種々の広告や街頭で寄付を募っている場面を見かけることがある。個人として寄付をすることもあれば、事業者として寄付をすることもあるだろう。事業における寄付金は、通常の経費とは分けて考える必要がある。ここでは、寄付金と交際費の違いや、会計処理のしかた、税務上の注意を見ていこう。
目次
寄付金とは?
寄付金は、金銭、物品その他経済的利益の贈与、または無償の供与のことをさす。金銭を供与する場合はもちろん、価値のある物品を譲渡したり、本来の価値よりも安い金額で役務や商品を提供したり、本来受け取るべきものを受け取らなかったりする場合も寄付となる。
事業活動上で寄付金に注意が必要なのは、会計上の経費とすることができない場合や、税金計算上の経費(「損金」という。)になる範囲に制限がかけられている点である。寄付の本質は、税金への影響を考えてするものではないと考えられるが、正しく理解したうえで行わないと、税務申告額を誤りかねない。
なお、国税庁では「寄付金」ではなく「寄附金」という漢字を用いるが、意味は同じであると考えられる。ここでは「寄付金」と呼ぶことにする。
寄付金の3つの分類!損金算入についても解説
寄付金は寄付をする先によって3つに分類でき、それぞれ損金算入の可否や限度額が異なるので解説する。
分類1. 【指定寄付金等】該当する寄付金と損金算入の可否
国または地方公共団体に対する寄付金と指定寄付金は、寄付した金額がすべて経費となり、法人はすべて損金となる。個人事業主の扱いは後述する。国または地方公共団体に対する寄付金とは、公立高校や公立図書館への寄付などが含まれる。指定寄付金の説明は、国税庁ホームページに以下のように記載されている。
「公益社団法人、公益財団法人公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄附金で、広く一般に募集され、かつ公益性及び緊急性が高いものとして、財務大臣が指定したもの」
具体的には特定の団体や取り組み等に対する寄付金が指定寄付金となる。以下がその例である。
- 日本赤十字社への寄付のうち指定分
- 国立大学法人
- 赤い羽根共同募金
- 東京オリンピックに係る「東京2020寄付金」
- 台風や地震など各種の自然災害により大規模な災害が発生した場合の寄付金
いずれも、寄付金の用途や指定寄付金となる期間が定められているので注意が必要である。
分類2.【特定公益増進法人に対する寄付金】該当する寄付金と損金算入の可否、限度額
特定公益増進法人に対する寄付金とは、国税庁ホームページには以下のような記載がある。
「公共法人等のうち、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものと認められた特定公益増進法人に対する寄付金で、その法人の主たる目的である業務に関連するもの」
具体的には、特定公益増進法人は以下である。
- 独立行政法人
- 地方独立行政法人のうち、一定の業務を主たる目的とするもの
- 自動車安全運転センター
- 日本司法支援センター
- 日本私立学校振興・共済事業団
- 日本赤十字社(指定寄付金以外)
- 公益社団法人
- 公益財団法人
- 学校法人のうち一定のもの
- 社会福祉法人
- 更生保護法人
特定公益増進法人に対する寄付金は、会計上は経費になるが、法人の損金算入は制限されている。損金算入の限度額は以下の計算式で計算する。
(資本金等の額の 0.375%+所得金額の 6.25%)× 1/2
資本金等とは、設立したばかりであれば、資本金と資本準備金の合計となる。その後、損失補てん、自社株式の取得、合併や会社分割、株式交換、資本の払戻し等があった場合には、それらを調整する。所得は、会計上の利益に、税務調整を加えて計算するものである。
計算例は以下である。
資本金1,000万円、資本準備金1,000万円のため、資本金等は2,000万円
税引前当期純利益80万円で、税務調整20万円とした場合、所得は100万円
(2000万円× 0.375%+100万円× 6.25%)× 1/2 = 68,750円
このとき、特定公益増進法人に対する寄付金の損金算入限度額は6万8,750円となる。この限度額を超えた分は、次に説明する一般の寄付金に合算される。
分類3.【その他の寄付金】該当する寄付金と損金算入の可否、限度額
上記を除いた寄付金は、一般の寄付金となる。損金算入限度額は以下の計算式で計算する。
(資本金等の額の0.25%+所得金額の2.5%) × 1/4
先述の例と同じ数値を用いると、資本金等は2,000万円、所得は100万円となるため、
(2,000万円×0.25%+100万円×2.5%) × 1/4 = 18,750円
となる。よって、一般の寄付金の損金算入限度額は1万8,750円となる。この限度額を超えた分は、損金不算入として、所得を増やすこととなる。なお、いずれの寄付金についても、損金にできるのは寄付金を払った年度である。
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寄付金を損金算入できるのはなぜ?
