【まきチャレ2024記念インタビュー|Neuropilot】VR技術を活用した没入型メンタル・ヘルスケア・ソリューションとは

2024年10月、第3回となる牧之原市チャレンジビジネスコンテスト(以下、まきチャレ2024)が開催されました。2022年に始まった本事業は、静岡県牧之原市の「産業資源」と「観光資源」を活用し、自らの事業を地域と共に発展させる画期的なアイデアを全世界のスタートアップ企業から募集し、評価するビジネスコンテストです。

今年の静岡ベンチャースタートアップ協会賞を受賞したNeuropilot社は、独自の技術でメンタルヘルスケアサービスを展開するジョージアを拠点とするスタートアップであり、まきチャレではVR技術を利用した没入療法型ソリューションが審査員に高く評価されました。

今回のインタビューでは、Neuropilot社のCEO、Tini Mamuchashvili氏に同社のVR技術を活用した革新的なプロジェクト「Neuropilot VR」、まきチャレ2024での発表内容、牧之原市の地域産業とのコラボレーション等についてお話を伺いました。

※本記事は、株式会社CFスタートアップパートナーズが運営する「CVC投資戦略研究所」のマンスリーレポート3月号に掲載された内容を、当メディアにて転載しております。また、当メディア向けに一部編集を行っております。

起業の背景とNeuropilotの概要

ー本日はお時間をいただきありがとうございます。
よろしくお願いします。

ーまず最初に、ご自身について、またNeuropilot社の起業に至った経緯について教えていただけますか?

まず、NeuropilotのCEO兼共同設立者である私自身についてお話しする前に、Neuropilotの設立者であり最高科学責任者(CSO)であるMaiaについてご紹介したいと思います。彼女は心理学、心理療法、メンタルヘルス分野の研究者としてのバックグラウンドを持っています。長年に渡ってアスリートや専門家、不安やストレスに関連する障害に悩む人々とともに働き、TDTとも呼ばれる欲求療法(The Desire Therapy)を開発しました。そのためNeuropilotの全てのサービスは、感情を調整し、利用者の幸福感を向上させるために考案された、心的イメージに基づくセラピーであるTDTの方法論に基づいています。科学と心理学のバックグラウンドを持つMaiaと、スタートアップ、ビジネス開発、エコシステム構築の経験を持つ私が、お互いの能力とスキルを融合させることでNeuropilotの設立に至りました。

プレ・アクセラレータープログラムを経て、私たちはジョージア・イノベーション&テクノロジー庁の助成金を2回獲得しました。そのうちひとつはプロトタイプ助成金で、もうひとつはマッチング助成金でした。NeuroPilot VRのアイデアは、従来の治療法が高価であったり数週間から数ヶ月の長い待ち時間を必要としたりすることへの気づきから生まれたものです。そこで私たちは、アクセスしやすく、スピーディーで、いつでもどこでも使えるメンタルヘルス・ソリューションを作ることを目標にしました。これらの助成金は、MVP(minimum viable product:実用最小限の製品)の開発におおいに役立ちました。最終的に、TDTとVR技術を組み合わせることで、わずか5分の没入型セッションでユーザーが感情のバランスを取り戻し、不安を軽減できる革新的なアプローチを開発することができたのです。

ー独自の理論と技術を組み合わせたソリューションにとても魅力を感じました!Neuropilot社の製品や取り組み、モチベーションについて詳しく教えてください。

NeuroPilot VRはバーチャルリアリティ技術をベースとした、エビデンスに基づくデジタルヘルスプラットフォームです。このサービスは、没入型のVR体験を通じてストレス軽減を提供するようにデザインされています。その上、私たちの製品は長年の心理学的研究に基づいており、プロのスポーツ選手やCEO、病院患者を対象にテストした結果、長期にわたる感情調節の効果が実証されています。

私たちのコミットメントは、メンタルヘルスケアをより利用しやすく、効率的でパーソナライズされたものにすることです。テクノロジーを活用することで、科学的研究と現実的なメンタルヘルス・ソリューションをつなげることを目指しています。精神疾患と診断された後でも自分が精神疾患であることをなかなか受け入れられない人々は、治療に対する抵抗感を持っています。そこで、従来のメンタルヘルス治療にありがちな偏見や障壁を打ちこわし、個人が最先端の非侵襲的治療ツールから恩恵を受けやすいようにするのが私たちの目標です。VR技術を通じて、ユーザーの健康を確保しながら、この療法を試すことに自信を持てるようにすることを目指しています。

ーメンタルヘルスケアに誰もがアクセスできるようにするという素晴らしい目標を掲げているのですね。NeuropilotのVRセラピーがどのように機能するか説明していただけますか?

