業務マニュアルで生産性を高めるには、どのような項目を記載すればよいだろうか。とにかく業務プロセスを詰め込むなど、形だけのマニュアルでは効果が期待できない。本記事では、業務マニュアルの作成目的を深堀りし、効果的な策定手順や運用方法を解説する。

目次

  1. 業務マニュアルとは?
    1. 業務マニュアルに記載したい項目
  2. 業務マニュアルを作成する目的3つ
    1. 1.余計なコストや時間を削る
    2. 2.製品やサービスの品質を高める
    3. 3.従業員の評価指標にする
  3. 業務マニュアルを作成する基本的な手順
    1. 【STEP1】改善点を洗い出すために、情報収集をする
    2. 【STEP2】業務マニュアルを使用するシーンを明確にする
    3. 【STEP3】フォーマットを決定する
    4. 【STEP4】フローや作業手順に加えて、「要点・理由・目的」も記載する
    5. 【STEP5】現場担当者にチェックしてもらい、必要に応じて修正をする
  4. 業務マニュアルを作成する際のポイント3つ
    1. 1.不要な情報は徹底的に省く
    2. 2.5W1Hを意識し、疑問が生じにくいマニュアルを作成する
    3. 3.フローチャートやイラストなど、図表を活用する
  5. 業務マニュアルの作成に役立つツール
    1. 1.情報量が多い場合(文書作成ツールなど)
    2. 2.表やグラフを多用する場合(表計算ツールなど)
    3. 3.デザインを多用する場合(スライド用ツールなど)
  6. 業務マニュアルの効果的な運用方法とは?
    1. 1.社内全体に共有する
    2. 2.現場からフィードバックをもらう
    3. 3.定期的に更新する
  7. 業務マニュアルの作成に悩まされたら、作成代行サービスやツールの利用も検討しよう
経営戦略
(画像=PIXTA)

業務マニュアルとは?

業務マニュアルとは、業務プロセスや仕事の進め方や方法をまとめた資料である。単に業務内容をまとめるだけではなく、業務を効率的かつ正確にこなすためのポイントや、安全性を高める対策なども記載することが多い。

仮に業務マニュアルを作成しないと、従業員によって業務の進め方が変わるため、スピードや品質にばらつきが生じてしまう。また、誤った方法で作業をすることにより、深刻な事故やトラブルを引き起こす可能性もあるだろう。

業務マニュアルに決まった形式はなく、記載項目や内容は企業によって異なる。イメージをつかみたい場合は、経済産業省が公開している公共事業向けのマニュアルに目を通しておこう。

(参考:経済産業省「事務処理マニュアル(METI/経済産業省)」)

業務マニュアルに記載したい項目

業務マニュアルの作成時には、「必要な情報を網羅すること」に加えて「不要な情報を削ること」を意識する必要がある。人によって解釈が異なる内容や、文章への落とし込みが難しい内容が含まれていると、従業員の混乱を招いてしまうためだ。

参考として、以下では業務マニュアルに記載したい項目と、不要な項目をまとめた。

<業務マニュアルに記載したい項目>
・業務や仕事のプロセス(流れ)
・部署のモットーやスローガン(考え方)
・社内でよく使う専門用語
・業務の目標や目的
・ツールやソフトウェアの使用手順
・資料やデータの保管方法
・問い合わせ先
・本マニュアルを参照すべき場面

<業務マニュアルに不要な項目>
・個人の能力に左右されるノウハウ
・現場で身につける知識や技術
・文章にすると複雑になる業務プロセス

自社の業務マニュアルと見比べて、記載項目に過不足がないかを確認してみよう。

業務マニュアルを作成する目的3つ

業務マニュアルを作成する目的は、大きく3つに分けられる。

  1. 余計なコストや時間を削る
  2. 製品やサービスの品質を高める
  3. 従業員の評価指標にする

それぞれの目的について、以下で詳しく解説しよう。

1.余計なコストや時間を削る

明確な業務マニュアルを作成すると、従業員の作業を均一化することができ、判断に迷うような場面を減らせる。ひとり一人の作業効率が上がるため、会社全体で見るとコストや時間の削減につながるだろう。

事務や経理などの単純作業についても、データの取り扱い方やツールの使い方などをまとめておくと、飛躍的に効率を高められる場合がある。

2.製品やサービスの品質を高める

業務マニュアルで作業が均一化されると、製品やサービスの品質もアップする。たとえば、部品の選び方や組み立て方、検品作業などをマニュアル化すると、ひとり一人が同じ流れで作業をこなすため、欠品や粗悪品の量は減ることが予想される。

また、プロセスが明確になると事故やトラブルが減るため、業種によっては生産量も安定する。

3.従業員の評価指標にする

業務マニュアルは、従業員の評価指標として活用される場合もある。

たとえば、業務マニュアルに数値目標(生産数や成約数など)を定めておくと、そのまま評価基準として活用できる。また、記載した業務プロセスを深堀りすれば、スキルの評価項目が見つかるかもしれない。

