新卒採用の母集団形成に苦労していないであろう就職人気企業も初任給を引き上げている。就職人気企業ランキング文系1位の伊藤忠商事は32万5000円、理系1位のソニーグループは35万3000円だ。初任給の引き上げを表明する企業が相次ぎ、採用競争は激化している。(文:日本人材ニュース編集部

【2025年度 初任給】就職人気企業も30万円以上に引き上げ、高額化する初任給の理由

目次

  1. 「2026卒学生が選ぶ就職人気企業ランキング」上位企業の初任給
  2. 2026年卒の採用で初任給を引き上げる企業が半数超
  3. “配属ガチャ”を防止、福利厚生を拡充して奨学金返済も肩代わり
  4. 40万円以上の高額な初任給の理由

「2026卒学生が選ぶ就職人気企業ランキング」上位企業の初任給

産経新聞社と人事コンサルティングのワークス・ジャパンが発表した2026年3月卒業予定の大学生・大学院生を対象とした「26卒学生が選ぶ就職人気企業ランキング」上位企業の初任給をまとめた。

「2026卒学生が選ぶ就職人気企業ランキング」上位企業(文系)の初任給一覧

順位 企業名 初任給
1 伊藤忠商事 32万5000円(大卒)
2 三菱商事 32万5000円(学士卒、2024年度実績)
3 損害保険ジャパン 28万1230円(大卒・短大卒)
4 三菱UFJ銀行 30万円(大学卒)
5 サントリーホールディングス 27万8000円(大学卒、24年)
6 味の素 27万5000円(学士卒、2025年4月時点)
7 アクセンチュア
8 日本航空(JAL) 26万1000円(大学卒)
9 三井物産 32万円(学卒、2025年4月予定)
10 三井不動産 32万円(大卒、2025年4月入社予定)
11 住友商事 32万5000円(学卒、2025年2月現在)
12 全日本空輸(ANA) 26万2000円(大卒、2025年度予定)
13 東京海上日動火災保険 27万8320円(大学卒、本拠地から転居転勤を伴わない場合)
37万8320円~41万2320円(大学卒、本拠地から転居転勤を伴う場合)
14 三菱地所 30万5000円(学部卒)
15 丸紅 33万円(大卒)
16 博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 年俸制360万円(2024年度実績)
17 講談社 26万8260円(4年制大学卒・22歳の初任給)
18 アビームコンサルティング 37万300円(学部卒、2024年4月実績)
19 ニトリ 29万円(4年制大学卒業)
20 みずほフィナンシャルグループ 26万円(四年制大学卒、2025年度実績)

(出所)各社募集要項

「2026卒学生が選ぶ就職人気企業ランキング」上位企業(理系)の初任給一覧

順位 企業名 初任給
1 ソニーグループ 35万3000円(修士了、2025年度予定)
2 パナソニックグループ 27万5000円(修士了、2024年実績)
3 トヨタ自動車 27万6000円(修士修了相当、2024年度実績)
4 日立製作所 29万4000円(修士課程卒、2025年4月実績)
5 野村総合研究所 36万4500円(修士了、予定)
6 NTTデータグループ 31万2000円(修士了、2026年4月予定額)
7 伊藤忠商事 36万円(院卒)
8 富士フイルム
9 富士通 31万5000円(入社後早期から自律的な業務遂行が求められる職務)
28万4000円(習熟度を上げるための育成が一定期間必要で上司の指示に基づき職務)
10 味の素 28万7000円(修士卒、2025年4月時点)
11 三菱商事 36万円(修士卒、2024年度実績)
12 三菱重工業 28万円(修士了、2024年4月初任給)
13 本田技研工業 28万7800円(修士了、2024年度実績)
14 AGC 31万4092円(修士了、2024年7月実績)
15 サントリーホールディングス 29万4800円(修士了、2024年)
16 アクセンチュア
17 旭化成 26万8880円(修士、2024年度実績)
18 日本電気(NEC) 31万4400円(修士了、2025年4月実績)
19 アビームコンサルティング 40万300円(修士了、2024年4月実績)
20 東京エレクトロン 29万1000円(修士了)

