自社において、競合優位性を築くための中核となる能力や技術などのことを「コアコンピタンス」と呼ぶ。
経営環境が時代の流れとともに変化し、商品やサービスに対する顧客のニーズが日々変化していく中、自社のコアコンピタンスを正しく把握することは、企業を成長させ続けるための重要なカギとなる。
この記事では、コアコンピタンスの3つの条件や9つの具体例、コアコンピタンスを明確にするための分析方法について解説する。
コアコンピタンスとは
「コアコンピタンス(Core competence)」とは、企業の中核となる能力や技術などを意味する言葉である。よりわかりやすく表現するなら、「コアコンピタンス=自社の強み」である。経営コンサルタントのゲイリー・ハメルと大学教授のプラハラードの共著である『The Core Competence of the Corporation』に登場した言葉で、企業の成長戦略に欠かせない概念の一つだ。
コアコンピタンスの3つの条件
ゲイリー・ハメルと大学教授のプラハラードの共著である『The Core Competence of the Corporation』などによると、コアコンピタンスは、次の3つの条件をすべて満たす企業の力(製品や技術など)であると説明されている。
・競合他社に模倣されにくいこと
・さまざまな市場に進出できる能力をもつものであること
・顧客の利益に貢献するものであること
コアコンピタンスを経営に活用する目的
コアコンピタンスを経営に活用する目的は、大きく3つある。
(1)市場における競争力を高めるため
日々変わる経営環境の中、企業は競争力がなければ生き残れない。限りある経営資源で効率的に競争力を高めて勝ち残るには、自社の既存の強み、すなわちコアコンピタンスを把握し、それを継続的に成長させながら挑戦を続けることが重要である。
(2)新規事業を成功させるため
新しい事業を展開する場合、競争力の乏しい分野に力を注いでいては成果を上げることは難しい。自社のコアコンピタンスを分析し、市場における自社の既存の強みを正しく把握することによって、成功しやすい分野を選ぶことができるようになる。
(3)社内で価値観を共有するため
自社のコアコンピタンスをオープンにすることで、経営者が考える自社の強みを役員や従業員らと共有できるようになる。その結果、経営理念や経営方針を浸透させやすくなるのはもちろん、従業員らが自社にしかない技術や商品・サービスのために働くことに社会的意義を見出し、やりがいに繋げてもらうこともできるだろう。
コアコンピタンスの9つの事例
コアコンピタンスは会社によって異なるため、自社で明確にしなければならない。
コアコンピタンスのイメージとして、商品や製造技術を思い浮かべるかも知れないが、企業が掲げるコアコンピタンスは実にさまざまである。
日本企業において、具体的にコアコンピタンスとして位置付けているものについて、各企業のホームページで紹介されている。ここでは、創業30年以上の実績のある企業を対象として、コアコンピタンスの事例を紹介する。
技術をコアコンピタンスとする例
・事例1:シャープ株式会社の「液晶技術」
シャープがコアコンピタンスとして掲げるものは、液晶テレビや電卓など、同社の製品に幅広く使われる「液晶技術」である。同社によると、世界で初めて液晶技術を応用した製品は、シャープの電卓の表示とのことだ。
コアコンピタンスの3つの基準に、シャープの液晶技術をあてはめてみると、以下のようになり、まさにコアコンピタンスといえる技術である。
・液晶テレビやスマートフォンなど、他の製品にも応用できる技術
・他社に真似できない高い技術
・顧客に美しい液晶表示を提供する価値のある技術
(参考)シャープ株式会社HP:「シャープを支える製品・技術」
・事例2:住友理工株式会社の「高分子材料技術」
自動車用品、鉄道、住宅などの産業用品を製造する住友理工。同社がコアコンピタンスとして掲げるものは、製品開発に用いられる「高分子材料技術」である。
「高分子材料技術」は、振動特性、音響特性、バリア性、電気特性、耐油性、熱特性、成型加工性といったさまざまな顧客ニーズに対応する機能をもつ材料を作り出す技術である。
また、高分子材料技術によって開発した製品の評価を自社で行う「総合評価技術」も、コアコンピタンスとして掲げている。
人材をコアコンピタンスとする例
・事例3:株式会社カプコンの「強力な開発体制」
「ストリートファイター」や「モンスターハンター」などを開発した、日本を代表するゲームメーカの一つであるカプコンがコアコンピタンスとして掲げるものは、「強力な開発体制」である。
カプコンでは、開発したゲームなどのコンテンツそのものではなく、それを開発する人材をコアコンピタンスとしている。
