伊藤公健
伊藤公健
伊藤公健
株式会社サーチファンド・ジャパン代表取締役 マッキンゼー(東京、フランクフルトオフィス)を経て、ベインキャピタルにてM&A投資および投資先の経営支援に携わる。
その後、日本で初めてのサーチファンドを目指し活動。設立したファンドにより株式会社ヨギーをM&Aし経営をリードした他、中小企業への投資・アドバイザー等を中心に活動。
2020年にサーチファンドの産業化を目指し株式会社サーチファンド・ジャパンを設立、代表取締役に就任。
1979年生まれ。福井県出身。東京大学工学系研究科建築学専攻修了(修士)。
>>株式会社サーチファンドジャパン

サーチファンド(Search Fund)という言葉をご存じだろうか?

サーチファンドとは、個人版M&Aファンドとも呼ばれる企業投資の仕組みの一つ。

一般的なM&Aファンドでは、実績のある運用会社が投資家からまとまった資金(通常、少なくとも数十億円以上)を預かったのち、複数の企業にM&A投資を行う。

一方サーチファンドでは、活動を行う主役は個人だ。経営者を目指す優秀な個人が、有望なM&A候補企業を探す(=サーチ活動)ところから活動がスタートする。サーチ活動の結果、魅力的な企業が見つかったら投資家にプレゼンしM&A資金を調達する。無事、資金を調達しM&Aが実行できたら、自ら経営者として投資先企業の成長に汗を流す。
サーチ活動が先にあることからサーチファンドと呼ばれており、サーチファンド活動を行う個人はサーチャーと呼ばれる。

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簡単な比較図

シンプルに説明したが、実際の仕組みはもう少し工夫されている。

サーチ活動には当然時間がかかる。お金もかかる。したがって、サーチャーはまず投資家に「絶対によい投資先を見つけてきます。だから、まずサーチ活動資金だけ私に投資してください」と、当面のサーチ活動資金(サーチフィー)だけ出資してもらう。
この最初の小さなサーチフィー出資により、実績の浅いサーチャーでもM&Aにチャレンジすることができ、投資家は小さなリスクで優秀な人材と魅力的な投資先にアクセスできる可能性を手に入れることができる。
サーチフィー出資とM&A資金出資、この二段階の資金調達の仕組みがサーチファンドという仕組みのキモである。

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PEファンドとの違い
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プロセス

サーチファンドの歴史

日本ではあまり例のないこの仕組み、実はアメリカでは30年以上歴史がある。起業ではなく、中小企業をM&Aして経営者になるという、新しいアントレプレナーシップの形としてビジネススクール卒業生などを中心に定着してきている。

最初のサーチファンドが生まれたのは1984年にさかのぼる。

スタンフォード・ビジネススクールのH. Irving Grousbeck教授は、「起業を志しているが具体的なアイディアがない」と相談に来た学生とともに、中小企業のM&Aを目指す活動をスタートさせた。

投資家から少額の活動資金のみ調達しM&A候補企業を探してくるというコンセプトは「サーチファンド」と呼ばれ、1984年の誕生以降1~2件/年のペースで新しいサーチファンドが組成されていった。

サーチファンドの組成が活発になり始めるのは1995年頃。これ以降、現在に至るまでサーチファンドの組成は加速度的に増加しており、アメリカではこれまで累計300件以上のサーチファンドが設立されており、そのコンセプトはグローバルに広がりを見せている。

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サーチファンドの設立数の推移

サーチファンド投資の実態と実績

サーチファンドの特徴である、サーチフィー出資やサーチ活動の実態について少し補足しておこう。
伝統的なサーチファンドでは、最大2年間のサーチ活動を前提に、一口200万円×20人の投資家=合計4000万円程度のサーチフィー出資を受ける。4000万円のうち約半分(2000万円/2年)が、サーチャーの報酬として、残りが経費やデューディリジェンス費用として使用される。
最近は、投資家が一人(一社)のパターンや、サーチャーが手弁当でサーチ活動を行うような例も増えてきているようだが、現在に至るまで上記のパターンが主流である。

さて、無事サーチフィーを得て活動スタートしたとして、2年間のサーチ活動の間に良い投資先を見つけられるとは限らない。アメリカのデータでは、組成されたサーチファンドのうち約20%超は投資を実現できずに活動を終了している。
一方M&Aが実現した場合、60%~80%がプラスのリターンを実現しており、リターンの水準は4~6倍と大きな値となっている。

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投資実現のカスケード

日本におけるサーチファンド

私がサーチファンドに出会ったのは2014年。偶然webで「Search Fund」という言葉を見つけたが、当時日本にはほとんど情報がなかった。カタカナで「サーチファンド」と検索した結果が1ページ分しかなく驚いた記憶がある。
当時、中小企業M&Aを志していた私は、日本で初めてのサーチファンド形式のM&Aを目指し活動を始めた。結果、純粋なサーチファンドとは異なる形となったが、中小企業のM&Aを実現し経営に携わることとなった。

その後、サーチファンドという言葉は日本でも普及し、近年はサーチャーを目指す人からの相談も増えている。また、サーチャーを支援する組織も現れ始めている。私もサーチファンドの経験者としてこの波をけん引すべく、日本におけるサーチファンドの産業化を目指し2020年10月に複数企業との合弁事業としてサーチファンド・ジャパンを設立した。

サーチファンドの社会的意義

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サーチファンドという仕組みは、営利目的での投資という側面に加えて、社会的な意義も大きいと考えている。
例えば、事業承継に悩む地域の中堅・中小企業にとって、優秀で意欲あるサーチャーは有力な後継者候補となる。潜在競争力がありながらも、時代に応じて変化する経営スキルに対応できていない企業が、サーチャーによるM&Aを経て花開くことは十分に期待できる。
また人材視点でも、サーチファンドは経営者やリーダー輩出の新しい手段になりえる。起業家タイプではない、既存の事業を改善/成長させることが得意なタイプの人材にとって、時間をかけて出世する以外の新しい経営者への道がサーチファンドである。

このように、日本の中小企業、経営者へのキャリアパス、M&Aの在り方等、多方面に大きなインパクトを与える可能性のあるサーチファンドという新しいM&Aの仕組み。
この連載では、どんな人材がサーチファンドで経営者として活躍しているのか?どんな企業がサーチファンドの投資対象となるのか?日本における普及の課題は?など、私自身の経験や具体例、また調査データを交えて、日本でのサーチファンドの展望を紐解いていきたい。