業務マニュアルをベースとした評価基準は、従業員から見てもわかりやすい。そのため、現場の不平不満を防ぐような効果も期待できる。

業務マニュアルを作成する基本的な手順

業務マニュアルの作成手順は企業によって異なるが、一般的には以下の流れで作成する。

  1. 改善点を洗い出すために、情報収集をする
  2. 業務マニュアルを使用するシーンを明確にする
  3. フォーマットを決定する
  4. フローや作業手順に加えて、「要点・理由・目的」も記載する
  5. 現場担当者にチェックしてもらい、必要に応じて修正をする

ここからは各手順に分けて、作成時に意識したいポイントや注意点を紹介しよう。

【STEP1】改善点を洗い出すために、情報収集をする

効果的な業務マニュアルを作成するには、現状の業務内容や作業手順から改善点を洗い出す必要がある。したがって、まずは現場の従業員に聞き込みをしたり、マニュアルの作成者が現場に赴いたりなど、現場の「情報収集」から始めなければならない。

現場の状態を目や耳で直接チェックすれば、何かしらの改善点が見つかるはずだ。このときに見つけた改善点をマニュアルに組み込むことで、その企業は高い水準での品質の維持・向上を目指せるようになる。

【STEP2】業務マニュアルを使用するシーンを明確にする

前述でも触れたが、業務マニュアルの作成時には読み手となる従業員をイメージすることが重要だ。例えば、情報を詰め込み過ぎた結果、文字だらけで読みづらい資料になってしまうと、業務マニュアルを作成するメリットが薄れてしまう。

そのため、業務マニュアルを作成する前には、必ず「どんなシーンで読むことが想定されるか?」や「どんな情報を入れるべきか?(どんな情報を省くべきか?)」について、慎重に考えるようにしよう。この工程を挟むだけで、業務マニュアルの読みやすさは格段に変わってくる。

【STEP3】フォーマットを決定する

マニュアルに記載する内容が大まかに決まったら、次はフォーマットを決定する。業務マニュアルは使用するシーンによって適したフォーマットが異なるため、この工程でも読み手(従業員)を強く意識することが重要だ。

例えば、電話口で業務マニュアルを見ながら顧客対応をする場合は、すぐに情報を引き出せるようなフォーマットが望ましい。必要であれば、索引や目次、見出しをつけることなども検討しておこう。

【STEP4】フローや作業手順に加えて、「要点・理由・目的」も記載する

次はいよいよ業務マニュアルを作成していくが、業務のフローや作業手順のみを記載するだけでは、経営側の意図がなかなか伝わらないこともある。そのため、各フローや手順に関して、できれば「要点・理由・目的」の3つも追記することをおすすめする。

この3点が明記されていれば、仮に業務マニュアルの読み手が新入社員であったとしても、その内容をすんなりと理解できる。ただし、情報量が多すぎると逆に混乱してしまうため、ボリュームが増えすぎないように注意しておこう。

【STEP5】現場担当者にチェックしてもらい、必要に応じて修正をする

業務マニュアルが完成したら、まずは現場担当者にその内容をチェックしてもらう。実際の業務との間でズレが生じていると、ここまで費やしてきた労力や時間を無駄にしてしまうため、チェックの工程は必ず挟むことが重要だ。

もし現場担当者から指摘を受けた場合は、必要に応じて該当部分をしっかりと修正しておこう。

業務マニュアルを作成する際のポイント3つ

効果的かつ読みやすい業務マニュアルを作成するには、上記以外にもいくつかポイントを押さえる必要がある。そこで次からは、経営者やマニュアル作成者が特に押さえておきたい3つのポイントを紹介していこう。

1.不要な情報は徹底的に省く

マニュアルに不要な情報が含まれていると、読み手である従業員を混乱させてしまう。また、ボリュームが増えすぎると読む気が失せてしまう恐れもあるため、業務マニュアルの作成時には不要な情報を徹底的に省き、すっきりとした見た目に整えることが大切だ。

特に読み手が新入社員の場合は、ページ数や文字数を減らすだけで内容の理解度が飛躍的にアップすることもある。そのため、業務マニュアルの完成後には「不要な情報がないか?」を細かくチェックするようにしよう。

2.5W1Hを意識し、疑問が生じにくいマニュアルを作成する

不要な情報はできる限り省きたいところだが、必要な情報まで削ると読み手には疑問が生じてしまう。仮にその状態で業務にあたると、深刻なミスやトラブルに発展する可能性も考えられるだろう。

読み手がきちんと理解できる業務マニュアルを作成するコツは、「5W1H」を意識することだ。説明する業務や作業に関して以下の6点をまとめるだけで、業務マニュアルは飛躍的に読みやすくなる。

