あなたは、自分はコレしか買わない!というブランドをお持ちだろうか?洋服や時計、お酒などの嗜好品や調味料など、歳を重ねた大人ならそんなこだわりの一つや二つ、お持ちかもしれない。その理由は独特のデザインであったり、他にはない味わいであったりと理由はさまざまだと思うが、メーカーにとってはこんなに有り難いことはない。
今回は、顧客から指名買いされるためのブランドロイヤルティについて解説していく。
目次
ブランドロイヤルティとは
ブランドロイヤルティとは、顧客がそのブランドに感じる信頼や愛着心を表した言葉だ。英語の「Royalty」と「Loyalty」を日本語ではほぼ同じくロイヤルティと発音するが、「Royalty」の原義は王位や王権。ビジネスにおいては、特許権や商標権といった特定の権利を利用する「権利使用料」を、ロイヤルティ(もしくはロイヤリティ)といいこちらを使う。
ブランドロイヤルティは「Loyalty」のことで、こちらは忠実や誠実という意味だ。ブランドロイヤルティを顧客ロイヤルティと表現している場合もあるが、正確には顧客ロイヤルティは「行動面ロイヤルティ」と「心理面ロイヤルティ」の2つに分かれる。
行動面ロイヤルティとは、たとえばコンビニを自宅から近いという理由で頻繁に利用する場合などを表す。この場合、そのコンビニに深い愛着を持っているわけではなく、利便性のみで利用している。仮にもっと近い場所にコンビニができれば、そちらを利用するようになってしまうだろう。
心理面ロイヤルティは、ここで取り上げているブランドロイヤルティと同じ意味合いだと考えて良い。ブランドロイヤルティと顧客ロイヤルティを同じ意味で使う場合には、ここに気をつけよう。
ブランドロイヤルティを向上させるということは、顧客をそのブランドのファンにしてしまうことだ。そのためには、商品やサービスのブランディングが重要になる。
ブランディングの重要性
ブランドという言葉の原義は、「焼き印」や「烙印」という意味だ。マーケティングにおいてブランドを確立する(ブランディング)ということは、ブランド戦略と呼ばれるほど重要なことだ。
アメリカマーケティング協会(AMA)は、ブランドを「ある売り手の商品もしくはサービスを、他の売り手のそれとは異なるものとして識別するための名前、用語、デザイン、シンボルおよびその他の特徴」と定義している。
つまりまずブランディングができなければ、顧客に他の商品と自社商品の区別をしてもらうことすらできず、その状態ではブランドロイヤルティなど生まれるはずもないのだ。
ブランドロイヤルティを高めようとするならば、まず自社製品の差別化を図っていくことが顧客ファン化の第一歩だ。
ブランドロイヤルティ向上の効果4つ
ブランドロイヤルティを向上させると、ビジネスにどのような影響が出るのだろうか?ここではその効果について確認してみたい。
リピーターの増加
パレートの法則という言葉を聞いたことがあるだろうか?パレートの法則は、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した冪乗則(べきじょうそく:統計モデル)だが、全体の数値の大部分は、全体を構成する中の一部が生み出しているという法則で、80:20の法則とも呼ばれる。
貴社の売上構成は、当然のことだが新規顧客(もしくは新規商品)の売上とリピーター(もしくはリピートオーダーの商品)の売上で構成されているはずだ。売上比率は、必ずしも80:20にはならないだろうが、売上の大半はリピーターの売上になっているのではないだろうか?(売上の8割は全顧客のうち2割の優良顧客が生み出している)
だとすれば、顧客全員を対象とした営業を展開するよりも2割の優良顧客(ブランドロイヤルティの高い顧客、リピーター)に絞って営業を行う方がより効率的な売上増大が見込める。ブランドロイヤルティの向上はリピーターの増加につながるのだ。
価格競争防止
ブランドロイヤルティが向上し、指名買いが増えれば利益の消耗戦となる価格競争をする必要がない。たとえば量販店の値引き要求などにも応える必要がなくなり、値崩れなども防ぐことができる
利益率の向上
価格競争や値引き要求に応える必要がなくなると、商品やサービスの利益率が向上する。また販売店などの取扱量が増えれば生産現場の稼働率も向上し、原料の値引き交渉なども有利になるため企業全体の利益創出にも貢献する。
経費節減
特に広告宣伝費などについては、一定のブランディング効果が確認されているなら節減することが可能だ。またパレートの法則でも述べたが、2割の優良顧客向けに営業のリソース(営業パーソンや店舗、営業所なども含む)を割り振って効率化を行えば大幅な経費節減効果が期待できる。
ブランドロイヤルティ向上の手法5つ
では具体的にブランドロイヤルティを向上させるには、どのような手法があるのだろうか?
