投資,融資,出資,資金調達
(写真=Blue Planet Studio/Shutterstock.com)
鈴木 まゆ子
内山 瑛(うちやま・あきら)
税理士・公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

資金調達は、事業を始める際に最初に直面する問題だ。今回は「投資」「融資」「出資」の3つを紹介する。それぞれの特徴を理解したうえで資金調達を行うことが、会社経営を成功させるための重要なポイントとなる。

投資、融資、出資の大まかな違い

「投資」「融資」「出資」の3つの資金調達手法は、「第三者からお金を集めること」という点では共通しているが、それぞれに違いがある。まずは3つの手法を概説する。

「投資」は「融資」と「出資」を包含する概念

投資は、広辞苑においては、「利益を得る目的で、事業に資金を投下すること」と定義されている。この定義から、後述する「出資」と「融資」も投資の一部ということになる。またより狭義な意味においては、「株式投資」など市場を通じて資金を獲得する手段も投資に含まれる。

「融資」とは誰かからお金を借りること

融資は、銀行などの金融機関と事業をする会社や個人が、お金を「貸す」「借りる」といった関係を結ぶことをいう。

・融資を受ける側(企業など)
借りたお金は、一般的には返済する必要があり、契約に基づいて利息を支払う義務が生じる。開業当初の企業は信用力がないので、融資をしてもらえなかったり、十分な金額を借りられなかったり、金利が高かったりする。企業は、資金を確実に返済できることを銀行などに示すことによって、資金調達が可能となる。その根拠は、これまでの実績(過去の決算書や社会での評価)、綿密に作り込まれた経営計画書、魅力的な独自技術、優良な取引先の存在、後ろ盾となる担保や保証人の存在などである。

・融資する側(銀行など)
融資を行う側は、大きなキャピタルゲインやインカムゲインを求めるよりも、資金を確実に回収することを優先するため、融資対象の安定性を重視する。安定性を重視して短期から中期での返済を前提とはしているものの、事業が破綻するなどして、融資先が返済不能に陥れば、回収は困難になる。そのため、事業が破綻して回収が不可能になるリスクを勘案して、利息が決定される。利息は、融資先が保有している担保、借入額の大きさ、いままでの取引や事業経過などの実績などによって決まる。

「出資」とは資金を出してもらうこと

出資とは、株式投資などを通じて投資家やベンチャーキャピタル(VC)などから資金を出してもらうことを指す。

・出資を受ける側(企業など)
出資は借金ではないため、出資を受けた会社からすると返済する必要がなく、安定した資金を手に入れることができる。企業が出資を受ける場合、出資者に将来性を感じてもらうことが重要である。魅力的なビジネスモデルや独自ノウハウ、スキル、特許などを提示することで、資金調達がしやすくなる。融資よりも少し「夢のある」計画を提示することが求められる。

・出資する側(投資家、VCなど)
一方、出資者は、事業の成功や成長を期待して資金を出し、出資額などに応じて、利益の配当を受ける権利や、会社の経営に参加する権利を得ることができる。融資とは異なり、出資者は原則として出資金を返済してもらうことはできない。上場企業などでない限り、自由に出資を第三者に譲渡することはできないし、会社に出資の買い戻しを迫ることもできない。経営者以外の出資者は、配当金の受領や、上場やM&Aなどのタイミングでの売却益によって投資資金の回収を期待することが多い。融資の場合と異なり、出資者は出資先の将来性を重視して、元本が減るリスクを覚悟で、多額のキャピタルゲインやインカムゲインを目的としている場合が多い。

「融資」を受けるメリット・デメリット

前述の通り、広義の意味で「融資」と「出資」は「投資」の一部ということができる。そのため、ここからは融資と出資の2つに絞り、経営者側から見たそれぞれのメリット・デメリットを解説する。経営者は、両者の特徴を知り、自社にあった資金調達方法を選択する必要がある。

「融資」を受ける際の2つのメリット

・(1)第三者からの介入を受けない
融資はお金を借りているだけなので、融資をした金融機関などは経営に口を出す権限はない。契約にしたがって利息を払っていれば、それ以上の支払いや経営への参画を法的に求められることはなく、経営の自由度を保持したまま資金調達を行うことができる。ただし、支払いが滞ればその限りではなく、債権者として経営改善に介入してくることは考えられる。

・(2)必要な資金を借りられる
融資を行う金融機関は大きな資金力を有している。そのため、会社に十分な信用力があれば、まとまった資金を必要なタイミングで調達することが可能となる。事業の成長スピードや設備投資のサイクルが早い場合でも、緊急の資金需要への対応が期待できる。また、少額の資金や短期の資金が必要な場合においても、臨機応変に資金調達を行うことができる。

