厚生労働省がまとめた「平成30年度能力開発基本調査」によると、企業が正社員に対するOFF-JTに支出した費用(平成27 ~29年度)は、「増加した」(25.1%)が「減少した」(5.7%)を19.4ポイント上回った。
今後3年間の支出見込みでも、「増加予定」(36.6%)が「減少予定」(1.6%)を大きく上回っており、企業が社員教育に力を入れていることがわかる。その軸となるのは、「階層別研修」だ。
目次
階層別研修とは?
一般社員と管理職では、果たすべき役割が異なる。新入社員、若手社員、中堅社員、管理職、取締役と階層が上がるにつれて求められる役割は変わっていき、それを果たすために必要な知識やスキルも変わる。
階層別研修の定義
「階層別研修」とは、役職や年齢、勤続年数などの基準で社員を階層に分けて行う社内教育のことだ。代表的なものに、管理職研修や中堅社員研修、新入社員研修などがある。社内研修には、階層別研修の他に「目的別(選抜)研修」などがある。
階層別研修の目的と重要性
「階層別研修」を実施する目的は、対象社員に会社が期待する役割を自覚させ、各階層で必要とされるスキルやマインドを身につけさせることにある。これが自社のビジョンを実現させるための人材を育成することにつながるため、中長期的に人材を育成するためには非常に重要なのだ。
階層別研修の現状
労働市場で超売り手市場が続く中、多くの企業は人手不足に苦しんでいる。この状況を乗り切るために必要なことは、組織を強化して成果を拡大させることだ。それを実現できると考えられているのが、階層別研修である。
現在、ほとんどの企業で階層別研修が行われている。しかし、新入社員研修や新入社員フォロー研修など新人対象の研修は行われているが、それより上の階層を対象とした研修が行われていない企業は少なくない。また、階層別研修が行われている企業でも、さまざまな課題を抱えているところが多い。
企業を取り巻く経営環境が激しく変化する中、それに柔軟に対応するためには、若手社員の育成だけでなく、中堅社員や管理職、役員も戦略的に育成し、企業全体のレベルアップとモチベーションアップを図る必要がある。
階層別研修の具体例5つ
階層別研修には、以下のようなものがある。それぞれの研修の目的や内容を紹介しよう。
1.新入社員研修
新入社員の中には、学生から社会人へと意識が切り替わっていない社員もいる。そのため、社会人としての自覚を持たせるための研修や、社会人としての基礎やマナーを身につけさせる研修が行われることが多い。
新入社員が企業の一員として働くためには、経営方針や企業理念など自社について良く知ることも大切である。これらの研修は一般(総合)研修と呼ばれ、さらに職種別で必要になる知識やスキルの習得を目的とした職種別研修が行われるのが一般的だ。
- 一般(総合)研修
ビジネスマインド研修、ビジネスマナー研修、コミュニケーション研修など - 職種別研修
エンジニア、マーケティング、営業など
2.若手社員研修
若手社員研修は、主に入社2~5年の20代後半の社員を対象として行われる研修である。研修の目的は企業によって異なるが、一般的には若手社員の早期に戦力化することや、与えられた業務を確実に遂行できるようにすること、主体的に業務に取り組めるようになることなどだ。
また自身の業務だけでなく、新人や後輩に対して業務遂行に必要なスキルや知識を指導できるようになることも目的としている。
3.中堅社員研修
中堅社員の定義は企業によって異なるが、入社3年目以上で係長や課長などの役職にない社員を指すことが多い。若手社員に求められるものは与えられた業務を1人で確実に遂行できることだが、中堅社員にはチームリーダーやサブリーダーとして、積極的にメンバーとコミュニケーションを取り、チームの目標達成や業務の効率化を主導することが求められる。
したがって、中堅社員研修では、「中堅社員として求められるリーダーとしての役割を認識する」「上司を補佐してチームの成果を高める」「組織の中核として後輩の指導や支援を行う」などを目的として研修内容が組まれる。
4.管理職研修
管理職研修は、管理職の経験によって研修の目的や内容が変わる。管理職になったばかりの社員を対象にした「新任管理職研修」では、「管理職として必要な心構え」や「部下の管理能力の向上」を研修内容に組み込む必要がある。
新任以外の管理職に対する研修は、部下の管理を含む組織マネジメントや、計画立案・実行といった管理職の役割について再認識させることを目的として行われることが多い。
