国が推奨する「働き方改革」では、労働環境を抜本的に見直すことが企業に求められている。中でもテレワークの導入は、長時間労働の解消や業務の効率化、多様かつ柔軟な働き方への対応など、働き方改革の実現に大きく貢献する施策と言える。
しかし、正規社員と派遣社員との間で、テレワークに関する格差が生まれていることが問題になっている。テレワークのメリットや導入方法、労働者間の格差を発生させないために気をつけるべきポイントなどについて、理解を深めておこう。
目次
テレワークのメリット
テレワークとは、会社員がオフィスに出勤することなく、自宅など離れた場所でIT技術を活用し、業務を行うことをいう。原則として会社主導で行われる業務形態であり、雇用契約は継続する。必要に応じて、出社を求められることもあるだろう。
テレワークが推奨される背景には、政府が掲げる「一億総活躍社会」を実現させるために、働き方改革を求められていることがある。業務効率化による労働生産性の向上や、労働環境の改善による海外への人材流出防止は、すべての企業における喫緊の課題だ。働き方改革を実現させることで、これらの問題を解消することが期待されている。
企業がテレワークを導入すれば、以下に挙げる効果が期待できる。企業側のメリットを知り、導入を検討する際に役立てよう。
業務効率化による生産性の向上
テレワークでは自宅での作業が多くなることから、予定外の顧客訪問などで仕事を中断されることが少なくなる。オフィスにいる時と比べて、作業に集中しやすくなるだろう。営業職の場合は、モバイル端末を使用したテレワークができる。直行直帰で動けるため、客先への訪問の回数や時間を増やすことができる。
通勤時の心身のストレスから解放され、社員がより健康な状態で働けることも、業務効率化につながる要素の一つと言えるだろう。オフィスの雰囲気自体がストレスを感じる原因となっていた社員は、自宅で快適に業務が行えるようになる。
優秀な人材の離職防止
テレワークの導入により、プライベートの時間をより多く確保できるようになるため、理想的なワークライフバランスを実現できる。「働きやすい環境」と感じる社員が増え、優秀な人材の流出を防ぐことにもつながるだろう。
また、育児や介護などで出社が困難な社員も、自宅で業務を行なえるようになれば、継続して業務に携わることができる。
コストの削減
テレワークを実施することで、オフィスでの労働時間を短縮できるため、光熱費や用紙代などのオフィスコストを削減できる。交通費を支給している場合は、通勤手当も削減できるだろう。
書類の電子化が実現すれば、紙ベースの資料を保管するコストも削減できる。事業規模が大きければ、経理関係の書類などが膨大になることから、大きなコストカットが期待できる。
人材の流出を防げれば、新しい人材を募集する必要がなくなるため、求人にかかる時間やコストも削減できるだろう。
多様な人材の活用
テレワークが機能する業務を増やすことで、遠方に住んでいることや高齢・障がいなどを理由に出勤が困難な人でも、自社の戦力として働いてもらえる。
ノマドワーカーに仕事を依頼すれば、雇用契約を結ばずスポットで働いてもらうこともできる。必要な時のみ仕事を依頼できるスタッフを増やすことは、人件費の削減にもつながる。
非常時における事業継続性の確保
自然災害や感染症が発生し、出社できなくなった社員がいたとしても、テレワーク環境が整っていれば、すぐに自宅勤務体制へシフトできる。交通機関が麻痺しても外出する必要がなく、感染症が流行しても他人との接触を避けられる。
テレワーク環境を含めたITインフラの構築は、状況に左右されない情報共有を可能にするだろう。オフィスから離れた場所にいても、一元化された情報にアクセスできるからだ。
企業のイメージアップ
これまで挙げてきたメリットを前面に押し出せば、働きやすい環境が整っている企業としてイメージアップを図れる。求人の際も、優秀な人材を獲得しやすくなるだろう。
テレワーク導入前の課題
従来のシステムを変えれば、デメリットが生じることもある。テレワークの導入を検討する際は、さまざまな観点から対策を練る必要があるだろう。考えられる主な課題や対策案を紹介する。
テレワークができる業務内容かどうかを確認する
オフィスに出勤せず仕事ができるメリットを理解できても、具体的にどのような流れでテレワークを進めていくかをイメージできていなければ、実際に運用を開始してもうまくいかないだろう。
テレワークの導入を検討する前に、社内の業務をすべて洗い出し、テレワークに向く業務をピックアップした上で、環境整備を行うことが重要だ。また、トップダウンのみで改革を進めていくのではなく、現場のヒアリングを実施し、テレワークを導入することで業務効率が落ちないか確認することも大切である。
