6月24日に東証マザーズに上場を果たしたコパ・コーポレーション(東京都渋谷区)。同社は調理器具や清掃用具など生活用品の卸業を展開する傍ら、小売店・テレビ・インターネット通販サイトなどを通じて実演販売することで、営業支援も行っている。独自で育成した販売のプロ「実演販売士」は現在34人。巧みな話術で、商品の良さをアピール、リピーターも多いという。同社の2 02 0年3月期の売上高は前期比59.8%増の56億500万円で、2021年3月期は14.5%増の64億1900万円を見込んでいる。新型コロナウイルスで経済が停滞する中、急成長している要因は同社独自の「3Dマーケティング戦略」にある。(※2020年12月号「話題の会社を直撃 1 」より)
包丁から消臭剤まで300品目超 巧みな話術で購入意欲をそそる
同社が扱う生活用品は、包丁やフライパンといった調理用品から、タオル、クッション、消臭剤に至るまで300品目以上。そのほとんどがメーカーとの独占契約で、近年は自社開発品も増えている。販売経路は、ホームセンターや日用品店などに商品を卸し、自社で卸先の販売支援をするリアル店舗と、テレビの通販番組のBtoBルート、ネットのショッピングモール内EC通販のBtoCルートだ。直近で発表した2021年3月期第1四半期の販路別に占める売上高の割合は、TV通販が56・4%と最も多く、リアル店舗に卸すベンダー販売が15・2%、インターネット通販26・8%、実演販売士を販売会場や小売店へ派遣するセールスプロモーションが0・7%、昨年オープンした「デモカウ」と呼ばれる自社店舗が0・9%。
同社最大の特徴であり、強みとなっているのは、「実演販売士」による商品販売だ。巧みな話術によって、商品の使い方を紹介し消費者の購買意欲を刺激、販売につなげていく。
吉村泰助社長はこの販売手法を「3Dマーケティング戦略」と名付けている。
「現代の消費行動はTVで見て、ネットで調べて、リアル店舗で納得して購入する、という流れです。それぞれに実演販売士が魅力的に紹介することができれば、どこのルートでも購入してもらえる」。
実演販売士による営業手法は珍しくない。有名なところでは、ガマの油、バナナのたたき売り、フーテンの寅さんなどが挙げられる。
もともと吉村社長は、大学時代に演劇活動の傍ら、そのスキルを活かし実演販売のアルバイトを行っていた。卒業後、日用品等の販売会社で、専属実演販売士として全国のデパートなどで商品販売を行っていた。数々のヒット商品を手掛け、メディアにも出演し、実演販売士として名を馳せた。
しかし、当時の実演販売士は「宣伝屋」と呼ばれ、会社に属していない一匹狼ばかり。「いかがわしい」、「怪しい」というイメージがついていた。「実際は、売り場で汗水たらして一生懸命商品を販売している。彼らのイメージを上げれば、新しいビジネスが生まれると考え、演劇仲間を募って同社を設立しました」(吉村社長)。上場を目指したのも実演販売士の社会的地位向上を上げたいという思いからだった。
次のステップは売上高100億円 直営店舗「デモカウ」多店舗化
同社は、次のステップとして売上高100億円、一部上場を目標に置く。吉村社長がカギを握ると考えているのが、自社リアル店舗「デモカウ」と自社ECサイトだ。
2018年4月、東京スカイツリーの膝下にあるショッピングモール内にオープンした同店では、毎日実際に販売士が商品を披露する。普段テレビやネットでしか見ることのできない有名販売士が登場することもあり、「人だかりができるほど盛況です」(吉村社長)。2020年3月期には店舗売上で約1億5000万円を計上した。
店舗開設の1月後、同名の自社ECサイトもオープン。ここではこれまで開発してきた商品300点を販売、1点1点について実演販売士が、おすすめのポイントや使い方について解説する。
この自社店舗とECサイトが今後の成長の軸になる。2つの販路はそれぞれが独立競合しているのではなく、連携する仕組みだ。
「例えば、ネットで見つけた商品を実際に見て納得してから買いたいという顧客のために、注文後店舗で受け取れるサービスにしたり、実演販売を見た顧客が後日ECサイトを経由して買うこともあります」(吉村社長)。
そのため、より多くの顧客にリアルな実演販売を見てもらう機会を作ることが、飛躍するポイントになる。同社は、複数のデモカウ新店舗の開設を計画している。
自前の「タレント」の育成が急務 消費者との密な接点で商品開発に繋げる
成長戦略を描くにあたりもう1つ外せないのが「実演販売士」の育成だ。
現在所属する実演販売士は34人。元俳優もいれば芸人もいる。うち20人が社員だ。吉村社長は2012年10月に「売の極意塾」を主宰し、実演販売士を採用、育成してきた。
この販売士を増やすことと質を高めることは今後のヒット商品開発に直結する。「実際、これまで販売してきた商品の多くは、実演販売士が消費者から得たアイデアが元になっているのです。つまり、実演販売士と顧客の接点が多いほど、アイデアにあふれた新商品がたくさん生まれてくることになる」(吉村社長)。
直近のヒット商品である「パルスイクロス」、「すいすい水」、「スーパーストーンバリア」、「スパイダージェル」、「ゴムポンつるつる」などは全て、現場の中でヒントを得た商品だ。
「新商品は何もない所から生み出すわけではなく、『ここが足りない』、「ここがアピールに弱い」といった実演口上の中でヒントが生まれてきます。ですから、これまで埋もれてきた既存商品をリバイバルさせることでヒットにつなげることもできるのです」(吉村社長)。
吉村社長が考える理想の実演販売士は、発信した情報を、消費者に拡散してもらえる影響力の大きい存在にすること。既に特定の実演販売士への「指名買い」という現象も発生しており、「より多くの実演販売士にファンをつけていきたいと考えている」(吉村社長)。
現在、コロナ禍によって小売店での実演販売がしにくい状況になっている。このため同社では、TV通販やECをさらに推進していく考えだ。「ソーシャルディスタンスに関係なく、実演販売を見てもらえる機会を増やしていく」(吉村社長)という。