人生を充実させるために、生涯学習を検討している方もいるかもしれない。しかし、生涯学習の具体的な内容や始め方がわからないと、最初の一歩を踏み出しづらいのではないだろうか。そこで今回は、生涯学習の概要をはじめ、メリットや課題、種類、始め方などをわかりやすく解説する。
目次
生涯学習とは何か?
文部科学省によると、生涯学習とは生涯に行うあらゆる学習を指す。学びの対象は、学校教育や社会教育、スポーツ、趣味などさまざまだ。
生涯学習によって、知識やスキルを習得できるほか、思考力を磨いたり、新たな価値観を形成したりできる。結果として私たちの人生は豊かになっていく。
生涯学習は、人としての生き方を学べる機会であり、社会で生きるうえで不可欠だといえよう。
参考:生涯学習の意義と推進体制の整備(文部科学省)
大人が生涯学習を始めるメリット3つ
生涯学習が注目される背景と、生涯学習を始めるメリットを3つ紹介していく。
メリット1.人間として成長できる
人生100年時代といわれる今、人生の充実を誰もが重視するようになった。満足できる人生を送りたいなら、学びの姿勢を忘れず、人間として常に成長し続けることが大切だ。
成長は達成感や幸福感を呼び起こす。子どもだけでなく、大人にも当てはまる。生涯を通じて学び続け、人間として成長してこそ、豊かで充実した人生を送れるだろう。
メリット2.人脈が広がる
生涯学習を通じて広がる縁にも注目したい。生涯学習は一人でもできるが、コミュニティに入り、一緒に学ぶこともできる。コミュニティでは、成長意欲の高い人々と出会えるかもしれない。
学生時代の友人関係が、大人になってから特別な意味を持つのは、学びを共有したという面も大きい。授業や部活動にしろ、学ぶとき一緒に過ごした相手は、かけがえのない存在になる。
生涯学習でも同じだ。ともに学びを深める中で、大人になってからでも、貴重な人間関係を築ける可能性がある。
ときには、生涯学習を通じて得られた人脈が、ビジネスにつながることもあるだろう。人生を充実させる目的で始めた生涯学習が、思わぬところでプラスに働くことも少なくない。
メリット3.視野や考え方が広がる
現代は変化の激しい時代だ。たとえば、技術革新によって私たちの生活は豊かになった。
過去の暮らしを思い浮かべると、スマホやインターネットも普及しておらず、人工知能やVRはSF小説におけるフィクションだった。
また、現代は多様性の時代ともいわれている。国境を越えたビジネスは当たり前になりつつあり、SNSを通じてマイノリティの発言が注目される機会も増えた。
変化の激しい多様性の時代を生き抜くには、視野や考え方を広げなければならない。生涯学習は、さまざまなジャンルを対象としているため、視野や考え方を広げるのに絶好の機会となるだろう。
生涯学習を通じて、さまざまな人々の思想に触れる中で、価値観も変わるはずだ。柔軟な価値観は、仕事や私生活においても、プラスの影響をもたらしてくれるだろう。
大人が生涯学習を始めるときの課題
大人が生涯学習を始めることにはメリットが多い一方で、時間の確保が難しいという課題もある。
退職後にゆったりと生涯学習を始めるなら、時間の確保は容易かもしれない。しかし、現役で仕事をしながら学びの時間を確保するのは、想像以上に難しいだろう。
目前にある仕事の課題に目が向きがちであり、なかなか中長期的な視点で学びを深められない。中途半端に生涯学習をしても、深い学びや価値観の変容も期待しづらい。
最悪のケースでは、継続できず挫折してしまうこともありえる。
生涯学習を継続するには、一人で学ぶのではなく、コミュニティに参加するとよいだろう。ともに学ぶ仲間がいれば、モチベーションを維持しやすい。
また、興味のある分野から生涯学習を始めるのもコツだ。好きな分野なら継続しやすく、学びも深まりやすい。
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生涯学習の種類8つ
生涯学習には、さまざまな種類がある。興味を持てる内容があれば、ぜひ着手してみてほしい。
種類1.語学
