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(画像=mimi@TOKYO/stock.adobe.com)

年功序列は、年齢が高く勤続年数が長い従業員ほど待遇が良くなる人事評価制度である。このシステムは、日本独自と考える経営者もいるかもしれないが、必ずしもそうではない。今回は、年功序列の基本や適用状況について説明し、年功序列と対極にある成果主義についても解説する。

年功序列とは

「年功序列」とは、「年功賃金」とも呼ばれるように、年齢や勤続年数が高い社員ほど「賃金」が高くなり、同時に課長・部長といった「役職」も高くなりやすい人事制度であり、終身雇用が一般的である日本では、よく知られた言葉である。

年功序列は、勤続年数が長いほど経験によって知識が増え、技能レベルが向上するため、会社への貢献度が高くなるといった観点からは、合理的な人事制度だ。

『労働経済の分析(2013年版)』では、日本と欧米諸国の勤続年数のデータが紹介されている。

【引用:『平成25年版労働経済の分析』P157 第3-(2)-2図】

そもそも、日本は他国に比べて長期雇用の色合いが強く、アメリカなどの成果主義国に比べて、勤続年数が10年以上の労働者の割合が明らかに高い。これは、一つの会社に留まる期間が長く、転職などの労働移動が少ないことを示しており、日本の終身雇用制度の結果であると考えられる。

年功序列は日本だけの人事制度なのか

年功序列は、日本特有のシステムと思う経営者も多いかもしれない。では、平均勤続年数と賃金の関係を、日本と諸外国で比較してみる。先の『労働経済の分析』では、各国の年功序列制度の適用状況を確認できる。

【引用:『平成25年版労働経済の分析』P158 第3-(2)-3図】

日本は、諸外国と比べても勤続年数に応じて賃金の上昇率が高く、年功序列が顕著だ。しかし、諸外国も勤続年数に応じて賃金は上昇傾向にあり、日本と同じように長期雇用の割合が高いドイツやオーストリアなどは、年功序列の傾向が強いことが見て取れる。

また、年齢別の賃金比較データでは、日本は50〜59歳から急激に賃金が下落傾向にあり、年齢に着目した場合は、むしろドイツや英国の方が年功序列による給与設定の傾向が高い。これらから、年功序列は何も日本特有のシステムではないことが分かる。

年功序列がうまれたのは日本型雇用システム

年功序列制度は、日本では高度経済成長の頃から一般的になり始めた。経済成長期には、企業も社員の育成を長期的な目線で行って、営業力や技術力といった持続的な成長に欠かせない能力の向上を図っていた。

また、経験やスキルを蓄積している、中高年期の社員の給与が年功序列によって高くなれば、働きがいの向上によって離職防止にもつながり、コアとなるノウハウの流出を防ぐことができる。会社側も、年功序列で給料が上がったとしても、終身雇用を前提にトータルとして生産性の高い結果が得られればよいという合理的な判断だった。

年功序列と終身雇用は安定した生活の基準だった

日本の雇用システムは、新卒一括採用が一般的であるため、終身雇用によって雇用が安定していることは、それだけで労働者にとっての大きなメリットであった。年功序列によって給与や職位の向上が約束されているならば、たとえ新卒入社時には給与が安くても、将来にわたって生活の安定が期待できた。

年功序列の風向きは少子高齢化などにより変わっている

しかし、少子高齢化が進む日本では、既存社員の高齢化が進む中で、20代や30代などの若手社員の数は減少しており、中小企業では人材確保が難しくなってきている。そのため、今までと同じレベルの年功序列を維持すると、企業側の人件費が経営を圧迫することになりかねない。

また、厚生労働省の『労働者派遣の現状について』によると、派遣社員の数は1986年以降増加している。

派遣社員は雇用期間の定めがあることから、年功序列が適用されにくい雇用形態だ。企業内の従業員の年齢バランスが崩れることで、年功序列の維持が難しい状況になるだけでなく、非正規社員に関しては、そもそも年功序列の恩恵を受けにくくなっている。

年功序列と成果主義制度の違い

年功序列の維持が難しくなってきている中で導入を検討されているのが、欧米などで一般的な「成果主義制度」による人事評価である。

成果主義制度とはどのような人事評価方法か

成果主義制度は、年功序列のような年齢や勤続年数といった要素はもちろん、知識やスキルといった能力的な要素や勤務態度などの情位評価を加味せずに、比較的短期間に達成した成果を元に賃金などの評価を行う。日本の賃金体系に置き換えると、「役割・職務給」が成果主義制度に最も近いシステムである。

成果主義制度では、短期間の成果が判断材料となるため、年功序列のような比較的長期目線でのキャリアの形成は難しい。成果主義の環境では、個々人の裁量の範囲が広がり、評価対象となる業務の明確化が必要となる。また、特定の成果が評価されるため、複数人のチームで行うような業務に関しては、評価が難しい側面もある。

