
投資だけでは終わらない Macbee eightのCVC戦略
起業家としてキャリアを重ね、現在は株式会社Macbee eightの代表取締役としてスタートアップの成長を支援する正田 英之氏。今回のインタビューでは、Macbee PlanetグループのCVCとして設立されたMacbee eightが展開する独自の投資戦略や、CVCとしての実践的な取り組みについて深掘りしました。
彼らが目指すのは、単なる資金提供ではなく、マーケティング支援を通じて投資先とともに成長する“共創型CVC”のあり方。生成AIによって広がる新たなビジネスチャンスや、スタートアップが直面しがちなマーケティング課題への向き合い方、そして正田氏自身の起業家としての経験から投資家へと転身した背景まで。
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正田さんのキャリアについて
ー まずは、これまでのご経歴についてお聞かせいただけますか。
正田氏:私のキャリアは、大学4年生のときに起業したことから始まりました。当時はまだ「スタートアップ」という言葉が今ほど一般的ではなく、自分自身が起業家になるという意識もあまりなかったのですが、「自分で何かを創り上げたい」という想いは強く持っていました。学生時代は、プログラミングを独学で学びつつ、受託開発や他社とのサービス共同開発など、いくつかのビジネスにチャレンジしていました。ただ、自己資本で事業をスケールさせることの難しさを痛感し、「本当に大きなビジョンを実現するには、エンジニアリングの経験が必要だ」と感じるようになりました。
そこで、一度エンジニアとして就職し、約1年半、技術力を磨くことに専念しました。その後、フリーランスとして独立し、東南アジアをはじめ世界各地を転々としながら、次の事業を模索していました。ちょうどその頃、Instagramが急成長していたことに着目し、それを活用したフリマアプリを立ち上げました。これは2度目の起業で、複数のベンチャーキャピタルから資金調達も行い、初めからアメリカ市場向けに展開しました。しかし、想定以上に競争が激しく、結果として撤退・解散を決断することになりました。
ー その後は、どのような方向へ進まれたのでしょうか?
正田氏:起業と失敗を繰り返す中で、再び起業する際にも「大きな事業を作りたい」という思いは変わりませんでした。ただ、2016年前後はスマホアプリの新サービスが一巡し、新たなマーケットが生まれにくい状況にありました。そこで、「次にくる波は何か」と考えた時、当時注目されはじめていたVRに可能性を感じ、再起を図る形で起業しました。
設立当初はVR領域に注力し、とりわけ広告市場に目を向け、VR×広告という切り口でサービス展開を進めました。しかし、VR映像のBtoC市場は思ったように成長せず、事業の方向転換を余儀なくされました。
そんな中、もともと私たちはVR事業で培った強みを持っていたため、そこを活かして「3DCG×広告」をスマートフォン向けに展開するサービスとして『3D AD』を立ち上げました。このサービスは2018年にリリースし、比較的順調に成長。リリースからおよそ3年で年商10億円規模にまで拡大し、その後、売却に至りました。

Macbee Planet参画後の取り組みとCVC設立背景
ーMacbee Planetグループにジョインされてから現在までのご経歴について教えてください。
正田氏:Macbee Planetグループ参画と同時に、Macbee Planetの執行役員に就任いたしました。AlphaとMacbee Planetは、それぞれまったく異なる文化を持った組織です。Macbee Planetは、いわゆる一般的なビジネスパーソンが多い会社である一方、Alphaはエンジニアに最適化されたカルチャーと組織設計をしていたため、最初はそのギャップを強く感じました。
そのため、最初に取り組んだのは「文化の橋渡し」です。具体的には、社内のコミュニケーションツールをSlackに、ドキュメント管理をNotionに変更するなど、Alpha側の文化をMacbee Planetに少しずつなじませるための基盤整備を行いました。また、Alphaでは11時始業という体制だったのですが、それを受け入れてもらうための交渉なども、M&A成立後の約半年間で進めました。その上で、オフィスの統合を行い、本格的なPMI(Post Merger Integration)フェーズに入りました。
当時、Alphaの3D AD事業は順調に成長しており、エンジニアの追加リソースはさほど必要としていませんでした。一方で、Macbee Planet側にはエンジニアリソースを投下することで、さらに成長を加速できるという確信があったため、PMI以降はエンジニアをMacbee Planetに寄せ、同時にテック文化を組織に取り入れることで、全体の成長戦略を描いていきました。
ー現在、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)としての活動もされていますが、その設立の背景と目的について教えてください。
正田氏:もともとMacbee Planetでは、一部のスタートアップ企業に対して個別に出資を行っていましたが、単なる資金提供にとどまらず、出資先と事業連携を図ることで、双方にとってシナジーを生み出すような成功事例がいくつかありました。そうした事例を通じて、「このスキームは非常に良いのではないか」という話になり、より本格的に取り組むために、CVCの機能を組織として明確に切り出すことにしました。
たとえば、あるクリニック系の投資先企業には、出資と同時に当社がアフィリエイトやマーケティングの支援を行う形で伴走させていただきました。事業の立ち上げ初期から我々が関与し、マーケティング支援を通じて投資先企業の成長を後押ししました。その成長とともに、我々に任せていただける広告予算も増え、結果として当社側の事業も大きく拡大することができました。
こうした「出資と伴走支援による相互成長」の成功体験をベースに、CVC機能を体系化したのが「Macbee eight」の設立背景です。
ー Macbee eightに正田さんがアサインされたのは、ご自身が出資を受けたご経験も関係しているのでしょうか?