今まで見てきたように、寄付金は特定のものを除くと損金算入が制限されている。というのも、寄付金とはもともと見返りを求めてするものではないため、事業上必要な経費かどうかの判定が難しいものとされているためだ。
これを損金算入してしまうと、寄付をするほど法人税が安くなるため、実質的に税収の一部が寄付されていることになってしまう。これは、同一所得の者は同等の租税負担をすべきという課税の水平的公平という観点などから問題と考えられている。
一方で、事業を円滑に進めるために寄付が有効に働く局面もあると想定でき、寄付金をすべて損金算入しないというのも問題があると考えられる。よって、限度額を設けて、一部については損金算入が可能としたものである。
寄付金を処理する際の注意点
寄付金の処理については、注意が必要なポイントがいくつかあるので、見てみよう。
寄付金と交際費の区別をするポイント
金銭や物品、役務の提供という行為は、接待交際目的で行われることもある。例えば、特定の目的についての協力金や、慶弔による金銭、接待の飲食費を自社ですべて支払う、等である。このとき、寄付金と交際費をどのように区別したらよいのだろうか。
ここでは、会計上の話と、税務上の2つの論点がある。
会計における経費の集計という論点においては、交際費か寄付金かは経営管理上の問題である。すべてを交際費扱いとしたり、すべてを雑費としたりしても問題はない。勘定科目の選択の問題である。ただし、税務上の扱いに合わせる方が分かりやすく、誤りも少なくなるだろう。
税務上においては、寄付金も交際費も損金に上限が設けられている。よって、正しく区別をして把握し、税務申告に用いることが求められる。処理によって税額が変わってくる部分である。
税務上については、国税庁の以下の記載が参考になる。
「交際費等とは、得意先や仕入先その他事業に関係のある者に対する接待、供応、慰安、贈答などの行為のために支出する費用をいいます。寄付金とは、金銭、物品その他経済的利益の贈与又は無償の供与をいいます。一般的に寄付金、拠出金、見舞金などと呼ばれるものは寄付金に含まれます。ただし、これらの名義の支出であっても交際費等、広告宣伝費、福利厚生費などとされるものは寄付金から除かれます。」
つまり、名目よりも実態を見て判断するということだ。ここで、1986年11月29日の国税不服審判所の裁決が参考になる。
「一般に寄付金とは、金銭その他資産の贈与又は経済的な利益の供与のうち、事業の遂行に直接関係のあるもの以外のもの、すなわち、事業の遂行に直接関係ないもの及び事業の遂行との関係が明らかでないもの」
国税庁の記載はこれの裏返しで、交際費等は「得意先や仕入先その他事業に関係のある者に対する」と相手先を限定している。
また、同裁決において「特定の政治団体に対する本件支出金は、請求人の事業遂行に直接関係ないものであるので寄付金に該当する」となっている。これらを勘案すると、相手先が事業に直接関係があり、かつ接待や慰安等を目的としていれば交際費、その他の場合は寄付金、とされる理解でよい。
つまり簡単にまとめると次のようになる。
・寄付金:お金や物品、経済的利益を無償(見返りを求めず)で提供した場合の科目
・(接待)交際費:得意先などの事業に関係する会社や人に見返りを求めてお金や物品、経済的利益を提供した場合の科目
その支出が交際費に該当するのは、次の3つの要件を満たす場合である。
・事業に関係ある相手
・取引の円滑な進行を目的としている
・接待、供応、慰安、贈答、その他これらに類する行為
では、具体例で見てみよう。
例1)事業に関係しない公益社団法人に10万円を寄付した。
公益社団法人は、事業に関係していないため、上記の交際費の要件を満たしておらず「寄付金」で処理をする。そのため仕訳は、次のようになる。
例2)得意先の食事会に参加し、会費1万円を支払った。
