小規模企業共済は、経営者の退職金積み立て以外にも、事業運営に必要な資金調達に利用することもできる。ここでは、小規模企業共済で資金調達として活用できる貸付け制度の詳細や、銀行などの金融機関からの資金調達と比較したメリットやデメリットについても紹介する。
目次
小規模企業共済とは?
小規模企業共済とは、国の機関である中小機構が運営する、小規模企業や個人事業主を対象とした退職金制度である。加入者は、毎月任意に決めた掛け金を中小機構に納めることによって、将来退職や事業を廃業した時に、退職金や年金として受け取ることができる。
小規模企業共済の制度には、3つの利点がある。
まず、小規模企業共済制度で納めた掛金は、「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除できるため、節税に活用できる。
次に、退職や廃業の時点で退職金や年金を受け取る権利が生じるが、いずれも「一括受給」や「分割受給」など、受け取り方法を任意に選択できる。小規模企業共済金の受給タイミングにおける、自身の財政状況を勘案した受け取り方ができるのである。
小規模企業共済の特徴として最後に挙げられるのは、事業運営の資金調達に活用できる「貸付制度」である。
小規模企業共済制度には貸付制度がある
小規模企業共済の貸付制度では、これまで納めた掛金額と掛金を納めた期間に応じて、事業資金を借り入れることができる。
貸付の種類も事業資金が必要な状況に応じて豊富に揃えられており、通常利用される一般貸付制度や、事業継承時の事業継承貸付けなどがある。ただし、貸付けの種類によって、借入の限度額や利率などの設定は異なり、もちろん利点や注意点もある。
小規模企業共済の貸付け制度については、それぞれの貸付け制度の特徴を理解した上で、利用を検討されたい。
小規模企業共済の貸付利率や限度の7つの種類
小規模企業共済制度には7種類の貸付制度がある。以下、それぞれの制度の利率や借入限度額などの詳細を説明する。
なお、いずれの貸付け制度も、掛金と掛金を納付した月数に応じて「掛け金の7割から9割」を借入可能であり、借入限度額は「年2回」設定される。
- 一般貸付制度
- 緊急経営安定貸付け
- 傷病災害時貸付け
- 福祉対応貸付け
- 創業転業時・新規事業展開等貸付け
- 事業承継貸付け
- 廃業準備貸付け
一般貸付制度とは?
一般的によく使われるのがこの「一般貸付制度」であり、2,000万円までを限度として即日借り入れられることが最大の特徴である。
この制度は、通常一時的に金銭が不足した場合に借り入れることを目的としている。
1.一般貸付制度の借入限度額
一般貸付制度で借り入れすることができる金額は、最低10万円から最高で2,000万円であり、5万円単位で借り入れることができる。
2.返済期間や返済方法や利息の支払い方法
返済期間は、借り入れした金額に応じて選択することができる。
100万円以下:6ヵ月、12ヵ月
105万円以上300万円以下:6ヵ月、12ヵ月、24ヵ月
305万円以上500万円以下:6ヵ月、12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月
505万円以上:6ヵ月、12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月、60ヵ月
借り入れた金額の返済方法については、以下のように取り決められている。
返済期間12ヵ月以下:利息は借入時に前払いし、期限の日に一括返済する
返済期間24ヵ月以上:半年おきに元利均等方式(元本返済と利息の合計が一定になるように支払う)で支払う。
3.一般貸付制度の利率
年1.5%。なお延滞利息は14.6%となっている。
緊急経営安定貸付けとは?
経営状況の悪化による売上減少などで、資金繰りが一時的に困難となった場合には、「緊急経営安定貸付け」を利用する事で、経営の安定を図るために事業資金を借り入れることができる。
なお、借入の条件となる売上の減少の判定は、3ヵ月または6ヵ月の期間で行われる。緊急経営安定貸付けの申込みは、判定の最終月の翌月から3ヵ月以内に行わなければならない。
1.緊急経営安定貸付けの借入限度額
緊急経営安定貸付けで借り入れすることができる金額は、最低10万円から最高で1,000万円である。5万円単位で借り入れることができる。
2.返済期間と返済方法、利息の支払い方法
緊急経営安定貸付けの借入金の返済期間は、借入金額に応じて決まる。
500万円以下:36ヵ月
505万円以上:60ヵ月
返済方法方は、半年おきに元利均等方式で支払い、利息は借入時や半年ごとの返済時に前払いする。
3. 緊急経営安定貸付けの利率
年0.9%。なお延滞利息は14.6%となっている。
傷病災害時貸付けとは?
疾病や負傷によって一定期間以上入院した場合や、災害によって被害を受けた場合、「傷病災害時貸付け」を利用する事で、事業資金を借り入れることができる。
1.傷病災害時貸付けの借入限度額
傷病災害時貸付けは、5万円単位で借り入れ可能で、最低10万円から最高で1,000万円である。
ただし、当座資産、流動負債や給与等を元にして計算された金額が1,000万円を超える場合は、その計算額を限度として借り入れることができる。
申し込み期間は、借り入れを行う事由によって異なる。疾病や負傷の場合は入院してから6ヵ月以内、災害の場合は、発生してから6ヵ月以内に申し込まなければならない。
2.返済期間と返済方法、利息の支払い方法
傷病災害時貸付けの借入金額に応じて返済期間が決まる。
500万円以下:36ヵ月
505万円以上:60ヵ月
半年おきに元金均等方式で返済を行う必要があり、利息は、借入時や半年ごとの返済時に前払いする。
3. 傷病災害時貸付けの利率
年0.9%。なお延滞利息は14.6%となっている。
福祉対応貸付けとは?
