流動負債とは?主な勘定科目や関係する計算式などを簡単に解説
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鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

貸借対照表の項目に流動負債がある。流動負債は、会社の資金繰りを見るための指標として活用できる。今回は流動負債の内容を簡単に説明しつつ、流動負債の主な勘定科目や関係する計算式、指標としての使い方などを紹介する。

目次

  1. 流動負債とは?
  2. 流動負債の区分基準2つ
    1. 区分基準1.返済期限
    2. 区分基準2.正常営業循環基準
  3. 流動負債の一般的な勘定科目8つ
    1. 勘定科目1.買掛金
    2. 勘定科目2.短期借入金
    3. 勘定科目3.支払手形
    4. 勘定科目4.前受金
    5. 勘定科目5.未払金
    6. 勘定科目6.未払費用
    7. 勘定科目7.預り金
    8. 勘定科目8.引当金
  4. 流動負債からわかる資金繰りの指標3つ
    1. 指標1.流動比率
    2. 指標2.当座比率
    3. 指標3.現金預金比率
  5. 流動負債が示す会社の状況4パターン
    1. 状況1.資金繰りの余裕
    2. 状況2.責務の遂行状態
    3. 状況3.金融機関からの信頼度
    4. 状況4.相続税の課税リスク
  6. 流動負債はなるべく圧縮する努力を

流動負債とは?

流動負債とは、原則として1年以内に返済しなくてはならない債務だ。貸借対照表の項目であり、負債の部に区分される。

流動負債は負債の部の中でも、固定負債の上位に位置する。会計上、流動性の高い資産・負債を上位に表記する流動性配列法というルールがあるからだ。

流動性の高い資産・負債は現金化が早く、現金は会社経営において非常に重要な資産といえよう。

つまり会計では、5年後に支払う借金より、1年以内に支払う借金のほうが、経営において重要だと考えられる。流動負債についても同様だといえるだろう。

流動負債の区分基準2つ

流動負債の区分基準を2つ解説する。

区分基準1.返済期限

負債の部には、流動負債が存在する一方で、固定負債もある。固定負債に区分されるのは、長期借入金や社債、退職給付引当金などだ。

両者の違いは返済期限にある。1年以内に支払期限を迎える額が流動負債、1年を超えて返済される額が固定負債だ。

なお、1年を境界とするルールを1年基準、またはワン・イヤー・ルールという。

1年のカウントは、支払義務の発生時を基準にしているわけではない。決算日の翌日から起算して、1年以内に入金、または支払期限が到来することを示す。

つまり、翌期中に支払われる額なら流動負債、翌々期以後に支払われる額なら固定負債に該当する。

区分基準2.正常営業循環基準

実は、1年を超えて支払われた買掛金が、固定負債に該当するとも限らない。流動負債と固定負債の区分に正常営業循環基準がある。

正常な営業サイクルの中で、現金化・収益化・費用化される資産や負債なら、流動資産または流動負債として分類する基準だ。

たとえば、営業活動で生じる買掛金について考えてみよう。営業サイクルにある資産や負債であるため、買掛金については1年を超えて支払うとしても、流動負債に区分する。

流動負債の一般的な勘定科目8つ

流動負債の主な勘定科目は下記の通りだ。

勘定科目1.買掛金

取引先から仕入れた商品・材料の代金や外注加工代のうち、支払いが済んでいない額をいう。商品・材料が届いてから、計上する前に、仕入伝票と照合して間違いがないことを確認する。

買掛金の支払債務が消滅するのは、支払いが済んだ時点だ。

勘定科目2.短期借入金

返済期限が決算日の翌日から1年以内に設定された借入金をさす。短期借入金には、金融機関や個人、取引先からの借入だけでなく、証書や手形による借入金、当座借越なども含む。