「融資」を受ける際の4つのデメリット

・(1)利息を支払い元本を返済する必要がある
融資は通常、契約に従い利息を支払うとともに元本を返済していく必要がある。そのため、しっかりと利益を出し、資金を増やしていないと、資金繰りを圧迫し、事業活動に支障をきたすことがある。元本を返済する方法としては、期日一括返済(返済期限に、全額一括にて返済する方法)や分割返済(一定の期間ごとに、借り入れた金額を分割して返済する方法)などがある。

・(2)審査を受けなければならない
スタートアップ企業は過去の決算書がないなど、金融機関からの信頼が低く、希望通りの金額の融資を受けられないことがある。個人で土地や建物など担保となる資産や連帯保証人を確保できれば、借り入れができることもあるが、そのようなケースは少数だろう。そのため起業したてで資金需要があり、将来性の見込める企業に資金がいきわたらないことが頻繁にみられる。

・(3)担保や保証人が必要になることがある
金融機関による審査で担保なしでの融資が受けられなかった場合は、担保を差し入れるか、連帯保証人を求められることがある。中小企業の場合は、経営者が連帯保証人となっていることが非常に多く、事業承継の際、金融機関から連帯保証人に引き継ぎを迫られることも多い。多額の連帯保証をしている場合に事業承継の障害になるケースが昨今問題となっている。

・(4)事業が失敗した場合、破産することになる
事業が失敗し、返済が不可能となった場合、差し入れていた担保は売却され、連帯保証人も道連れにして財産を差し押さえられ、最終的には破産することになる。

「出資」を受けるメリット・デメリット

出資を受ける際にもメリット・デメリットがある。それぞれについて分けて見ていこう。

「出資」を受ける際の2つのメリット

・(1)返済の必要がなく、配当金も義務ではない
出資は借金ではないので、出資を受けた企業には返済の義務が生じない。そのため、超長期にわたる資金調達に向いている。また、万が一経営が苦しくなったとしても、返済を迫られる心配がない。買い戻し条項などの特殊な条件を付した出資でない限り、どれほど事業が失敗し、支払いの目途がなくなったとしても、失敗したという事実のみをもって返済を求められることはない。

また、配当を出すかどうかは会社の利益状況を考慮して毎期検討できる。そのため、黒字が想定よりも出なかった年や赤字の年は、配当を出さなくてもよい。

・(2)事業提携のきっかけとなる
出資先の企業が継続的に利益をあげなければ配当が見込めないため、投資家は出資先の業績に大きな関心を寄せている。投資家が出資先とシナジー効果を有する事業を保有している場合、業務提携や経営支援のきっかけとなる可能性がある。

「出資」を受ける際の3つのデメリット

・(1)出資者や投資家の口出しを受ける
会社は、出資者(株主)のものといわれることがある。出資者は、その出資額などに応じて議決権を得るため、株主総会に出席し、役員の選任や経営方針の決定、役員報酬の決定などに対して、意見を述べ、投票することができる。50%を超える議決権を他人に握られている場合には、会社内の内紛などにより、経営者を変えられてしまう恐れがある。また、事業の失敗が任務懈怠(任務を怠ること)によるものと判断された場合は、株主代表訴訟により、個人賠償を求められることがある。

・(2)「資本コスト」に悩まされる
出資者は、出資先の事業がうまくいったときには、配当金の分配を期待する。融資の場合と異なり、利息や返済を受けない代わりに、事業が成功した場合は得られた利益を何らかの形で還元するよう求められる。仮に事業が成功したにも関わらず、何も還元を行わなければ、出資者の権利を行使し、配当を求めたり、役員解任を求めたりすることもある。配当額は、借り入れをした場合の利息よりも高くつくことが多い。利息を払いたくないからと出資を受け入れた場合でも、事業がうまくいった場合、配当金という思わぬ出費に悩まされることもある。

大きな資本コストは、出資される側にとっては大きなデメリットだが、出資する側にとっては、メリットとなる。最初の投資額が小さくても、定期的に配当金などのインカムゲインや、最終的に出資(株式など)を売却することによって利益を得ることができる。融資に比べ、大きな利益を得られる可能性がある点は、大きな魅力となる。

・(3)思い通りの金額を調達できるわけではない
株式投資などを用いた資金調達では、対銀行のような1対1の取引ではないため、必ずしも望み通りの金額を調達できるわけではない。

「融資」「出資」それぞれを受ける方法は?

