貸借対照表の項目に流動負債がある。流動負債は、会社の資金繰りを見るための指標として活用できる。今回は流動負債の内容を簡単に説明しつつ、流動負債の主な勘定科目や関係する計算式、指標としての使い方などを紹介する。
目次
流動負債とは?
流動負債とは、原則として1年以内に返済しなくてはならない債務だ。貸借対照表の項目であり、負債の部に区分される。
流動負債は負債の部の中でも、固定負債の上位に位置する。会計上、流動性の高い資産・負債を上位に表記する流動性配列法というルールがあるからだ。
流動性の高い資産・負債は現金化が早く、現金は会社経営において非常に重要な資産といえよう。
つまり会計では、5年後に支払う借金より、1年以内に支払う借金のほうが、経営において重要だと考えられる。流動負債についても同様だといえるだろう。
流動負債の区分基準2つ
流動負債の区分基準を2つ解説する。
区分基準1.返済期限
負債の部には、流動負債が存在する一方で、固定負債もある。固定負債に区分されるのは、長期借入金や社債、退職給付引当金などだ。
両者の違いは返済期限にある。1年以内に支払期限を迎える額が流動負債、1年を超えて返済される額が固定負債だ。
なお、1年を境界とするルールを1年基準、またはワン・イヤー・ルールという。
1年のカウントは、支払義務の発生時を基準にしているわけではない。決算日の翌日から起算して、1年以内に入金、または支払期限が到来することを示す。
つまり、翌期中に支払われる額なら流動負債、翌々期以後に支払われる額なら固定負債に該当する。
区分基準2.正常営業循環基準
実は、1年を超えて支払われた買掛金が、固定負債に該当するとも限らない。流動負債と固定負債の区分に正常営業循環基準がある。
正常な営業サイクルの中で、現金化・収益化・費用化される資産や負債なら、流動資産または流動負債として分類する基準だ。
たとえば、営業活動で生じる買掛金について考えてみよう。営業サイクルにある資産や負債であるため、買掛金については1年を超えて支払うとしても、流動負債に区分する。
流動負債の一般的な勘定科目8つ
流動負債の主な勘定科目は下記の通りだ。
勘定科目1.買掛金
取引先から仕入れた商品・材料の代金や外注加工代のうち、支払いが済んでいない額をいう。商品・材料が届いてから、計上する前に、仕入伝票と照合して間違いがないことを確認する。
買掛金の支払債務が消滅するのは、支払いが済んだ時点だ。
勘定科目2.短期借入金
返済期限が決算日の翌日から1年以内に設定された借入金をさす。短期借入金には、金融機関や個人、取引先からの借入だけでなく、証書や手形による借入金、当座借越なども含む。
勘定科目3.支払手形
商品やサービスの購入に対する支払義務を示す証書である。最近はあまり用いられない。
勘定科目4.前受金
商品における販売代金の一部(あるいは全部)を引き渡す前に受け取った額をさす。手付金や内金と呼ぶこともある。
勘定科目5.未払金
消耗品の購入や広告費、車の修理代といった経費において、後払いになる額をいう。なお、商品の仕入代や外注費など、営業取引に関すると買掛金に区分される。
勘定科目6.未払費用
サービスの提供は継続しているが、まだ対価を支払っていない額をいう。
勘定科目7.預り金
従業員や取引先から預かったお金をさす。月々の給与・賞与から差し引く源泉所得税や住民税、社会保険料などが該当する。
勘定科目8.引当金
将来に生じる予定の費用や損失に備えた見積額だ。
具体的には、将来退職する役員・従業員の退職金にあてる退職給付引当金や、売掛金の回収不能に備える貸倒引当金、賞与に対して見積計上する賞与引当金がある。
流動負債からわかる資金繰りの指標3つ
流動負債は、会社の健康状態である財務体質を示す指標だ。流動負債によって会社の支払能力や安定性などを確認できる。
流動負債に関連する指標を3つ確認しておこう。
指標1.流動比率
流動比率とは、流動資産と流動負債の比率から、資金繰りの余力を判断するための指標だ。計算式は下記の通りだ。
流動比率(%)=流動資産/流動負債×100
流動資産が流動負債より少なければ、1年以内を期限とする債務が、現預金や短期に回収できる債権よりも多いことになり、資金繰りに余力がないとわかる。