勘定科目3.支払手形

商品やサービスの購入に対する支払義務を示す証書である。最近はあまり用いられない。

勘定科目4.前受金

商品における販売代金の一部(あるいは全部)を引き渡す前に受け取った額をさす。手付金や内金と呼ぶこともある。

勘定科目5.未払金

消耗品の購入や広告費、車の修理代といった経費において、後払いになる額をいう。なお、商品の仕入代や外注費など、営業取引に関すると買掛金に区分される。

勘定科目6.未払費用

サービスの提供は継続しているが、まだ対価を支払っていない額をいう。

勘定科目7.預り金

従業員や取引先から預かったお金をさす。月々の給与・賞与から差し引く源泉所得税や住民税、社会保険料などが該当する。

勘定科目8.引当金

将来に生じる予定の費用や損失に備えた見積額だ。

具体的には、将来退職する役員・従業員の退職金にあてる退職給付引当金や、売掛金の回収不能に備える貸倒引当金、賞与に対して見積計上する賞与引当金がある。

流動負債からわかる資金繰りの指標3つ

流動負債は、会社の健康状態である財務体質を示す指標だ。流動負債によって会社の支払能力や安定性などを確認できる。

流動負債に関連する指標を3つ確認しておこう。

指標1.流動比率

流動比率とは、流動資産と流動負債の比率から、資金繰りの余力を判断するための指標だ。計算式は下記の通りだ。

流動比率(%)=流動資産/流動負債×100

流動資産が流動負債より少なければ、1年以内を期限とする債務が、現預金や短期に回収できる債権よりも多いことになり、資金繰りに余力がないとわかる。

逆に、流動資産が流動負債より多ければ、資金繰りに余裕があるとわかる。

ただ、回収が遅れている売掛金や貸付金があったり、長く滞留している在庫があったりすると、資金繰りに難が生じるかもしれない。

なお、流動比率は150%以上あれば、安全性が高いといわれている。

つまり、差し迫った負債の1.5倍以上を目安にしながら、現金や売掛金といった流動資産を確保しておけば、問題ないだろう。

指標2.当座比率

当座比率とは、流動比率よりも厳格に支払能力を判断できる指標である。計算式は下記の通りだ。

当座比率(%)=当座資産/流動負債×100

当座資産は、すぐに現金化しやすい債権のことだ。たとえば、解約しやすい預貯金や短期有価証券、売掛金、受取手形などである。

棚卸資産や原材料、仕掛品、その他の流動資産は含めない。指標をほぼ現金としているため、資金繰りをリアルに把握しやすい。

当座比率は100%以上であれば安泰だが、そうでないなら資金繰りは苦しいといえる。売上債権の中に未回収の額があるなら注意が必要だ。

指標3.現金預金比率

現金預金比率は、当座比率よりもさらに厳格に支払能力を判断できる。現金預金は、今すぐ現金化できる額だけが対象だ。

時間と手間がかかる有価証券や売上債権は、現金にできるが除かれている。計算式は下記の通りだ。

現金預金比率(%)=現金預金/流動負債×100

支払う経費が差し迫っているときに役立ち、緊急時の資金繰りを知るのに向いている。平常時であれば、現金預金比率の指標を用いることは少ない。

流動負債が示す会社の状況4パターン

流動負債は、1年以内に支払期限が到来する債務をまとめた額だ。債務はお金の有無によらず支払義務がある。そのことをふまえて、流動負債が示す会社の状況を4パターン確認してみよう。

状況1.資金繰りの余裕

流動負債が多いほど、短期間で多額の決済を迫られることを意味する。つまり、流動負債が少なければ資金繰りに余裕があり、多ければ現金が先細っていると判断できる。

状況2.責務の遂行状態

流動負債には短期借入金が含まれているだけでなく、従業員の報酬や給与から天引きした税金、社会保険料、買掛金などが含まれている。

これらはすべて期日までに払わなくてはならない。特に税金と社会保険料は、納付期日までに支払わないと、不納付加算税や延滞税、延滞金といった余計なコストが発生する。

きちんと支払っていれば流動負債は圧縮されるが、滞納していれば膨張する。

支払期日を守るのは、会社の社会に対する責任だ。つまり、流動負債が多ければ、会社としての責任を果たせていないといえる。新たな仕入先との契約も難航しやすくなるだろう。

状況3.金融機関からの信頼度

金融機関との関係では、固定負債とのバランスで会社の信用を推し量れる。

固定負債の中には長期借入金が含まれる。長期借入金は、金融機関から5年や10年といった長いスパンで借りるお金だ。

短期借入金と違って、すぐに返済を迫られることはない。だからこそ、多くの会社は金融機関から融資を受けたがる。

しかし、信頼がないと融資の審査で不利になり、資金調達しづらくなる。その反面、全額を自己資金で賄えるわけでもない。

そこで、社長のポケットマネーや短期借入金を運転資金に回す。つまり、流動負債の大きさは、金融機関からの信用度を表している。

状況4.相続税の課税リスク

流動負債には社長個人からの借入も含まれる。社長が健在なうちはよいが、亡くなると相続税において問題が生じる。

なぜなら、社長が会社に貸付した額は、貸付債権というプラスの財産として評価されるからだ。つまり、貸し付けた分、相続人の納めるべき相続税が増えるリスクがある。

流動負債はなるべく圧縮する努力を

資金繰りは会社経営に不可欠だ。しかし資金が不足すると、短期借入金に頼らざるを得ないことや、買掛金の支払期限を先延ばしすることもあるだろう。

このような状態は、なるべく早めに解消したほうがよい。自転車操業のリスクが高いだけでなく、金融機関や取引先からの信頼を失うからだ。

毎月の経費を見直したり、販売戦略や売却代金の回収を工夫したりするなどして、流動負債を圧縮しよう。

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)

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