【第14回】経営者の貴重な時間を部下の育成に割くことに意味があるのか?
(画像=THE OWNER編集部)

THE OWNER特別連載「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」第14回目は「経営者の貴重な時間を部下の育成に割くことに意味があるのか」という経営者のお悩みについてお答えします。

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【今回のご質問】
率直な言い方になりますが、ベンチャーなどで自身の経営やアイデアに本来割くべき時間を部下の育成に割り当てることに意味があるのでしょうか。組織のマネージメントに自身の時間を取られる形になった時点でベンチャー、スタートアップの成長が鈍化してしまうようにも思えるのですが。いかがでしょうか。

ベンチャー企業経営者は普通の中小企業経営者と比べると格段に多忙です。組織機能が確立していないため、創業メンバーがフル稼働しても人手が足らず、その足らない部分は経営トップ自らが補わなくてはならないからです。そんな中で、部下の指導や人事評価など人材育成まで自らが動かないと物事が進まないとなると、「こんなことまで俺がやらなきゃならんのか」という不満をぶちまけたくなる。実によく分かります。でももし今、あなたがそれをやらなくなったら一体どうなるのでしょうか。まずはそこから考えてみましょう。

日沖 博道(パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長)
日沖 博道(パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長)
【略歴】アーサー・D・リトルでシニアマネジャー、日本ユニシスで統括パートナー、アビームコンサルティングでディレクターを務める。経営コンサルティングと事業会社経営(ベンチャー企業、合弁企業など)を交互に経験し独立、2012年より現職。
【学歴】一橋大学 経済学部卒、テキサス大学オースティン校 経営大学院修士(MBA)
【専門領域】事業戦略、マーケティング戦略、ビジネスモデル、BPRとBPM
【最新著】『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』
【パスファインダーズ社】少数精鋭の戦略コンサルティング会社として、新規事業の開発・推進・見直しを中心としたコンサルティングを提供。
URL:https://www.pathfinders.co.jp/

今の時点で部下の育成を人任せにしたらどうなるか想像してみる

『インターネットビジネスマニフェスト』というネットビジネス起業家のバイブルのような本があります。その中にとてもインパクトのある図が載っています。

参考:https://www.daisy-web.com/weblog/1986

典型的な起業家が日常的に自ら遂行している業務を図示しているのですが、その膨大さに目がくらみそうになりますね。これはネットベンチャーなので余計に極端なのですが、他業種ベンチャーでも本質的には同様です。戦略を考え、自社の製品・サービスを開発し、それを売り込むために奔走し、他社との提携交渉にあたり、顧客に満足してもらうため現場での指揮を執るまで、つまり「戦略的な方針策定から日常的な事業推進まで」、経営トップが一手に引き受けているのが普通です。いわば「内的自転車操業」とでも言うべき状態なのです。

ところで、ベンチャー企業経営者の組織環境には2種類あります。優秀な「番頭役」たるナンバー2がいる場合と、いない場合です。大抵のベンチャー企業の現実は後者です。質問者の場合はどうでしょうか。仮にそんなナンバー2がいたら、人材育成を含む日常の組織運営上の細々とした事項はすっかりその人に任せ、ご自分は「経営者がすべき、そして経営者しかできない」戦略的な事項に集中できるはずです。でも、もしそうならそもそもこんな質問をされるはずもなく、残念ながらそうした優秀な「番頭役」はいないというのが現実でしょう。以下、そんな状況を前提に話を進めます。