経営者なら知っておくべき施工計画書の作り方 建設業者に丸投げがNGである理由
(画像=PIXTA)

欧米諸国に比べると、日本のリサイクル環境は「遅れている」と言われる。なかでも、「サーマルリサイクル」に対する考え方は、日本と海外とで大きく乖離している。では、具体的にどのような点が異なるのか、環境対策全般の話も含めながら解説していこう。

目次

  1. サーマルリサイクルとは?
  2. サーマルリサイクルとほかのリサイクル手法の違い
    1. マテリアルリサイクルとは?
    2. ケミカルリサイクルとは?
  3. サーマルリサイクルのメリットと強み
  4. サーマルリサイクルの代表的な課題・問題点2つ
    1. 1.有害物質の発生
    2. 2.地域によって処理施設の機能に差がある
  5. 日本の環境対策は遅れている?世界の実情との比較
    1. リサイクル手法のうち、日本ではサーマルリサイクルが半分以上を占める
    2. 世界的にはリデュースが注目されている
  6. リサイクルについて、国内企業が考えておきたいポイント
    1. 環境対策への取り組みが企業評価につながる
    2. 政府の支援策と絡めた環境対策を
  7. 環境対策への積極的な取り組みが求められる時代へ

サーマルリサイクルとは?

サーマルリサイクルとは、廃棄物(主にプラスチック)を焼却したときの熱エネルギーを再利用するリサイクル手法のことだ。廃棄物そのものを再利用する手法ではないため、海外ではリサイクルの一種には含まれておらず、「エネルギー回収」や「熱回収」などと呼ばれている。

リサイクルと聞くと、多くの方は廃棄物を加工し、再び製品の原料として使う手法をイメージするだろう。確かにこの手法は王道だが、廃棄物には原料としての再利用が難しいものがいくつか存在する。そういった廃棄物を効果的に活用するために、サーマルリサイクルは考え出された。

サーマルリサイクルとほかのリサイクル手法の違い

プラスチックごみのリサイクル手法は、上記のサーマルリサイクルだけではない。ほかにも、「マテリアルリサイクル」や「ケミカルリサイクル」といった手法があり、それぞれ異なる特徴を持っている。

では、これらの手法とサーマルリサイクルにはどのような違いがあるのか、以下で詳しく解説していこう。

マテリアルリサイクルとは?

マテリアルリサイクルとは、廃棄物を製品の原料として再利用するリサイクル手法のことだ。使用済みペットボトルを衣料にしたり、金属くずを溶かすことでインゴットに再生したりなど、現代ではさまざまな廃棄物がマテリアルリサイクルの対象に含まれている。

一見すると、このマテリアルリサイクルは環境に優しい手法に見えるかもしれない。しかし、特にプラスチックごみを再利用する場合は、新しい樹脂を混ぜて燃焼させる必要がある。つまり、エネルギー使用量・CO2排出量の観点から比較すると、決してほかの手法より優れているとは言えないのだ。

したがって、リサイクル手法としては王道ではあるものの、マテリアルリサイクルだけで国内のプラスチックごみをすべて処理することは現実的ではない。

ケミカルリサイクルとは?

ケミカルリサイクルは、廃棄物を高温で熱分解したり化学的に分解したりすることで、化学原料として再生するリサイクル手法だ。具体的な生成物としては、可燃性ガスなどの燃料や還元剤などが挙げられる。

今回紹介する3つの手法のなかでも、ケミカルリサイクルはエネルギー使用量・CO2排出量の削減効果が高いとされている。さらに、異物や異なる種類が混在したプラスチックごみであっても、設備さえあれば問題なく化学原料を生成できるため、汎用性も高いリサイクル手法と言えるだろう。

ただし、ケミカルリサイクルには専用の化学工場が必要であり、サーマルリサイクルに比べると設備投資額が大きい。また、大規模な工場を建設できる場所が局地的であるため、プラスチックごみや生成物の輸送コストの高さも課題として挙げられている。

サーマルリサイクルのメリットと強み

では、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルと比較した場合、サーマルリサイクルにはどのような強みがあるのだろうか。サーマルリサイクルのメリットとしては、主に以下の点が挙げられる。

・完全に分別しきれない廃棄物を有効活用できる
・石炭や石油と同等のエネルギー量を得られる
・ケミカルリサイクルに比べると設備投資額が少ない
・化石燃料を使わずにCO2排出量を抑えられる

簡単にまとめれば、ケミカルリサイクルより少ないコストで、さまざまな廃棄物を処理できる点がサーマルリサイクルの強みとなる。また、ごみ発電が主流になっている日本国内では、廃棄物をエネルギーに換える技術開発が積極的に行われてきたため、サーマルリサイクルは技術面・開発面でも優位性を築いている。

サーマルリサイクルの代表的な課題・問題点2つ

前述の通り、サーマルリサイクルにはさまざまなメリットや強みがあるため、サーマルリサイクルは「国内のリサイクル率を支える手法」として認識されている。しかし、サーマルリサイクルにも課題や問題点があるため、決して万能のリサイクル手法とは言えない。

では、具体的にどのような課題・問題点があるのか、以下で代表的なものを2つ紹介しよう。

1.有害物質の発生

サーマルリサイクルは高温で完全燃焼させると、ダイオキシンの発生をある程度抑えられると言われている。しかし、それでも微量のダイオキシンの発生を完全に防げるわけではない。

