全国金融M&A研究会が主催する「2020年M&Aバンクオブザイヤー」の受賞行を取り上げる企画の第六弾。
日本全国の地域金融機関でM&Aや事業承継を担当されている行員(BANKER)に各行の取り組みや銀行のカラー、地域の事業承継事情など他行への参考になる情報をインタビュー。
第5回目は、最も多くのM&A新規協働受託件数があった提携銀行に授与される「情報開発大賞」を受賞した北海道共創パートナーズのM&A事業部ディールマネージャー谷川 雄輔氏にインタビューした。
北海道における後継者不在問題への取り組み
――M&A、事業承継において特に注力して取り組んでいることがあれば教えてください。
谷川:東京商工リサーチのデータにもありますが、日本国内の「後継者不在率」は地域別のデータで見ると北海道が72.9%と全国1位。国内でも特に後継者問題が深刻化しているエリアです。また、都道府県別のデータで見ても、北海道は5位というデータがあります。
北海道以外の地域では、経営者の家庭にお子さんが生まれたときから帝王学と申しますか、子どもに後継者の自覚をもたせるような教育がいろいろと行われています。北海道は歴史の浅い企業が多く、そういった事情も後継者不在のデータに表れているのかなと感じます。
そこで、北洋銀行では、後継者不在の問題を抱えていらっしゃるお客様に対し、営業店と北洋銀行本部が一体となって事業承継や後継者について、必ずお話をするようにしています。
以前とは環境も変わり、お客様に「第三者承継・M&A」のお話を持ち掛けても、機嫌を損ねることはまずありません。ですので、北洋銀行全体として、銀行本部と営業店が連携して率直にお客様からお話を伺いましょうと、お声掛けを行っております。
お声掛けに対するお客様の反応も、「まず話を聞いてみようかな?」と、入口の段階ではすんなり進めていけている感じはあります。
――お声掛けが営業店の担当者になかなか浸透しないということはありませんか?
谷川:我々は、北洋銀行本部から後継者問題を抱えているお客様をリストアップし、営業店と常に状況を把握するように心がけています。まだ、お声掛けをしていないお客様がいれば、なぜお声掛けをしていないのか、というフィードバックを営業店に日々確認しています。そうやって、もれなくチェックしていると、例えば別のM&A会社にすでに依頼されている、契約されていて、お声掛けできていないということが明らかになります。
我々北洋銀行の職員は約2,800名おり、パート社員も含めると3,000人以上いますので、銀行内の全員にM&Aに対する意識を持たせるにはまだまだ時間がかかると思っています。一刻も早く意識を浸透させるために、北洋銀行本部からお客様に積極的にお声掛けすること、勉強会を開くこと、あるいは日本M&Aセンター様をはじめとしたアライアンスの皆様にご協力をいただきながらセミナーを開催するといったことをしています。
――M&A案件を多く獲得している営業店の特徴を教えてください。
谷川:積極的にお客様のところに足を運び、お客様のニーズや課題をヒアリングしている営業店からのM&A相談は多いです。企業が存在する限り、後継者問題は必ず訪れます。お客様のニーズをいち早くキャッチできる営業店はM&Aに限らず多くの実績を上げていると感じております。
北洋銀行は経営陣を含めて、事業承継のサポートに全力で取り組んでおります。少子高齢化社会に伴い事業承継ニーズが増大する環境下で積極的に動いている支店は当然M&A情報が集まってくるかと思います。
――ホームページからお問合せされるお客様もいますか?
谷川:そういう事例はまだ聞いておりません。北海道ではM&Aの相談先として付き合いのある地方銀行を一番先に思い浮かべる企業は少ないように感じております。ですので、経営者様がもしM&Aを検討されているとしたら、M&Aブティックや専業会社さんの方に相談が行きやすいのかと思います。そういった経営者様の意識を変えるためにも、後継者問題で困ったときには、我々地方銀行をより身近に感じてほしいという気持ちで、お客様にお声掛けをしています。
――北洋銀行の強みを教えてください。
谷川:我々北洋銀行は、もともと都市銀行であった北海道拓殖銀行と地方銀行の札幌銀行から営業譲渡を受けて、一つになった地方銀行です。北海道に限らず全国に店舗展開しておりました。東京商工リサーチのメインバンク調査では、「北洋銀行がメインバンク」と言っていただける企業様が25,000社以上あります。
これは地方銀行の中ではナンバーワンの規模です。我々ができるビジネスの幅が非常に大きいと思います。
新型コロナウイルス感染症による影響
――新型コロナウイルス感染症によって、北海道はどのような影響を受けたのでしょうか?
谷川:北海道の主要産業は一次産業ですが、それに匹敵する産業が観光産業です。数年前から道内ではインバウンド向けホテルが次々と建設されましたが、新型コロナウイルスが流行し、観光客が集まらなくなって非常に深刻な打撃を受けています。
我々M&A業務におきましても、譲受企業、譲渡企業の双方において将来的なビジョンが見えなくなってきたため、なかなかマッチング、成約につながっていないのが現状です。終わりが見えない状況が続いており我々としても非常に苦慮しているところです。
日本M&Aセンターとの連携
――日本M&Aセンターの印象について教えてください。
谷川:日本M&Aセンターさんは譲受企業探しが難しい譲渡案件でもすぐにニーズに基づいたお相手を探しだしてくださるマッチング力の高い企業だと感じております。我々は、道内では譲受先を探しだすことができても、道外となると、やはりマッチングにおいて弱いところがありますので、いつも頼りさせて頂いております。
最近も日本M&Aセンターさんに積極的に営業をかけていただいたおかげで、新型コロナウイルスの影響で資金繰りが悪化し倒産目前の道内の会社がM&Aで救われたケースがありました。
この案件では、お客様から「助かった」というお言葉もいただくことができました。もし、我々だけでお相手探しを行っていたら、早期に相手先が見つからなくて、最悪の場合経営破綻していた可能性もありますので、本当に有難いと思っています。
――ご自身のM&A歴と北海道共創パートナーズ立ち上げの経緯について教えてください。
谷川:私は日本M&Aセンターさんに出向した2017年からが、M&A業務のスタートですので、3年目になります。今年の4月から北海道共創パートナーズに北洋銀行のM&A業務を移管したため銀行から出向し、M&A業務に取り組んでいるところです。それまでは北洋銀行の各営業店で勤務していました。
北海道共創パートナーズは2017年に北洋銀行と日本人材機構との共同出資で立ち上げたコンサル会社で、有償ビジネスを外部専門家に依存せず、お客様と一緒に課題解決を行うことを目的に設立した会社です。2020年4月から北洋銀行の100%子会社となり、M&Aについても、ワンストップサービスを提供するため北海道共創パートナーズに業務を移し、M&A事業部という形で業務を行っています。経営者様のご要望に添ったM&Aサービスを目指し、今後も取り組んで参ります。
――最後に日本M&Aセンターに期待することがありましたら教えてください
谷川:そうですね。強いて申し上げますと、北海道って本当に広いんです。北海道の札幌から道東の根室まで行くとなると東京から京都くらいの距離があるんです。しかも電車だと約7時間くらい移動時間がかかるんです。
我々、北洋銀行はそういった地方エリアからのM&Aニーズにも対応していかなければなりませんが、札幌から出張扱いとなるためスピーディーに対応することが困難なことが多々あります。そこで、例えば、道央や道東に日本M&Aセンター様のサテライトオフィスを構築していただけると、お客様にとっても相談しやすくなり、サービスの向上につながるのではないかと勝手に思ったりしています。