得意先の食事会に参加しているため、事業に関係ある相手に対する支出だ。また得意先の食事会への参加は、取引の円滑な進行を目的とした接待の行為と考えられるため、「(接待)交際費」で処理をする。仕訳方法は、次の通りだ。
寄付金と広告宣伝費の区別をするポイント
交際費とともに寄付金と間違いやすい科目として広告宣伝費がある。寄付金は、お金や物品、経済的利益を無償(見返りを求めず)で提供した場合の科目だ。一方で広告宣伝費は、見返りを求める勘定科目となる。
広告宣伝費とは、支出をすることで広告宣伝の効果があり自社の売上増加を促すための費用だ。つまり支出に広告宣伝効果があるかないかで寄付金なのか、広告宣伝費なのかが変わってくる。では、具体例で見ていこう。
例1)広告宣伝目的で店名入りの商品を顧客に配った。商品代金は1万円である。
この場合は、広告宣伝が目的のため、「広告宣伝費」で処理をする。仕訳は、次の通りだ。
例2)地元商店街の夏祭りに対し、協賛金3万円を支払った。
夏祭りの協賛金には、広告宣伝の目的はないと考えられる。また事業の関係者でもなく接待行為ともいえないため、「寄付金」で処理をする。仕訳は、以下の通りだ。
例3)地元の夏祭りが行われるのに際し、パンフレットに社名を印刷した。社名の印刷に2万円がかかった。
例2と同様に夏祭りへの支出だが、このケースでは社名が印刷されていることが重要だ。社名が印刷されているため、広告宣伝が目的と考えられるだろう。そのため「広告宣伝費」で処理をする。このケース以外に、夏祭りの提灯などに社名を入れて街頭に飾る行為なども広告宣伝費だ。そのため仕訳は、次のようになる。
このように支出に広告宣伝の効果があるかどうかで寄付金になるのか、広告宣伝費になるのかが異なるため、注意が必要だ。
消費税はどうなるか
寄付金は、基本的には消費税が課税されない。寄付とは、なにか物品やサービスを購入する対価として払うわけでもなければ、なにかを期待してするものでもないため、消費税の要件の1つである「対価性」を満たさないとされている。
個人事業主は損金算入できない
ある行為が寄付金となった場合、法人と個人とで扱いが異なるので注意が必要である。法人の場合、寄付金などで会計処理をし、税務上は所定の方法で計算して申告することは先述の通りである。
一方、個人事業主の場合は、寄付金を損金に算入するという考え方がない。個人の確定申告において、「寄付金控除」を受けることになる。もちろん個人事業主の経営管理上把握することは差し支えないが、個人事業主は税務ベースで会計処理することが多い。よほどの理由がない限り、寄付金は個人事業主の経費や損金にならない、という認識でよい。
勘定科目の選択に迷う支出の実際の仕訳例
自社の事業内容と支払う先の関係によって、処理が異なることがあるため、例を挙げて説明する。
政治団体へ支払うお金(政治献金、政治家の後援会会費)や神社への寄進はどうするか
どのような事業をしていて、どのような目的で支払うのかがポイントとなる。政治団体と直接関係のある事業をしている場合は、交際費や他の勘定科目となりうるが、そうでない場合は国税庁ホームページの以下の記載に従うものと考えられる。
「次のような事業に直接関係のない者に対する金銭贈与は、原則として寄附金になります。」
(1) 社会事業団体、政治団体に対する拠金
(2) 神社の祭礼等の寄贈金
よって、寄付金となる。例えば、100万円の寄付をした場合の仕訳は、寄付金という勘定科目を用いて以下の通りとなる。
神社への寄進についても営んでいる事業や目的にかかわる部分であるが、よほどでない限りは、上のタックスアンサーの記載に従い、原則として寄付金とするものと考える。
贈与
