企業が今後成長するための鍵の1つに「ESG」がある。「環境・社会・企業統治」の頭文字をつなげた造語だ。世界の機関投資家たちがESGに配慮した企業に注目しており、今後ESG経営に力を入れる企業は資金調達がしやすくなっていくことが予想される。企業とESGの付き合い方を考えてみよう。
ESGとはそもそも何か?ESG投資とは?
冒頭でも触れたが、ESGとは「環境(environment)」「社会(society)」「企業統治(governance)」の3要素を意味しており、持続可能な社会を構築していくための企業のあるべき姿勢を示している言葉だ。ESGの出発点は、国連が2006年に公表した「責任投資原則(PRI)」とされる。この責任投資原則では、機関投資家に対して「環境」「社会」「企業統治」も投資基準とするよう求めている。
そして、このようなESGに着目した投資を「ESG投資」と呼び、すでにESGの基準で民間企業を評価した「ESG格付」なるものも多く存在している。このことから、最近はESGを意識した経営に力を入れる大手企業が増えてきた。
ESG格付では、温暖化対策や公害防止、再生エネルギーの使用といった「環境」、人権の尊重や地域貢献、ダイバーシティなどの「社会」、情報開示や法令遵守などの「企業統治」の3つの視点で、民間企業が評価される。そしてESG格付は、実際に投資家が投資判断をする際に参考にされている。
ESG投資の増加は数字でも表れている。「未来の世界(ESG)」という愛称がついている上場投資信託「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド」は、2020年10月末の国内公募の投資信託残高で2位に躍進している。
日本人消費者の約3割が、ESG型商品の購入に意欲的
ここまで説明してきたように、ESGを意識した経営に力を入れていけば、投資家からの注目は集まりやすくなる。それに加え、最近では一般消費者もESGに注目して、購入する商品や利用するサービスを選ぶ傾向がある。
国際コンサルティング企業PwC(プライスウォーターハウスクーパース)の日本法人「PwCジャパングループ」が、日本人の消費者を対象に実施した意識調査によれば、ESG型の商品を購入したいと考えている消費者は3割近くにのぼるようだ。ここで言う「ESG型の商品」とは、環境に配慮した素材や原料などを使用してつくられた商品のことだ。環境に配慮した素材を使って商品を製造すると、原材料価格の面で商品価格が高くなることもあるが、価格が高くても購入すると回答した消費者は29%にのぼっているという。
つまり企業にとっては、ESGに配慮した商品開発をすることが、今後の競争力を高めることにつながりやすいということだ。ちなみに、日本人のESG型の商品に対する注目度は他国に比べて低いとされ、今後まだまだ注目度が高くなる余地がある状況である。
既存のビジネスの変革を迫られるケースも
ESG投資やESGへの関心の高まりは、持続可能な社会を形成していくという視点からは望まれることと言える。しかし、企業にとっては既存のビジネスの変革を迫られるケースもあることを知っておきたい。
例えば、日本企業の東芝は今年11月、石炭火力発電所の新規建設ビジネスから撤退することを表明した。石炭火力発電所は多くの温暖化ガスを排出する。世界的に環境対策を重視するESG投資が広がっている中、ESGに逆行するとも言える石炭火力発電所の新設案件が減っていることが撤退の要因だという。ESGへの関心の高まりから、東芝のように事業方針の転換を迫られるケースは、今後増えていく可能性は高い。
ESG経営をどう実践していくか考えるべきとき
この記事ではESGに関する最近の潮流などを解説してきた。国連が定める「SDGs」(持続可能な開発目標)に対する関心も高くなりつつある中、ESGは国際社会で企業が成長を果たしていくために、決して無視できない視点だ。
多くの企業経営者がいま、自らの会社でESG経営をどう実践していくか、考えるべきときにきている。企業経営を成功させるためには時代の変化に適応する柔軟性が求められる。ESGへ的確に対応をして事業を成功させていけるかは、まさに現経営者の柔軟性に左右されると言えそうだ。
また、これからの時代の消費の主役となっていく「Z世代」(1990年代後半以降に生まれた世代)や「ミレニアル世代」(1980年以降に生まれた世代)などの若い世代が、ESGに対してどのような意識を持っていくのかにも注目していきたいところだ。このような若い世代がESGへの関心を高めていけば、よりESG経営は企業が成長するために重要な視点となり、ESGを意識した商品作りが成長の鍵となっていきそうだ。引き続き企業経営者は、ESGを含む時代の潮流に着目していこう。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)