他社との競争に負けないためにはマーケティング戦略が必要となる。しかし、規模やリソースが小さい中小企業では、マーケティング戦略は後回しにされがちだ。そこで役立つのがフレームワークである。今回は中小企業が実践できるフレームワークの考え方を紹介する。
目次
マーケティング戦略とは?基本と目的を簡単に解説
マーケティング戦略とは、製品やサービスを市場に効果的に届けるための計画だ。戦略の策定手順を説明する前に、マーケティング戦略の基本と目的を確認しておきたい。
マーケティング戦略の定義と基本要素
マーケティング戦略にはターゲット市場の選定や顧客ニーズの理解、競合分析、製品の差別化、適切な価格設定、効果的なプロモーション手段の選択などが含まれる。マーケティング戦略の基本要素は、以下の4点だ。
- 市場リサーチ:市場の状況や競合他社の動向を調査し、ターゲット顧客のニーズを把握する
- セグメンテーション:市場を細分化し、それぞれのセグメントの特徴を理解する
- ターゲティング:特定の市場セグメントを選定し、重点的にアプローチする
- ポジショニング:競合他社との違いを発見し、製品やサービスの位置付けを明確にする
マーケティング戦略と事業戦略の違い
マーケティング戦略と事業戦略は、しばしば混同されるが両者は異なるものである。事業戦略は、企業全体の長期的な方向性を決定するものであり、企業のビジョンやミッションに基づいて策定される。一方、マーケティング戦略は、事業戦略の一部として特定の製品やサービスを市場にどのように届けるかに焦点を当てるものだ。
つまり、事業戦略は全体的なビジネスの方向性を示し、マーケティング戦略はその実現手段を提供する。
マーケティング戦略策定の重要性
マーケティング戦略の策定は、企業の成功に不可欠だ。適切なマーケティング戦略がないと、製品やサービスが適切な顧客に届かず、売上や市場シェアの拡大が難しくなる。また、競合他社に対する優位性を確保するためにも明確な戦略が必要だ。マーケティング戦略は、企業が市場での競争力を高め、長期的な成長を実現するための基盤となる。
マーケティング戦略の策定プロセスと手順
マーケティング戦略をしっかりと策定し、実行や改善のプロセスを繰り返すことで、企業は市場での競争力を高め、持続的な成長を実現することが期待できる。マーケティング戦略の策定プロセスと主な手順は、7ステップだ。ここでは、各ステップで何をするのかについて具体的に解説する。
1.マーケティングリサーチ
マーケティング戦略の策定は、マーケティングリサーチ(市場の調査)から始まる。マーケティングリサーチは、顧客のニーズや嗜好、競合他社の動向、業界のトレンドを調査し、データを収集するプロセスである。この情報をもとに、企業は市場環境を正確に把握し、戦略を策定するための基盤を築く。
2.セグメンテーション
セグメンテーションとは、マーケティングリサーチの結果をもとに、市場をいくつかのセグメントに分けるプロセスだ。セグメンテーションは、顧客の特性や行動、ニーズに基づいて市場を細分化し、各セグメントに対する効果的なアプローチを見つけるために行われる。企業は、セグメンテーションによって、よりターゲットを絞ったマーケティング活動を展開できる。
3.ターゲティング
セグメンテーションの結果を踏まえ、特定の市場セグメントを選定するプロセス。ターゲティングでは、選定したセグメントに対して最適なマーケティング施策を実施し、そのセグメントにリーチすることを目指す。これにより、リソースを集中させ効果的なマーケティングを展開することが可能になる。
4.ポジショニング
ターゲット市場において、製品やサービスを競合他社との差別化を図り、独自の位置付けを明確にするプロセスである。ポジショニングは、顧客の心のなかにブランドの特別な場所を築くことを目指し、ブランドイメージの構築に重要な役割を果たす。
5.マーケティングミックス(4P)
マーケティング戦略の中心的な要素だ。マーケティングミックスは、4つのP(Product、Price、Place、Promotion)で構成される。これらの要素を効果的に組み合わせることで、ターゲット市場に対して最適なマーケティング施策を展開できるようになる。
6.実行・分析
このプロセスでは、策定したマーケティング戦略を実行し、その効果を継続的に分析する。実行段階では、計画通りに施策を展開し、マーケティング活動の成果を測定する。分析の結果をもとに、戦略の修正や改善を行う。
7.戦略の改善
市場環境や顧客のニーズは、常に変化していく。そのため、定期的に戦略を見直し、必要に応じて修正を加えることが重要だ。マーケティング戦略の改善は、継続的に繰り返して続けることに意味がある。改善プロセスを通じて、企業は常に市場での競争力を維持し、持続的な成長を実現できる。
マーケティング戦略成功のポイントは?
