コロナ禍でもウォール街の初任給は「1,000万円超」 明暗分かれる日米
(画像=PéterMács/stock.adobe.com)

ロックダウン(都市封鎖)による経済的ショックが直撃した2020年夏から 一転、米大手金融機関の今夏のボーナスは大幅増加が見込まれているなど、パンデミックの痛手から立ち直りつつあるように見える。一方、日本の大手企業の夏のボーナスは前年比約8%減。冬のボーナスも「期待出来ない」という声が過半数を占めるなど、コロナ禍の二極化がボーナスにも反映している。

米国では大手銀行がボーナス、給与を大幅アップ

米報酬コンサルティング企業ジョンソン・アソシエイツは、米大手金融機関の大半の従業員に支給されるボーナスが2桁の伸びに達すると予想している。引受業務部門は30~35%、顧問業務や株式販売・取引部門は20~25%、ヘッジファンド、プライベートエクイティ部門は10~15%の増加となる見通しだ。

さらに予想では、投資銀行部門のボーナスは、過去10年で最高額になるという。コロナショックの煽りを受けて、ウォール街のボーナスが最大30%激減した昨年とは雲泥の差である。

市場の予想をはるかに上回る記録的な収益を上げたゴールドマンサックスは、ジュニアバンカーの基本給を30%引き上げ、初年度の給与を11万ドル(約1,208万円)に、JPモルガンチェースは初年度の給与を8万5,000ドルから10万ドル(約933万円から1,099万円)へ引き上げるという大盤振る舞いだ。

劇的な回復の決め手となったのは、企業合併やM&A、IPO(新規株式公開)の急増、そして政府による迅速な対応と巨額の資本注入である。2020年3月、WHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言した直後、トランプ前大統領は国家緊急事態を発令した。即座に、史上最大級の景気回復パッケージで「CARES(コロナウイルス支援・救済・経済保証)法」に署名した。

翌年1月に政権を引き継いだバイデン大統領が、2020年5月からの1年間でコロナ救済支援に投じた資金(助成金・補助金等)は総額約6兆ドル(約659兆7,460億円)にのぼる。さらに2021年4月には、4兆ドル(約439兆8,306億円)規模の追加支援金を投じる計画を発表した。

これに加え、コロナ禍の生き残り策として企業合併などが急増したことで、投資銀行の収益が膨んだ。また、世界に先駆けてワクチン接種が急速に普及したことで防疫措置の緩和が進み、消費者マインドが改善したこともプラス効果となった。

その結果,2020年下半期の米経済は回復基調に好転した。第1、2四半期にマイナス成長に落ち込んだ実質GDPは第3四半期に急回復を遂げ、2021年は前年から8.08%ポイント増となる3.25%の成長が見込まれている。

ボーナス、3年連続マイナスの日本

対照的に、緊急事態宣言を繰り返し未だ本格的な経済再開に乗りだせない日本では、引き続き夏のボーナスを大幅に減額せざるを得なかった企業が目立つ。

日本経済団体連合会が8月上旬に発表した最終集計によると、従業員数500人以上の主要21業種大手252社の夏のボーナスは、前年から8.27%減と3年連続の減少となった。159社の平均支給額は82万6,647円だ。

業種により増減率は異なり、私鉄(23.68%減)、建設(12.18%減)、自動車(10.07%)などが2桁の落ち込みを記録した一方で、セメント(4.29%増)や食品(3.48%増)、非鉄・金属(2.15%)などは若干上昇した。

金融産業も例外ではない。三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)、三井住友FG、みずほFG、三井住友トラスト・ホールディングス(HD)、りそなHDの5大銀行の2021年4~6月期決算は、連結純利益が前年同期比2.1倍の9,218億円と10年来の高水準を記録した。しかし、これはあくまで取引先の経営悪化に備える損失が減ったためで、実質業務純利益は8,510億円の赤字となった。

コロナショックのピークは越えたようだが、国内の経済活動の再開が停滞している現在、依然として先行きは不透明だ。

日本では2020年4月以降、計4回の緊急事態宣言が発令されているが、国民の間では「自粛疲れ」の色が見え始め、人流抑制効果も弱まっている。また、救済金の支給や医療体制の整備、ワクチン普及など重要な対応で他国に出遅れたことが、経済の正常化を遅らせている感は否めない。

日本経済がコロナ以前に回復するのは2022年以降?

感染拡大が続く中、冬のボーナスへの期待感も低い。お金に関する情報メディア「まねーぶ」が20代~60代の正社員371人を対象に実施した調査では、 3割以上が夏ボーナスについて「支給なし」と回答した。過半数が業績の悪化をその理由に挙げた。同様の理由で6割以上が、「冬のボーナスは期待できない」と答えた。夏のボーナス支給額の平均値は43.9万円、中央値は40万円だった。
希望材料としては、製造業が堅調な回復基調にあること、ITや設備投資の需要が拡大していること、海外の経済正常化に伴い輸出の増加が見込まれていることなどが挙げられる。ワクチン接種の進展と共に、消費活動も活発化すると期待されている。実質GDPがコロナ以前の水準を超えるのは、2022年以降になるとの見方が強い。

ボーナスの増えた国、減った国の明暗を分けたのは?

デルタ株の感染が拡大しているのは日本も他の主要国も同じだが、前者は緊急事態宣言から抜けだせず、後者は規制を緩和して不安な状況の中でも何とかバランスを取りながら経済を回している。両者の明暗を分けたのが、経済活動の正常化に向けた戦略の差であることは明らかだ。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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