正田氏:そうですね。自分でゼロから事業を立ち上げた経験があることに加えて、出資を受けた側としての経験や、M&Aによる事業売却の経験もあります。一方で、個人としてエンジェル投資のような形で、スタートアップにいくつか出資をしてきたこともあり、VC業務についても一定の知見を持っているという自負があります。そうした経験が組み合わさって、今回のアサインにつながったのではないかと思っています。
また、起業家にもいろいろなタイプがあると思うのですが、たとえば特定領域に深い専門性を持つタイプと、広く複数の領域に一定の理解がある中でビジネスチャンスを見出していくタイプがいると思っています。私はどちらかというと後者で、特定領域に特化しているわけではないものの、幅広い領域をある程度理解したうえでビジネスを構想するタイプです。
そういった意味でも、さまざまな分野のスタートアップと関わるCVCの仕事には、比較的自分のスタイルがフィットしているのではないかと感じています。
ー Macbee eightを設立されてから、想定通りに進んでいる部分と、逆にご苦労されている点について教えてください。
正田氏:正直なところ、あまり想定通りには進んでいないというのが実感です。現在の課題として感じているのは、CVCとしてMacbee Planetグループとシナジーのあるスタートアップを常に探索しているものの、そのシナジーを具体的に創出するのが想像以上に難しいという点です。
というのも、我々の取引先の多くはBtoC企業なのですが、スタートアップ市場全体を見たときに、BtoCモデルのスタートアップ自体が非常に少なくなってきています。たとえばアメリカの市場でも、BtoCスタートアップの割合はおよそ10%前後と言われており、さらにその中で広告やマーケティング領域で勝負している企業となると、数はごく限られてしまいます。
そのため、そもそもの“母数”が少ないなかで、有望な企業を見つけ、投資し、バリューアップにつなげるというのは、まさに“茨の道”だと感じています。とはいえ、だからこそやりがいもある領域ですし、今後も粘り強く取り組んでいきたいと思っています。

投資判断・戦略と投資先への支援について
ー 貴社の投資判断や戦略について教えていただけますか?
正田氏:当社の投資判断の軸は、大きく二つあります。
1つ目は、どれだけキャピタルゲインを見込めるかという観点です。つまり、投資先がどの程度スケールしうるか、成長ポテンシャルを見極める力が問われる部分です。
2つ目は、Macbee eightとしての事業とのシナジーをどれだけ見込めるか、という点です。一般的なVCと異なり、当社ではこの「シナジー」の部分を特に重視しています。
私たちは、単に出資してエグジットを目指すというスタンスではなく、
「これから成長していく余力のあるスタートアップ」に対して投資を行い、当社のマーケティング支援などハンズオンで伴走することで、より大きな成長へと導き、最終的に大きなIPOにつなげていくという考え方を持っています。我々のマーケティング力を活用することで、実際に事業成長につながるかどうか。そこを重視して投資判断を行っているのが、Macbee eightならではの戦略だと思っています。
ー貴社として、特に強化されている支援領域について教えてください。
正田氏:当社では、投資を実行する前の段階で、弊社のマーケティング支援メンバーと投資候補先のマーケティングチーム、あるいは経営者の方との顔合わせを行い、投資後にどのような支援が可能かをすり合わせた上で投資判断を行うようにしています。
支援内容の中心はマーケティング領域で、特にアフィリエイトの運用や予算型広告の運用においては、我々が“代理店的な立ち位置”で支援に入らせていただく形が主です。ただし、従来の広告代理店とは考え方が大きく異なります。
というのも、一般的な広告代理店は「広告予算を増やせば増やすほど自社の利益が増える」構造にあり、ときにクライアントの成長よりも代理店側の都合が優先されてしまうことも少なくありません。私自身、3D ADの広告プロダクトを展開していた時に、代理店の売り方と自分の価値観にギャップを感じ、「もっとクライアント目線で動くべきではないか」と強く思った経験があります。
一方で我々は、出資を通じてクライアントと同じ方向を向ける関係性を築いているため、「ただ広告予算をもらう」のではなく、「出資先(クライアント)の成長を実現すること」が何よりも重要だと考えています。これが、通常の外注とは大きく異なる点です。
特に注力しているのは、ToC領域のスタートアップにおけるマーケティング支援です。中でも、広告運用によって事業のスケールが見えてきているフェーズの企業に投資・支援を行いたいと考えています。逆に言うと、これからプロダクトを出すような段階で、まだ広告の実績がない会社に対しては、現時点では少し早いと見ています。
ー マーケティング支援において、どのような観点を大切にされていますか?
