生前贈与の活用にともなう贈与税の申告が増えてきた。申告期限を過ぎたときのペナルティーが気になる方もいるだろう。今年は新型コロナウイルス感染症の影響で税務手続きにも変化がみられた。今回は贈与税の申告期限や、コロナ禍の延長特例について解説する。
目次
生前贈与を受けたら贈与税の申告は必須
生前贈与を受けたら贈与税の申告が必要になる。最初に贈与税の申告期限や仕組みを押さえておこう。
贈与税の申告期限
贈与税は毎年1月1日から12月31日までの1年間に行われた贈与に対して課税される。
贈与税が生じる場合、贈与された年の翌年3月15日までに贈与税の申告書を提出し、納税しなくてはならない。当日が土曜日・日曜日・祝日の場合、申告期限はその次に来る最初の平日となる(以下同じ)。
贈与税の申告が必要なケース
贈与税の申告が必要なケースは主に2つある。
ケース1.1年間に贈与された財産の総額が110万円を超える
生前贈与をしても110万円以下なら贈与税はかからないと聞いたことがあるかもしれない。
通常の贈与(暦年課税制度)では、110万円が基礎控除として年間の贈与総額から差し引かれる。年間の贈与総額が200万円の場合を考えてみよう。税率が適用される課税価格は以下の通りに計算できる。
200万円-110万円=90万円
なお、1年間に複数人から財産をもらったら、財産の合計価額から110万円を差し引いた金額が贈与税の課税対象になる。
ケース2.相続時精算課税制度を適用するとき
相続時精算課税制度は、少し特殊な贈与税の制度だ。申告の際に相続時精算課税選択届出書(選択届出書)を一緒に提出すると適用される。
贈与者が60歳以上の父母や祖父母、受贈者が20歳以上の子や孫でなければ制度を使えない。
なお、選択届出書の提出後に贈与すると、財産の価額が110万円以下でも贈与税の申告をしなくてはならない。
相続時精算課税制度の適用を受けた贈与は、2,500万円(特別控除額)までが非課税であり、控除後の金額に一律20%の税率がかかる。この特別控除額は複数年にわたって利用できるのが特徴だ。
60万円の贈与で申告書を提出しても、非課税枠内なら贈与税額は0円だ。ただし、期限内に贈与税の申告書を提出しなければ、20%の税率で贈与税を納めなくてはならない。
贈与税の申告が不要なケース
年間110万円を超えても贈与税の申告が不要なケースもある。
ケース1.生活費や教育費の贈与
扶養義務に基づいて渡す生活費や教育費には贈与税がかからない。たとえば、子どもの留学で多額の資金がかかっても、親の扶養義務に基づくなら贈与税の申告はいらない。
ただし、扶養義務のない祖父母や親せきからの贈与は課税対象だ。
そのほか、生活費や教育費としてもらった資金でも、株式投資や宝飾品・ブランド品の購入に充てたお金や、別居した親から一括送金されたお金だと課税対象になる。
ケース2.社会的に必要と認められる贈与
亡くなった人への香典や、知人へのお中元・お歳暮、入学・卒業・結婚のときに贈るお祝い金なども贈与税が非課税となる。
ただし、常識の範囲内とみられる金額であることが大事だ。過度に高額なお金や財産を送ると贈与税の課税対象となる。
ケース3.非課税制度の適用を受ける贈与
贈与が非課税とされるには、贈与する金額や形態が常識的でなければならない。
ただ、財産に余裕のある方が必要に応じて多額の資金を贈与したいケースもあるだろう。たとえば、祖父母が孫のライフイベントをサポートしたいときなどだ。そのような世帯は次の制度を活用するとよい。
- 結婚・子育て資金を贈与するときの非課税制度
- 教育資金を贈与するときの非課税制度
結婚や子育てを目的とした贈与であれば最大1,000万円が、教育を目的とした贈与であれば最大1,500万円が非課税となる。
いずれも信託銀行を通じて資金の授受を行うが、贈与税に関する手続きは信託銀行側に任せられるので、受贈者となる子や孫は基本的に贈与税の申告をしなくてよい。
贈与税を申告する人
贈与税を申告するのは財産をもらった人だ。つまり、年間にもらった財産総額が控除額を超える人は申告しなくてはならない。
相続時精算課税制度を利用する場合、届出書の適用対象となる父母や祖父母から財産をもらった子や孫に申告義務がある。
贈与税の申告期限を過ぎたときのペナルティー
贈与税の申告・納税には期限がある。期限を過ぎたらペナルティーが生じる。
ペナルティー1.無申告加算税
無申告加算税とは、法定申告期限を過ぎて申告したときに支払う罰金的な税金だ。贈与税においては、贈与年の翌年3月15日を過ぎて申告書を提出すると、無申告加算税が発生する。
