
目次
- 自社開発のIoTプラットフォームで異なる通信規格やセンサーのデータを可視化、幅広い分野で活用され技術力への評価を高めた
- バブル崩壊で切り捨てられたフリーランスITエンジニアを救済するために起業 「人を大切にする経営」を目指す
- 礼儀正しく誠実で、ヒューマンスキルの高いエンジニア育成が顧客との信頼関係を高め、事業拡大への原動力となる
- 残業が当たり前の業界で、世の中に先んじて『働き方改革』を実践。意識改革が進み、残業ゼロ、男性の育休取得は100%へ
- クラウド型電子契約システムを導入し、契約書作成・締結業務を1~2週間から2日に大幅改善 アナログ業務の煩わしさから解放
- 管理部門のシステムは、自社開発体制を強化 業務を効率化し、働きやすい職場づくりに磨きをかける
- ホワイト企業認定の最高ランク「プラチナ」を2022年から3年連続で取得。本社には社員が集う社内バーもある
- 「AWS」活用のDX支援事業を本格化 「社会的に高い信頼を得られる企業」への成長を目指す
京都府京都市中京区のオフィス街に本社を置く株式会社ゼネックコミュニケーションは、自社開発のIoT(モノのインターネット)プラットフォームを武器に、企業や社会のDXに貢献するシステム開発会社だ。バブル崩壊で仕事を失ったITエンジニアの救済を目的に1992年に創業した同社は、一貫して「社員ファースト」の経営を実践。働きやすい職場環境の実現を目指す「働き方改革」にもいち早く取り組み、成果を上げてきた企業でもある。自社技術を駆使した管理部門のICT化によって一段の業務負担の軽減を進める一方で「Amazon Web Services (以下、AWS)」を活用した新たなビジネスへの挑戦を始めた。(TOP写真:現場の見える化を実現するIoTプラットフォーム | IoT Station®のホームページ)
※ Amazon Web Services(AWS)は、Amazonグループの企業が提供するクラウドサービスです。
自社開発のIoTプラットフォームで異なる通信規格やセンサーのデータを可視化、幅広い分野で活用され技術力への評価を高めた

ゼネックコミュニケーションは、生産、販売、物流などの業務系システム開発から製品ソフトウェア開発、ネットワークやサーバーの構築・運用管理などで企業や団体、自治体のデジタル化を支援するシステム開発会社である。その中でも、2018年に自社開発したIoTプラットフォーム「IoT Station ® (アイ・オー・ティー・ステーション) 」は、データの 「収集」 「可視化」 「蓄積」 を行い、IoTデータの「活用」「管理」「運用」を低コストで支援するシステムとして高い評価を得ている。
「IoT Station®」は、通信回線やゲートウェイ、IoTセンサーの種類を問わず、様々なデータをクラウド上で見える化し、異なる通信規格とセンサーで収集した全てのデータを1台のダッシュボードに集約・一元管理する。商業施設や工場のエネルギー・温湿度管理や照度、CO₂濃度のリアルタイム監視、インフラ設備の遠隔監視と災害リスク対応、物流資材や車両の位置情報による物流管理などに幅広く使われている。

同ビジネスを統括する執行役員 兼 デジタル データ ソリューション事業本部 本部長 森川氏は、「 IoT Station® は、センサーから取得したあらゆるデータをダッシュボード画面で可視化することが役割で、その現場に人が行く必要がなく、データ収集が困難で危険を伴う場所の確認も可能です。また、センサーの種類を問わずデータ収集ができるほか、後付けしたセンサーにも対応するため、新たにシステムを組む必要がなく、導入コストを大幅に抑えられます」 と、IoT Station® の特徴を説明する。熱中症対策や防災対策など、社会課題となっている分野からも注目されており、ゼネックコミュニケーションの技術力の高さを象徴するシステムとして、同社の成長を牽引してきた。
バブル崩壊で切り捨てられたフリーランスITエンジニアを救済するために起業 「人を大切にする経営」を目指す

