ジェンダー・ハラスメントが抱える問題点と取り組むべき4ステップ セクハラとは違う?
(画像=mimi@TOKYO/stock.adobe.com)

ハラスメントは個人の人格や尊厳を傷つけるような行為や言動を指す。パワハラやセクハラ、モラハラなどは耳にしたことがある人も多いだろう。とりわけ、性差にかかわるハラスメントと言うとセクハラを考える人もいるかもしれない。しかし、いまだに認知度の低いジェンダー・ハラスメントと呼ばれるハラスメントも存在する。ジェンダー・ハラスメントが抱える問題点についてみていこう。

目次

  1. ジェンダー・ハラスメント問題3つのポイント
    1. 1.ジェンダー・ハラスメントとは?
    2. 2.認知度は低くても職場への影響は大きい
    3. 3. LGBTの人々に対する理解も大切
  2. ジェンダー・ハラスメントが発生しやすい職場
    1. 1.男性が多い職場、女性が多い職場に発生しやすい
    2. 2.誰でも無意識のうちに加害者になる可能性がある
  3. セクハラとは違う?ジェンダー・ハラスメントとセクハラの違いを解説
    1. 1.セクハラとの違いを確認
    2. 2.ジェンダー・ハラスメントもセクハラになり得る
  4. 職場のハラスメントをなくすために取り組むべき4ステップ
    1. ステップ1.トップダウンにより、あらゆるハラスメントをなくすという経営の方針の明確化
    2. ステップ2.職場のあらゆるハラスメントの実態を調査
    3. ステップ3.あらゆるハラスメントをなくすための就業規則を整備
    4. ステップ4.ハラスメントに対する相談窓口の設置や研修も必要
  5. ハラスメントが起きたときは迅速な対応と配慮が必要

ジェンダー・ハラスメント問題3つのポイント

2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)では、ジェンダー平等の問題も取り上げられている。まずは、ジェンダー・ハラスメントがどのようなものか見ていこう。

1.ジェンダー・ハラスメントとは?

日本政府は、ジェンダー平等の実現に向けて以下の3つを重点分野として挙げている。

  • 女性と女児の権利の尊重・脆弱な状況の改善
  • 女性の能力発揮のための基盤の整備
  • 政治、経済、公共分野への女性の参画とリーダーシップ向上
    出典:男女共同参画局

例えば女性が男性と比べて身体的に非力であったとしても決して男女不平等による差別があってはならない。ジェンダーの平等とは、社会的な立場による平等を意味する。

これらを踏まえるとジェンダー・ハラスメントとは、社会的・文化的意味合いや価値観の違いから発生する性区別によるハラスメントということが分かるだろう。

2.認知度は低くても職場への影響は大きい

男女差別というとセクハラをイメージする人が多いかもしれない。そのためジェンダー・ハラスメントに対する認知度は低い傾向だ。昔からよく耳にする「女はこうあるべき」「男ならこうでなければいけない」という言葉もジェンダー・ハラスメントの例のひとつといえるだろう。性別の価値観に基づく問題発言は、ジェンダー・ハラスメントに該当する可能性があるため、注意が必要だ。

体型・容姿・服装などに関する発言や「この仕事は女には無理」といった発言は、女性のやる気を失わせ職場での満足度を下げてしまいかねない。「男だったら気合いを入れて仕事をしろ」といった発言も同様だ。

このような差別的な考えがある職場は、やがて従業員間に差別意識を生み出す。差別的言動は、従業員のモチベーションの低下につながり職場全体のパフォーマンスを下げることになりかねない。

もしジェンダー・ハラスメントによるメンタル不調で従業員が休職や退職に追い込まれることがあれば職場への影響は計り知れないだろう。優秀な人材が流出するだけでなく最悪の場合、企業は訴訟リスクを抱えることになる。認知度は低くてもジェンダー・ハラスメントが職場へ与える影響は非常に大きいのだ。

3. LGBTの人々に対する理解も大切

認識が低いといわれているLGBTの人々に対する理解も必要だ。厚生労働省でもセクハラは「性的自認や性的指向にかかわらず該当することがあり得る」と注意喚起している。今後は、LGBTに関するジェンダー・ハラスメントが起こることも十分考えられ、企業にとっても大きな問題となる可能性があるだろう。

ジェンダー・ハラスメントが発生しやすい職場

どのような職場が、ジェンダー・ハラスメントが発生しやすい職場といえるのだろうか。普段何気なく使っている言葉が、ジェンダー・ハラスメントに該当する可能性があることも知っておきたい。

1.男性が多い職場、女性が多い職場に発生しやすい

男性ばかりの職場や女性ばかりの職場に異性が入ってきたときには、ジェンダー・ハラスメントが起きやすい傾向にある。男性が多い職場に女性が一人だけ配属された場合、なかなか思ったことを口にすることはできないだろう。そのような環境で「男だから」「女だから」という理由で雑用を押し付けるようなことは禁物だ。

女性にお茶くみをさせたり身体的に力が勝るからといって男性に力仕事をさせたりすることは、過度なものになればジェンダー・ハラスメントになる可能性がある。

2.誰でも無意識のうちに加害者になる可能性がある

職場の男女比による力関係だけではなく世代間の考えの差が職場での言動に表れることがある。最近は、ほとんど聞かなくなったが、昭和・平成時代であれば「女性社員にお茶くみをさせる」ということはよくあった。男女ともに通常業務があるにもかかわらず「女性だから」という理由で「掃除や電話の応対をするのは当然だ」などといった企業もある。