納付すべき贈与税額のうち50万円までの金額に15%、50万円超の金額に20%の税率がかかる。
たとえば、贈与税額60万円の申告が期限に間に合わなかった場合を考えてみよう。無申告加算税の計算は以下の通りだ。
50万円×15%+(60万円-50万円)×20%=9万5,000円
ただ、遅れたことについて正当な理由がある場合、遅れても1か月以内に申告書を提出している場合などであれば、無申告加算税は払わなくてよい。
また、税務調査の通知を受ける前に期限後申告書を自主的に提出すれば一律5%に、通知を受けた後に自主申告するなら15%の税率は10%に、20%の税率は15%に軽減される。
ペナルティー2.延滞税
延滞税は、納税が納付期限より遅くなったときに払うペナルティーだ。
法定申告期限(贈与税なら翌年3月15日)に申告が間に合わなかった場合、贈与税の納期限は申告書の提出日となる。この日までに納付しなければならず、遅れると延滞税がかかる。
延滞税は無申告加算税と異なり、利息計算と同じく遅れた日数に応じて金額が増えていく。
平成26年1月1日以降の延滞税は特例基準割をベースに計算する。2020年時点における延滞税の計算方法を紹介する。
【納期限から2か月以内に納税した場合】
(納付すべき税額×年2.6%×納期限の翌日から納税した日までの日数)/365日
【納期限から2か月超経過して納税した場合】
〔(納付すべき税額×年2.6%×納期限の翌日から2か月を経過する日までの日数)/365日〕+〔(納付すべき税額×年8.9%×納期限の翌日から2か月を経過する日の翌日から納付した日までの日数)/365日〕
ペナルティー3.重加算税の恐れも
申告漏れの内容が悪質であれば、重いペナルティーが科される。重加算税は、意図的な申告漏れに科される罰金だ。
重要な事実を隠したり、虚構の事実を作り上げたりして、申告を逃れるケースが該当する。たとえば、二重帳簿の作成や帳簿内容の改ざんのときに指摘されやすい。
ただ、無申告だと隠ぺいや虚偽の証拠を突き止めるのが困難であり、現実には無申告加算税で済まされることがありえる。
贈与税の申告期限は情勢によって変わる
2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの行政手続きに支障が生じた。申告会場での感染拡大を緩和するために、国税庁は2019年度にあたる贈与税の申告期限を2020年3月16日から1か月延長して4月16日とした。
しかし、コロナ禍で生じたさまざまな事情によって、期日までに申告・納税できないケースもあったのだろう。それを受けた国税庁は、期限の個別延長に踏み切った。
期限内提出とみなされるとペナルティーはない
新型コロナウイルス感染症の影響で贈与税の申告が4月17日以降になっても、個別に期限の延長手続きを行えば期限内に提出したことになる。
手続きはシンプルだ。紙による申告なら、贈与税の申告書にある第一表の右上余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」と書くだけで済む。
e-Taxによる申告なら、「電子申告及び申請・届出による添付書類送付書」の「電子申告及び申請届出名」に同じ文言を入力すればよい。
当然、無申告加算税や重加算税の対象とはならない。ただ、納税期限は申告書の提出日となっているので、遅れてしまうと延滞税を払う破目になる。
ちなみに、新型コロナウイルスの影響に該当する具体例は以下の通りだ。
- 濃厚接触の疑いがあり、4月17日を過ぎないと申告・納税ができなかった
- 緊急事態宣言を受けて不要不急の外出を控えなくてはならないため、顧問税理士が贈与税の課税対象者を訪問できなかった
- 基礎疾患によって感染すると重篤化するおそれがあるため、申告会場に行けなかった
申告期限を守るには情勢の把握が不可欠
2020年8月時点で、新型コロナウイルス感染症の影響は残っており、引き続き贈与税の申告期限を個別に延長できる。
ただし、新型コロナウイルスが終息したら、終息日から2か月以内に2019年分の贈与税の申告書を提出しないと、期限後申告や無申告として扱われる。
このように贈与税の申告期限を守るには情勢の把握が不可欠だ。メディアの一般ニュースとともに、国税庁のウェブサイトの新着情報にも注意を向けるようにしよう。
【参考】国税庁ウェブサイトトップページ
文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)