスラエルも含んだ世界中に売り込みたい。こんな夢があります。
―――日本のアイディアを、イスラエルで・・・ですか?よく「イスラエルは0から1が得意、日本は1を10なり100なりに発展させるのが得意」とは、よく聞きますけれど・・・。「一緒に0から1を生み出す」というのは?
遠山CEO:私が学生だった頃、飲食店でアルバイトをしていました。それが私が会社を作る原点にもなったのですが、なじみのお客さんが「いつものね」、と一言注文する。これだけ言うと日本人にとっては、ありがちというか、大したこともないように感じますけれど、これって実はすごいことなんです。これができる人間同士の間に蓄積されているデータ。そして様々な条件が重なっているという事実。日本独特のおもてなしや、お客さんに対する細やかな気遣い、人間同士のリスペクトって、やっぱり特別だと思うのです。
イスラエルの技術は最新で素晴らしいですけれど、じゃあ、イスラエルで受けるサービスがどれも日本より勝っているかというと、決してそういうわけではない。はっきり言うと逆です。イスラエルに行って日本に帰ってくると、日本のより良いことに気づくことがたくさんあります。そういったものを私はイスラエルを通して世界に広めたい。
私たち日本人は日本にどっぷりつかって暮らしていますから、日本の良いところが当たり前に見えてしまったり、逆に特別過ぎて海外では受け入れられないだろうと思いこみがちです。
でも、イスラエル人に会って、私が日本人だと知ると、皆日本のことをほめてくれる。日本に行ったことがある人は、日本の何が素晴らしかったか、こんなことはイスラエルではあり得ない、とその感動を直接私にぶつけてきてくれる。
それで気づかされたのは、日本にも、世界に類を見ない「0から1」がたくさんあるということ。もちろん、それを日本の形のそのままで持って行っても、受け入れられないのは当然です。それをイスラエル人と一緒になって、もっと世界で新しく受け入れられる形に工夫を重ねて、新しい技術として、世界に広めていきたい。
簡単ではありませんが、そんなチャレンジを私は思い描いています。
今後、イスラエルとビジネスをする日本の方へのアドバイス
―――逆転の発想ですね。感動的なお話をありがとうございました。それでは、最後にどうでしょう、イスラエルと付き合いの長い遠山さんから、今後イスラエルとビジネスをする予定の方々に、どんな事業が向いているのかなどの、アドバイスはありますか?
遠山CEO:そうですね、先ほども言ったとおり、結局ビジネスは最終的には人と人だと思います。よく言われることですけれど、日本では、自己紹介をするときに「××社の遠山です」とかって、まず会社ありきじゃないですか。イスラエルではそれが逆で、「私は遠山です。××社で働いています」ってなるんですよ。もちろん会社で働く社会人としての責任や立場というものはありますが、まず、人間として何をどう判断してどう進めていくか、ここが重要なのです。なので、会社の名前だけを出していたのでは、やっぱり前に進めません。専門知識があって、素早い判断ができて、その場で意思決定ができる人がいなければ、イスラエルではどんな事業も向いていない、逆に、そういう人がいればどんな事業でも向いていると思います。
INSIGHT LABの社員は、基本的に、副業や兼業が認められています。それは、私は社員の皆さんには、個人の価値を高めていってもらいたい、一人の「人」としてINSIGHT LABで働いてもらいたいと思っているからです。
現在日本は働き手不足が言われて久しいです。INSIGHT LABではすでに何年も前から国籍を問わず、能力のある人材を社員として迎え入れています。INSIGHT LABにとって大切なのは、個人の価値が高い、必要とされる人材を集めることです。それは、国籍、性別、年齢だけを見て判断できるものではないのです。
―――なるほど、とても興味深い話です。今はコロナでしばらくイスラエルに行っていないとのことですが、コロナが終われば、またイスラエルにいらっしゃいますか?
遠山CEO:もちろんです。早くイスラエルに行きたいです!
―――お待ちしておりますので、ぜひ来てくださいね。今日は貴重なお話しをたくさん聞かせて下さって、どうもありがとうございました。