経営判断や投資判断を行うなら経営分析が必要だ。このとき、「利益率」という指標を用いると、より多角的・立体的に自社の状況や問題点を分析することができる。今回は、経営分析で用いられる6つの利益率を解説する。
目次
経営分析に必要な利益率は6つ
経営分析に必要とされる主な利益率は次の6つだ。
・1 売上高総利益率(粗利率)
・2 売上高営業利益率
・3 売上高経常利益率
・4 売上高当期純利益率
・5 総資本利益率(ROA)
・6 自己資本利益率(ROE)
それぞれ、どのような内容なのか、以下で一つひとつを見ていこう。
1.売上高総利益率(粗利率)とは
売上高総利益とは、「売上高-売上原価」のことだ。ビジネスの場面では、「粗利」ということが多い。そして、売上高総利益率は売上高に占める売上高総利益(粗利)の割合である。つまり、小売や卸売などで商品を売った利益がどれくらい大きいのかを表している。
計算の仕方
売上高総利益率は次のように計算する。
売上高総利益÷売上高×100=売上高総利益率(%)
売上高総利益率が示すこと
売上高総利益率は、商品販売の利益率の高さを示す。この割合が高ければ、販売している商品の競争力が高いことを意味する。ただ、商品力にもいろいろな要素がある。商品の付加価値が高いのかもしれないし、商品販売の営業力が強いのかもしれない。
売上高総利益率が高ければ、人材育成や広告宣伝といった費用に資金を投入しやすくなる。逆に低ければ、薄利多売戦略で利益を確保せざるを得ない。
ただし、業界や会社の規模、技術力の高さや販売戦略によって粗利の構造は異なる。
2.売上高営業利益率とは
売上高営業利益率とは、営業利益が売上高のうちに占める割合のことだ。営業利益は、売上高から「売上原価」と「販売費及び一般管理費(以下『販管費』)」を差し引いた金額である。営業利益だけでなく、家賃収入や株の運用益、利息なども含まれる。
計算の仕方
売上高営業利益率は次の式で計算する。
営業利益÷売上高×100=売上高営業利益率(%)
売上高営業利益率が示すこと
売上高営業利益率は、「本業でどれくらい効率的に利益を上げられたか」を示す。営業利益率が高ければ、会社の経営がうまくいっていると言っていいだろう。
なお、この営業利益率に大きく影響するのが販管費だ。商品を販売するために多額の広告宣伝費を投入すれば、当然営業利益率は下がる。
また、商品開発にかかるや人件費や試験研究費も販管費だ。そのため、「投下した販管費がきちんと成果を出しているか」を適宜検証していくことで、より生産効率を上げやすくなると言える。
3.売上高経常利益率とは
売上高経常利益率は、経常利益が売上高のうちに占める割合のことだ。経常利益とは、本業以外の収入や費用、つまり「企業の財務活動」を営業利益に加味したものをいう。
すなわち、売上高経常利益率は、本業だけでなく資産運用の面も含めて継続的な収入がどれだけあるかを示すのだ。
計算の仕方
売上高経常利益率は次の式で計算する。
経常利益÷売上高×100=売上高経常利益率(%)
売上高経常利益率が示すこと
売上高経常利益率は会社の「カネ」に絡む部分、つまり財務活動も含めて表される。そのため、本業だけでなく財務体質も見ることができる。
ただし、全体の構造を把握するために、損益計算書の数字だけでなく、貸借対照表もあわせて確認したほうがいい。
売上高営業利益率は高いのに売上高経常利益率が低い場合は、借入金の支払利息が利益を圧迫しているのかもしれない。ここで貸借対照表を見れば、負債の部に多額の借入金が確認できれば原因がつかめる。
逆に、営業利益率は低くて経常利益率が高い場合は、株式や不動産の投資で資金を確保しているのかもしれない。貸借対照表の資産の部に有価証券や土地・建物の割合が多ければ、その裏付けが取れる。
経常利益率を見るときは、営業利益率のバランスや貸借対照表との比較も行うようにしよう。
4.売上高当期純利益率
売上高当期純利益率とは、売上に占める当期純利益の割合だ。当期純利益とは、会社の最終的な利益を示す数字であり、本業や財務活動だけでなく、突発的な事故による損失や大きな資産の売却など、特別な出来事による損益も含めた金額となる。そのため、売上高当期純利益率は、会社の最終的な利益が売上に対しどれくらい残ったかを示す。
なお、ここで使う当期純利益は、会社の法人税などの税金を差し引いたものを使う。
計算の仕方
当期純利益率は次の式で計算する。
当期純利益÷売上高×100=売上高当期純利益率(%)
売上高当期純利益率が示すこと
売上高当期純利益率は、会社の全体的な収益力を示す。この割合が大きければ大きいほど、処分可能な利益が大きいことを意味し、再投資や事業拡大の余地が大きいことを意味する。
しかし、今期の数字が絶対というわけではない。なぜなら、計算式の分子である当期純利益は、会社の不動産や関連会社の株式の売却といった特別な要因での損益も影響するからだ。
前期まで高い割合を示していたのに、当期になって急に悪化したのなら、損益計算書で特別損益の変動を確認したほうがいい。もし、多額の特別損失が計上されているならば、翌期には業績が回復する可能性は十分にある。
逆のケースも要注意だ。例年この割合が低いのに、ある会計期間だけ突出して高い割合を示していたら、会社の固定資産の売却で多額の利益が生じたためかもしれない。
いずれにせよ、売上高当期純利益を見るならば、一つの会計期間で見るのではなく、複数の会計期間で見比べ、大きな変動がないかを確認したほうがいい。
5.総資本利益率(ROA)とは