・Who…誰が業務にあたるのか
・When…いつ発生する業務なのか
・Where…どこで取り組む業務なのか
・What…どんな内容の業務なのか
・Why…なぜその手順で業務を進めるのか、なぜその業務が必要になるのか
・How…どんな手順で業務を進めるのか

内容によっては省ける情報もあるが、業務マニュアルだけで上記の情報が伝わらない場合には、該当部分に必要な情報をしっかりと盛り込んでおこう。

3.フローチャートやイラストなど、図表を活用する

業務マニュアルの作成時には、とにかく「見やすさ」を追求したい。ある程度は文字数の調整やフォーマットによってカバーできるが、それでも小難しさやボリュームの多さを感じさせてしまう場合には、積極的に図表を活用することが必要だ。

例えば、作業手順をフローチャートで示したり、設備の使い方をイラストにしたりするだけでも、マニュアルの見やすさは格段にアップする。見やすさは従業員の理解度にもつながる要素なので、業務マニュアルの作成時には記載する情報の内容だけではなく、ビジュアル面にも強くこだわっておきたい。

業務マニュアルの作成に役立つツール

業務マニュアルの作成ツールは、マニュアルの内容に合わせて選ぶことが望ましい。使用するツールによって、詰め込める内容や読みやすさが変わってくるためだ。

ここからは3つのパターンに分けて、業務マニュアルの作成に役立つツールを紹介する。

1.情報量が多い場合(文書作成ツールなど)

複雑な工程をまとめる場合など、情報量が多い業務マニュアルでは文書作成ツールが便利だ。例としては、「Microsoft Word」や「Googleドキュメント」などが挙げられる。

文書作成ツールの利点は、自動的にページが追加される点や、印刷時にレイアウトが崩れにくい点である。また、簡単な図表も描画できるため、工夫次第ではデザイン性の高いマニュアルを作成できるだろう。

2.表やグラフを多用する場合(表計算ツールなど)

表やグラフを多用する場合は、「Microsoft Excel」などの表計算ツールが役に立つ。一般的な表計算ツールでは、現場ごとに作業員のリストを作ったり、業績推移をグラフ化したりすることが可能だ。

また、数値目標を可視化しやすいため、表計算ツールは営業マニュアルや生産マニュアルの作成にも向いている。

3.デザインを多用する場合(スライド用ツールなど)

テキストの装飾やイメージの挿入が多い場合は、「Microsoft PowerPoint」などのスライド用ツールが便利だ。スライド用ツールは目立つテキストや図表を作成しやすく、動画や音声なども簡単に挿入できる。

中でも、作業のプロセスを図解したり、機器の使い方を動画で解説したりするマニュアルでは、スライド用ツールが役に立つだろう。ただし、スライド1枚の大きさは限られるため、情報を詰め込みすぎないように注意したい。

業務マニュアルの効果的な運用方法とは?

業務マニュアルは単に作成するだけではなく、正しい方法で運用する必要がある。ここからは、業務マニュアルの運用時に意識したい3つのポイントを解説する。

1.社内全体に共有する

新しい業務マニュアルを作成したら、社内に向けてきちんと共有する必要がある。場合によっては内容が理解できるように、説明会などを実施することが望ましい。

また、現場の作業員だけではなく、全社的に業務マニュアルを共有すると、有効なフィードバックを得られる可能性が高まる。

2.現場からフィードバックをもらう

業務マニュアルを共有したら、現場の作業員を中心にヒアリングを行いたい。実際のプロセスと乖離していると、形だけのマニュアルになってしまうためだ。

現場からのフィードバックをもとに内容を修正すれば、業務マニュアルの質は着実に上がっていく。最初から完璧なマニュアルを作成することは難しいため、徐々にブラッシュアップすることを前提に運用しよう。

3.定期的に更新する

業務マニュアルの運用から半年~1年が経過したら、内容を見直す機会を設けたい。業界や作業内容によっては、数ヵ月で時代遅れのマニュアルになる可能性があるためだ。

記載されている内容が古いものになると、業務マニュアルの運用効果は薄れてしまう。従業員が迷う機会も増えるため、業務マニュアルはこまめな見直しを実施して、常に最新情報を参照できるようにしておこう。

業務マニュアルの作成に悩まされたら、作成代行サービスやツールの利用も検討しよう

きちんとした業務マニュアルを作成するだけで、企業にはさまざまなメリットが発生する。ただし、効果的なマニュアルの作成はやや難しく、きちんと段階を踏んで作成しなければ、生産性の向上やリスク防止にはつなげられない。

業務マニュアルの作成はどうしても思ったように進まないのであれば、マニュアルの作成サービスやツールを利用する方法もひとつの手だ。なかには、専門的な観点からマニュアル作成を代行してくれるサービスも見受けられるので、業務マニュアルの作成に悩んでいる経営者は、これを機に便利なサービス・ツールの利用を検討してみよう。

文・片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。

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