エグゼクティブコーチングとは、CEO・COO・取締役などのエグゼクティブ層や組織全体の変革のために注目されているアプローチの一つである。近年、リーダーシップ開発や組織変革の手法として多くの大手企業で導入されており、経営幹部の意思決定力向上に大きな効果を発揮している。
本記事では、エグゼクティブコーチングの概要や目的、実施の流れや優秀なコーチを選ぶポイントなどについて解説する。

目次
エグゼクティブコーチングとは
エグゼクティブコーチングとは、企業のトップや幹部などを対象に、1対1で行うコーチングである。
優秀なリーダーとして周囲によりよい影響を与えられるよう、エグゼクティブ層の意識や行動変革を行うプログラムで、経営者コーチング、役員コーチングとも呼ばれ、組織のトップが抱える経営課題や人材マネジメントの悩みを解決する専門的なアプローチである。
エグゼクティブコーチングとコンサルティングの違い
コンサルティングは、コンサルタントが企業の現状を分析し、問題や課題の解決を手伝うことが目的である。一方で、エグゼクティブコーチングは、エグゼクティブ自身の気づきを促し、自身で問題や課題を解決できるようサポートすることを目的としている。
エグゼクティブコーチングの目的
エグゼクティブコーチングを行う目的は、エグゼクティブ層にとってよい相談相手を作ることと、経営のプロフェッショナルとしての成長をサポートすることである。エグゼクティブ層は、日々多くの判断や決定をする必要がある。企業のトップに立つ人であっても、ときには判断に迷ったり、難しい選択を迫られたりする場合もある。
エグゼクティブコーチングを行うことで、エグゼクティブ層に相談相手ができる。第三者の客観的な視点でのアドバイスを通して、これまで持っていなかった幅広い視点での判断や決定ができるようになり、経営者としてあるべき姿を振り返る機会を作れるだろう。
近年、エグゼクティブコーチングが増加している背景について、三菱ケミカルホールディングスで役員を務めたコーチ・ジネッツ代表の吉里彰二氏は、以前は、社内の誰もが認める実力を持ち、本人の覚悟も十分になった段階で経営幹部に任命していましたので『育てる』という考えは薄かったと思います。しかし人が減っていく時代に入り、リーダーの候補者は限られ、有力候補が転職してしまうケースも出てきました。そのため、役員候補や新任部長にコーチを付けてリーダーとしての覚悟を持たせ、役割を果たせる人材に鍛えてほしいと考える経営者が増えています」と話す。
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エグゼクティブコーチングの4つの効果

エグゼクティブコーチングの定義や目的、コンサルティングとの違いが理解できたところで、その効果について紹介する。
意思決定の精度を磨ける
企業のトップや幹部クラスなどのエグゼクティブ層は、日々の判断や決定を自身の価値観や経験をもとに実施する。エグゼクティブコーチングによって第三者の客観的な視点を取り入れることで、一つひとつの問題に多面的な角度から対処できるようになるだろう。
また、エグゼクティブ層は立場ゆえの孤独感を抱えているケースが多い。相談相手がいることで精神的な安定にもつながる。それ以外にも、市場予測が困難なVUCAの時代に、事業を成長させ続ける「次の打ち手」を考えるヒントにもなるだろう。特に、戦略的思考力や判断力の向上は、企業の業績向上に直接的な影響を与える重要な要素である。
次世代の経営幹部が育成できる
まずは、コーチ自身のビジネス経験を確認しよう。職歴も大切であるが、過去の経験を通じてどのような知見を得たのか、困難に直面した際にどのように乗り超えてきたのかが、何より大切なポイントである。経営に関する知識や経験を持っていると、より経営者視点のアドバイスがもらえるだろう。特に、業界経験や同規模企業での実績があるコーチは、具体的で実践的な提案ができる傾向にある。
積水化学では経営幹部候補の抜擢・育成強化を推進するために、経営者候補を特定したり、育成方針を議論し決定する会議体となる「人材コミッティ」を設置し、経営戦略の実現に必要な役割を適切に管理し、それを担う人材と後継者が継続的に育成されている状態を目指している。その中で、管理職層であるG1層にはエグゼクティブコーチングを実施することで、「新規事業の創出(探索)」と「現有事業の着実な成長と磨き上げ(変革)」を推進する「“両利き”のビジネスリーダー」の育成に取り組んでいる。
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組織全体に好影響をもたらす
エグゼクティブコーチングは、組織に対して大きな影響力を持つエグゼクティブ自身が抱える課題に気づくきっかけになる。自身の課題を見つめ直し、意識改革や行動を起こすことで、従業員や部下など組織全体の風土改革につながるだろう。
特に、これまで従業員や自分以外の人に問題の原因を求めていたエグゼクティブに効果的である。自身のあり方を改めることで、組織全体に好影響を与えられる。
マネジメントスキルが向上する
エグゼクティブコーチングでは、コーチから会話の引き出し方や質問の投げ方を自然に学べるため、コミュニケーションスキルが上がる。エグゼクティブが従業員との接し方を変えることでマネジメントの質が高まり、両者の関係性も改善につながるだろう。エグゼクティブコーチングの実施によって、社内の雰囲気がよくなることも期待できる。
中途入社後の活躍を促進する
中途入社したCxO・取締役などのエグゼクティブ層にエグゼクティブコーチングを実施することで、マインドセットを変化させ、会社や業界にいち早くアジャストしてもらい、早期活躍を引き出すことができる。
人材紹介会社アクシスコンサルティング法人営業本部の橋爪智也副本部長は「CxO人材や変革を推進する人材を採用できたとしても、早期に離職したり入社後に活躍できないと社内外に与えるインパクトが非常に大きいため、能力を十分に発揮してもらうためのサポート体制を強化する企業が増えています」と話す。
同社は、こうした企業を支援するためにコーチングサービスのシンクワイアと提携し、アクシスコンサルティング経由の中途入社者に対するエグゼクティブ・コーチングの提供しているが、近年、入社後の活躍を促進するオンボーディングを強化する企業が増えており、事業や組織を変革させるために異なる業界の出身者を採用する企業が多くなってきたことも理由の一つだ。
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エグゼクティブコーチングの流れ

