五輪中止は決定的!?森会長失言で混沌、接種スケジュールに懸念も
(画像=chaay-tee/stock.adobe.com)

東京五輪中止がさらに濃厚になってきた。ワクチン接種の開始で海外に遅れを取り、五輪が開幕する2021年7月時点までに国民の多くが接種を終えるとは到底思えない。大会組織委員会の森喜朗会長の失言に対する国内外からの批判も高まる一方で、状況は混沌としている。

失われた「1日も早く収束させる」の説得力

新型コロナウイルスの感染拡大が国内でかつてない規模になり、日本政府は2度目となる緊急事態宣言を1月8日に発出した。しかし、想定通りには感染者数が減少せず、2月2日には緊急事態宣言を1ヵ月間延長することを決定した。

安倍晋三前首相からその座を引き継いだ菅義偉氏は、1月の施政方針演説で、東京五輪の開催について「人類が新型コロナに打ち勝った証し」として、開催に向けた準備を前向きに進めることを表明した。そして、その後もその姿勢は崩していない。

1月の施政方針演説では「1日も早く収束させる」とも宣言していたが、2度目の緊急事態宣言が延長される事態となっては、その言葉の説得力はすでに失われている。

森会長への失言、COCOAの不具合が不信感を煽る

そしていま、多くの国民がさらに日本政府や関係機関に疑問を抱くようになってきている。

大会組織委員会の森喜朗会長が2月3日、女性蔑視ともとれる「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」と発言した。このこと自体にも批判が殺到しているが、日本政府がこの問題を収束させようとしていることで、さらに国民の不満が高まっている。

ただでさえ、感染拡大で五輪開催に黄信号が灯っているのに、さらに濃厚接触者確認アプリ「COCOA」に不具合があり、Android版では昨年9月から通知が送られていない状況が発覚した。このことも国への不信感を煽った。

明らかになってきた具体的な接種スケジュール

そのような状況にあるなか、菅首相は2月2日、ワクチン接種のスケジュールについて「2月中旬にスタートしたい」と記者会見で述べ、高齢者への接種は4月からの見込みとした。そして国の方針を考慮しつつ、日本の各自治体でもワクチンの具体的な接種計画が確認・発表されるようになってきた。

例えば大阪府は、3月上旬にまず「医療従事者」への優先接種を開始し、4月以降に「65歳以上の高齢者」や「基礎疾患がある人」などにも接種対象を拡大するとしている。その後、一般の人への接種を開始するが、希望者全員への接種を終えるのは10月頃の見通しだという。

五輪開催の舞台である東京都も現在、接種スケジュールを詰めているが、もし大阪府と同じような計画になれば、五輪開催の7月までに感染拡大を収束させることはほぼ不可能だ。このような予測を背景に、東京五輪の中止がより濃厚になってきているわけだ。

接種クーポンの配布、アベノマスクのように遅れる?

さらに、ワクチン接種が遅れることにつながりかねない心配な点も浮上している。それが、ワクチン接種に必要なクーポンを国が国民に送付するという点だ。

安倍前政権下で実施されたガーゼ製の布マスクの配布は、最終的に遅れに遅れた。昨年4月1日に全世帯に布マスクを2枚配布する計画が発表されたが、それから約2ヵ月経過しても届いた世帯は2割ほどにとどまった。当初は5月中に全世帯に配布する予定だったのにも関わらず、そのような結果となった。

このような前例を考慮すると、ワクチン接種のためのクーポンの配布にも遅れが出る可能性がある。クーポンの配布の遅れはワクチン接種の遅れに直結し、新型コロナウイルスの感染拡大の抑え込みにさらに時間を要することになるのは必至だろう。

無観客開催、日本人観客のみの可能性も

このような状況が予想される中、1年延期された東京五輪は本当に開催されるのだろうか。これまでに述べた通り、中止が濃厚となりつつあるが、一部形態を変更して開催される可能性も今のところある。

開催を中止しないのであれば、当然考えられるのが「無観客開催」だ。無観客開催になれば、基本的には感染予防などのケアは、各国からの選手団とその関係者に対してのみで済む。ただしその場合は、選手団の行動を一定程度制限するなどの工夫は必須となりそうだ。

無観客開催とまではいかず、日本人観客のみで開催する可能性も少なからずある。その場合、観客にはある条件が課される可能性が高い。その条件とは、ワクチンが接種済みであることだ。

確かにこれなら、大会会場でクラスターが発生するリスクは一定程度抑えられる。ただし、自治体によって接種スケジュールが異なることから、観戦チケットを持っていても接種を終えられず、観戦できない人が出ることが予想され、不公平感が生まれる可能性が高い。

開催を楽観視できる状況ではすでにない

いまの日本政府、そしてJOC(日本オリンピック委員会)やIOC(国際オリンピック委員会)の方針を考慮すると「強行開催」もあるかもしれないが、基本的には東京五輪を開催できるか否かは、ワクチン接種がスピーディーに進むか、そしてそれによって新型コロナウイルスが収束に向かうか、にかかっている。

いずれにしても開催を楽観視できる状況では決してない。それが現状であると言える。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

無料会員登録はこちら