ゼネックコミュニケーション 創業者の美馬 芳彦 代表取締役社長は、バブル崩壊後の厳しい時代の中で、建設会社の営業部門に勤めていた当時、多くのフリーランス技術者が不遇な状況に置かれている現実を目の当たりにし、「人を大切にする経営を実現したい」という想いから、1992年11月、京都市下京区にて「有限会社 総合技研サービス」を創業。1994年には大阪支店を開設、1996年には株式会社へと組織変更を行った。
当時の美馬社長は、「コンピューターを扱う専門分野が社会で十分に活かされておらず、社会的地位や報酬も見合っていない」と感じていた。そうした企業をサポートすることで、企業とITエンジニアの間にWin-Winの関係が生まれ、ひいてはIT分野全体の社会的地位向上にもつながると考えていたという。これは、まだIT系の起業が脚光を浴びる前の時代のことだ。
礼儀正しく誠実で、ヒューマンスキルの高いエンジニア育成が顧客との信頼関係を高め、事業拡大への原動力となる

同社の最大の強みは、IoT Station®に代表される高い技術力もさることながら、「礼節を重んじるヒューマンスキルの高い社員たちが築いてきた、お客さまからの信頼にあります」と、執行役員 兼 コーポレート本部 管理部 部長 小笹氏は言い切る。
ITという専門性の高い分野のエンジニアは、かつては寡黙でヒューマンスキルに欠ける人材も少なくなかったという。しかし、それでは 「 お客さまから “パートナー(右腕)” と呼ばれるビジネスを 」 と掲げるゼネックコミュニケーションの経営理念は実現できない。同社は創業以来、「礼儀・礼節」「誠実さ」「ヒューマニティー」の三つを、社員が大切にすべき価値観として掲げ、社内外での人間関係の重要性を訴えてきた。実際のビジネスの場では、エンジニアは顧客のプロジェクトに直接参加する。同じ技術力を持つエンジニアなら人柄の良い人の方が活躍の場も広がるし、顧客の評価も高くなる。その点、ゼネックコミュニケーションのエンジニアは、技術力と同時に人間性を評価されて顧客から好感を持って迎えられており、「お客さまとの良好な人間関係が信頼を生み、それが仕事の継続性につながってきました」(小笹執行役員)と言う。こうした企業風土が大手企業との直接取引を増やし、成長の原動力となった。
残業が当たり前の業界で、世の中に先んじて『働き方改革』を実践。意識改革が進み、残業ゼロ、男性の育休取得は100%へ

ゼネックコミュニケーションは2000年代後半、「働き方改革」が提唱されるずっと前から働きやすい職場環境の実現に取り組んでいる。「人を大切にする経営」という理念から創業しただけに、美馬社長は「働きやすい職場の実現」に強い思いを持ち、結果的には政府の働き方改革に10年以上も先行したことになる。
同社の働き方改革は、残業ゼロはもちろん、出産・育児休業と男性社員の育児休暇取得促進、看護・介護休暇の充実、テレワーク導入やオフィス勤務と併用のハイブリッドワークの実践、短時間・時短勤務制度の導入、有給休暇の取得促進、資格取得支援、キャリアパスの多様化など多岐にわたる。
システム開発を担うエンジニアは残業が当たり前だった業界で、残業ゼロに取り組んだ当初は強い反発もあった。しかし、「それは社員の意識の問題で、今では産休や育休の人がいる場合や特定の人に大きな負荷がかかっているケースでは、社員全員でサポートしていくという意識が定着してきました」(小笹執行役員)。このため、同社の男性社員の育休取得率は希望者の100%に達しており、中には複数回取得者が出るなど、職場で自然に受け入れられている。
こうした意識改革と同時に、専門性を求められる開発現場の属人化を減らすために開発業務のデジタル化、ICT化を進め、エンジニアの負担軽減に取り組んだことも、働き方改革の広がりを後押しした。
クラウド型電子契約システムを導入し、契約書作成・締結業務を1~2週間から2日に大幅改善 アナログ業務の煩わしさから解放