Neuropilot VRのプロセスは非常にシンプルです。各セラピー・セッションは5分間の没入体験で、構造化されたメンタル・イメージを通してユーザーをガイドします。ユーザーはまず、ウェブサイトでアカウントを作成し、不安アセスメントを行います。このテストでは、利用者の不安レベルが低いか、中程度か、高いかを判断します。重要なのは、利用者によっては身体的症状がなくても不安を感じることがあるということです。

アセスメントの後、ユーザーはVRヘッドセットを使った没入型アニメーションのセッションに参加します。この5分間の体験は、TDTの方法論に従っています。ユーザーがヘッドセットを外すと、セッションは終了します。そして再び、自分のアカウントでテストに回答し、どのように感じたか、セッションの全体的な感想を確認します。

私たちの科学的研究とユーザーからのフィードバックによると、Neuropilot VRを使用してから数分以内に不安が軽減されることが分かっています。この精神状態の改善は通常、数週間から数ヶ月間持続します。最初の5分間のセッションの後、ユーザーはスケジュールに従って、2~3日ごとに新しいセッションを受けます。これらのフォローアップ・セッションは、TDTの方法論に基づいたゲーム感覚アニメーションを特徴としています。

【まきチャレ2024記念インタビュー|Neuropilot】VR技術を活用した没入型メンタル・ヘルスケア・ソリューションとは

ー従来のメンタルヘルス治療と比較した場合のNeuroPilot VRの特徴を教えてください。

Neuropilotが従来のメンタルヘルス治療と異なる点はいくつかあります。第一に、スピードと効率性です。従来の治療法では、結果が出るまでに数週間から数ヶ月かかることが多いのですが、Neuropilot VRでは、わずか5分で目に見える緩和が得られます。第二に、科学的検証です。私たちの方法は、不安の軽減と感情調節の強化における有効性を証明するQEG脳波研究と科学的試験によって裏付けられています。第三に、非侵襲的で誰でも利用できることです。例えば、既存の薬物療法や集中的なセラピー・セッションとは異なり、私たちのソリューションは使いやすく、処方箋を必要とせず、どこからでもアクセスできます。

また、このソリューションは高いパフォーマンスを発揮する個人のためにデザインされています。私たちは、プロフェッショナル、アスリート、高ストレス労働者など、日常生活に支障をきたすことなく、迅速で効果的なメンタルケアサポートを特に必要とする人たちの支援を専門としています。例えばスポーツ業界では、アスリートは常に安定した、逆境に強い人間でなければならないというプレッシャーを感じています。しかし実際には、アスリートはキャリアを通じて600以上の精神的ストレスに直面しています。そこで私たちは、アスリートが精神的な障壁を克服できるよう、まずこの分野からスタートしたのです。この成功により、私たちは上級管理職や経営者などの高パフォーマンス労働者にも顧客を拡大することになりました。

ー貴社の技術は、既存の医療システムや診療行為とどのように統合されるのですか?

Neuropilot VRは、エビデンスに基づいた拡張性のある療法を提供することで、既存のメンタルヘルス・ウェルネスやパフォーマンスの向上プログラムを補完するように設計されています。私たちの技術は次のような方法で統合されます。第一に、企業の福利厚生プログラムでは、プレッシャーのかかる職場環境におけるストレス管理や生産性向上のツールとして利用されています。

第二に、スポーツ心理学やパフォーマンス・トレーニングについて述べたように、集中力、耐久性、回復力を高めるためにスポーツ選手のメンタルヘルス調整に応用されています。繰り返しになりますが、私たちのセッションはすべてqEEG*試験によって証明されています。つまり、Neuropilotがスポーツ選手の集中力、回復力、新しいスタイルへの挑戦に役立つことが科学的研究によって検証されているのです。

さらに、私たちの臨床メンタルヘルスのサポートは、従来の心理療法やカウンセリングを受ける患者の準備または補完的なツールとして機能します。Neuropilotは、既存のデジタルヘルスプラットフォームや遠隔医療ソリューションと統合し、遠隔地からのメンタルヘルスケアアクセスを提供することができるのが強みです。