融資も出資もどちらも、お金を出してくれる人を探し出すことが必要である。友達や個別に人の繋がりで投資家を探し出す場合は、どちらも受けることができる。しかし、なかなかそのような人は近くにはいないだろう。

一般的には、「融資」は銀行などの金融機関に申し込みを行い、所定の審査を経たうえで、資金調達を行う。「出資」はエンジェル投資家やファンド、VC、株式市場などから資金を受け入れることが一般的である。

「融資」と「出資」決算書の現れ方の違い

融資と出資では、決算書に記入する項目にも違いが出る。

融資の場合

融資の場合は、貸借対照表の負債の部に「短期借入金」「長期借入金」「社債」などの勘定科目として計上される。支払った利息は、損益計算書の営業外費用の部に「支払利息」として計上される(一部の不動産業や建設業などで、支払った利息を資産として計上する処理をする場合があるが、本稿では割愛する)。融資を受けると、自己資本比率が下がり、利息を支払った分だけ経常利益が低下するため、経営指標上はマイナスとなることが多い。また、契約に基づいて返済をする必要があるため、キャッシュフロー計算書上もマイナスとなる。

出資の場合

出資の場合は、貸借対照表の資本の部に「資本金」「資本準備金」「資本剰余金」などの勘定科目として計上される。支払った配当金は、損益計算書上に現れることはなく、株主資本変動計算書にて表示される。出資を受けると、自己資本比率が上がり、配当金は企業の利益のマイナスとならないため、経営指標上はプラスになることが多い。

「融資」と「出資」税務処理方法の違いは?

融資と出資では税務処理の方法にも違いがある。融資と出資をケース別に見ていこう。

融資の場合

融資の場合、借入を受けた段階では税務処理は行われない。支払利息が発生した場合には、その発生すべき期にて、損金として計上される。また、元本の返済は損金としては扱われない。支払利息が損金として計上されるので、節税効果が期待できる。

一方、利息を受け取った側については、法人の場合は益金に算入され、個人の場合は内容により利子所得・事業所得・雑所得として課税されることになる。また、元本の返済については、過年度において貸倒処理をしている場合などを除いては課税されない。

出資の場合

出資の場合も、出資を受けた段階では通常税務処理は行われない。配当金は、法人税の課税を受けた後の利益剰余金(利益積立金)を取り崩して行うため、配当金を支払ったとしても節税効果は期待できない。

一方、配当金を受け取った側については、法人の場合は益金に算入されるものの、一定の算式に基づいて、「受取配当金の益金不算入額」などとして、益金に算入されない金額が計算される。個人の場合は配当所得・事業所得・雑所得として課税される。一定の場合においては、「配当控除」の適用が受けられ、所得税から一定額が控除される。また、元本の払い戻し(自己株式を会社に取得してもらう場合)の場合であっても、「みなし配当」の対象となることがあり、課税されてしまうことがある。株式などの出資を譲渡する場合は譲渡益に譲渡所得税が課税される。

※タックスヘイブン税制やグループ法人税制など、特殊な税制については考慮にいれていない。あくまで、単純な国内の独立第三者間での融資・出資関係を想定した税務処理の概要である。具体的な適用については、顧問税理士に相談するのが望ましい。

新しい時代の融資と出資「クラウドファンディング」…etc.

インターネットや金融市場の発展により、資金調達の方法も多様化している。ここでは近年広がっている手法を紹介する。

クラウドファンディング

昨今、クラウドファンディングを活用した資金調達も行われている。クラウドファンディングは、資金提供の「見返り」として、資金提供者(投資家など)に対して様々なリターンを交付する。投資家と資金調達したい企業を結びつける融資型クラウドファンディングでは、元本に加えて利息(ロイヤリティー)が「見返り」となっている。購入型クラウドファンディングではその会社の商品やサービスがリターンとなり、リターンがない寄付型クラウドファンディングなどもある。

劣後債・配当優先株式

金融市場の発達により、融資と出資の概念は近づきつつある。非常に複雑な概念であるため、ざっくりとした説明となり、厳密には誤解を招く可能性があるため、興味をもった方は専門家に確認してほしいが、「劣後債」とは、破産した場合には、お金が基本的に一切戻らない代わりに、高い金利や利益に連動した金利を支払う、出資に近い融資である。配当優先株式は、通常の株式の配当とは別に、毎期一定額を配当するなど、借金に似た支払い方をする融資に近い出資である。

自社の事業の将来を見据えた適切な資金調達を

これまで見てきたように、「投資」「融資」「出資」はそれぞれ違った概念であり、それぞれ特徴やメリット、デメリットがある。資金調達がうまいかどうかは、経営の良し悪しにダイレクトに影響するため、経営者は、その内容について熟知しておく必要があるし、自社の将来の姿を想像したうえで、適切な資金調達を行う必要がある。資金調達に迷ったら、自分だけの判断で進めることなく、近くの専門家に相談することをお勧めする。

文・内山瑛(公認会計士)