正田氏:多くの企業は、どうしても表面的な数字で物事を判断してしまいがちだと感じています。たとえば「ユーザー獲得数」をKPIに設定していた場合でも、媒体A・B・Cに広告を出稿して、それぞれ100件ずつユーザーを獲得できたとすると、単純に「すべて同じ成果」と見てしまうケースが多いんです。
しかし実際には、その“100件”は全くイコールではありません。ユーザーの質に大きな差があることもありますし、そもそもユーザーがその広告を意図的に見たのか、たまたま目に入っただけなのか、といった要素も大きく影響します。たとえば、媒体Bでは、ある動画に付いていた広告がたまたま再生されたことで成果としてカウントされてしまう、といったケースもあるんです。
そうした「数字の裏側にあるロジック」まで把握せずに、単に「ユーザー獲得=1件」と捉えてしまうと、正しい評価ができません。だからこそ我々は、その部分にきちんと向き合い、支援先にとって本当に意味のあるマーケティング成果を可視化し、正しく評価できるよう支援したいと考えています。
このギャップは、クライアントや広告代理店側の視点と、媒体や広告プロダクト側の視点の間にある“見えない壁”とも言えます。そして多くの場合、その両方を深く理解しているプレイヤーはなかなかいません。
私は、かつて代理店側の立場に立っていた経験があり、同時に、自社で広告プロダクトをゼロから開発してきた側の立場でもあるので、両方の裏側を理解しています。だからこそ、単なる数字にとどまらない、正しいマーケティングの評価軸を支援先に提供できると考えています。

今後の展望・起業家へのメッセージ
ーMacbee eightとしての今後の展望やビジョンについて教えてください。
正田氏:現在、Macbee eightは成果報酬型の広告市場において、業界No.1のシェアを誇っています。しかしながら、まだ我々が手をつけられていない領域や、これからさらに進化させられる可能性を持った分野が、マーケティング市場の中には無数にあると感じています。
とはいえ、マーケティングという広大な領域を、我々だけの力で網羅するのは現実的ではありません。だからこそ、志を共にするスタートアップの力をお借りしながら、それぞれの強みを活かして新たな市場や価値を共に創っていきたいと考えています。
スタートアップと手を取り合うことで、単なる投資先ではなく、共創パートナーとして一緒に業界を切り拓いていく。そんな関係性を築きながら、Macbee eightとしてもより大きなインパクトを残していきたいと思っています。
ー 現在起業されているスタートアップの皆さま、また起業を検討されている方々へ、ぜひメッセージをお願いします。
正田氏:この10年ほどで、日本のスタートアップシーンは大きく盛り上がってきた一方で、ある種の“飽和感”のようなものも感じ始めています。実際、「これだ」という明確なビジネスチャンスを見出せず、苦労している起業家も多く見てきました。
しかし、近年到来した「生成AIの波」は、これまでにないほどのポテンシャルを秘めていると感じています。これは、まさに今この瞬間が、新しい価値を生み出すための大きな転換点であり、大きなチャンスだと思っています。
BtoB、BtoCを問わず、アメリカのように日本より少し先を走っている市場では、すでに生成AIを活用したスタートアップが次々と誕生し、急成長しています。一方、日本ではまだプレイヤーの数も少なく、競争の余地が大きく残っている状態です。
だからこそ、このタイミングでの起業は、非常に意義があり、大きな可能性を秘めています。ぜひ、恐れずに一歩を踏み出し、成長市場の波に乗ってスケールしていってほしいと思います。私たちも、その挑戦を全力で応援していきたいと考えています。

―正田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!
事業家として、投資家として、そして伴走者として、多くの挑戦と向き合ってきた正田さんのお話には、リアルな経験に裏打ちされた説得力と、起業家への温かいまなざしが溢れていました。
投資とは、単なる資金の提供ではなく、同じ目線で未来を見据え、ともに挑戦する姿勢である。そんなCVCのあるべき姿を、Macbee eightの取り組みから改めて教えていただいた気がします。
正田さん、そしてMacbee eightの今後のさらなるご活躍を、心より楽しみにしております!
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https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfnFCorTy68-4F1otZU4wabpTkpKXsbvAIMlh_YT5fcP3MsWg/viewform
【本記事で紹介させていただいた 株式会社Macbee eight様】
[会社名] 株式会社Macbee eight
[所在地] 東京都渋谷区渋谷3-11-11 IVYイーストビル[URL(親会社Macbee Planet)] https://macbee-planet.com/
[CONTACT] https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfnFCorTy68-4F1otZU4wabpTkpKXsbvAIMlh_YT5fcP3MsWg/viewform
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