ISRAERUで2020年7月にイスラエルのAIテクノロジー企業のオーカムテクノロジーズ(OrCam Technologies)が視覚障がいやディスレクシア (文字の読み書き学習に著しい困難を抱える障がいで、失読症や読み書き障がいのこと) を抱える方の日常生活からビジネスに至るまで、最先端のAIテクノロジーでサポートする機器を開発・提供していることをご紹介しました。
参考:最先端のAIテクノロジーを活用して視覚障がい・聴覚障がいに悩む人々のクオリティ・オブ・ライフ向上を目指すイスラエルスタートアップ「オーカムテクノロジーズ」
今回は、オーカムテクノロジーズ本社 (エルサレム市、イスラエル) に訪問し、国際事業開発に携わる、Leon Paull (レオン・ポール) 氏にお話をお伺いすることができましたので、皆様にご紹介いたします!
Leon氏は、オーカムテクノロジーズに入社する前は、コンシューマ向け製品の海外流通に携わっていました。豊富な経験をもとに、現在は同社で国際的に製品を流通させること、新マーケットへの参入、現地チームの構築など、幅広く活躍をされています。
―――オーカムテクノロジーズは、数ある障がいの中でも、なぜ視覚障がいに注目をしたのですか?
Leon Paull氏(以下、Leon) :オーカムテクノロジーズは、ふたりの共同創設者である、Amnon Shashua (アムノン・シャシュア) 教授とZiv Aviram (ジブ・アビラム) 氏により2010年に共同で創設されました。この二人は、衝突防止と緩和のために警告を出す、ビジョンベースの高度ドライバー支援システム (ADAS) を開発しているイスラエルのハイテク企業「Mobileye (モービルアイ) 」の創設者でもあります。そして、創業者のひとりであるAmnon氏の叔母が視覚を失い始めたことがきっかけとなり、それまで自動車産業用に研究と開発を進めていたAIテクノロジーとコンピュータービジョン技術を「人」の視覚向けに活用することにしました。これがオーカムテクノロジーズ設立の起源でもあり、視覚障がいに注目をした理由です。
―――御社は、視覚障がいを抱える方の日々の生活の質を向上させることをミッションに挙げています。具体的には、どのように貢献できるのでしょうか?
Leon : 世界中で約2億8,500万人もの人が視覚障がいを抱えています。多くは老齢に伴った視覚障がいですが、全ての年齢で存在します。視覚というのは非常に重要な機能で、例えば雇用機会にも大きく影響します。視覚障がいは、自立した生活が困難になるだけではなく、社会からの疎外感や意気喪失といったような、精神的なダメージが非常に大きいと言えるでしょう。オーカムテクノロジーズは、テクノロジーによって「自立」を取り戻すことを提案します。私たちが目指すのは、ただの機器として役に立つだけではなく、それを超えるエモーショナル・ヘルス (感情面の健康) を向上させることです。
―――御社が開発・提供するAIウェアラブル機器の「オーカム・マイアイ2(OrCam MyEye2)」を真のパートナーと表現されています。装着者のパートナーとなる為の主な要素とは何でしょうか?
Leon : まず弊社が最も重要と考えることは、機器が全ての年齢層、全ての視覚障がいの程度において利用可能でなければならないという点です。オーカムマイアイ2(OrCam MyEye2) は、約22.5グラムの軽量で小さく目立たず、マグネットでどんな眼鏡にも取り付けることができます。新聞や書籍、メニュー表といった紙面上の文章から、路上の標識や商品パッケージ、デジタル画面のものまで、装着者の視点や指でさした文章を全て認識して読み上げてくれます。
顔認識も出来るため、知り合いに会ったときに登録済みの名前を教えてくれます。機器はワイヤレスで、インターネットの接続も不要です。すべてはオフラインで行われ、録音や録画をするわけではなく「認識」をするだけですので、プライバシー保護の観点からも心配がありません。このように、機器は簡単でシンプルな操作、そして場所を問わずに利用可能で、使いやすいことが重要です。また小さく、軽く、目立たないという形状も真のパートナーとなるための欠かせない要素であると考えます。
―――非常に簡単な操作で利用できることに驚きました!
Leon : これまでも電子拡大鏡のような、紙面上の文字を拡大し、色彩のコントラストを調整してくれる機器や、パソコンの前で文章を読み上げてくれるソフトウェアなどはありました。しかし、これらの機器は携帯用であっても、大きくて使い勝手が良くなかったり、ソフトウェアにおいては読み上げることができる対象物の制限もあったようです。その点、オーカムマイアイ2(OrCam MyEye2)は、ビジネスシーンでも会議中にパワーポイントなどの視覚的なプレゼン資料の読み上げが可能である点や、形状においても大変評価されていますね。
―――実際には機器を使いこなすまでにトレーニングは必要でしょうか?その場合は、どのようなサポートをされていますか?
Leon : 弊社では、1対1で操作や詳細な案内をしています。またセルフ・ラーニングツールも充実しているので、機器を十分にご活用いただけるよう、安心のサポート体制が整っています。
―――最後に、日本市場へ参入を決めた要因は何ですか?また、御社は現在まで世界48ヶ国、25言語で機器を展開していますが、日本市場での課題は何ですか?
Leon : 参入を決定した要因のひとつは、日本が高齢化社会でニーズが高いマーケットであると考えたからです。また日本は、各自治体の給付金制度が充実していたり、補助を必要とする人を経済的にサポートするシステムが進んでいます。一方で、課題としては、テクノロジーが視覚障がいを抱える人達の生活をサポートするという新しい提案と、機器の浸透に時間が必要なことです。今後さらにマーケットでの認知度が進み、実際に機器を試す方がますます増え、視覚障がい者の方の生活の質を、物理面でも感情面でも向上させることが出来ることを願っています。
―――Leonさん、貴重なお話の数々、ありがとうございました!
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