テレワークの導入に合わせて、業務環境を変えるのも手だ。シフトを組み、社員が交代で出社する日を決めるだけでも、さまざまなメリットが生まれるはずだ。
セキュリティ対策を含めたインフラの整備が必要
テレワークを機能させるための環境を整備するにあたり、セキュリティ対策は不可欠だ。機密情報や個人情報を社外に持ち出すことも多いため、安全対策に不備があると大きなトラブルが発生するおそれがある。ツールの導入や外注化などにより、きちんとしたセキュリティ対策を講じておかなければならない。
システムの整備だけでなく、社員教育を実施しておくことも重要だ。社員のネットリテラシーが低ければ、どれだけセキュリティ機能が優れていても、情報が漏れてしまう可能性は高くなる。
運用開始後の管理方法を考えておく
テレワークを実施すると、社員がオフィスの外で働くことになるため、勤怠管理が複雑化する。ツールを導入し、遠隔でも社員の勤務状況を適切に管理することが求められる。時間管理型から成果報酬型にシフトし、「決められた仕事を期限内に終わらせれば良い」という仕組みを作るのも一つの方法だろう。
コミュニケーションの取り方に気を配ることも重要だ。報連相がおろそかにならないよう、また社員が自宅で孤立してしまわないよう、管理者が常に注意しながら管理する体制を整える必要がある。
テレワークに役立つITツール
テレワークを効果的に導入するためには、ITインフラの再構築が必要になるだろう。ネットワークを整備した上で、企業側と社員側の端末にテレワーク用のITツールを組み込めば、より良い環境を構築できる。
ビジネスチャットや社内SNSなどのツールも便利だ。多くの企業で導入されている「Chatwork」なら、社内外のコミュニケーションが活性化するほか、ビデオ会議やファイル共有などの機能もあるため、テレワークツールとして手軽に活用できるだろう。
勤怠管理ツールやペーパーレス化ツールの導入もおすすめだ。ペーパーレス化ツールを活用すれば、資料のPDF化や署名の電子化が促進されるため、業務効率の向上に役立つはずだ。
国や都道府県の助成金を活用しよう
テレワークの導入に二の足を踏む企業が多い理由の一つに、ツールや機器の導入に費用がかかることが挙げられる。コスト面が課題になっている場合は、国や自治体の助成金制度を利用してみよう。
経済産業省では、2020年5月から同年12月下旬までを交付申請期間とした、「IT導入補助金2020」という助成金制度を実施している。ITツール導入にかかる費用の一部を補助される制度だ。日本国内の中小企業や小規模事業者を対象とし、指定された業種であれば、1企業あたり最大450万円(助成率2/3以内)の助成金を受け取れる。
働き方改革に関する助成金制度は、社会情勢などを踏まえて毎年のように新設されている。アンテナを張り巡らせて、利用できるものは積極的に活用しよう。
派遣社員にテレワークをさせる際の注意点
国や関係機関は、働き方改革における労働格差の是正や非常時への備えなどの観点から、正規社員だけでなく派遣社員などの非正規社員にも、積極的にテレワークをさせることを推奨している。派遣社員についてテレワークを実施する際は、以下のことに注意しよう。
・原則として、企業と派遣元事業主の間には、労働者派遣契約が締結されている。契約では、就業場所が指定されていることが多いため、テレワークを実施する前に就業場所に関する部分を変更しなければならない場合がある。
・厚生労働省は、派遣元や派遣先が講ずべき措置に関する指針を定めている。この指針では、派遣元や派遣先が派遣労働者の就業場所を定期的に巡回することとしているが、電話やメールなどで就業状況が確認できる場合は、自宅などを巡回する必要はない。
・派遣労働者が自宅でテレワークをする場合、派遣先が労働者の自宅住所を把握すること自体に問題はない。ただし、住所を教えてもらう際は、派遣元を介し労働者本人に使用目的を伝え、同意を得た上で、派遣元または本人から教えてもらう必要がある。
社員全員で業務効率化を図ろう
テレワークを導入すると、業務効率化を図れたり、ワークライフバランスの実現につながったりといった、さまざまなメリットが期待できる。
単に「良さそうだから」「導入企業が増えているから」といった理由で導入するのではなく、自社に合った体制を整えることが重要だ。
派遣社員を抱えている場合も、可能な範囲で積極的にテレワークをさせてみよう。労働者間の格差をなくせば、派遣社員のモチベーションも上がり、より業務の効率化が図れるはずだ。
文・八木真琴(ダリコーポレーション ライター)