語学を学びたいと思いながら、まとまった勉強時間がとれず、挫折してきた人も多いのではないだろうか。生涯学習として語学を始めるなら、仕事や趣味と絡めてみるのも面白い。
たとえば、仕事で海外に行くならビジネス英会話を学ぶ。出張中の英会話を目標にすれば、モチベーションを維持しやすい。
中国市場に乗り出したいと考えているなら、中国語を学んで関連ニュースに目を通してみるのもよいだろう。
海外旅行が好きなら、旅先の語学を学んでみるのも楽しい。マイナーな語学を学んでみると、新たな発見があるかもしれない。
種類2.プログラミング
成長めざましいIT業界は、コロナ禍の追い風を受けてさらに市場規模を拡大させている。2020年度からは、小学校でもプログラミング教育が必修化された。
このような時代の流れを受け、生涯学習としてプログラミングの勉強を始めるのも面白い。プログラミングスキルは、転職においても新規事業の創造においても大きな武器の1つとなるだろう。
プログラミング学習には、論理的思考力が身につくという副次的なメリットもある。論理的思考力は、商品企画やマネジメントなど、さまざまなシーンで役に立つだろう。
種類3.MBA
「MBA(Master of Business Administration)」とは、経営学の大学院修士課程を修了することで得られる学位のことだ。日本語では経営学修士という。特にビジネスにつながる生涯学習をしたいと考えているなら、MBAの取得は有力な候補先だ。
MBAを取得するには、MBAプログラムを提供する大学院で学ぶ必要がある。一般的に、MBAプログラムを提供する大学院はビジネススクールと呼ばれている。大学院とはいえ社会人が中心で、現役の経営者やコンサルタントも多いことから、人脈を築くにはもってこいの環境だ。
MBAでは、財務会計やマーケティング、経済学、統計学など、経営に役立つカリキュラムに沿って学習を進めていく。プレゼンや意見交換の機会も多く、実践的な学びが重視されている。
種類4.スポーツ
スポーツは、健康の保持増進に重要な役割を果たすほか、人脈を広げてくれる効果もある。
ゴルフやテニス、水泳など、スポーツのジャンルはさまざまあるが、興味のある運動や過去に経験がある運動から取り組んでみるとよいだろう。コミュニティに入るのも楽しく、一人で継続するのも気楽だ。
毎日ランニングやウォーキングを行い、考えをまとめる時間を持つのもよいだろう。身体を動かすと、思いがけないアイデアが浮かぶこともある。
種類5.芸術・文化
生涯学習で感性を磨くのも素敵な選択肢だ。
美術館で絵画を鑑賞したり、音楽ホールで演奏を聴いたりすることが挙げられる。全国の美術館を数年かけて少しずつ巡ったり、さまざまなジャンルの演奏から好みの音楽を探したり、計画的に楽しむのもよいだろう。
また、華道や書道、茶道など、習い事を始めてみるのも面白い。自分自身で取り組むことで、上達する喜びを味わえるほか、それぞれの世界をより深く理解できるだろう。
そのほか、気になっていた文学作品を休日に読み進めていくのもおすすめだ。
生涯学習を通して芸術や文化をたしなむことで、感受性が豊かになって今までにない感覚を抱けるかもしれない。
種類6.ビジネス・教育
仕事に活かしやすいのが、リーダーシップ論や心理学など、ビジネスや教育に関する生涯学習だ。著名な心理学者の講演に参加したり、企業によるリーダーシップ研修を受講したりするなどがよい例だろう。
ビジネスや教育に関する考え方を学ぶと、自分の価値観が変わって行動を変えやすくなる。
自社の社員研修に取り入れたり、家庭教育で実践したりと、学びを展開していくことも可能だ。
種類7.学問
難解な事柄が好きなら、生涯学習として専門的な学問を始めるのもありだ。
ハードルは高いが、興味のある分野があったり、学びそのものを楽しめる素養があったりすれば、学問ほど面白いものは他にない。
経営論やマーケティング論など、直接ビジネスに関連することを学ぶのはもちろん、環境問題について学問的な学びを深めることで、SDGsへの見識を深めたりESG経営に役立てたりすることもできるだろう。