エグゼクティブコーチングは、一般的に「現状の把握」「1対1のセッション」「振り返り」の流れで行う。各ステップで行う具体的な内容についてみていこう。
現状のヒアリングや目的の共有
コーチ選任後は、実際にエグゼクティブとコーチで話し合いの場を持ち、コーチングの目的や現状の課題などの共有を行う。最初は、お互いに信頼関係を築くことが大切である。エグゼクティブは自身の意志をコーチへしっかり伝えて、ゴールや進め方についてすり合わせよう。
なお、コーチングで扱うテーマはエグゼクティブが提示し、合意することが一般的である。
定期的な1on1セッション
エグゼクティブコーチングは、エグゼクティブとコーチの1対1で実施する。振り返りや評価をしやすくするため、月1回くらいの定期的なペースで、3カ月から1年間程度の期間をかけて実施することが一般的である。
ここで挙げたペースや期間はあくまでも一般的なものであるので、双方で話し合い、事前に決めておくとよい。
振り返り
エグゼクティブコーチング終了後は、成果の確認と振り返りを行う。成果の確認と振り返りを行い、設定したゴールに未達であれば、原因を確認し継続的に改善を目指そう。ゴールを達成できた場合でも、意識だけでなく行動が変化しているかどうかを定期的に振り返ることが大切である。
なお、エグゼクティブコーチングを依頼した会社が、レポートを作成してくれることもあるため、確認するとよい。
エグゼクティブコーチングの外注費用相場
一般的なエグゼクティブコーチングの料金相場は、1回あたり5〜10万円程度である。依頼先によっては、この金額よりも高い費用がかかる場合もあるだろう。エグゼクティブを対象としているため、コーチのレベルが高く、通常のコーチングより料金は高水準である。
なお、一般的にエグゼクティブコーチングは、1回60〜90分ほど、月1回くらいの定期的なペースで、期間は3カ月から1年間程度で実施する。1回あたりの時間や実施ペース、継続期間によっても費用は変動するだろう。コーチとの相性を確認するため、体験セッションを設けている会社も多いため、利用してみるのが推奨される。
エグゼクティブコーチを選ぶポイント

エグゼクティブコーチを選ぶ際は、コーチのビジネス経験のほか、フォロー体制などに着目することが推奨される。コーチを選定する際に参考にしてほしい。
ビジネス経験が豊富かどうか
まずは、コーチ自身のビジネス経験を確認しよう。職歴も大切であるが、過去の経験を通じてどのような知見を得たのか、困難に直面した際にどのように乗り超えてきたのかが、何より大切なポイントである。経営に関する知識や経験を持っていると、より経営者視点のアドバイスがもらえるだろう。
また、コーチとの相性も大切である。どのようなアドバイスをもらいたいのか、何を目的にコーチングを受けたいのかを基準に、合うコーチを見つけるのもよいだろう。
資格や職歴を重視しすぎない
コーチの中には、国際コーチング連盟が発行している資格を保有する人も多くいる。選定する際に、コーチングの資格やコーチとしての経歴を重視してしまいがちである。しかし、いくら華々しい資格や経歴があっても、傾聴力がなく、一方的なアドバイスを行うコーチであれば、クライアントを導くことはできないだろう。
エグゼクティブコーチングを依頼する際、必ずしもコーチとして業界のエキスパートであったり年上であったりする必要はない。資格や職歴だけでなく、人柄や熱意、深い学びをサポートしてくれる姿勢があるかどうかなどを考慮し、コーチを選ぼう。
フォロー体制があるかどうか
エグゼクティブコーチングを成功させるには、フォローアップが大切である。コーチング実施後の振り返りや、具体的な行動まで落とし込めているか、それが定着しているか、結果にきちんとつながっているかなどを確認する必要がある。コーチに正式に依頼する前に、指標となる計画を立ててくれるか、どのようなフォローアップがあるか、必ず確認しよう。
エグゼクティブコーチングには相性がよく優秀なコーチを選ぼう
エグゼクティブコーチングは、企業のトップや幹部を対象に、エグゼクティブ自身の気づきを促し、自身で問題や課題が解決できるようサポートするものである。経営者の能力開発を通じて、組織全体のパフォーマンス向上や企業価値の創造につながる重要な人材投資といえる。エグゼクティブの変革は、組織全体の変革にもつながる。
また、コーチを選ぶ際は、コーチとしての資格や経歴だけでなく、ビジネス経験や人柄、熱意などに注目しよう。フォロー体制も重要なポイントであり、お互いの相性もあるため、事前に体験してみることが推奨される。適切なエグゼクティブコーチとの出会いは、経営者としての成長はもちろん、組織の持続的発展にも大きく寄与するだろう。
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