同社は2024年8月、契約書の締結から管理までを一括して行うクラウド型電子契約システムを導入した。ICTを活用して営業業務を効率化するのが狙いだ。開発業務に加えて事務処理業務のデジタル化、ICT化に本格的に取り組む方針だ。
それまでの契約書はすべて紙書類で、大半は郵送して契約を交わしていた。郵送では契約締結まで1~2週間程度の時間がかかっていたが、「今は準備しておけば最短2日で契約を締結できます。システムに乗ってしまえば、管理からも営業からも進捗状況を随時確認できるため、非常に重要な契約締結業務を短時間でスムーズに進めることができるようになりました」 (法務室 富永氏)と、電子契約システムの導入を高く評価する。
従来、契約書は印刷・製本し、1件当たり3種類の書類を2部作成して郵送していた。契約書には1件当たり4,000円の印紙と、同4~600円の郵送費用が必要だった。同社の場合、年間30件以上の契約案件が発生するため、年13万5,000円以上の経費が掛かっていたことになる。
富永氏は、「この経費負担削減に加えて、契約書をデジタル保存できるため、紙の契約書を保存・保管する必要がなくなりました。契約締結業務の迅速化、見える化によって営業担当者や管理部門の業務負担も軽減できました」と、システムの導入メリットを話してくれた。
管理部門のシステムは、自社開発体制を強化 業務を効率化し、働きやすい職場づくりに磨きをかける
管理部門のICT化では現在、労務管理システムの自社開発を進めている。電子契約システムはIT導入補助金を活用して外部からシステムを導入したが、「今後は外部ツールだけでなく自社で開発する体制を強化していきます」(小笹執行役員)として、2025年春に勤怠管理と資格取得に関する労務管理システムを開発、運用を始めた。さらに、有給休暇管理システムを開発中で、労務管理システムと一体化する考え。今後は人事評価系システムと連携するほか、社員のデータベース化を進め、人事・労務管理全体を一体化したシステムとして構築・運用していく計画だ。

日本には「紺屋(こうや)の白袴(しろばかま)」ということわざもあるが、事業が成長し基盤が確立してきたのを受けて、自社の事務管理部門のDX化、ICT化にも本腰を入れ始めたといえる。
ホワイト企業認定の最高ランク「プラチナ」を2022年から3年連続で取得。本社には社員が集う社内バーもある

ゼネックコミュニケーションは、一般社団法人日本次世代企業普及機構(通称・ホワイト財団)が運営するホワイト企業認定の最高ランクである「プラチナ」を2022年から3年連続で取得している。
ホワイト企業認定とは、企業が社員の働きやすさや働きがいを重視し、健全で持続可能な企業活動を実践していることを証明する制度。労働環境や福利厚生、キャリア支援、働き方改革、健康経営など、社員の満足度や幸福度を高めるための企業の取り組みを多岐にわたって評価するが、ゼネックコミュニケーションは、特に働きやすさや福利厚生の充実度において高い評価を受けている。

同社では社内で提供されるコーヒーを無料で利用できるほか、京都の本社には社員同士のコミュニケーションの場となる「社内バー」もある。そこには明るいオフィスでの自由闊達(かったつ)な企業風土がうかがえる。
「AWS」活用のDX支援事業を本格化 「社会的に高い信頼を得られる企業」への成長を目指す
AI(人工知能)の急速な進化もあって、社会のデジタル化は急ピッチで進展している。ゼネックコミュニケーションとしても事業領域の拡大・高度化が見込まれる中で、2025年5月に企業のDXを支援する新たな事業戦略を発表した。新事業戦略は、「AWSサービス&ソリューションby GENECH」と呼び、AWSを活用して、クラウドの導入から運用、活用までを業種や規模に応じた最適な支援サービスを提供するものだ。AWSは世界で最も利用されているクラウドサービスで高い信頼性と柔軟性が評価されている。ゼネックコミュニケーションは、AWSパートナーネットワークから上位のパートナー認定(アドバンストティアサービスパートナー)を取得し、AWS資格を取得しているエンジニアが多数在籍。すでにIoT Station®をAWSクラウド上で運用している実績もある。この技術力と実績を基にAWSを活用したクラウドサービスを本格化し、新たな成長を目指す方針だ。
「これまで磨いてきた技術力と会社方針である “人を大切にする経営 ”にAWSの新事業をプラスし、この三つの掛け算で社会や企業の課題解決に貢献することによって、社会的に高い信頼を得られる企業として成長していきたいと考えています」(小笹執行役員)。ゼネックコミュニケーションは今、先進的なデジタル技術を武器に、社会とともに持続的な成長を果たしていく未来像を描いている。

企業概要
会社名 | 株式会社ゼネックコミュニケーション |
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本社 | 京都府京都市中京区烏丸通御池上る二条殿町552番地 明治安田生命京都ビル |
HP | https://www.genech.co.jp/ |
電話 | 075-211-5533 |
設立 | 1992年11月 |
従業員数 | 173名(2025年6月時点) |
事業内容 | システム開発からインフラ構築、クラウド・IoT導入、DX推進まで幅広く対応。 AWSや自社IoT基盤を活かした先端技術の導入や、公共性の高い分野での実績を強みに、課題解決と業務変革をサポート |