また、鉛や水銀、燃焼後に残る灰など、毒性の強い物質が生成される点も軽視できない問題だ。日本国内のリサイクル環境において、このままサーマルリサイクルの比率が増えていくと、有害物質の処理方法に悩まされる恐れがある。

2.地域によって処理施設の機能に差がある

プラスチックごみの分別方法が自治体によって異なる点は、いまや周知の事実だ。これは、廃棄物を焼却する施設の機能が、各自治体で大きく異なることが要因になっている。

つまり、サーマルリサイクルを進められる施設は、日本全国に存在するわけではない。海外の国々に関しても、地域によって安全基準に大きな違いが見られるため、なかには安全性の低い廃棄場も存在している。

こういった処理施設の機能の地域差が解消されない限り、世界的にサーマルリサイクルが浸透することは難しいだろう。

日本の環境対策は遅れている?世界の実情との比較

日本はさまざまな観点から環境対策を進めているが、「環境対策が遅れている」「世界基準とズレている」などの評価を受けることがある。では、海外の先進国などと比べて、日本の環境対策はどの程度進んでいると言えるのだろうか。

次からは、日本と世界のリサイクル環境の違いについて解説していく。

リサイクル手法のうち、日本ではサーマルリサイクルが半分以上を占める

まずは、日本のリサイクル環境の実態をつかむために、以下のデータに目を通してみよう。

2015年2016年2017年2018年
廃プラ総排出量(万t)915899903891
マテリアルリサイクルの量(万t)205206211208
ケミカルリサイクルの量(万t)36364039
サーマルリサイクルの量(万t)521517524502
廃プラの有効利用率(%)83848684

(出典:プラスチック基礎知識2020|一般社団法人プラスチック循環利用協会)

日本国内の廃プラの有効利用率は、2012年頃から80%を超えた状態が続いている。この数値だけを見ると、いかにも日本は環境対策が進んでいるように見えるが、実際には高く評価されていないケースも多い。

その理由は、欧米基準で考えると簡単に分かる。欧米をはじめとした海外の国の多くは、サーマルリサイクルを「リサイクルの一種」として認めていない。サーマルリサイクルでは廃棄物を燃焼させる必要がある上に、生成物を製品の原料として用いることができないためだ。

上記のデータを見ると分かるように、日本の廃プラのリサイクル率はサーマルリサイクルが支えており、その割合は50%を超えている。この割合を下げない限り、日本のリサイクル環境が多方面から評価されることは難しいだろう。

世界的にはリデュースが注目されている

環境対策の原則としては「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」が提唱されているが、世界的には徐々にリサイクルの優先度が下がりつつある。特に欧米においては「リデュース」が注目されてきており、最近ではプラスチック製のストローを廃止するような大手飲食チェーンも現れた。

リデュースとは、モノを製造・加工する際に、できるだけ廃棄物とならないような工夫を施すことだ。代表的なものとしては、ペットボトルやコップなどに「生分解性プラスチック」を利用する方法が挙げられる。生分解性プラスチックは、自然界の微生物によって水と二酸化炭素に分解されるため、廃棄場などで焼却処理をする必要が一切ない。

このような世界のリサイクル事情を踏まえると、サーマルリサイクルが中心になっている日本の環境対策は、世界基準からややズレている可能性がある。日本の環境対策が世界的に評価されるためには、これまでとは全く違った方向性の施策が求められるかもしれない。

リサイクルについて、国内企業が考えておきたいポイント

最後に、日本のリサイクル環境に関して、国内企業が考えておきたいポイントを紹介しよう。

環境対策への取り組みが企業評価につながる

2015年9月の国連サミットにおいて「SDGs(持続可能な開発目標)」が提唱されてから、世界の環境に対する意識はますます強くなっている。その影響は企業評価にまで及んでおり、最近では環境対策に力を入れている企業に対して、積極的に資金を投入する投資家も多く見られるようになった。

これは国内の中小事業者にとっても他人事ではなく、環境対策への取り組みが評価されている中小企業はすでに存在する。この波は世界的に広がっていくと予想されるため、特に日頃からプラスチックを多く取り扱う企業は環境対策の現状と課題を真剣に受け止めたい。

政府の支援策と絡めた環境対策を

環境対策を始めようにも、中小企業は大企業に比べると資金力が限られているため、なかなか計画を進められない中小経営者も多いはずだ。そのような経営者は、政府の支援策と絡めた環境対策を意識しておきたい。

例えば、環境省はCO2排出量の抑制に貢献した企業に対して、「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」を支給している。ほかにも「低炭素型廃棄物処理支援事業」や日本公庫の「環境・エネルギー対策資金」など、環境対策に関する支援策は数多く実施されている。

これらの支援策を利用できれば、中小企業であっても環境対策に取り組むハードルが下がるので、まずは政府の支援策に関する情報を収集するところから始めてみよう。

環境対策への積極的な取り組みが求められる時代へ

日本のリサイクル環境は、欧米諸国と比べて進んでいるとは言えない。しかし、その状況とは裏腹に、世の中の企業には環境対策への積極的な取り組みが求められつつある。

これまで環境対策を特に意識してこなかった経営者は、日本と世界の実情を真剣に受け止め、自社の状況も冷静に見つめ直してみよう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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