種類8.趣味
趣味には、裁縫やアロマ、陶芸、料理、ワインなど、さまざまな種類がある。講座に参加したり、資格を取得したりするのもよいだろう。
生涯学習で趣味の学びを深めることで、生活を充実させられる。サークルを通して趣味の仲間ができれば、余生をさらに楽しく過ごせるだろう。
何から始める?生涯学習の選び方2つ
生涯学習を始めようと思った時、何を基準に学ぶ内容を決めるべきか悩む事も多いはずだ。ここでは、生涯学習の選択に役立つ2つの視点を紹介する。
1.将来のビジョンをもとに逆算する
1つ目は、将来の「なりたい姿」をもとに、現在学ぶべき内容を決めるという方法だ。5年後、10年後の自分の働き方をイメージしてほしい。経営者なら、自社の事業内容や事業規模を想定するのもいいだろう。
そして、現状から「なりたい姿」になるために何が必要かを書き出して、その内容をもとに、生涯学習の候補先をいくつかに絞ると良いだろう。
2.過去に好きだったことを思い出す
2つ目は、自分自身の過去に着想を得る方法だ。多忙な毎日を過ごしていると、自分の本当の願望を見失ってしまうことがある。
自分自身が何を大切にしているのか、どんな時に幸福を感じるのか、過去の自分を振り返ってじっくり考えてみてほしい。学生時代にさかのぼり、今の自分を形作る源となった経験を思い起こすのもいいだろう。
過去に好きだったことを思い出すうちに、自分自身の本当の願望に気づき、自然と学習欲が芽生えるかもしれない。
すべてを「将来に役立てよう」と考える必要はない。好きなことをとことん追求するうちに、自然と理想の将来にたどり着くこともあるはずだ。
生涯学習を始める方法10種類
生涯学習を始めるにあたり、コミュニティや学びの場を探す方法に悩む人も多いだろう。続いては、生涯学習を始める方法を紹介する。
方法1.生涯学習センターやカルチャーセンター
全国各地に、生涯学習センターやカルチャーセンターといわれる施設がある。主に地方公共団体が主催し、さまざまな学びの場を提供している。
生涯学習センターやカルチャーセンターを選ぶメリットは、さまざまな年代の人と触れ合えることや、地域のコミュニティに参加できることだ。
開催される講座やプログラムの例は、主に下記の通りである。
・ピラティス
・書道
・裁縫
・フラワーアレンジメント
講座やプログラムは施設ごとに異なるので、自分が住んでいる地域でチェックしてみよう。
方法2.大学の公開講座
専門的に学問を学びたいなら、大学の公開講座がおすすめだ。大学の公開講座では、さまざまな分野の専門講義を受講できる。有名大学や最寄り大学のホームページで、公開講座の有無や内容を調べてみるとよいだろう。
大学の公開講座に参加すると、学習意欲が高まるというメリットもある。
大学は学びを専門とする場であり、学生たちの様子に刺激を受けることもあるだろう。大人になってから足を踏み入れる大学は、学生時代とは違った印象になるかもしれない。
方法3.セミナー
セミナーは、企業や個人など、さまざまな立場から開催されている。「学びたい分野+セミナー」で検索すれば、興味のあるセミナーが見つかるかもしれない。
セミナー参加は短期間で一定の成果が出やすく、ビジネスにも活かしやすい。また、参加者と交流する中で人脈が広がるメリットもある。
方法4.通信講座
仕事と両立しながら学習を進めたいなら、自宅で継続できる通信講座もおすすめだ。通信講座なら、コミュニティに参加する方法と違って、マイペースで進められる。
初めて生涯学習をする人や、一人でじっくり学びを深めたい人に向いている。
方法5.図書館
図書館も学びの意欲が刺激される場所だ。
図書館では本を読めるだけでなく、本に関するイベントや講演が開催されることもある。大きな図書館や最寄り図書館のイベントをチェックしてみるとよいだろう。
方法6.美術館や博物館
美術館や博物館は見て回るだけでも楽しめるが、トークイベントや講演会、シンポジウムを生涯学習に役立てるのもよいだろう。
ガイドツアーやワークショップへの参加も新鮮で面白いかもしれない。