「福祉対応貸付け」は、契約者本人や同居する両親の福祉のために住宅改造を行った場合や、福祉機器を購入した際に、必要な資金を借り入れることができる制度である。
1.福祉対応貸付けの借入限度額
福祉対応貸付けは、原則、借入可能金額は最低50万円から最高で1,000万円で、5万円単位での借り入れとなる。
申し込み期間は、住宅の改築又は機器類の購入予定日6ヵ月前からとなる。
2.返済期間と返済方法、利息の支払い方法
福祉対応貸付けの借入金額に応じて返済額が決まる。
500万円以下:36ヵ月
505万円以上:60ヵ月
返済は半年おきに元金均等方式で支払い、利息は、借入時や半年ごとの返済時に前払いする。
3. 福祉対応貸付けの利率
年0.9%。なお延滞利息は14.6%となっている。
創業転業時・新規事業展開等貸付けとは?
契約者本人が、転業や事業の多角化をする場合や、後継者が新規開業や事業の多角化をする場合に、必要となる事業資金を借り入れることができる制度である。
ただし、新規開業や転業後に、共済契約を再び結ぶ意思があることも借入の条件となる。
1.創業転業時・新規事業展開等貸付けの借入額
原則、借入金額は最低50万円から最高で1,000万円であり、5万円単位で借入可能である。
転業創業に関わる借り入れならば、転業発生日の1年以内から再び共済契約を行って期間の通算を申し出る時までか、または転業予告日の6ヵ月前から申し込みができる。
新規事業展開などの借り入れの場合は、事業多角化や新規事業を開始などを実施する予定日の6ヵ月前から申し込み可能である。
2.返済期間や返済方法、利息の支払い方法
返済期間は、借入金額に応じて決まり、半年おきに元金均等方式で支払う。
500万円以下:36ヵ月
505万円以上:60ヵ月
利息に関しては、借入時や半年ごとの借入金の返済時に前払いする。
3. 創業転業時・新規事業展開等貸付けの利率
年0.9%。なお延滞利息は14.6%となっている。
事業承継貸付けとは?
事業承継をする場合に、事業用資産や株式等の取得に必要な資金を借り入れることができる制度が「事業承継貸付け」である。
1.事業承継貸付けの借入額
原則、借り入れすることができる金額は最低50万円から最高で1,000万円である。5万円単位で借り入れることができる。
事業承継貸付けは、事業承継予定日の1年前から、または事業承継日から1年以内に申し込み可能である。
2.返済期間や返済方法、利息の支払い方法
返済期間は、借入金額に応じて以下のように定められている。
500万円以下:36ヵ月
505万円以上:60ヵ月
福祉対応貸付けなどと同様に、半年お気に元金均等方式で返済し、利息も借入時や半年ごとの返済時に前払いする。
3.事業承継貸付けの利率
年0.9%。なお延滞利息は14.6%となっている。
廃業準備貸付けとは?
個人事業の廃業や会社の解散を行う場合、それらを行うのに必要な資産の処分、債務の整理等に必要な資金を借り入れることができる制度である。
1.廃業準備貸付けの借入限度額
原則、借り入れすることができる金額は最低50万円から最高で1,000万円である。他の貸付け制度と同様に、5万円単位で借り入れることができる。
廃業準備貸付けの申し込みは、廃業予定の1年前から可能である。
2.借入期間と返済方法、利息の支払い方法
借入期間は12ヵ月と固定されており、元本は一括して返済しなければならない。利息は借入時に前払いする。
3.廃業準備貸付けの利率
年0.9%。なお延滞利息は14.6%となっている。
小規模企業共済の貸付制度のメリット
小規模企業共済の貸し付けについて、掛け金を元にして貸し付けるという性質上、銀行などから借り入れる場合に比べて、以下のようなメリットがある。
低金利である
一番利率の高い「一般貸付制度」でも1.5%で、その他の制度であれば利率は0.9%である。銀行などから通常借り入れる場合に比べて、低い金利に抑えられている。
即日貸付が可能
銀行から事業資金を借り入れには審査が必要なことが多いため、実際に借り入れるまでに時間がかかる。これに対して、小規模企業共済の貸付制度には審査はないため、早ければ申し込んだその日のうちに資金を借り入れることができる。そうでなくとも、2~3日で借り入れができるというメリットがある。
このように当座の資金を今すぐに借り入れたい場合は、小規模企業共済の貸付制度が利用しやすいのだ。
小規模企業共済の貸付制度のデメリット
小規模企業共済には、低金利や即日融資という大きなメリットがあることはご理解いただけたであろうが、デメリットもある。
設定額が低くなることがある
小規模企業共済で貸付けを受けられる金額は、これまでの掛金の支払い額と支払期間で決まってしまうため、支払った掛金額が低い場合や支払期間が短い場合は、借り入れできる金額が低くなる。
小規模企業共済に入ったばかりなどの場合は、事業資金として必要十分な金額を借り入れることができない可能性が高い。
1回の返済額が多い
小規模企業共済の借入金は分割して返済できるケースもあるが、元本については通常一括返済しなければならない。分割返済の場合は半年おきに返済を行うため、銀行などから借り入れる場合に比べて、1回の支払額が高くなる傾向にある。
小規模企業共済の借入金返済にあたっては、資金繰りに十分配慮する必要がある。
文・中川崇(税理士)