圧縮記帳
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中川 崇
中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

保険金や助成金等を受け取って固定資産を購入した時、その年の税負担を軽減するために行われる会計処理が圧縮記帳である。ここでは、圧縮記帳がどのようなものか、また、圧縮記帳のメリットとデメリットや利用できるケースはもちろん、圧縮記帳の起票方法を具体例を交えて説明する。

目次

  1. 圧縮記帳とは
    1. 圧縮記帳を行うケース
    2. 圧縮記帳を行わなければどうなるか
  2. 圧縮記帳のメリットとデメリット
    1. 圧縮記帳のメリット
    2. 圧縮記帳のデメリット2つ
  3. 圧縮記帳の方式2つ
    1. 方式1.直接減額方式
    2. 方式2.積立金方式
  4. 圧縮記帳の事例:建物・償却資産
    1. 直接減額方式
    2. 積立金方式
  5. 圧縮記帳の税務上の処理
    1. 法人税の場合
    2. 所得税の場合
  6. 圧縮記帳を上手に活用しよう

圧縮記帳とは

圧縮記帳とは、固定資産の取得において補助金等の収益・利益が出た場合に、その収益・利益に対する圧縮損を計上することによって、取得した固定資産の取得価格を減額し、利益を減少させてその年の税負担を軽減する会計処理である。

圧縮記帳を行うケース

圧縮記帳を行う場面として、主に以下の状況が挙げられる。

・補助金等を受け取った上で資産を取得した場合
・保険金等を受け取った上で資産を取得した場合
・収用に伴って代替資産を取得した場合
・買換特例を用いて新しい資産を取得した場合

圧縮記帳を行わなければどうなるか

では、圧縮記帳は何故行われるのであろうか。圧縮記帳を行わなかった場合、固定資産については以下のようなことが起こる。

例えば、価格200の固定資産を購入する際に、100の助成金を受け取ったとする。

まず、補助金等を受け取った場合、その補助金100は全額その年の収益となる

次に、購入した固定資産の価格である200は、減価償却などによって数年あるいは数十年に渡って費用化される。仮に定額法20年間で償却するなら、10しか償却されないことになる。

その結果、補助金を受け取った年においては、受け取った補助金のほぼ全額(100)について、固定資産の費用化される分(10)とほとんど相殺されることなく計上されるため、一時に大きな利益(90)が出てしまい、その分だけ多額の税金が課せられることもある。

一方、圧縮記帳を行うと、200の固定資産のうち助成金分の100だけ下げられるので、固定資産の価格は「200-100=100」となる。助成金の部分については利益計上する必要はなく、減価償却費の5だけ計上することができる。

この事例では、固定資産を購入した年の損益は、圧縮記帳をしなかった場合は90の利益、圧縮記帳をした場合は5の費用(マイナス5の利益)となるため、損益について95の差が出てしまうことになる。

ただし、2年目以降の収益は圧縮記帳を行わなかった場合は、減価償却費による10の費用、圧縮機長を行った場合は5の費用となり、圧縮記帳を行わなかった方の費用が大きくなり、利益がその分圧縮される。

これが、当該資産を売却しない限り、減価償却が終わる20年目まで続くことになり、最終的な損益は同額(100の費用)となる。

圧縮記帳は、固定資産の収益をいきなり出さない事によって、利益を繰り延べる効果があるのである。

圧縮記帳のメリットとデメリット

ここでは、圧縮記帳にどのようなメリット、デメリットがあるのか説明する。

圧縮記帳のメリット

圧縮記帳のメリットとして、一時に多くの税金を支払う必要がないことが挙げられる。

補助金や助成金などは一時に多くの金銭を受け取るため、それに見合った税金を支払わなければならない。

しかし、圧縮記帳を行うことによって、固定資産の取得価額と補助金・助成金とを相殺して税金の発生を抑えることができ、その結果、補助金や助成金を受け取った時期に多くの税金を支払う必要がなくなる。

