「就職氷河期世代」が社会に出てから約30年が経過した。彼らは就職が厳しかっただけでなく、就職後も賃金が上がらず、長時間労働やハラスメントが日常の職場を経験してきた人が少なくない。今、働き方改革で職場環境は改善し、賃金が上昇する時代に入ったにも関わらず、就職氷河期世代は次の悲劇に見舞われている。(文:日本人材ニュース編集部

退職金増税、上がらない賃金、リストラ・・・、就職氷河期世代に相次ぐ悲劇

目次

  1. 「退職金増税」が直撃する就職氷河期世代
  2. 賃金が上がらなかった就職氷河期世代
  3. 初任給が高騰する一方、就職氷河期世代の賃金は抑制
  4. リストラのターゲットになる就職氷河期世代
  5. バブル世代と若手の板挟みで苦悩する就職氷河期世代
  6. 「就職氷河期世代」を理解するための基礎知識
  7. まとめ

「退職金増税」が直撃する就職氷河期世代

石破首相は2025年3月5日の参院予算委員会で、退職金税制に関して長期勤務者が相対的に有利になる税制が転職など労働移動を阻害しているとして、見直しの必要性が指摘されていることに関し、「慎重な上に適切な見直しをすべきだ」との意向を示した。

これまで退職金は退職所得控除によって一定額までは非課税とされ、超過分についても2分の1課税という軽減措置が適用されてきた。勤続20年を超えると所得計算時に控除できる額が年40万円から70万円に増える。差し引いた額に2分の1をかけ、所得に応じた税率をかけた金額が納税額となるため、同じ会社に長年勤務した人が有利になる。

そのため、現在の課税制度が変化すると、勤続年数が20年を超えているビジネスパーソンの税負担額が増加してしまう可能性があるため、批判の声が多く上がっている。

企業の退職給付制度そのものは縮小傾向にある。厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、大学卒(管理・事務・技術職)の退職金平均額は2001年の2499万円から2023年には1890万円へと2割以上減少している。

就職氷河期世代は、企業の退職給付制度が縮小していく時代に働き、さらにその退職金に増税が課される「二重の不運」に見舞われる可能性がある。

<退職金や年金の先行きは不透明>

リスキリング、ジョブ型、転職、そして退職金増税
【年金改革】厚生年金積立金を基礎年金に充当する案が示される

賃金が上がらなかった就職氷河期世代

連合が2025年3月14日に発表した2025年春季労使交渉の第2回回答集計によると、賃上げ率の平均は5.40%だった。大幅な賃上げが始まったのは2023年からで、厚生労働省の調べによると、現在の調査方法となった1999年以降、2022年までの賃上げ率はほぼ1%台で推移してきた。

つまり、就職氷河期世代は就職が厳しかっただけでなく、就職してからも賃金が上がらない時期が長く続いた。その結果、現在40代から50代の就職氷河期世代の賃金は前の世代に比べて低い水準にとどまっている。

大卒男性の賃金平均額は、2001年は40~44歳:466万2000円、45~49歳:516万8000円、50~54歳:569万8000円だったが、2023年は40~44歳:420万4000円、45~49歳:460万2000円、50~54歳:499万3000円。

大卒女性の賃金平均額は、2001年は40~44歳:367万1000円、45~49歳:397万6000円、50~54歳:416万9000円だったが、2023年は40~44歳:325万6000円、45~49歳:340万3000円、50~54歳:372万4000円。

男女ともに賃金水準が著しく低下していることが分かる。

大卒男性の賃金平均額

男性 2001年 2023年 差額
40~44歳 466万2000円 420万4000円 45万8000円減
45~49歳 516万8000円 460万2000円 56万6000円減
50~54歳 569万8000円 499万3000円 70万5000円減

大卒女性の賃金平均額

女性 2001年 2023年 差額
40~44歳 367万1000円 325万6000円 41万5000円減
45~49歳 397万6000円 340万3000円 57万3000円減
50~54歳 416万9000円 372万4000円 44万5000円減

(出所)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」

初任給が高騰する一方、就職氷河期世代の賃金は抑制

就職情報サービス大手マイナビの「マイナビ2026年卒 企業新卒採用予定調査」によると、初任給を引き上げる企業は前年から6.9ポイント増加して54.1%。初任給(学卒生・支給額)の平均額は22万5786円で、2025年卒に比べて8999円増加している。