要するにNeuropilotは、伝統的なセラピーに取って代わるものではなく、先進的かつアクセスしやすい科学的に承認された方法で、迅速に情緒的安定性や抑制、精神的回復力を高めることのできる補完的なツールなのです。

*qEEG=脳波パターンという形で電気的活動を測定し、あなたの脳がどのようにコミュニケーションしているかを教えてくれる診断ツール。
【まきチャレ2024記念インタビュー|Neuropilot】VR技術を活用した没入型メンタル・ヘルスケア・ソリューションとは

まきチャレ2024におけるNeuropilot

ーまきチャレに参加を決めたきっかけについて教えてください。

先ほど申し上げたように、NeuropilotはVR技術をベースとした不安治療と感情調整技術を通じて、メンタルウェルネスに革命を起こすことに専念しています。2024年には、昨年初めて東京で開催されたCFSオープンイノベーション・ピッチに参加しました。そのコンテストで3位に入賞し、私たちの事業が日本市場で認知されることになりました。

同年、私たちはまきチャレについてお聞きし、私たちの技術を日本のユーザーや潜在的な顧客に紹介する素晴らしい機会だと捉えて参加を決めました。また、地域活性化、技術革新、産業連携に重点を置いたこのビジネスコンテストは、私たちのミッションと完璧に合致しており、Neuropilotにとってまきチャレへの参加は当然の帰結でした。

ーまきチャレでの提案内容についてお聞かせください。

私たちの提案は主に、Neuropilot VRの最先端メンタル・ウェルネス・ソリューションを活用して、アスリート、企業プロフェッショナル、現場で働く労働者など、高いパフォーマンスを発揮する人々をサポートすることに重点を置いています。私たちは、臨床や専門的な場面で長期的な不安の軽減を実証してきた私たち独自のメソッド、TDT(欲求療法)に基づく5分間の没入型VRセラピーを紹介しました。その目的は、このソリューションを日本企業の福利厚生プログラム、スポーツ産業、ヘルスケア事業に統合し、エビデンスに基づく効率的なメンタルヘルス支援を提供することでした。

また、CFSオープンイノベーション・ピッチ2024とまきチャレ2024の前に、ジョージア・イノベーション&テクノロジー庁と在日ジョージア大使館が主催するGeorgian Innovation Day in Tokyoに参加するために東京を訪れました。これが私たちの最初の訪日でした。私は、ジョージアから来た3つの主要なスタートアップの一員として日本のステークホルダーと有意義なミーティングを行い、日本が魅力的な潜在的市場であることを認識しました。その経験が原動力となり、日本における事業展開に向けてより積極的に活動するようになりました。

【まきチャレ2024記念インタビュー|Neuropilot】VR技術を活用した没入型メンタル・ヘルスケア・ソリューションとは

ー牧之原市ひいては日本で事業を行うことで、どのようなメリットがあるのでしょうか?

技術革新と持続可能な地域開発に取り組むことで、牧之原市はNeuropilot VRにとって理想的な実験拠点となるでしょう。牧之原市は現在、技術開発に力を入れており、Neuropilotを導入するには理想的な場所です。また日本は、メンタルヘルスの啓発、企業の福利厚生、スポーツのパフォーマンス向上に多額の投資を行っていることから、事業拡大の市場として特に有望です。この国の先進的な技術インフラ、バーチャルリアリティの高い普及率、メンタルヘルスを重視する姿勢は、私たちのソリューションと完全に合致しています。また、現地の医療機関、研究センター、企業パートナーと協力し、日本のユーザー向けに当社の製品をカスタマイズする機会もたくさんあると考えています。

ーまきチャレの中で直面した具体的な課題と、それをどのように克服されたかについてお聞かせください。

最も大きな挑戦のひとつは、日本の文化やビジネスの状況に合うように私たちの提案を適応させることでした。どの国にも、メンタルヘルスと文化との間には特別な関係があります。Neuropilotは様々な国際市場で成功を収めていますが、私たちは日本のビジネス価値観に合うようにメッセージを洗練させなければなりませんでした。

そこで、市場調査を行い、日本に住む友人や知り合いに声をかけ、現地の専門家と関わり、Neuropilot VRが日本の既存の福利厚生プログラムにいかにシームレスに統合できるかを検討しました。その点を強調する形でプレゼンテーションを調整したことで、文化の違いによる課題を克服することができました。さらにまきチャレでは、主催者とメンターが、日本市場向けに私たちのビジネスプランを調整するために多くの手助けをしてくれました。

ーメンタルヘルス・クリニックやセラピーが他の国ほど広く受け入れられていない日本では、独自の文化に合わせて事業を調整するのは難しかったのではないでしょうか?