特に補助金や助成金の受給金額が大きい場合、圧縮記帳を行わなければ税金の支払いで資金繰りが圧迫される可能性が出てくるが、圧縮記帳の実施によって資金繰りの圧迫リスクを下げることができる。

圧縮記帳のデメリット2つ

一方で、圧縮記帳については大きく2つのデメリットがある。

・デメリット1.補助金や助成金を受け取った翌年以降の税金が多くなる

圧縮記帳は、つまるところ利益の繰り延べであるため、実施の如何に関わらずトータルの収益は変わらない。

減価償却資産について圧縮記帳をした場合、減価償却計算の基となる取得価額は、圧縮記帳をしなかった場合に比べて減価償却費が小さくなり、それだけ税金が増えることになる。

・デメリット2.手続きが煩雑になることがある

圧縮記帳の方法は2通りあり、取りうる方法によっては会計処理が煩雑になって負担が大きくなることがある。

また、償却資産税の申告の際は、圧縮する前の金額で申告する必要があり、圧縮記帳の方法によっては2種類の価格を管理する必要が出てくるため、手続きがこの点でも煩雑になる。

圧縮記帳の方式2つ

圧縮記帳はどのように行われるのであろうか。簡単な説明を行った上で、後ほど具体的な方法を示す。

まず、圧縮記帳の方法には、以下の2つの方式がある。

・直接減額方式
・積立金方式

ここでは、例を交えてそれぞれどのようなものか説明する。

方式1.直接減額方式

直接減額方式とは、固定資産の帳簿価格と助成金などを直接相殺する方式であり、固定資産の帳簿価格は、相殺されただけ減少するといった特徴がある。

直接減額方式の記帳の流れは以下の通りである。(法人の場合、税効果会計は考慮していない)

なお、記帳事例の状況に関しては、以下のように設定する。

・土地についての助成金を受けた上で固定資産を取得して、その後に売却する。
・土地の価格:100
・助成金の額:50
・土地を売却したときの価格:200

(1)固定資産を購入したとき

土地100現金預金100

(2)助成金の受領時

現金預金50助成金受贈益50

(3)圧縮記帳

固定資産圧縮損50土地50

ここで、土地の価格の一部と助成金受贈益を相殺する処理を行う。この処理で、土地の帳簿価格が「100-50=50」となる。

(4)売却時

現金預金200土地
固定資産売却益
50
150

土地を売却した時の損益計算上、当該土地の取得価格は100ではなく、圧縮記帳をした後の50を基にして計算が行われる。

方式2.積立金方式

積立金方式とは、受贈益の金額を固定資産の金額から直接減額せず、利益処分の際に積立金を計上する方式である。この場合、固定資産の帳簿価格は取得した時のままとなる。

積立金方式の記帳の流れは、以下の通りである。(法人の場合、税効果会計は考慮していない)

状況は直接減額方式と同じとし、下記の2つは直接減額方式と同じなので仕訳は省略する。

・固定資産を購入したとき
・助成金の受領時

(1)期中その他の仕訳

仕訳なし

積立金方式では、期中において他に切る仕訳はない。

(2)決算時

繰越利益剰余金50圧縮積立金50

決算時において、圧縮積立金として助成金のうち圧縮に使う分を計上する。なお、この積立金の計上については株主総会などの決議は必要ない。

土地の簿価を直接下げる訳ではないため、土地の簿価は100のままである。

なお、法人税申告時は、積立金として計上した50について、税務上の損失として処理することとなる。税務上のこの固定資産に関する取引に関する損益は以下のようになり、直接減額方式と同じ利益が計上されない。

50(助成金の受領による利益) − 50(圧縮積立金の形状による損失) = 0

(3)売却時

現金預金200土地
固定資産売却益
100
100

直接減額方式とは違い、土地の簿価は100のままであるため、固定資産売却益は100となる。

(4)売却後の決算時

圧縮積立金50繰越利益剰余金50

売却後の決算時には、対応する固定資産がなくなったため、圧縮積立金を取り崩す処理を行う。なお、こちらも株主総会の決議は必要ない。

法人税の申告時は、この取り崩した積立金について税務上の利益として計上するため、税務上、土地を売却したときの利益は以下のようになり、直接減額方式と同じ利益が計上される。

