2021年10月現在、中国やタイ、ベトナムなど、比較的コロナ対策で高い評価を受けていた国においても、デルタ株の感染拡大や水際対策の崩壊により感染者が再拡大している。武漢研究所からのウイルス起源説も取りざたされる中国では100人規模の感染が発覚し、公務員100人以上が失策として処分された。
そのような状況で「もはや、世界はコロナと共存するしか方法がないのではないか」と、従来の封じ込め対策に疑義を唱える専門家も増えている。
「感染対策怠慢」で公務員100人以上を処分
厳格かつ迅速な感染対策が功を奏し、世界に先駆けて経済活動を本格的に開始した中国だが、ここにきて不穏なニュースが相次いで報じられている。
8月には感染対策を怠っていたとして、国内の公務員など100人以上が処分を受けたと中国メディアが報じた。事の発端は、7月下旬に南京の国際空港の作業員がデルタ株に感染した。その後、18の省や自治体などに感染が拡大し、国内の1日あたりの新規感染者数が半年ぶりに100人を上回った。観光シーズン真っ只中で人流密度が高まっていたことも、感染を広げる要因となった。
政府は感染者の出た地区を封鎖し、大規模なPCR検査を実施するなど即座に対策を強化したものの、繰り返す封じ込め策に観光業界には憔悴の色が見える。本来であれば、かき入れ時のはずの北京などの観光地でも団体客の姿が見えず、飲食店や土産物店は閑古鳥が鳴くような状態だという。ある土産物の店主はメディアの取材で、「売上がゼロの日もある」と語った。
中国、近づく我慢の限界
ワクチンの普及で死亡や重症化するケースは減っているとはいえ、ロックダウンや行動規制を講じても感染が止まらない。束の間の「収束」も虚しく、再拡大を目の当たりにした国民の間では疲労感と共に絶望感が広がっている。「感染を早期に食い止め、社会の正常化に向かって順調に前進している」という期待が高まっていただけに、なおさら今回の「後戻り」は骨身にしみるだろう。
再拡大は観光業だけではなく、国内の生産や消費にも多大な影響を与えている。コロナ禍の経済回復に苦戦する主要国を尻目に、「中国の一人勝ち」などと言われているが、「実際は経済回復がピークを越え、苦悩にあえぐ企業が増加している」という報道もある。
中国人民銀行が小規模な金融機関以外の預金準備率を引き下げるなど抑制に動いているが、春以降急上昇している生産者物価指数(PPI)は、8月に入り13年ぶりの高い伸びを記録した。
タイ、ベトナムでも感染止まらず 経済的打撃も大
感染の再拡大に苦戦しているのは、中国だけではない。「コロナ対策で成功した国」と世界中で高評価を受けていたタイやベトナム、台湾でも、春以降はデルタ株が急速にまん延し、店内飲食禁止令や夜間外出禁止令を発令するなど、さまざまな対策を講じている。
感染が収まっていたことが結果的に災いし、主要国に比べるとワクチンの確保が大幅に遅れたことも、再拡大させる要因となった。6~7月にわたり、日本が340万回分のワクチンを寄付した台湾は7月に入り感染者が激減したが、タイとベトナムは9月18日現在も1日の感染者数が1万人を超えている状況だ。
特に、タイは国内の消費も低迷し、経済成長が2年連続でマイナス成長となる可能性もあるなど、痛手を負っている。2021年上半期の経済成長率が前年同期比5.6%増と順調だったベトナムも、その後規制が強化されたことにより、3ヵ月連続で生産活動が低迷している。
「世界の工場」である中国を筆頭に、「新世代の世界の工場」として頭角を現すベトナム、東南アジア最大の自動車生産地のタイの生産低迷が長期化した場合、世界経済にも深刻な影響を及ぼす可能性が懸念される。
「ゼロコロナの壁」 専門家が提案する打開策は?
世界で混沌が続く中、「ゼロコロナには限界がある。コロナと上手く共存して行く方法を見つける必要がある」という意見が、一部の専門家間で広がっている。その一人であるボストン大学の疫学者、ベンジャミン・リナス博士は、「我々専門家は当初、きっと完全な集団免疫を確立できるという希望をもっていた」と、パンデミック初期を振り返った。
しかし、デルタ株がワクチン接種者にも感染する事実が明るみに出た現在、「コロナウィルスは永遠に存在し続ける可能性があり、我々はそれを受け入れる必要がある」と、新たな段階に差し掛かっている点を指摘している。
感染を抑制するのが最終目標であれば、引き続きロックダウンや行動規制で一定の効果を期待できるだろうが、社会面や経済面で大きなコストを伴うことは世界各国で立証済みだ。それでは、どのような代替案があるのか。リナス博士は、ワクチン接種者にのみ行動の自由を与えることで、感染をある程度抑制できると考えている。
ノースカロライナ州の公衆衛生当局のデータによると、ワクチン接種者がコロナに感染する確率は未接種者の4分の1、死亡する確率は15分の1だという。つまり、「コロナウィルスを完全に撲滅することは不可能でも、ワクチンを普及させることで感染して病気になる、あるいは死亡する人を減らせる」というわけだ。
もちろん、これはあくまでリナス博士の専門的見解によるもので、絶対的な解決策というわけではない。ワクチン接種者・未接種者の差別化を含め、今後も広範囲で議論が続けられていくだろう。
「コロナと上手く共存する時代」へ
コロナ発症から2年を迎えようとしている今も、「コロナ以前の生活に戻りたい」という声を頻繁に耳にする。しかし、人類は「コロナと上手く共存する時代」への移行を余儀なくされているようだ。果たして我々は、その手段を見つけることができるのだろうか。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)