総資本利益率は、「会社の資産合計に対し、当期純利益がどれだけ占めるか」を示す割合だ。ROAは「Return On Assets」の頭文字をとった略称である。当期純利益は先ほどの売上高当期純利益の計算で分子となる部分を、会社の資産合計は貸借対照表の資産の部の合計額を用いる。
この数値は、会社が自社の資産の活用でどれだけ儲けているかを示す指標だ。
計算の仕方
総資本利益率は次のように計算する。
当期純利益÷資産の部の合計額×100=総資産利益率(%)
なお、この式は次のように分解することができる。
(当期純利益÷売上高)×(売上高÷資産の部の合計額)=売上高当期純利益率×総資産回転率
つまり、「当期の純利益が売上高のうちにどれだけ占めているか」と「資産からどれだけ売上を生み出せているか」に分け、原因を分析することができる。
総資本利益率(ROA)が示すこと
総資本利益率は、資産からどれだけ効率よく利益を生み出せているかの指標だ。既述の4つの指標、つまり損益計算書の中にある数字だけを使った利益率は、会社の収益性の一部を示すに過ぎない。
一方、会社は株主から資金を集めて営利活動を行っている。株主にとって「投下した資本からいかに効率よく利益を生み出せているか」は重要な関心事だ。
同じ1,000万円の利益を生み出すにしても、資本金100万円の会社と資本金1億円の会社では意味は大きく違う。少ない資本で高い利益を出している会社の方が株主の目には魅力的に映る。この評価は出資をする株主だけでなく、融資を行う金融機関にとっても同じだ。つまり、総資本利益率は経営の効率のよさを示すのである。
なお、総資本利益率は既述の通り、2つの要素に分解できる。同じ総資本利益率でも内容は違うかもしれない。ここで、要素を分解して調べれば、「資本から売上を生み出す効率がよいか悪いか」「利益率が高いか低いか」を知ることができる。
6.自己資本利益率(ROE)とは
自己資本利益率(ROE)は、純利益が自己資本に占める割合を示したものだ。純利益とは当期純利益のこと、自己資本とは貸借対照表のうち純資産の部の合計額を言う。
つまり自己資本利益率は、「自己資本を活用してどれだけ儲けているか」を示すのである。
計算の仕方
自己資本利益率は次のように計算する。
当期純利益÷純資産の部の合計額×100=自己資本利益率(%)
なお、この式は次のように分解できる。
(資産÷純資産の部の合計額)×(売上高÷純資産の部の合計額)×(当期純利益÷売上高)=資産の負債依存度(レバレッジ)×総資産回転率×売上高当期純利益率
自己資本利益率(ROE)が示すこと
自己資本利益率は「自己資本から資産を生み、資産から売上を生み、売上から利益を生む」というサイクルの効率性を表す。つまり、自己資本を上手に活用して利益を生み出せているかを示すのだ。
自己資本利益率が高ければ高いほど、株主が投資したお金を上手に活用して利益を上げていると言える。いわば、「株主にとってリターンの高い投資先かどうか」を示す指標となる。
ただし、高ければいいというものでもない。既述の計算式を分解したものを見ると「資産の負債依存度(レバレッジ)」がある。
これは、自分の力(自己資本)が小さくても、「金融機関からの借入」という他人資本を利用して事業を拡大できるという意味だ。この部分の数値が高いと、借入が自己資本に比べて大きいことを意味する。
自己資本利益率が同業他社に比して異常に高いのなら、単に自己資本効率がいいだけでなく、借入が大きいことを意味している可能性がある。
滞りなく返済できていればよいが、コロナ禍のように売上や利益が落ち込みかねない出来事が生じたら、一気に資金繰りに詰まるおそれがある。貸借対照表の左右のバランスをも加味した上で、自己資本利益率を見た方がいいだろう。
利益率で分析するときの3つのポイント
以上が決算書分析の際に指標となる利益率だ。これらの利益率を使って自社や他社の財務内容を分析するときは、次の3つのポイントも押さえよう。
1.実数も確認する
本稿で伝えた利益率を確認するなら、損益計算書や貸借対照表にある実際の数値(金額)も見よう。同じ利益率でも、資本金の額や売上高、売上原価、販管費の大きさが違えば意味も変わる。
実数は会社の規模を示す。会社の規模が違えば、事業拡大のスピードや倒産リスクの高さも違う。単に割合だけでなく、実際の数字も照らし合わせながら確認しよう。
2.時系列でみる
一会計期間だけの利益率を見て、経営判断や投資判断を下すのは早計だ。もしかしたら「たまたま調子がよかっただけ」「一時的に赤字に転落しただけ」かもしれない。
判断ミスを防ぐためには、過去の数値と比較しよう。数値が上がっているか下がっているか、突発的な変動が生じていないかを確認しよう。過去と比較すれば「なぜ上がったのか(下がったのか)」まで思考が及び、より冷静な判断を下すことができる。
3.同業他社と比較する
利益率から自社の問題点や改善方法を検討するなら、同業他社と比較しよう。同業他社の利益率が自社より高いなら、「シェアが奪われているかもしれない」「なぜ自社は他社に負けたのか」「他社の強みは何か、自社は何が強みか」などと思考をめぐらすことができる。また、他社と比較することで自社の業界内の立ち位置を把握できる。
各利益率をありのまま受け止め、その他の費用を比較、参照しながら総合的に判断
経営分析を行うとき、大事なのは「割合や数値を淡々と見る姿勢」だ。数値に一喜一憂すると、冷静に分析や改善を行えない。数字をありのままに受け止めてから、原因や対策を探るようにしよう。
文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)