100(売却時の仕訳による) + 50(決算時の圧縮積立金取り崩しによる) = 150

圧縮記帳の事例:建物・償却資産

ここでは、減価償却を行う資産の圧縮記帳の処理方法について、以下のケースを用いて詳しく説明する。

・建物について助成金を受けた上で取得
・減価償却の方法は定額法であり、償却率は0.100(10年間)
・建物の価格:200
・助成金の額:100
・当該建物は買った年は減価償却せず、翌年から減価償却する。

直接減額方式

直接減額方式で圧縮記帳を行う場合の仕訳は、以下の通りである。

(1)建物を購入したとき

建物200現金預金200

(2)助成金の受領時

現金預金100助成金受贈益100

(3)圧縮記帳

固定資産圧縮損100建物100

ここで土地の価格の一部と助成金受贈益を相殺する処理を行う。この処理で、建物の帳簿価格が「200-100=100」となる。

(4)翌年減価償却時

減価償却費10建物10

建物の減価償却は、圧縮後の取得価格を基に決まるので、取得価格は100となる。また、前提から償却率は0.100であるため、「100×0.100=10」となり、10だけ減価償却する。

積立金方式

下記の2つは直接減額方式と同じなので仕訳は省略する。

・建物を購入したとき
・助成金の受領時

(1)期中その他の仕訳

仕訳なし

積立金方式では、期中において他に切る仕訳はない。

(2)決算時

繰越利益剰余金100圧縮積立金100

決算時において、圧縮積立金として助成金のうち圧縮に使う分を計上する。

(3)翌年減価償却時

減価償却費20建物20

建物の減価償却の価格の基となる建物の取得価格は、直接減額方式と違って減額されていないため200となる。減価償却費は「200×0.100=20」となり、20減価償却することとなる。

(4)翌年決算時

圧縮積立金10繰越利益剰余金10

減価償却時には、圧縮積立金について減価償却した部分に応じて取り崩すことになる。

当初計上した100に対して、0.100の割合の分だけ取り崩すため、「100×0.100=10」取り崩すこととなる。また、この取り崩し分は利益として計上することとなるため、実質的な費用は以下の通りであり、実質的には直接減額方式と同じ費用が計上される。

20(減価償却分) − 10(圧縮積立金取崩分) = 10

圧縮記帳の税務上の処理

圧縮記帳を行った場合は法人税、所得税においてその旨を申告する必要がある。

法人税の場合

法人税の場合、初年度については「別表13(1)」などの圧縮記帳に係る別表の作成を行い、積立金方式で行っている場合は、以下の記載も必要である。

・別表16(1)などの減価償却費関連の明細書に積立金がある旨の記載
・別表4への圧縮金の記載
・別表5(1)へ積立金の計上について記載する

なお、積立金方式を採用した場合は、2年目以降についても以下の記載が引き続き必要となる。

・別表16(1)などの減価償却費関連の明細書に積立金がある旨の記載
・別表4への圧縮金取り崩しの記載
・別表5(1)へ積立金の取り崩しの記載

所得税の場合

所得税の場合は、圧縮記帳を行った年に係る申告書に、「国庫補助金等の総収入金額不算入に関する明細書」などの必要な書類を添付して提出する。

圧縮記帳を上手に活用しよう

今回は、圧縮記帳について、利用できるケースや具体的な処理方法についても説明してきた。

圧縮記帳は、うまく使うことで税金の支払いを先延ばしすることができる。圧縮記帳は計算方式などが複雑になることがあるので、この記事を参考に、圧縮記帳の処理に役立ててもらえれば幸いである。

文・中川崇(公認会計士・税理士)

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