年功序列と成果主義制度の普及状況

成果主義制度は1990年代から導入され始めており、「公益財団法人 日本生産性本部」では、企業が導入している年功序列などの賃金体系の推移を調査・報告している。第16回目の調査結果は、以下の通りである。

管理職層は、日本においても年棒制などの適用もあるため、非管理職層の賃金体系推移を確認して欲しい。調査結果によると、年功序列に該当する「年齢・勤続給」は、2001年に78.2%だが、2018年には47.1%まで低下している。

それに対し、成果主義制度に該当する「役割・職務給」は、1999年に17.5%だったが、2018年には57.8%まで上昇した。リーマンショック発生時には、一時的に減少しているが、2007年以降は50%以上で推移していることが見て取れる。

本データは、調査対象となった企業内での比較ではあるが、年功序列制度は減少しており、成果主義制度の導入企業が増加している状況であることが分かる。

年功序列のメリット3つとデメリット3つ

企業での導入が減少している年功序列制度ではあるが、長い間日本で当たり前とされてきた年功序列には、メリットとデメリットがある。

年功序列のメリットとデメリット
(画像=年功序列のメリットとデメリット)

年功序列の3つのメリット

(1)社員の人事評価がしやすくなる

年功序列の特徴は、年齢や勤続年数が高くなるほど給与や職位が上がることである。企業側としても、年齢や勤続年数を評価基準にできるため、人事評価の仕組みを明確にでき、社員に対してキャリアパスを示しやすい。

また、人事評価を行う上司も社員と長期にわたり接することになり、性格や勤務態度などへの理解も深まるため、情意評価などの判断基準に活用できる。

(2)組織の一体感が高まる

年功序列の場合、社員がライフステージに合わせた生活設計を建てやすく、勤続年数が長くなる傾向にある。企業に長く属する要因には、年功序列以外にも企業文化や業務へのマッチング、人間関係といった職場環境などの要素もあるが、一緒に業務を行う時間が長くなることで、社員間の連帯意識は高まりやすい。

(3)企業独自のノウハウの継承と人材育成ができる

年功序列によって社員の在籍期間が長くなれば、社員の育成を長期プランでキャリアパスに沿って行うことができる。また、年功序列の効果によってベテラン社員の離職率を低減できれば、企業の次世代を担う新入社員や若手社員に対して、企業独自のノウハウを引き継ぐ機会も増やすことができる。

年功序列の3つのデメリット

(1)社員の高齢化が進むと人件費が高くなる

年功序列の恩恵を受けるために、社員の勤続年数が長くなって組織の高齢化が進めば、その分給与も上昇し、賃金コストも比例して増加する。そのため、人事予算を圧迫して若手や中堅社員などの採用にも影響を与えかねない。

(2)年功序列に不公平を感じる若手社員が離職する

年功序列の場合は、成果主義制度のように仕事の成果に対する評価は低くなるため、新入社員や若手社員は、年長者に比べて給与が低くなってしまう。そのため、どんなに頑張っても評価が上がらない状況に若手社員が不公平感を感じて、仕事へのモチベーションが低下した結果、離職につながる恐れがある。

(3)業務に対するマンネリ感が生まれる

業務の成果に対する評価が低い年功序列制度の場合、年功評価の基準に沿った最低限の業務に注力し、予算以上の成果を出すなどの意識が高まりにくい可能性がある。日本では、正当な理由のないリストラは禁じられているため、社内での労働異動などで対応する必要も出てくる。

年功序列の崩壊は起こるのか

年功序列に関しては、日本の少子高齢化や非正規雇用者の増加もあり、導入する企業が減少傾向にあることは説明した。それだけでなく、グローバル化によって国際競争が激化している状況では、高度経済成長期のような評価制度を維持することが困難な企業もあるだろう。

そもそも、年功序列は人事評価制度として正式に決められたものではなく、「人」に対する評価が重視される日本において、加齢と勤続年数増加により経験やスキルは基本的には高まって、下がることはないという前提で成り立っている。

IT系など、参入している市場によっては、技術はもちろん需要の変化も激しく、時代の変化に対応していく必要があるだろう。そのような産業においては、年功序列を維持し続けることは難しく、成果主義を導入する必要に迫られることもあるだろう。

全ての企業で年功序列が崩壊するわけではなく、自社の事業と照らし合わせた上で、年功序列と成果主義の選択をする必要がある。

年功序列と成果主義を自社の事業環境に合わせて選択

年功序列は、日本だけでなく、勤続年数が比較的長いドイツやフランスなどの海外でも一般的な人事評価制度だ。年功序列は、経験が長いほど蓄積されたスキルレベルも高いという前提で、普及してきた。

年功序列によって、社員の定着率を高めるなどのメリットはあるが、事業環境の変化に対応するための人材確保などにおいては、年功序列がデメリットになる場合もある。自社の事業形態や人的コストなどはもちろん、事業の方向性も考慮した上で、年功序列や成果主義といった評価方法の設定が必要になるだろう。

文・隈本稔(キャリアコンサルタント)

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