逆に、流動資産が流動負債より多ければ、資金繰りに余裕があるとわかる。
ただ、回収が遅れている売掛金や貸付金があったり、長く滞留している在庫があったりすると、資金繰りに難が生じるかもしれない。
なお、流動比率は150%以上あれば、安全性が高いといわれている。
つまり、差し迫った負債の1.5倍以上を目安にしながら、現金や売掛金といった流動資産を確保しておけば、問題ないだろう。
指標2.当座比率
当座比率とは、流動比率よりも厳格に支払能力を判断できる指標である。計算式は下記の通りだ。
当座比率(%)=当座資産/流動負債×100
当座資産は、すぐに現金化しやすい債権のことだ。たとえば、解約しやすい預貯金や短期有価証券、売掛金、受取手形などである。
棚卸資産や原材料、仕掛品、その他の流動資産は含めない。指標をほぼ現金としているため、資金繰りをリアルに把握しやすい。
当座比率は100%以上であれば安泰だが、そうでないなら資金繰りは苦しいといえる。売上債権の中に未回収の額があるなら注意が必要だ。
指標3.現金預金比率
現金預金比率は、当座比率よりもさらに厳格に支払能力を判断できる。現金預金は、今すぐ現金化できる額だけが対象だ。
時間と手間がかかる有価証券や売上債権は、現金にできるが除かれている。計算式は下記の通りだ。
現金預金比率(%)=現金預金/流動負債×100
支払う経費が差し迫っているときに役立ち、緊急時の資金繰りを知るのに向いている。平常時であれば、現金預金比率の指標を用いることは少ない。
流動負債が示す会社の状況4パターン
流動負債は、1年以内に支払期限が到来する債務をまとめた額だ。債務はお金の有無によらず支払義務がある。そのことをふまえて、流動負債が示す会社の状況を4パターン確認してみよう。
状況1.資金繰りの余裕
流動負債が多いほど、短期間で多額の決済を迫られることを意味する。つまり、流動負債が少なければ資金繰りに余裕があり、多ければ現金が先細っていると判断できる。
状況2.責務の遂行状態
流動負債には短期借入金が含まれているだけでなく、従業員の報酬や給与から天引きした税金、社会保険料、買掛金などが含まれている。
これらはすべて期日までに払わなくてはならない。特に税金と社会保険料は、納付期日までに支払わないと、不納付加算税や延滞税、延滞金といった余計なコストが発生する。
きちんと支払っていれば流動負債は圧縮されるが、滞納していれば膨張する。
支払期日を守るのは、会社の社会に対する責任だ。つまり、流動負債が多ければ、会社としての責任を果たせていないといえる。新たな仕入先との契約も難航しやすくなるだろう。
状況3.金融機関からの信頼度
金融機関との関係では、固定負債とのバランスで会社の信用を推し量れる。
固定負債の中には長期借入金が含まれる。長期借入金は、金融機関から5年や10年といった長いスパンで借りるお金だ。
短期借入金と違って、すぐに返済を迫られることはない。だからこそ、多くの会社は金融機関から融資を受けたがる。
しかし、信頼がないと融資の審査で不利になり、資金調達しづらくなる。その反面、全額を自己資金で賄えるわけでもない。
そこで、社長のポケットマネーや短期借入金を運転資金に回す。つまり、流動負債の大きさは、金融機関からの信用度を表している。
状況4.相続税の課税リスク
流動負債には社長個人からの借入も含まれる。社長が健在なうちはよいが、亡くなると相続税において問題が生じる。
なぜなら、社長が会社に貸付した額は、貸付債権というプラスの財産として評価されるからだ。つまり、貸し付けた分、相続人の納めるべき相続税が増えるリスクがある。
流動負債はなるべく圧縮する努力を
資金繰りは会社経営に不可欠だ。しかし資金が不足すると、短期借入金に頼らざるを得ないことや、買掛金の支払期限を先延ばしすることもあるだろう。
このような状態は、なるべく早めに解消したほうがよい。自転車操業のリスクが高いだけでなく、金融機関や取引先からの信頼を失うからだ。
毎月の経費を見直したり、販売戦略や売却代金の回収を工夫したりするなどして、流動負債を圧縮しよう。
文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)