タリバン復活で米国完全敗北 アフガニスタンは地獄と化すのか
(画像=trentinness/stock.adobe.com)

2021年8月末、アフガニスタン政府による政権が崩壊し、タリバンが20年ぶりの政権復活を果たした。タリバン政権が復活することで、女性の人権侵害や国内に在住する外国人への影響が心配される中、日本を含む各国への影響も懸念されている。

20年間の「終わりなき戦争と撤退」に終止符

2001年の「9.11(同時多発テロ事件)」を機に勃発した「米国史上最も長い戦争」は、米国のアフガニスタン完全撤退という形で終焉を迎えた。

テロ発生当時、アフガニスタンの政権を握っていたタリバンは、テロの首謀者だった国際テロ組織アルカイダのリーダー、オサマ・ビンラディン容疑者の身柄引き渡しを拒否した。ブッシュ政権下にあった米国は軍事作戦に踏み切り、タリバン政権を崩壊させた。その後も米軍が現地に残留することで、テロや襲撃を続ける残党を封じ込めて来た。

しかし、米国の後押しはアフガニスタンの安定に貢献する一方で、米国が20年間にわたり、軍事費や人命というコストを払い続けることを意味した。米国務省の発表によると、2001年以来、同国がアフガニスタンに費やした総額は2兆ドル(約219兆4,393億円)以上、現地で命を落とした米兵は約3,500人以上、負傷兵は2万人を超えたという。

紛争が予想以上に長引いた結果、米国は「引き際」を明確にした。アフガニスタン政府軍の訓練や支援を続ける傍ら、オバマ政権時代の2014年から段階的に撤退を進めてきた。バイデン大統領は撤退完了後の演説で、「終わりなき戦争や終わりなき撤退を引き延ばすつもりはなかった」「紛争はとっくの昔に終焉しているべきだった」と、米国の決断の正当性を主張した。

アフガニスタンを襲う混乱

米軍が手を引けば、タリバンが一気に巻き返しを図るのは誰の目にも明らかだった。予想外だったのは、進撃のスピードだ。慌ただしい米軍の最終撤退の隙をつき、タリバンは凄まじい勢いで首都カブールを掌握した。米国政府が20年間を費やして訓練したはずのアフガニスタン政府は、あっけなく崩壊した。

政府の脆弱性を目の当たりにし、アフガニスタン全土は混乱と恐怖に陥った。空港には自由を求めて脱出を試みる人々が押し寄せ、街中でタリバンの白い旗が翻った。

9月2日現在、カブールの空港はタリバンの監視下に置かれており、各国政府が退避できなかった人々を安全に出国させる手段をタリバンと協議しているものの、民間航空機再開の目途はたっていない。米国防総省のデータによると、これまでに12万人以上が出国に成功したとされる一方で、ドミニク・ラーブ英外務大臣いわく「取り残された人々に人数は明らかになっていない」。

世界への影響

世界が固唾を呑んで見守っているのは、タリバン政権復活がもたらす国内外への影響だ。真っ先に直接的な影響を受けるのは、国内に残された人々である。

たとえば、前タリバン政権下(1996~2001年)では労働や服装を含む「女性の自由」が完全に禁じられていた。タリバン側は政権復活にあたり、「アフガニスタンの規範とイスラムの価値観に従って」、女性とマイノリティの権利の保護に取り組む意向を表明している。しかし、抑圧的な統治の歴史を振り返ると、この約束を額面通りに受けとめて良いかどうか、現時点では判断しかねる。

すでに、同国初の女性警察高官がタリバンから肉体的虐待を伴う「警告」を受けた、あるいはアフガニスタン西部で女性の権利を要求する小規模なデモが行われたとの報道もある。新政権下で女性弾圧や人権侵害が完全に排除されるとは、俄かに信じがたい。

他国にとっての最大の脅威は、アフガニスタンが再びテロの訓練場となり、9.11のような悲惨なテロ活動が再発するリスクだ。タリバン当局者は米国との協定を完全に遵守し、「いかなるグループも米国とその同盟国に対する攻撃の拠点として、アフガニスタンの土壌を使用することを防ぐ」「イスラム政府の発足のみを目的としており、他の国に脅威を与えることはない」と主張している。

これに対し多数の専門家は、精力的に訓練活動に従事するアルカイダとタリバンが密接不可分な関係である点を、不安材料として指摘している。

内部分裂、勢力間摩擦…「国際社会からの承認」がカギ?

タリバンの非中央集権的な組織体制を考慮すると、アルカイダとの関係を含む新政権の方針を巡り、内部分裂が生じるというシナリオも想定される。

また、ISのアフガン分派「イスラム国ホラサン(IS-Khorasan)」の、今後の動きも気にかかる。アルカイダ同様、米国と北大西洋条約機構(NATO)の圧力により弱体化していたが、米国の撤退を受け、8月26日にカブール空港で自爆テロを決行した。13人の米軍関係者を含む110人以上の死者を出した。

そもそもタリバンとは敵対関係にある上に、新生タリバンの「若干の緩和姿勢」に反発していることから、勢力間の摩擦が加速する可能性が高い。

一方、バイデン政権はタリバン新政権の発足について、「アフガニスタンの正式な政府」として承認する判断を先延ばしにする構えだ。他国も概ね「様子見」のスタンスをとっている。

タリバンは現時点において、「良好で外交的な関係を望んでいる」との声明を発表していることから、米国は他国と足並みを揃え、タリバンが望む「国際社会からの承認」を切り札に、人権保護や治安の安定を促す方針ではないかと推測される。

引き裂かれた家族の痛みは消えない

筆者の目に焼き付いて離れない光景は、自分の子どもの身を案じ、涙を流しながら米軍兵に子どもを引き渡す母親の姿だ。一人や二人ではない。何人もの母親が子どもを安全な国へと連れて行ってくれるよう、哀願していた。

今後、アフガニスタンにいかなる変化が訪れ、タリバン新政権がどのような道を辿ろうとも、引き裂かれた家族の痛みは決して癒えることはないだろう。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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