部長など上級管理職を対象にした研修は、部門経営者として経営層に近い意識を持たせることを目的としている。
5.取締役研修
取締役を対象とした研修は、取締役として必要な法律知識(会社法、労働法、商法、下請法など)や経営分析の仕方、経営戦略や財務戦略の立て方、企業倫理などの内容になることが多い。しかし、取締役研修や管理職研修は、研修を企画して進めることができる人材が社内にいないケースがほとんどである。その場合は社外の機関や講師に相談し、依頼するといいだろう。
階層別研修によって期待できる3つの効果
階層別研修を行うことで、以下のような効果が期待できる。
1.階層別に必要なスキルや知識を身につけさせることができる
階層別研修では、それぞれの階層に必要なスキルや知識を認識させる効果と、スキルや知識を身につけることによるスキルアップが期待できる。また、研修で同じ階層の仲間と学ぶことで、自らの業務からは得られなかった経験や知識を共有することができる。
企業にとっても、それらの経験や知識を集約することができ、今後の人材育成に活かすことができる。
2.意識や自覚が高まり、客観的な自己分析が行えるようになる
階層別研修を受講することで、社員は自らが社内でどの階層に所属しているかを改めて意識するようになる。また、同じ階層の社員とコミュニケーションを取ることで、自らの能力や知識のレベルを客観的に判断できるようになる。
3.人材育成のコストを削減できる
一般的に人材育成には、多額のコストと時間、手間がかかる。階層別研修は研修の目的や内容、進め方を定めやすく、ある程度マニュアル化することもできる。そのため他の人材育成方法に比べると、低コストで行うことができる。
階層別研修の効果を高めるための3つのポイント
上記の効果を高めるためには、以下のポイントに注意する必要がある。階層別研修を企画する際や、研修を行う前には必ず確認するようにしよう。
1.階層別に期待するスキルや役割、人材体系の明確化
研修を行う際は、その目標や目的が明確になっていなければならない。階層別研修を行う際は、階層ごとに期待するスキルや役割を明確にすることが重要だ。階層別研修の受講者には、自らの階層で期待されるスキルや役割だけでなく、人材体系全体のビジョンを示すことで、彼らは将来のキャリアデザインを描きやすくなる。
2.受講する社員やその上司への動機づけ
研修前に、受講者に対して研修の目的や内容を伝え動機づけを行うことは、研修時のモチベーションを高める上で非常に大切だ。それぞれの階層における役割や、企業側からの期待を正しく認識してもらった上で受講してもらうようにしよう。
受講者だけでなくその上司に対しても、研修の内容や目的を理解してもらう必要がある。研修で学んだスキルや知識は、その日にすべてを身につけることは難しい。業務の中で実践することで、はじめてその効果が表れるのだ。業務の中で実践できているかどうかは上司が確認し、評価することで受講者のモチベーションを維持できる。
3.「PDCAサイクル」を取り入れた研修内容
前述のとおり、階層別研修でインプットしたものは、実際の業務の中でアウトプットすることで身につく。研修では現場で実践する目標を立てさせるなど、PDCAサイクルを取り入れた内容にすることが大切だ。上司も受講者とコミュニケーションを取りながら、受講者がうまくPDCAサイクルを回せるように指導すると、さらに効果的だろう。
階層別研修の課題
階層別研修で難しいのは、テーマを決めることだ。研修テーマを決めるためには、中長期的な経営戦略や人事計画の中で、自社にどのようなスキルを持った人材が必要であるかを明確にする必要がある。この人材像が研修の目標となり、その目標を達成するためのテーマやプログラムを考えればいいのだ。
各階層に定められた人材像が、現場に浸透していないという問題もよく見られる。特に上司には研修の目的や内容、研修後の育成方針などをしっかりと伝え、受講者が研修で学んだ内容を実務の中で実践できるよう指導してもらうことが大切だ。
階層別研修を行うためには自社に必要な人材像を明確にする必要がある
階層別研修を行うにあたって最も重要なのは、中長期的な経営戦略や人事計画に沿って、どのような人材が自社に必要かを明確にすることである。この人材像が階層別研修の目標になるので、これが定まっていなければいくら研修を行っても効果を得ることはできない。また各階層別に期待する人材像については、現場と共有することが大切である。
文・THE OWNER編集部