方法7.スポーツジムや社会人サークル
スポーツに挑戦するなら、スポーツジムや社会人サークルを活用したい。自宅でもトレーニングできるが、場所を変えると気分転換やモチベーション維持の効果が期待できる。
ただし、遠すぎると挫折の原因にもなるので、アクセス環境も重視したい。
方法8.ボランティア
ボランティアをすることで、社会のあり方を考えるきっかけが得られる。
また、ボランティアを通じて得られる人脈も貴重だ。豊かな精神を持つ人物と出会えれば、自分の人間性も向上していくだろう。
方法9.動画
インターネット環境があれば、スマホやパソコンを使ってどこでも学習できる「オンライン動画学習サービス」の活用も有効だ。
代表的なオンライン動画学習サービス「Udemy(ユーデミー)」では、「教えたい人」が動画を提供し、「学びたい人」が自由に学べる仕組みが採用されている。
オンライン動画学習サービスなら、移動時間や余暇を活用して、効率的に学びを深めることができる。また、講師によっては、メール等での質問が可能な場合もある。
スキマ時間を活用して生涯学習をしたい多忙なビジネスパーソンにもおすすめだ。
方法10.経営塾やオンラインサロン
生涯学習を通じて、人脈作りやモチベーション維持をしたいなら、経営塾やオンラインサロンに入会する方法もある。
経営塾とは、著名な経営者の経営理論を学んだり互いに議論したりしながら、理解を深めていく組織のことだ。オンラインサロンとは、月額会費を支払うことで参加できるオンライン上のコミュニティであり、さまざまな著名人がオンラインサロンを提供している。
経営塾やオンラインサロンの特徴は、会員同士で交流を深められることだ。自分に合う経営塾やオンラインサロンが見つかれば、共に学ぶ仲間を得ることができる。
日本が目指す「生涯学習社会」とは
『教育基本法第3条』には、「国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない」という規定がある。
このように、人生のどのタイミングでも自由に学びの機会を得て、学びを活かせる社会を「生涯学習社会」と呼ぶ。
文部科学省は「人生100年時代」を迎えるにあたり、生涯学習社会の実現に向けてさまざまな取り組みを実施している。
たとえば、社会人や企業のニーズに応える大学・大学院等のプログラムを「職業実践力育成プログラム」として認定したり、社会人が受講しやすい工夫がなされた専修学校のプログラムを「キャリア形成促進プログラム」として認定したりといった取り組みがある。
社会人のリカレント教育が注目される背景
生涯学習と似た言葉として、「リカレント教育(社会人の学び直し)」も注目を集めている。
リカレント教育とは、学校を卒業して社会人になってからも必要に応じて学び直し、生涯に渡って能力を磨き続けていくことを指す。
厚生労働省は、経済産業省や文部科学省と連携し、キャリア相談や学びにかかる費用に対する給付金支援等に取り組んでいる。たとえば、受講費用の20〜70%が支給される「教育訓練給付金」や、在職中の社員がキャリアについて無料相談できる「キャリアコンサルティング」などがある。
働き方改革やテレワークの導入によって、空いた時間を「学び」にあてようとする動きが加速しており、政府の後押しもあって、今後ますます生涯学習やリカレント教育は普及していくだろう。
生涯学習に向けて最初の一歩を踏み出そう
生涯学習を始めたいと思っても、始め方がわからなかったり、継続できる自信がなかったりする人もいるだろう。しかし、大切なのは最初の一歩を踏み出すことだ。小さな行動が自信となり、継続へとつながっていく。
迷っているのであれば、自分の興味がある分野や、モチベーションを維持しやすい方法を選択して、生涯学習に挑戦してみてはいかがだろうか。
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文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)