産経新聞社×ワークス・ジャパン「26卒学生が選ぶ就職人気企業ランキング」上位20社(文系)初任給一覧

企業名 金額
伊藤忠商事 32万5000円(3カ月の試用期間後、36万円)
三菱商事 32万5000円
損害保険ジャパン 28万1230円
三菱UFJ銀行 30万円
サントリーホールディングス 27万8000円
味の素 27万5000円
アクセンチュア 不明
日本航空(JAL) 26万1000円
三井物産 31万円
三井不動産 32万円
住友商事 32万5000円
全日本空輸(ANA) 27万4520円
東京海上日動火災保険 27万8320円
三菱地所 30万5000円
丸紅 33万円
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 年俸制360万円
講談社 26万8260円
アビームコンサルティング 37万300円
ニトリ 29万円
みずほフィナンシャルグループ 26万円

(出所)各社募集要項

業種を問わず初任給を引き上げる企業が相次いでいるが、就職氷河期世代の賃金上昇は鈍い。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査で過去5年間の賃金の増加率を見ると、34歳までは9%を超えているが、40代から50代前半の氷河期世代の増加率は低くなっている。

過去5年間(2020年から2024年)の賃金増加率

年齢 増加率
20~24歳 9.7%
25~29歳 9.2%
30~34歳 9.1%
35~39歳 7.7%
40~44歳(就職氷河期世代) 6.5%
45~49歳(就職氷河期世代) 7.3%
50~54歳(就職氷河期世代) 3.4%

(出所)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を基に編集部算出

こうした背景には、初任給の高騰や離職を防止するための若手の処遇改善、高齢社員の雇用延長の影響などが指摘されており、若手と高齢社員の間にいる就職氷河期世代の賃金は抑制されている。

<賃上げ格差は拡大>

相次ぐ初任給アップでも中高年社員の賃金は減少
大幅賃上げの裏に潜む格差~中小企業と中高年層の苦悩

リストラのターゲットになる就職氷河期世代

東京商工リサーチの調べによると、2024年に「早期・希望退職募集」が判明した上場企業は57社(前年41社)。募集人員は1万9人(前年同3161人)と3倍に急増し、2021年の1万5892人以来、3年ぶりに1万人を超えた。非上場企業での実施や人数非公表での募集もあり、実際の退職者はさらに多い。

最近の主な早期・希望退職募集企業

企業名 人数
日産自動車 9000人
住友化学 4000人
東芝 3500人(応募)
コニカミノルタ 2400人
オムロン 2000人
リコー 2000人
第一生命ホールディングス 1830人(応募)
ウシオ電機 1700人
資生堂 1500人
ソニー・インタラクティブエンタテイメント 900人
イトーヨーカ堂 700人
武田薬品 約680人(応募)
住友ファーマ 604人(応募)

早期・希望退職の募集は40代以上、つまり就職氷河期世代を含む中高年層をターゲットとする企業が大半だ。以前は、赤字に転落するなど追い込まれてからリストラに踏み切る企業が多かったが、最近は黒字企業でも早期・希望退職を募集するケースが目立つ。

黒字企業がリストラを進める理由は?

また、採用難や人件費上昇に耐えきれず「人手不足」による倒産が過去最多となるなど、業績が低迷する企業で働く就職氷河期世代が職を失うケースも少なくない。

「人手不足」倒産が過去最多、人件費上昇に耐えきれず

バブル世代と若手の板挟みで苦悩する就職氷河期世代

就職氷河期世代の中には責任ある立場としてメンバーを率いる立場にある人も多い。上の世代(バブル世代)と下の世代(ゆとり世代・Z世代)の間に挟まれ、価値観の違いに戸惑う人も少なくないようだ。

企業風土改革を支援しているスコラ・コンサルトが、就職氷河期世代に当たる40代が、上の世代・下の世代と接して驚いた・困ったことを自由回答で聞いた内容は、上の世代に対しては「プライベートを犠牲にして仕事をする」「これまでのやり方・考え方への固執・押し付け」「自分勝手」「パワハラ・乱暴」「女性への偏見」「ITが苦手」。

一方、下の世代に対しては「打たれ弱い」「仕事よりプライベートを重視」「マナーが身についていない、自分勝手・責任感がない」「コミュニケーションが苦手」「自分で考えない」「一律の対応が難しい」となっている。

職場や仕事に不満を持つ40代、昭和と令和の価値観の狭間でジレンマか

長時間労働やパワハラが当たり前の時代を経験している上の世代の経営層からは厳しいプレッシャーを受け、役職定年の「年上部下」に気を遣い、若手の離職などに悩む様子がうかがえ、就職氷河期世代で精神障害を発症した人の労災請求も増えている。