同社の人事戦略では、従業員を「人財」としている。ダイバーシティ推進のために、性別や年齢、国籍等に関係なく採用や人事評価をしており、先進的で独創性のある人材発掘に注力している。
販路をコアコンピタンスとする例
・事例4:株式会社ハイレックスコーポレ―ションの「グローバル展開」
ハイレックスコーポレーションは、「コントロールケーブル技術」と「グローバル展開」をコアコンピタンスとして掲げている。
「グローバル展開」については、自動車業界に先駆けた海外展開の取り組みによって、世界14カ国に拠点を築き、現地に根付いた生産体制を構築している。これにより、国内だけでなく、海外の主要な自動車メーカにも製品を供給することで大きな収益を上げている。
(参考)株式会社ハイレックスコーポレーションHP:「コアコンピタンスと成長戦略」
サプライチェーンをコアコンピタンスとする例
・事例5:ネスレ日本株式会社の「SCM部門」
「ネスカフェ」や「キットカット」でお馴染みのネスレは、「SCM部門」をコアコンピタンスとして掲げている。「SCM部門」とは、同社のサプライ・チェーン・マネジメント部門のことである。
マーケティングや営業、生産の各部門と連携して供給業務を行う部門であり、同社はSCM部門による活動を「全身に血液を送る動脈のようなもの」とし、コアコンピタンスとしている。
経営戦略をコアコンピタンスとする例
・事例6:株式会社オービックビジネスコンサルタント
会計ソフト「奉行シリーズ」などを開発・販売するオービックビジネスコンサルタントでは、コアコンピタンスとして、以下の5つにフォーカスすることを掲げている。
- 企業業務(会計・人事・給与等)の業務サービス
- 中堅及び中規模・小規模企業
- Microsoftテクノロジー
- パートナー戦略
- ブランド戦略
同社によると、近年さまざまな調査で、顧客やパートナーの満足度、中堅・中小企業の導入シェア率などで高い評価を得ている。上記の5つは、こうした評価実績に裏付けられたコアコンピタンスと考えられる。
(参考)株式会社オービックビジネスコンサルタントHP:「特徴と強み(コアコンピタンス)」
・事例7:株式会社システムリサーチ
生産管理や販売管理システムの開発を行うSIベンダーであるシステムリサーチも、経営戦略をコアコンピタンスとして掲げる企業である。
例えば、コアコンピタンスの一つ「顧客の利益を創出するシステムの提案と構築」では、顧客の経営課題に対応するソリューションビジネスの展開やシステムの提案等を通じて、顧客の利益創出や経費削減を目指すことなどが端的に説明されている。
コアコンピタンスを外部に示すことで企業にとってはPRにもなるが、経営知識のない一般人にはわかりづらい言葉が並ぶこともある。コアコンピタンスに端的な説明を付与することで、経営やその会社の業務に詳しくない人間でも理解しやすくなるだろう。
複数の要素をコアコンピタンスとする例
・事例8:三菱電機株式会社
三菱電機株式会社は、ファクトリーオートメーションのコアコンピタンスとして、以下の5つを掲げている。
- 最先端の開発・ものづくり
- 豊富なラインアップ
- 総合ソリューションの提案
- グローバルサービスネットワーク
- サービス・技術サポート
自社における開発、製造、販売、そして顧客サービスまでのすべての行程を、コアコンピタンスとしていることが見て取れる。
・事例9:ソニーエンジニアリング株式会社
ソニーグループのエレクトロニクス製品の設計開発を担うソニーエンジニアリングは、コアコンピタンスとして、「技術領域」「会社の特徴」「商品」の3つを掲げている。
「技術領域」では、コンシューマー製品から業務用途のプロフェッショナル製品まで、幅広い製品の設計領域を取り扱っていることを挙げている。
「会社の特徴」では、「社員の90%以上がエンジニア」「多様な経験値を積んでいける」など、働くエンジニアにとっての環境の良さを、コアコンピタンスとしている。
(参考)ソニーエンジニアリング株式会社HP:「コアコンピタンス」
コアコンピタンスの分析方法
何をコアコンピタンスとするかは自由
製造メーカーだから「製品」をコアコンピタンスにしなければならないわけではないし、経営戦略のように経営の核となる部分をコアコンピタンスとしてもよい。
サプライチェーンや販路のように、長い年月を構築した仕組みをコアコンピタンスとすれば、他に真似できない独自性を確保しやすい。自社技術やチーム体制などであれば、他の市場にも応用できるコアコンピタンスになり得るだろう。
また、キャッチーな言葉を生み出すことも良いが、同業者や専門家にしか伝わらない表現は、分かりにくい印象を受ける。
住友理工のように、一般人には内容が難しいコアコンピタンスを写真と図解でわかりやすく解説していると、外部に対しても開かれている企業であるという印象を受ける。
