自己資金,不足,融資
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

今回の記事は、起業のため金融機関から融資を受けるにあたって、自己資金が足りないときの対応策について解説します。

なぜ自己資金が必要なのか

融資を受けた資金の返済は、事業による営業キャッシュフローを充当していきます。

仮に2,000万円の融資を受け、利率2%、返済期間10年とすれば、元利含めて223万円の返済が必要です。

<融資金返済シミュレーション>
融資額2,000万円、利率2%、返済期間10年

年数 融資残高 利息 返済金
1 2000 40 223
2 1817 36 223
3 1630 33 223
4 1440 29 223
5 1246 25 223
6 1048 21 223
7 846 17 223
8 640 13 223
9 429 9 223
10 215 4 219

これを返済するには、売上高2,500万円として、利益率10%前後は必要です(2,500万円×10%=250万円)

これでもギリギリですが、事業は常に目論見通り進むとは限りません。

人生には、3つの坂があります。

上り坂、下り坂、そして「まさか」です。

まさか生産能力が追い付かず品切れを起こしてしまうとは……、まさか部品や原材料が大幅に値上げされるなんて……、まさかライバルに重要顧客に奪われることに…。

経営は、常に順風満帆とはいきません。

ピンチに陥った時に、返済原資が営業キャッシュフローだけでは、いっぺんに行き詰まってしまいます。

だからこそ自己資金が大切なのです。

金融機関も重視する自己資金

だからこそ、金融機関も融資条件に自己資金を求めてきます。

その取扱いは金融機関によって異なりますが、例えば東京都が信用保証協会・指定金融機関との連携で推進している制度融資の場合、融資限度額は3500万円ですが、自己資金+2,000万円が上限とされます。

つまり自己資金が300万円なら、融資を受けることができる金額は2,000万円+300万円=2,300万円です。

日本政策金融公庫の「新創業融資」は無担保・無保証の融資が魅力ですが、それだけに自己資金に関する条件は厳しく、資金総額の1/10以上を自己資金で確保していないと融資を受けることができません。

例えば自己資金が100万円なら、融資額は100万円×10-100万円=900万円です。

キャッシュが無くても大丈夫

一般的に自己資金といえば預貯金であり、金融機関は通帳のコピーや証書により残高を確認します。

では預貯金が無ければ諦めるしかないか、といえばそんなことはありません。

金融機関によって異なりますが、預貯金以外も自己資金として認められるケースが多いのです。

ここでは東京都の制度融資を事例に、自己資金として認められる具体例を紹介します

上場有価証券

取引価格に保証協会が定める掛目を乗じた金額を自己資金に組み入れます。

審査にあたっては、取引通知書・投資報告書など評価額および所有権の帰属が記載された書類を確認します。

敷金・入居保証金

預け入れたことが証明できる書類(預かり証・賃貸借契約書)で確認します。

融資を受ける前に取得した事業用器具・設備等

支出した金額を証明できる書類(領収書等)で確認します

融資を受ける前に仕入れた商品等

仕入れた金額と時期を証明できる書類(領収書・納品書など)で確認します。

補助金申請やコンテストチャレンジで自己資金を増やす

それでも自己資金が足りないとき、ややハードルは高いですが返済義務のない補助金やコンテスト賞金にチャレンジする手は残されています。

政府や地方自治体が運営する補助金を申請する

政府の各省庁や各地方自治体は、アベノミクス成長戦略の一環として、起業の活性化や地方振興を目的に、起業に対しさまざまな補助金制度を設けています。

例えば経済産業省(中小企業庁)は、特別民間法人の全国中小企業団体中央会を窓口として「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」施策を展開しています。

この補助金制度は、中小企業・小規模事業者を対象として、能率アップにつながるさまざまなイノベーション(生産プロセス改革・試作品開発・新ビジネスモデル創発等)をサポートする仕組みです。

〇条件
・認定支援機関の全面バックアップを受けていること
・3-5年で付加価値額年率3%および経常利益額1%以上の向上を見込める計画で、中小モノづくり高度化法または中小企業庁の定めたガイドラインをクリアーしていること
〇補助金額
※補助率1/2を限度として、100万円~1,000万円まで補助金を受けることができます(小規模事業者の場合は100~500万円)。

能率アップに関して専門家の指導を受ける場合には30万の増額を受けることができます。

※補助率は、「従業員1人当たりの付加価値額」など一定の条件を満たす場合には2/3まで引き上げが認められることもあります。

投資ファンドによる支援事業を活用する

最近では、起業を支援する投資ファンドもちらほら目にするようになってきました。

例えば投資会社「東京大学共創プラットフォーム」では、大手上場企業の提携を受けつつ、起業の支援施策を展開しています。

このプログラムでは、提携企業との共同研究実施を条件として、創業間もない企業に対し500万円を助成しています。

返済義務のない500万円は、日々の資金繰りも苦しいスタートアップにとっては大きな魅力です。

ビジネスコンテストにチャレンジする

ビジネスプランコンテスト(通称「ビジコン」)は、さまざまな組織が展開しています。

例えば東京都(事務局:産業労働局)が推進するビジコンTOKYO STARTUP GATEWAYでは、15歳から39歳までの企業をめざす未来の経営者を対象に、最優秀賞100万円・優秀賞50万円の賞金を贈呈しています。

更にファイナリストに対しては、協賛各社からの支援メニューを受けることができるほか、東京都内で会社設立する場合には100万円の資金が提供されます。

審査対象のビジネスプラン作成は大変ですが、主催団体のメンターから受ける助言は大きな援けになります。

まとめ

自己資金は、経営が思うようにいかないときの返済原資でもあり、金融機関はその多寡を重視します。

ただし、キャッシュが足りなくてもそれだけでNGというわけではありません。

上場株式や事業用資産で一定の条件を満たすものは自己資金として認められます。

それでも足りないときは、ベンチャーキャピタルから出資を受ける、政府・自治体の補助金申請やビジネスコンテスト賞金にチャレンジするなどしてみましょう。

大切なのは、最後までへこたれない・諦めないスピリッツなのです。(提供:ベンチャーサポート税理士法人