CSV経営
(画像=ESB Professional/Shutterstock.com)

時代の変化に伴って、社会問題解決への取り組みを行う企業が大きな注目を集めてきた。そのような中、社会的な価値と自社の利益を両立した「CSV経営」も注目されている。ここでは、CSV経営の基礎や、CSV経営と似た経営用語であるCSRとの違いなどを解説する。

目次

  1. CSV経営とは?
    1. CSV経営の概要
    2. CSV経営とCSRの違い
  2. CSV経営のメリットとデメリットは?
  3. CSVに基づいた経営戦略を実現する方法
    1. 1.製品と市場を見直す
    2. 2.バリューチェーン(価値連鎖)の生産性を定義し直す
    3. 3.事業活動の拠点となる地域を支援する産業クラスターを作る
  4. CSV経営の事例
    1. ネスレ
    2. キリン
    3. リコー
  5. CSV経営を学べるおすすめの本3選
    1. 『CSV経営戦略―本業での高収益と、社会の課題を同時に解決する』(東洋経済新報社)
    2. 『CSV時代のイノベーション戦略 「社会課題」から骨太な新事業を産み出す』(ファーストプレス)
    3. 『ソーシャルインパクト-価値共創(CSV)が企業・ビジネス・働き方を変える』(産学社)
  6. CSV経営は一石二鳥の経営戦略

CSV経営とは?

まずは、CSV経営がどのようなものかをCSRとの違いを明確にしつつ説明していく。

CSV経営の概要

CSV(Creating Shared Value)とは、「共有価値の創造」という意味で、アメリカの有名な経営学者であるマイケル・ポーター博士が提唱した概念である。かつては寄付や慈善活動により社会問題の解決に取り組む企業は少なからずあったが、ポーターはこうした活動では社会問題の解決にはつながらないと指摘した。そこで、ポーターが提唱したのが「CSV経営」である。

ポーターは、寄付や慈善活動ではなく、社会性の高い事業を行うことで社会問題を解決することによる「社会価値」と同時に、自社の利益も生み出す「企業価値」のどちらをも高めることが、企業の本来あるべき姿であると述べた。

CSV経営とCSRの違い

社会問題の解決という点に着目するとCSV経営とCSRは似ている概念だが、CSVとCSRの間には大きく異なる点がある。

CSR(Corporate Social Responsibility)は、「企業の社会的責任」と訳される概念だが、具体的には、寄付や慈善活動、環境保全といった本来の事業活動とは無関係に、あくまで企業としての義務感を持って行う活動である。

CSV(Creating Shared Value)は、本業として社会問題の解決に取り組むことを意味する。利益を度外視して義務的に行うCSRとは異なり、 「利益を獲得する」という目的を解決するために社会的な意義のある事業を行う点がCSVの特徴だ。本業として主体性を持って社会問題の解決に取り組むため、CSV経営のほうが社会貢献の効果は高いといえる。

CSRとCSVの違いを以下にまとめたので、参考にしていただきたい。

CSRCSV
目的企業としての責任を果たし、顧客や株主との良好な関係を保つため社会問題を解決して、自社の利益を確保するため
本業との関連性ほぼ無関係社会貢献自体が事業である
社会貢献としての効果低い高い

CSV経営のメリットとデメリットは?

CSR経営を実践するとどのようなメリットがあるのだろうか。

CSV経営で得られる最大のメリットは、多くの消費者に良い企業イメージを持ってもらえる点である。企業全体として社会問題の解決に取り組んでいると認識してもらえることで、他の企業との市場争いにおいて、イメージ戦略によって優位性を持つこともできるのである。

また、社会問題の解決をすることが、そのまま自社の利益獲得につながることも大きなメリットである。

CSRの場合は、たとえ社会的に価値のある活動を行っても、自社にとっては直接的な利益とはならないことが多い。一方でCSVの場合は、社会問題の解決と同時に利益の創出も実現できる。

一見するとメリットが多いCSV経営だが、1社のみの力では社会問題の解決につながりにくい点がデメリットだ。

例えば、貧困や格差などの社会問題を例に取ってみても、1社のみでは社会全体の貧困問題を解決することは困難である。CSV経営である一定の結果を出すためには、株主や取引企業はもちろん他業種の企業など、あらゆる関係各所との連携を図ることが重要だ。

CSVに基づいた経営戦略を実現する方法

CSVに基づいた経営戦略を実現するには、何をすればよいのだろうか。ここでは、CSVに基づいた経営戦略を実現する方法を3つ解説する。

1.製品と市場を見直す

CSV経営では、自社の技術力や製品を用いて社会問題を解決することが求められる。そのためには、所得格差や少子高齢化といった社会問題を事業のチャンスであると捉え、自社の強みを活かして問題の解決につながるサービスや商品を開発することが重要だ。

CSV経営のポイントは、常日ごろから社会問題に関心を持ち、自社の製品や技術力で社会問題の解決につながる方向性を検討することにある。

2.バリューチェーン(価値連鎖)の生産性を定義し直す

バリューチェーン(価値連鎖)とは、購買や製造といった上流工程から販売やサービスに至る下流工程までの事業活動で利益を生み出すまでの一連のプロセスを意味する。

ポーター博士は、共有価値の観点からバリューチェーンの生産性を改善することが、同時に社会問題の解決につながると述べている。例えば、生産性を向上させるために製造プロセスを改善することで結果的に二酸化炭素を削減でき、地球温暖化の防止に貢献できるだろう。