こういった企業は、ジェンダー・ハラスメントが起きやすい職場といえるだろう。また、無意識のうちに使った言葉でハラスメントの加害者になってしまう可能性があるので気をつけたい。

セクハラとは違う?ジェンダー・ハラスメントとセクハラの違いを解説

セクハラとジェンダー・ハラスメントの違いを男女雇用機会均等法の規定から確認してみよう。

1.セクハラとの違いを確認

まずは、厚生労働省が公表している職場によるセクハラの定義を確認しよう。

「職場において行われる性的な言動 に対するその雇用する労働者の対 応により当該労働者がその労働条 件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」
出典:厚生労働省

また、男女雇用機会均等法の条文は、以下の通りである。

男女雇用機会均等法第11条第1項
「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」
出典:e-Gov

セクハラには、「対価型のセクハラ」「環境型のセクハラ」の2種類がある。

・対価型のセクハラ
職場で性的な言動が行われ、これに対して拒否・抵抗をしたことで解雇、降格、減給、雇止め、昇進・昇給の対象者からの除外などの不利益を受けること。

・環境型のセクハラ
職場で性的な言動により労働環境が不快なものとなったため、看過できない程度の支障が生じること。

セクハラには、その行為自体に性的な意味が含まれるように、これらは「性的な言動」が原因となっている。例えば「性的な関係を求める」「身体を触る」「わいせつな画像を配布する」などがセクハラに該当する。一方でジェンダー・ハラスメントは、社会的・文化的意味合いや価値観の違いからから発生する性区別によるハラスメントでありその行為自体には性的な言動は含まれていない。

そのため多くの場合、ジェンダー・ハラスメントは、セクハラには該当しないことになる。

2.ジェンダー・ハラスメントもセクハラになり得る

ジェンダー・ハラスメントがセクハラに該当しないからといっても性差別が行われるような悪しき慣行がある職場は、セクハラの温床にもなりかねない。無意識のうちに言動に表れてしまう性差別は、セクハラの背景となり得ることを認識しておく必要がある。そのため職場の男女比による力関係や上司と部下の優位性などの影響から平然と性差別が行われている場合は注意したい。

やがては、ジェンダー・ハラスメントもセクハラに発展することが十分考えられるだろう。厚生労働省の「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」では、以下のようなことは男女雇用機会均等法違反となるとしている。

  • 男性には通常業務のみに従事させる
  • 女性には通常業務に加え会議の庶務・お茶くみ・掃除当番などの雑務を行わせる

男女雇用機会均等法では、労働者が性別により差別されることなく充実した職業生活を営むことができるようにすることを基本理念としており、性別を理由とする差別の禁止事項を設けている。企業としては、セクハラへの注意喚起だけではなく「性差別に該当するような言動は慎むべきもの」と従業員へ指導する必要があるだろう。

職場のハラスメントをなくすために取り組むべき4ステップ

企業には、あらゆるハラスメントに対する雇用管理上の措置が必要だ。職場のハラスメント対策として企業が取り組むべきポイントは、以下のような流れになる。

ステップ1.トップダウンにより、あらゆるハラスメントをなくすという経営の方針の明確化

企業として「あらゆるハラスメントをなくす」という経営の方針を明らかにし全従業員に周知・啓発することが何よりも重要だ。職場のハラスメントについては、企業のトップが自ら取り組む強い姿勢を示さなければならない。

ステップ2.職場のあらゆるハラスメントの実態を調査

職場におけるハラスメントの実態を調査しハラスメントの原因や背景を把握する必要がある。「自社ではどのような慣習がありどのようなハラスメントが起こり得るか」を調査しハラスメント行為を未然に防ぐ環境づくりをすることが重要だ。

ステップ3.あらゆるハラスメントをなくすための就業規則を整備

ハラスメント行為者に対して厳正な対処をする旨の方針、対処・処分の内容、相談体制などを就業規則に規定し、従業員に周知することが必要になる。相談したことや事実関係の確認に協力をした従業員に対する不利益取扱を禁止する旨の規定も必要になる。

ステップ4.ハラスメントに対する相談窓口の設置や研修も必要

ハラスメントに対する苦情・相談窓口の設置や研修の実施、ハラスメント防止に必要な体制の整備をする必要がある。相談者へのプライバシー保護への配慮も忘れてはならない。

ハラスメントが起きたときは迅速な対応と配慮が必要

あらゆるハラスメントに共通するが実際にハラスメントが起きたときには、迅速な対応と事実確認、被害者となる従業員への配慮が必要になる。また、行為者に対する措置も検討し再発防止措置に努めなければならない。職場におけるハラスメントの問題は、加害者と被害者の個人間の問題ではなく企業全体として取り上げるべき問題だ。

何よりも重要なのは、職場の小さな変化を見逃すことなくハラスメントの未然防止に取り組む会社の姿勢である。対応方法を間違えば優秀な人材の流出や訴訟にまで発展することがあり、企業経営に関わる大きな損失が発生する可能性がある。職場からハラスメントを一掃すべく、企業側は努力していくことが肝要だ。

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
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