外見を気にしすぎると本質を見失う恐れもあるが、少なくとも投資家や取引先に伝わる表現を意識する必要がある。
コアコンピタンスを明確にするための5つの要素
自社のコアコンピタンスを明確にするためには、以下の5つの要素に着目して分析するとよい。
- 模倣可能性(Imitability):他社から真似される可能性の有無
- 移動可能性(Transferability):他に交換・代替される可能性の有無
- 代替可能性(Substitutability):他に交換・代替される可能性の有無
- 希少性(Scarcity):他社にない強みかどうか
- 持続性(Durability):継続できる強みかどうか
模倣可能性、移動可能性、代替可能性は低いほど良く、希少性や持続性は高いほど良い。
この5つのすべてが完璧に備わっている必要はなく、それぞれの項目について評価して、最もコアコンピタンスとしてふさわしいものを選ぶとよい。系統がバラバラの候補の中から、優れたコアコンピタンスを選定する時に有効だ。
なお、事例にもあったように、コアコンピタンスは一つに絞る必要はなく、複数のコアコンピタンスを掲げても問題ない。
コアコンピタンスとケイパビリティの違い
ケイパビリティ(Capability)とは、1992年にアメリカのジョージ・ストークス、フィリップ・エバンス、ローレンス E.シュルマンの3人が発表した、企業の強みについての考え方である。
コアコンピタンスとケイパビリティを特に区別せずに用いることもあるが、ケイパビリティは、バリューチェーン全体に及ぶ組織能力であると説明されており、個々の技術などにおける強みというよりも、それを実行するプロセスにおける強みを意味する。
コアコンピタンスを明確にして会社を発展させよう
経営者が目を向けるべき「コアコンピタンス」について、具体例や分析方法について解説した。
自社にとってのコアコンピタンスに何がふさわしいか判断できないならば、社員にアイデアを出してもらうとよい。さまざまな視点から自社を見ている社員の意見を聴くことで、当たり前だと思っていたことが実は他社にない強みと気づくこともある。
コアコンピタンスは自社の良さであり、「強み」でもある。経営者として、自社の強みを明確にして会社の継続的な発展の基盤とする意識が重要である。
コアコンピタンスに関するQ&A
コアコンピタンスとはなにか?
コアコンピタンス(Core competence)とは、企業の中核となる能力や技術など、他社に比べての競争優位性を意味する言葉で、わかりやすく表現するなら「コアコンピタンス=自社の強み」である。
コアコンピタンスは、経営コンサルタントのゲイリー・ハメル氏と大学教授のプラハラード氏が1990年に共同で寄稿した『The Core Competence of the Corporation』に登場した言葉であり、日本では、1995年『コア・コンピタンス経営』(日本経済新聞出版社)によって広まったとされる。
コアコンピタンスの例は?
コアコンピタンスの有名な例はシャープ株式会社の液晶技術で、液晶テレビや電卓など、同社の製品に幅広く使われる技術を指す。
コアコンピタンスには製造技術などが該当しやすいが、専門知識を有する人材、サプライチェーン、販売戦略、これらを複合したものなどを掲げる企業もあり、必ずしも商品やサービス、技術などに限られない。
コアコンピタンスの重要性は?
コアコンピタンスは、企業において高い競争力をもつ既存の強みである。企業が自社のコアコンピタンスを把握することは、限られた経営資源を有効活用しながら企業が継続的に成長する上で、非常に重要となる。
例えば、コアコンピタンスを正しく把握することによって、既存の強みをより強固にしたり、新規事業を始める際に成果を上げやすい方法を考えることができたり、自社の存在意義や価値観を社内で共有することに役立てたりできる。
コアコンピタンスの要件は?
コアコンピタンスは、「1.競合他社に模倣されにくいこと」「2.さまざまな市場に進出できる能力をもつものであること」「3.顧客の利益に貢献するものであること」の3つの要件をすべて満たす製品や技術などが該当する。
また、次の5つの要素において評価の高いものがコアコンピタンスとして優れていると考えられる。
(1)模倣可能性(Imitability)
(2)移動可能性(Transferability)
(3)代替可能性(Substitutability)
(4)希少性(Scarcity)
(5)持続性(Durability))
なお、模倣可能性・移動可能性・代替可能性は低いほどコアコンピタンスとしての評価は高まる)
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)
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