へルツェリヤにあるApple社の社屋
(画像=へルツェリヤにあるApple社の社屋)

コロナ禍でもイスラエルのスタートアップ資金調達は勢い衰えず
イスラエルでは、年間700社以上のスタートアップが生まれています。イスラエルでは、国がスタートアップを支援する様々な施策を講じていることに加え、スタートアップに投資するVC(ベンチャーキャピタル)もたくさんありますし、起業家教育も盛んです。アメリカの調査会社PitchBookの起業家教育に関する大学世界ランキングにおいて、テルアビブ大学は10位以内にランクインしており、ヘブライ大学・テクニオン大学も50位以内にランクインしています。

このコロナ禍においてもその勢いは衰えておらず、IVCの調査によると、イスラエルハイテク企業の第1四半期の資金調達額は 27.4 億ドル(約2,877億円) !全部で139件の取引だそうなので、1件あたりの平均調達金額は約2千万ドル(約20億円)となっています。総資金調達額は、前年同期の 15.57 億ドルを上回ったことが分かっています。

【参照】Israel Tech Funding Report Q1 | 2020 (ZAG S&W)

※ちなみにCnet-japanによると、STARTUP DBの調査において2020年1月~4月20日までの日本のスタートアップ総調達額は1,430億円となっており、イスラエルの半分以下であることが推察されます。
【参照】https://japan.cnet.com/article/35153063/

また、第2四半期の数字も出ており、約25億ドル。第1四半期からやや減ったものの、コロナ前の23.6億ドルを上回る金額。取引件数では170件となっており、第1四半期より増加しています。この調査結果によると、今年の上半期において、312件で52.5億ドルを調達したことになります。この金額は2018年の1年間で調達された金額の83%に当たります。

【参照】ISRAEL TECH FUNDING REPORT Q2 | 2020 (ZAG S&W)

コンサルティング・投資企業であるHarel-Hertz Investment House社の調査によると、2020年上半期の日本からイスラエルへの投資は、前年同期比15%増の4.723億ドルだそうです。2019年は8.21億ドルで、上半期は4.12億ドル。件数で比較すると、2019年上半期は35件だったのに対して、2020年上半期は25件でした。つまり、今年の投資案件の多くが前年同期よりも規模が大きかったということになります。平均投資額は、前年上半期1,180万ドルに対し、今年は1,488万ドルで増加しています。

とはいえ、世界的経済恐慌と言っても過言ではない状況下なので、安心はできません。イスラエル経済月報によると、2020年5月の調達金額は3億ドルとなり、これは月額単位で見ると2018年8月以来の少額だそうです。そして何より、キャッシュの無いスタートアップは次々に倒産・廃業しているのも事実で、新型コロナウイルスの影響によるイスラエル国内の失業者は100万人を超すと言われています。OECDの予測では、イスラエルの2020年の成長率は-6.2%となっており、これ以上コロナウイルスの感染が進めばもっと状況は悪化するでしょう。イスラエルのイノベーション庁は、新型コロナウイルスと闘う企業への助成施策として、35社に対し約 600 万ドルを支給すると決定しました。政府だけではなく、イスラエル最大級のVCであるOurCrowdが、新型コロナ関連で急いで開発が必要な技術に投資するためのファンド設立を目指していたり、スタートアップを支えるエコシステムは機能しているように思えます。

イスラエルのスタートアップエコシステム図解
(画像=イスラエルのスタートアップエコシステム図解)

そんなエコシステムの中で生まれるスタートアップに、大企業が投資する例が近年目立っています。目的は、自社サービス(商品)のさらなるレベルアップや、技術の補完です。

2017年にAppleがRealFaceを200万ドルで買収し、iPhone8に顔認証機能を追加しました。Appleは、ユーザーの利便性に向き合って必要だと判断した顔認証機能の技術を、M&Aという手段を講じて丸ごと手に入れたのです。こんなかたちで、大企業がイスラエルスタートアップの技術を使って自身のサービスをアップグレードさせた事例はたくさんあります。

例えば、2019年にはアメリカのマクドナルドが、パーソナリゼーションの技術を持つDynamicYieldを300万ドルで完全子会社化しました。一見なんの関連性が?と思うかもしれませんが、メディアによると、マクドナルドの目的は、全世界にあるドライブスルーでのオペレーション最適化とのこと。その日の天候や気温、顧客の好みや傾向に合わせて、ドライブスルーで出すメニュー内容やレコメンド内容を個別最適したい、というニーズがあったということを聞くと、納得ですよね。

中東のシリコンバレーと言われるイスラエルに、大企業が注目する理由
イスラエルスタートアップが大企業を惹きつける最大要因は何でしょうか。それは、イスラエルでは優秀なエンジニアリソースを確保することができるという背景ではないかと思います。イスラエル発のハイテクサービスは、優秀なエンジニアを基盤として開発しているケースが多く、大企業にとって自社サービスに足りない機能や技術を補完しうるスタートアップに投資/買収することは、そのスタートアップの優秀なエンジニアリソースを手に入れることが出来ることに等しい価値を持ちます。

2020年5月、インテルコーポレーションはMoovitを9億ドルで買収しました。目的地に着くにための最短最適なルートを提示する都市交通モビリティアプリであるMoovitは、公共交通機関やタクシーや自転車などあらゆる交通手段を組み合わせてレコメンドする機能を持ちます。既に8億人のユーザーを抱えるグローバル企業に成長していたMoovitは、インテルが持つモービルアイの先進運転支援システムとシナジーを生むことを狙いとしてM&Aされたようです。

2020年1月30日に開催されたカンファレンス「CyberTech」に出展するCybereason
(画像=2020年1月30日に開催されたカンファレンス「CyberTech」に出展するCybereason)

また、イスラエル発の企業で、AIを使ったサイバーセキュリティプラットフォームとして有名なCybereason。2016年のシリーズCにおいて、当時顧客だったSoftbankが5,900万ドル投資し、その後、両社は合同でサイバーリーズン・ジャパン株式会社を東京に設立。さらにその後Softbankは2017年に1億ドルを追加出資し、Softbankは同社の筆頭株主になりました。2019年のシリーズEでもさらなる追加出資をして、協業を強化しているようです。徐々に投資金額を増やし、関係性を深めた事例と言えるでしょう。

SAPはイスラエルの開発拠点を拡充するとしており、コロナ禍でも数十名規模の採用を行うと発表しています。やはりイスラエルのエンジニア人材は魅力的なのです。Google、Apple、Facebook、amazon、Microsoft、SAMSUNG、IBMなど、現在イスラエルにR&Dセンターやラボを置く外資企業は300社を超え、在イスラエル日本大使館によるとイスラエルになんらかの拠点を持つ日系企業は92社(2019年10月時点)にのぼります。大企業にとって、自社サービス・商品をより良くするための技術を持つスタートアップが、イスラエルに眠っているかもしれません。『スタートアップ・ネイション』は、エコシステムの環境下でより急成長するステージへと移行しており、『スケールアップ・ネイション』へと変貌を遂げつつあるのです。