確かに、私達にとって日本での事業展開は容易ではありませんでした。だからこそ、牧之原市や日本にあるネットワークやパートナーが非常に重要だと考えています。ありがたいことに、彼らはマーケティングや事業説明、あるいはセッションの中で、言葉遣いや言い回しを差別化する手助けをしてくれました。

ーNeuropilotの長期的なビジョンを教えてください。

私たちは、Neuropilot VRをデジタルメンタルヘルスソリューションの世界的リーダーとして確立し、アクセスしやすく、負担の少ない方法で、効果的なメンタルウェルネス・ツールという新たな基準を生み出すという高いビジョンを持っています。スポーツや企業の福利厚生だけでなく、より広範なヘルスケアの応用事業への拡大を計っており、クリニック、リハビリセンター、メンタルヘルス専門家と協力し、拡張性の高いエビデンスに基づく不安やストレスの管理ソリューションを提供することを目指しています。

私たちは、VRヘッドセットが現在のスマートフォンのように一般家庭に普及する未来に備えています。この予測が現実となり、誰もがVRゴーグルやヘッドセットを持つようになった未来では、私たちはより多くの人にストレスフリーで生きることを可能にするメンタルヘルス・ソリューションを提供することができると考えています。

ーまきチャレでの受賞を受けて、貴社は国内外市場においてどのような成長を遂げられるとお考えですか?日本市場における潜在的なパートナーを見つけることができましたか?

今回のまきチャレでの受賞は、日本および国際市場における私たちの潜在能力を強化するものです。私たちは、日本をアジアのデジタルヘルス市場への戦略的な入口と見なしており、この機会を通じて、Neuropilot VRを彼らのエコシステムに統合することに関心を持つ潜在的なパートナー、投資家、業界専門家と関わることができました。

今年の終わりまでには、日本市場への進出について大きな進展があることを期待しています。まきチャレのような機会は、日本の企業、スポーツ団体、インキュベーションセンター、医療機関との協力を確保するための重要なステップであり、私たちが地域的にも世界的にも規模を拡大するのに役立ちます。

さらに、私たちは日本と同時にヨーロッパでもさまざまなプログラムやスタートアップ・コンテスト、スタートアップ・プログラムに参加しています。例えば、私たちはベルギーのプログラムに参加し、最終選考に残りました。何度もブリュッセルを訪れ、ヨーロッパ市場に挑戦し続けると同時に、研究のベースラインを強化しています。

ーまきチャレに参加し、静岡ベンチャースタートアップ協会賞を受賞した後の日本での今後の計画を教えてください。

まきチャレでの受賞を機に、戦略的に日本市場向けに製品をローカライズしていく予定です。その中には、VRコンテンツを日本のユーザーにより適したものに翻訳することも含まれています。私は大学で4年間、日本語を勉強していました。この努力と知識が、偶然にも私のキャリアに役立ったのです。

また、日本のアスリートや企業チームを対象に研究を行い、私たちのPoC(概念実証)がどのように機能するかを確認します。特に日本市場に対する私たちの有効性を実証し、Neuropilotを日本のメンタルウェルネスプログラムに統合するため、現地の機関とのパートナーシップを強化する予定です。

【まきチャレ2024記念インタビュー|Neuropilot】VR技術を活用した没入型メンタル・ヘルスケア・ソリューションとは

ーNeuropilot VRは、世界中の誰もがアクセス可能で効率的な優れたサービスであり、まきチャレなどを通して日本市場への参入を積極的に行っていることがわかりました。Neuropilotの今後の日本のみならず、世界での発展をお祈りしております。改めて、今回はインタビューの機会をいただきありがとうございました!


〈企業概要〉
【会社名】Neuropilot
【URL】 https://www.neuropilot.org/
【設立日】2021年
【所在地】トビリシ(ジョージア)
【代表者】Maia Tskitishvili