商品やサービスの品質向上
まず取り組むべきは、自社の提供する商品やサービスの品質を高めることだ。この品質とは、デザインや機能などにとどまらず、保証やサポートまでを含む。特にサポートは、悪評が立つと商品の評判ばかりでなく自社の評判まで下げてしまうことにもなりかねないので、応対マニュアルの整備やサポート人員の人選など、細部まで気を使う必要がある。
適度な広告宣伝
インターネットの普及によって、現代は情報過多の状況になっている。顧客の多くは押しつけがましく、しつこい広告を嫌気する傾向にある。広告宣伝を行うのであれば頻度を適度に、そしてターゲットによって適切な広告チャネルを選択しなければならない。
たとえば若年層は、テレビを観る機会が年々少なくなってきている。若年層に向けてテレビCMを放映しても、効果は期待できないのだ。YouTubeや動画配信サービスの広告システムを利用するなど、ターゲットの嗜好に合わせて広告を実施しよう。
コンテンツマーケティングの推進
先述のように、しつこい広告などは顧客から嫌がられる傾向にある。顧客には押しつけるのではなく、来てもらうことによって商品やサービスを知ってもらおう。Webサイトに動画やブログなどのコンテンツを多く準備し、顧客に情報提供をしながらマーケティングを進めるコンテンツマーケティングをおすすめしたい。
顧客とのコミュニケーション
上記のコンテンツマーケティングには、SNSを使った情報拡散も含まれる。FacebookやTwitterの公式アカウントを開設することにより、商品やサービスの情報拡散を顧客に押しつけることなく行える。
ロイヤルティプログラムの導入
ポイントカードを作るなど、商品やサービスの利用状況に応じて顧客に利益を還元するプログラムだ。ポイントサービスの導入により顧客ロイヤルティを上げることに成功している企業も多いが、実質的な利益を削ることにもなるので導入には注意が必要だ。
ブランドロイヤルティの測定方法2つ
ブランドロイヤルティの向上施策を行っても、効果測定の方法がなければその施策が効果的なのかどうか判断ができない。ブランドロイヤルティを定量的に判断することは難しいので、定性的な判断をするための測定方法と理解してもらいたい。
NPS
NPSとはNet Promoter Scoreの略で、ブランドに対する顧客の「推奨意向」を測る指標だ。まず顧客に対してそのブランドを薦めたいか質問し、その度合いを0(薦めない)〜10(強く薦める)で答えてもらう。その回答者を10〜9の(推奨者)と8〜7の(中立者)、6〜0の(批判者)に分類し、(推奨者)-(批判者)の差を指標とするのだ。NPSは非常にシンプルで理解もしやすいので、多くの企業で導入されている。
※NPSおよびNet Promoterは、ベイン・アンド・カンパニーの登録商標
DWB
DWBはDefinitely Would Buyの略で、顧客の「購買意向」を測る指標だ。顧客に自社の商品を「絶対に買いたい」から「まったく買いたくない」まで5段階に分けて回答してもらい、その意向を分類する。この中で「絶対に買いたい」と回答した人を優良顧客としてカウントし、その増減をブランドロイヤルティ向上の指標とするのだ。
どちらの方法もアンケート方式であり、定性的な測定方法だ。ある時点を起点として定点観測的に使い、過去の数値と比較して使うことが望ましい。
ブランドロイヤルティ向上の成功事例2つ
ブランドロイヤルティを向上させビジネスに成功した企業は多いが、ここでは「星野リゾート」と「アップル」の例を紹介しよう。
星野リゾート
星野リゾートの発祥は1914年に軽井沢に開業した星野温泉旅館だが、4代目を引き継いだ星野佳路氏が推し進めたリゾート運営に特化したブランディングにより、大きく発展した。
「圧倒的な非日常感」、「地域の魅力を再発見」、「洗練されたデザインと豊富なアクティビティ」などのコンセプトを徹底し、「日本古来の女将のホスピタリティ」を従業員に実践させた。女将のホスピタリティとは、顧客一人ひとりの癖や好みを把握し、次回来館時に提供するというものだ。星野リゾートは質の高いハード(立地や建物、部屋など)とソフト(ホスピタリティ)の両面活用で、高いブランドロイヤルティを獲得したのだ。
アップル
もともとコンピューターメーカーであったアップルは、iPhoneの発売を機に総合的な電子デバイスを開発・販売する企業へと成長し、一時は時価総額で世界首位となった。
その背景には、iPhoneやiMac、Apple Watchなどに貫かれたアップル独自のデザイン哲学とブランドコンセプトがある。高品質な材料と細部までこだわったデザイン、使いやすさを最優先に考えたマンマシンインターフェースの良いソフトウェアなど、アップルはハードとソフト(OS)を1社で供給する数少ないメーカーだ。
その目的のすべては「使い勝手」で、開発・販売するデバイスはユーザーフレンドリーであることが最優先なのだ。唯我独尊ともいえるその企業姿勢には消費者の好みも分かれるが、リンゴマークのブランド力は他社の追随を許さない。
すべてのマーケティング活動はブランドロイヤルティ向上のため
今回はブランドロイヤルティの概要とその向上手法をご紹介したが、他社製品との差別化を行って自社製品の良さを顧客に正しく伝えるということは、普段から行っているマーケティング活動そのものではないだろうか。逆にいえばすべてのマーケティング活動は、ブランドロイヤルティ向上のために行われているといっても過言ではない。
一度、自社のマーケティング活動が何のために行われているのかを第三者的な目で再点検してみよう。
文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)