寄付と似ている行為として贈与がある。寄付も贈与も「見返りを求めない無償の行為」という点では同じだ。では、寄付と贈与はなにが違うのだろうか。寄付と贈与の大きな違いは「公共性があるかどうか」と「契約の行為かどうか」の2つである。
・公共性があるかどうか
一般的に寄付金は、公共性が高い団体などに支出するお金である。一方、贈与の場合は原則個人的なお金のやり取りになることが多い。
・契約の行為かどうか
寄付金は、贈る側の一方的な行為だ。しかし贈与は、贈る側と受け取る側の双方が贈る・受け取ることを認識しておく必要がある。つまり文書の有無にかかわらず贈る側と受け取る側の双方が同意した契約のもとにお金などが贈られる行為が贈与だ。個人が贈与を行った場合は、事業とは関係のない行為のため、仕訳は不要である。
一方、法人から法人へ贈与を行った場合、寄付金として処理し一定の金額を超える場合は経費にならない。これは、法人はあらゆる取引について仕訳をする必要があるといった理由による。
贈与については、いくつかパターンがある。まず、事業者から役員や従業員への贈与の場合は、業務に関して渡すものや継続的に渡すものであれば賞与、そうでなければ寄付金となる。例えば業務目標を達成した社員に、貯蔵品として保有していた1万円の商品券を渡した場合の仕訳は以下のようになる。
法人と法人の間の場合、相手が第三者であれば一般の寄付金となる。グループ会社間で支払われる場合、内容によっては全額が損金にならない寄付金となることもあるので、確認が必要である。
また、法人から個人への低額譲渡も贈与とみなされる。例えば時価よりも低い価格で従業員に会社の資産を売却した場合、時価と売却価格の差額は贈与行為として給与扱いされることもあるため、注意したい。
ふるさと納税
ふるさと納税も一つの寄付の形であろう。個人の場合は、ふるさと納税額のうち2,000円を超えた分が所得税や住民税から控除されるうえ、自治体によっては返礼品がある。
一方、企業型ふるさと納税は、「地方創生応援税制」といい、個人とは扱いが異なる。従来、地方自治体への寄付は全額が損金算入され、寄付金に法人税率をかけた分だけ法人税額が少なくなるものであった。
企業型ふるさと納税では、さらに寄付額の30%を法人地方税から差し引けることになった。これにより法人は、自社事業に関連のある地方産業や地域の活性化に少ない負担で資金を投じることが可能になるものといえる。
法人と個人の寄付金税制の違い
寄付金を支出した場合、法人も個人も税金が低くなるが税制度は大きく異なる。法人が寄付をした場合は、上述した通り寄付金を3つの分類に分けそれぞれに計算した限度額までが損金となる。
一方、個人が支出した寄付金は、原則経費にはならない。寄附金控除(所得控除)もしくは、寄附金特別控除(税額控除)として控除の対象となる。寄附金控除や寄附金特別控除を受けるためには、寄付金控除に関する事項を記載した確定申告書の提出が必要だ。
また確定申告書に寄付先から贈られてくる「寄附金(税額)控除のための書類」や寄付金の領収書などを添付して提出する必要があるので注意したい。もう一つ寄付金で注意したいのが損金や控除の算入時期だ。
法人・個人どちらの場合も損金や控除の対象となるのは、その年(会計期間)の支払済の寄付金のみである。未払いの寄付金は、対象にならないため、注意が必要だ。
社会貢献としての寄付も制度を理解して適切に処理
寄付については、個人と法人の場合や、寄付先によって扱いが異なる。とくに税金計算上は損金算入に制限があるため、通常の経費と扱いが異なることをご理解いただけただろうか。寄付は、事業者の社会貢献の一つであり、見返りを求めてするものではないが、寄付をした際の税務申告を誤らないように、正しく理解しておきたい。
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文・新井良平(バックオフィスLABO代表)