CSV経営を実現する上では、「社会的価値の創出」の観点からバリューチェーンの中にある無駄や改善できるポイントを見いだすことが重要である。

3.事業活動の拠点となる地域を支援する産業クラスターを作る

産業クラスターの創出もCSV経営を実現する方法の一つだ。産業クラスターとは、ある事業分野における関係企業が密集した地域を意味し、例えばアメリカのシリコンバレーなどが該当する。

CSV経営のメリットとデメリットの項目で述べたように、1社のみの力ではCSV経営を実現するのは困難だ。そこで、人材の育成や自社の事業領域と関連する企業の誘致などを通じて、強力な産業クラスターを作る必要がある。

産業クラスターを創出する過程において、人材育成やインフラ整備などを行うことで、結果的に就労先の不足や地域経済の低迷といった社会問題の解決につながるため、CSV経営を実現できるわけだ。

CSV経営の事例

CSV経営の理解を深めるために、実際にCSV経営を実践している企業の事例として「ネスレ」「キリン」「リコー」の3社を取り上げる。

ネスレ

コーヒーのネスカフェで有名なネスレは、「栄養」「農村開発」「水」という3つの分野に重点を置いたCSV経営を実践している。例えば、ネスレの乳製品加工工場では、牛乳の濃縮工程で回収した水を再利用することで、貴重な水の使用量を削減して持続可能な社会の実現に貢献している。

上記はCSV経営の一例であり、他にも発展途上国の農村開発や、妊娠中や出産後の女性にとって健康的な食品の提供などにも積極的に取り組んでいる。

参考:ネスレ日本 企業情報 共有価値の創造

キリン

ビールや発泡酒を主力商品として扱うキリンは、「健康」「地域社会・コミュニティ」「環境」という3つの分野でCSV経営に取り組んでいる。例えば、「メカニカルリサイクル」という手法を用いることで、ペットボトルを再利用できる仕組みを確立し、石油資源や二酸化炭素の使用量削減という社会的な価値を創出している。

また、アルコールを扱う企業としてキリンは、適正飲酒のガイドラインを公開することによって飲酒による健康被害という社会問題の解決にも取り組んでいる。

参考:CSV活動 キリン

リコー

印刷機などを手がけるリコーは、脱炭素社会の実現などを目標に掲げたCSV経営により、社会課題を解決すると同時に新たな市場や顧客の開拓やイノベーションの創出の実現も目指している。

例えば、同社は「BOPプロジェクト活動」によりインド農村部の住民が直面している貧困問題の解決に取り組んでいるのが特徴だ。具体的には、現地住民のビジネス創出を支援することで農村部の生活向上を実現すると同時に、自社のビジネスアイデアを得るヒントとしても役立てている。

参考:CSVの取り組み | リコーグループ

CSV経営を学べるおすすめの本3選

最後に、CSV経営を学ぶ上でおすすめの本を3冊紹介していく。

『CSV経営戦略―本業での高収益と、社会の課題を同時に解決する』(東洋経済新報社)

本書では、ポーター博士のもとで学んだ名和氏が、CSV経営の基本的な概要やCSVとの違いや成功事例などを網羅的に解説している。

本書をおすすめする理由は、実際の成功事例を紹介しつつ、単なる理論としてではなく実際にCSV経営を実践する方法を詳しく論じているからである。基本的な経営戦略の考えからCSV経営の実践方法までを網羅的に学びたい人にはおすすめの1冊だ。

参考: CSV経営戦略―本業での高収益と、社会の課題を同時に解決する

『CSV時代のイノベーション戦略 「社会課題」から骨太な新事業を産み出す』(ファーストプレス)

本書は、CSV経営をCSRとは比較せず、あえてまったく新しい経営戦略として説明を行っている。

特筆すべき点は、CSVの実践によりイノベーションを巻き起こす可能性がある点を論じていることだ。CSVを単なるCSRの延長ではなく、イノベーションを起こしつつ企業が成長していく上で必須の考え方であることが理解できるだろう。

また、CSV経営を戦略的に実践することで得られるメリットや、他社を巻き込んでCSV経営を進める方法も詳しく記載されている。「CSVなんてきれいごとで、なんのメリットも得られないだろう」と思う人にこそ読んでもらいたい1冊である。

参考: CSV時代のイノベーション戦略 「社会課題」から骨太な新事業を産み出す

『ソーシャルインパクト-価値共創(CSV)が企業・ビジネス・働き方を変える』(産学社)

最後に紹介する本書では、「社会とのつながり」によりCSV経営を実現した事例が、およそ20個取り上げられている。

「どのような社会問題を、どのような方法で解決し、企業としてどのような利益を得られたのか」がストーリー形式で語られているため、CSV経営に対する理解を深めることができるだろう。

基本的なCSVの考え方というよりは、CSV経営の具体的な事例に重点を置いている書籍である。そのため、CSV経営の理論はある程度知っているものの、いまひとつ実務にあてはめるイメージが湧かない人におすすめの1冊だ。

参考:ソーシャルインパクトー価値共創(CSV)が企業・ビジネス・働き方を変える

CSV経営は一石二鳥の経営戦略

CSV経営は、社会問題を解決すると同時に企業自体も利益を得ることができる、まさに一石二鳥の経営戦略だ。義務感から行うことが多いCSRと比べると、事業活動の一環として行うCSVのほうが社会全体に対する波及効果も大きい。

ただし、CSV経営を実践するにあたっては、自社の利益と社会の利益を同時に追求するのみならず、あらゆる関係企業や消費者を巻き込んで事業を行うことが求められる。

CSV経営は1社のみで実践できることには限りがあるため、社会全体を巻き込んで、関係者全員がWin-Winとなるように事業活動を進めることが重要だ。

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