(出所)各社募集要項

2026卒就職人気企業ランキング、文系は伊藤忠商事、理系はソニーが首位

2026年卒の採用で初任給を引き上げる企業が半数超

「マイナビ2026年卒 企業新卒採用予定調査」によると、新卒全体の採用環境が「厳しくなる」と回答した企業は78.1%に上がった。

厳しくなる理由で前年からの増加幅が最も大きいのは「給与が低いこと(業界平均などと比較して)」(28.9%)となっている。

就職人気企業ランキング文系1位の伊藤忠商事の岡藤正広会長は、「学生さんは、僕の経験から言って、やっぱり初任給で選びがち」と今年の入社式後の報道陣の質問に答えている。初任給の引き上げが採用力の強化につながることが経営者にも認識されている。

こうしたことから、2026年卒の採用で初任給を引き上げる企業は半数を超えている(54.1%)。

この結果、初任給(学卒生・支給額)の平均額は22万5786円で、2025年卒に比べて8999円増加した。

初任給の引き上げ額(予定もしくは直近の実績)

引上げ額 企業の割合
~5000円未満 16.6%
5000円~1万円未満 40.3%
1万円~2万円未満 29.5%
2万円~3万円未満 8.8%
3万円~4万円未満 3.4%
4万円~5万円未満 0.6%
5万円以上 0.8%

新卒採用を増やす企業は2年連続で減少、初任給を引き上げる企業が5割超

“配属ガチャ”を防止、福利厚生を拡充して奨学金返済も肩代わり

採用力を高めるために、初任給を引き上げるだけではなく、新人・若手社員の待遇改善を図る企業も増えている。

入社後にどんな仕事を担当させられるのか、やりたい職種に就くことができるのか不安を抱えている学生も少なくない。“配属ガチャ”を気にする学生への対応として配属先を明示する企業も出てきた。

「新入社員の配属」は内定承諾後~入社前が4割、配属のやり方を見直すことが離職率改善に影響か

福利厚生の一つとして社員寮の導入・拡充に動く企業も増えている。約1000社に「社員寮ドーミー」を提供する共立メンテナンスには、地方の大学生や高校生の採用を強化や、若手の離職防止などを狙いとする企業からの相談が増えているという。

採用・定着の課題を解決する社員寮の役割と導入効果

日本学生支援機構の「奨学金返還支援(代理返還)制度」を利用する企業は、24年9月末までに約2500社となっている。JR東日本やノジマ、松屋フーズホールディングスなどの大手企業をはじめ、返済負担に苦しむ若手社員の支援を強化する企業も目立つ。

JR東日本やノジマなどが奨学金の返済を支援 奨学金支援制度を導入する企業が広がる背景とメリット

40万円以上の高額な初任給の理由

高額な初任給については、数年前にサイバーエージェントやTOKYO BASEなどが40万円以上に引き上げると報道されて話題になったことがあった。

ところが、初任給は基本給ではなく、その中には固定残業代や手当が含まれていることが分かり、ネット上で大騒ぎになった。募集要項には残業代や手当込みの月給であることが書かれており、応募する学生は記載内容をしっかりと確認したい。

就職人気企業ランキングにも入っている東京海上日動火災保険は、2026年4月入社の初任給で、本拠地から転居転勤を伴う場合は最大41万円を支払う。

初任給42万円!高給の裏の真実。固定残業代を取り入れる企業が増えている理由

また、高額な初任給によって、より専門性の高い人材を求める企業も出てきている。

例えば、GMOインターネットグループは2023年度入社の新卒採用から、グループ企業110社において「No.1&STEAM人財採用~新卒年収710万プログラム」を行っている。年収710万円を約束し、次世代リーダーを確保することがねらいだ。

また、NECやDeNAなどは、AI分野の専門人材に対しては新卒でも1000万円程度の年収を提示している。

「新卒年収710万プログラム」で、次世代リーダー候補になりうるZ世代の斬新な発想を呼び込む【GMOインターネットグループ】

就職情報サービス大手インディードリクルートパートナーズのまとめによると、2026年卒の内定率は4月1日で61.6%に達し、就職活動は早期化している。複数社から内定が出るような学生優位の売り手市場で、2025年卒の学生の中には「就職先決定を振り返ると、安易に決めてしまったと感じる」と回答している人も少なくない。

2026年卒の内定率は4月1日で61.6%、内定がない学生から不安の声
就職先を安易に決めてしまった学生が4割超

新卒採用の早期選考が常態化し、内定辞退も続出している。転職が当たり前の時代に突入し、富士通が一括採用を取りやめるなど、新卒採用のあり方は変化しつつある。

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