精神障害の労災請求件数は3年連続で2000件超えの右肩上がり、40~49歳が最多

「就職氷河期世代」を理解するための基礎知識

就職氷河期世代の定義

就職氷河期世代とは、バブル崩壊後の景気低迷期に就職活動を行った世代を指す。一般的には1993年から2004年頃までに学校卒業時期を迎えた世代で、現在おおよそ40代前半から50代前半に当たる。

当時の日本経済は「失われた10年」と呼ばれる長期不況の真っただ中にあり、特に1999年から2004年は大卒求人倍率が1倍を下回る状況が続くなど、企業の新卒採用が大幅に縮小し、希望する業界や会社への就職の機会を逃した人が増加した。

特に、非正規雇用などでキャリアをスタートせざるを得なかった人は、正規雇用への転換や将来を見据えたキャリア形成が困難だった。新卒採用時の不遇が、その後のキャリア形成、生活設計や金融資産の蓄積などにまで長期的な影響を与えている。

氷河期世代を生み出した背景

バブル経済の崩壊と景気低迷

就職氷河期世代を生み出した大きな背景は、バブル経済の崩壊とその後の景気低迷だ。1980年代後半、日本経済は空前の好景気を謳歌していたが、経済政策の失敗によってバブル経済は崩壊し、その後も景気は長く回復しなかった。

そのため、バブル期に過剰な投資などを行っていた企業や競争力を失った企業は耐えきれず、1990年代から2000年代初頭にかけて、大規模なリストラに踏み切らざるを得なくなった。

こうした企業の行動変化は、1990年代初頭まで大量採用を行っていた新卒採用の凍結や抑制につながり、就職氷河期世代を生み出した。

既存社員の雇用維持を優先

日本型雇用の特徴とされてきた「終身雇用」の慣行は、バブル崩壊後の長期不況と国際競争の激化の中で大きく揺らいだ。しかし、日本では整理解雇の条件が難しいなどの理由もあり、既存社員の雇用維持を優先するために、新卒採用を凍結したり抑制した企業が多かった。

新卒採用はバブル崩壊後もしばらくは維持されていたが、景気悪化の深刻さを増した1990年代中頃から急激に落ち込み、大量採用だった上の世代との落差が大きかった。

リクルートワークス研究所の「大卒求人倍率調査」によれば、民間企業求人総数は、1991年の84万人から2000年は40万人まで減少し、10年間で5割以上も求人が減少したことになる。

求人総数 求人倍率(倍)
1991年 840,365 2.86
1992年 738,055 2.41
1993年 616,976 1.91
1994年 507,234 1.55
1995年 400,402 1.20
1996年 390,699 1.80
1997年 541,462 1.45
1998年 675,247 1.68
1999年 502,368 1.25
2000年 407,768 0.99

(出所)リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査

新卒一括採用の慣行

日本特有の「新卒一括採用」の慣行は、就職氷河期世代の問題をより深刻なものにした。新卒一括採用には新卒時に雇用機会が確保される一方で、新卒時の機会を逃すと正社員として採用される道が狭まる。

当時は、特に大手企業は新卒者を一斉に採用して教育・育成することが前提で、中途採用も今のように活発ではなかった。新卒採用が抑制されたことによって、就職氷河期世代は正社員として採用される機会を失った人が増えた。非正規雇用や無業状態になると能力開発の機会も限られ、その後もキャリアを築くことが難しかった。

内閣府の「就職氷河期世代支援プログラム」(2019年)によると、同世代(当時35〜44歳)のうち、正規雇用を希望していながら不本意に非正規雇用で働く人、長期無業や社会参加に向けて支援を必要とする人などが100万人ほどいると推測されている。

<転職が当たり前になり、新卒一括採用は変わりつつある>

富士通が新卒一括採用を廃止し、通年採用へ移行。通年採用のメリット・デメリットと導入している大手企業を紹介
“離職予備軍”も急増、転換迫られる採用戦略

まとめ

就職氷河期世代は、社会人としてのスタートから現在に至るまで、様々な不運に見舞われてきた。就職難、キャリア形成の遅れ、そして今後直面する退職金の増税や年金課題など、世代間格差の問題は依然として解消されていない。

しかし、彼らは逆境の中で培った適応力や多様な経験を持つ人材で、彼らの価値を正当に評価し、適切なキャリア支援や報酬制度の設計を通じて活躍を引き出している企業は多くある。また、就職氷河期世代自身も自らの価値を高めてチャンスをつかみ、さらに新たなキャリアステージへの移行を図っている人も少なくない。

就職氷河期世代の現状は、日本の雇用システムや社会保障制度の構造的課題を映し出している。こうした課題に一人一人が真摯に向き合うことが、持続可能な社会の実現につながるのではないだろうか。

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