経営者が知っておくべきマーケティング戦略のポイントを解説しよう。
ポイント1.フレームワークを知る
顧客を効率的に増やす方法を考えるのは意外と難しいだろう。そこで役立つのがフレームワークだ。フレームワークとは、問題解決や意思決定に使われる枠組みを指す。世の中にはビジネスシーンで使えるフレームワークがたくさんあり、物事を整理して考える際に活用できる。
ポイント2.小さく始める
マーケティング戦略や経営戦略を考えようとすると、完璧さにこだわったり、壮大な夢を描いてしまったりしがちだ。しかし、必ず実現できるとは限らないし、画期的な戦略を策定できるとも限らない。その点をふまえると、中小企業は自社のできることから小さく始めることが重要だろう。
今や世界的大企業となったアマゾンも小さいガレージで始まった。アマゾンのビジネスモデルは、下記のサイクルがベースとなっている。
①素晴らしい顧客体験を提供する
②閲覧数が伸びる
③アマゾンで販売したいと思う事業者や品ぞろえが増える
①→②→③→①……と、ぐるぐると事業が成長していく。このビジネスモデルは、創業者であるジェフ・ベゾス氏によって考案され、レストランの紙ナプキンに描かれたことが知られている。
アマゾンでさえ、最初はシンプルで小さいビジネスから大きくなったのだ。現在の企業規模が小さいなら、小さく始めるという考えにもとづき、マーケティング戦略を考えるとよい。
ポイント3.無理なくPDCAを機能させるための環境を整備する
マーケティング戦略の策定において、PDCAサイクルを効果的に回すことは極めて重要である。しかし、効果を実感するためには、PDCAサイクルの注意点を理解し、適切な運用環境を整備することが必要だ。PDCAサイクルを実施する際、特にCheckの過程で評価がうまく行われず、次のActionが効果的に行われないこともある。
その結果、PDCAサイクルそのものが小規模に留まり、十分な効果を発揮しないことも少なくない。この問題の根本には、Planの段階でチェックすべきポイントが明確に定量化されていないことがある。マーケティング戦略の策定では、単に戦略を立案するだけでなく、その戦略に対するKPIや達成率などの具体的な指標を設定することが重要だ。
これにより、Checkの過程での評価が容易になり、次のActionを適切に導くことができる。PDCAサイクルを無理なく機能させるためには、各プロセスの理解とその相互関係を深く理解することが求められる。適切な環境を整備し、PDCAサイクルを効果的に運用することで、マーケティング戦略の成功につなげることができる。
ポイント4.マーケティングの範囲を明確にする
中小企業は大企業と比べて営業リソースも限られている。その中で、成功確率が高い顧客にアプローチできるかはマーケティングにかかってくる。効率よく営業を進めることがゴールであり、マーケティングの範囲を明確にすることが大切だ。
ポイント5.自社の強みを活かしたマーケティング戦略を策定する
中小企業のマーケティング戦略策定に活用できるフレームワーク6選
中小企業のマーケティングに役立つ代表的なフレームワークを紹介する。
フレームワーク1.STP分析
STP分析は、アメリカの経営学者であるフィリップ・コトラー氏によって提唱された理論であり、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング)の頭文字を取って名付けられた手法だ。
分析によって自社が狙う市場、自社が目指すべき方向性を明らかにできる。
プロセス1.Segmentation
対象となる市場を地理的要因や年齢的要因、企業規模、業種などの観点から細かく分類する。
プロセス2.Targeting
対象となる市場から自社が狙う市場を定める。
プロセス3.Positioning
ターゲットに合わせて自社の立ち位置を明確にする。
フレームワーク2.4P分析
4P分析は、Product(商品)、Price(価格)、Promotion(販促)、Place(流通)の各分野で事業の強みや弱みを洗い出して改善する手法だ。
自社のサービスを展開するうえで考えるべきポイントが網羅され、使いやすいフレームワークである。
顧客の視点で考える4C分析も存在する。4P分析のProductをCustomer Value(顧客にとっての価値)、PriceをCost(顧客にとっての経費)、PromotionをCommunication(顧客とのコミュニケーション)、PlaceをConvenience(顧客にとっての利便性)に置き換えた手法だ。
フレームワーク3.3C分析
3C分析は広い視野で戦略を立てる手法だ。3Cは、Company(自社)、Customer(市場)、Competitor(競合)の頭文字を用いた略称である。各視点から強みや弱みを洗い出しつつ分析を行う。
自社分析では、自社の経営資源や強み、付加価値を生む要素などを分析し、市場分析では、市場規模や成長性、顧客ニーズや購買決定プロセスなどを分析する。
競合分析では、競合の戦略やパフォーマンス、市場への参入障壁などを検討することが多い。3C分析を行うことで、自社の立ち位置をクリアにできるだろう。
フレームワーク4.バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、事業活動(開発・製造・物流など)をバリュー(機能)別に分析し、価値を生み出している分野を考える手法だ。
機能ごとに付加価値やコストを分析し、改善点を見つけられる。
フレームワーク5.PPM分析
PPM(Product Portfolio Management)分析とは、企業の製品やサービスのポートフォリオを評価し、資源配分や戦略的な方向性を決定するために使用するフレームワークだ。PPM分析は、製品やサービスを市場成長率と市場シェアの2軸で評価し、スター(Star)、問題児(Question Mark)、金のなる木(Cash Cow)、負け犬(Dog)の4つのカテゴリに分類する。
PPM分析を通じて、企業は製品やサービスごとの資源配分を最適化し、成長戦略を策定できる。具体的には、スターに対する投資を強化し、問題児をスターに昇格させるための戦略を講じる一方で、金のなる木の収益を維持し、負け犬の適切な処理を行う。
フレームワーク6.SWOT分析
SWOT分析は、企業の内部環境と外部環境を評価し、戦略策定に役立てるためのフレームワークだ。SWOTは「Strength」「Weakness」「Opportunity」「Threat」の頭文字を取ったもので、企業の現状を包括的に理解するための基本ツールとして知られている。これらの要素は、日本語では「強み」「弱み」「機会」「脅威」と訳される。
SWOT分析を行うことで、企業は内部と外部の要因を総合的に理解することが可能だ。また強みを活かしながら弱みを補強し、機会を活かし、脅威に備える戦略を策定できる。これにより、企業は市場での競争力を高め、持続的な成長を実現するための具体的な行動計画を立てることが可能だ。
フレームワークを活用してマーケティング戦略を練ろう
今回紹介したフレームワークは代表的な方法とはいえ、最初は使うのに戸惑う方もいるだろう。しかし、最初から完璧な戦略を作る必要はない。
仮説をベースに小さく始めてみて、間違えたらやり直せばいい。早速、フレームワークを導入してマーケティング戦略を考えてみてほしい。