業界再編がタクシー業界で加速している。その要因の一つが人手不足で、乗務員の確保などを目的としたM&Aも増えている。新型コロナウイルスで収益が悪化するタクシー事業者が増えれば、さらに再編の動きは加速していくかもしれない。業界の最新事情に迫ろう。
目次
タクシー業界では乗務員不足が慢性化
タクシー業界では乗務員不足が慢性化している。もちろん日本全体で労働人口が減少していることも影響しているが、タクシー業界に対して「低収入」「長時間労働」というイメージを持つ若者が多いことが主な要因の一つとして挙げられるだろう。
事実、タクシー乗務員の年収はほかの職種と比べて低めだ。東京ハイヤー・タクシー協会がまとめた資料によれば、全産業における男性労働者の年収とタクシー乗務員の年収では250万円以上の開きがある。
タクシー乗務員になりたい若者が減り、タクシー会社が人材を確保できなければ、保有しているタクシー車両をフル稼働させることができない状況が続く。そして、車両稼働率が低下すれば収益もどんどん減っていく。
乗務員の確保に向けたM&Aが増えている
こうした流れの中で、乗務員の確保に向けたM&Aが増えている。タクシー会社の場合、新人教育はなかなか大変であり、新人ドライバーが熟練の乗務員のように売上を高められるようになるには、かなりの時間を要する。人材育成の面からもM&Aによってタクシー乗務員を確保するのが手っ取り早いからだ。
こうした背景がある中、M&Aで事業を拡大してきたタクシー会社として知られるのが第一交通産業だ。業界トップの存在となっている同社は地方のタクシー会社を次々とグループにおさめ、最近では子会社である第一交通サービスが三重のタクシー会社を買収したことでも話題になった。
今回の買収が人手確保を直接的に目指すものであったかは定かではないが、買収したタカモリタクシーは車両数27台、従業員数44人の規模で事業を展開しており、三重県内における同社グループの勢力は確実に強まった。
新型コロナウイルスが業界再編の動きを加速?
ここまで説明したのがタクシー業界における「これまで」の業界模様だが、新型コロナウイルスの感染拡大によって業界再編の動きが今後はさらに加速することが考えられる。
訪日外国人に多く利用されていたタクシー会社の場合、渡航自粛や入国制限の影響で売上の落ち込みが著しい。日本に住む日本人も外出を自粛しつつある上、濃厚接触などを嫌ってタクシーで移動しないケースも増えている。言うまでもないが、こうした状況はタクシー会社の業績を悪化させる。
業績が悪化して経営を続けていくことが難しくなれば、タクシー会社の経営者は廃業やM&Aという選択肢を検討せざるを得なくなる。そのため、業界再編の動きが加速する可能性が高くなってくるのだ。売上が低い時期が1年間続いてもキャッシュフロー的に耐えられる会社は、タクシー業界に限らず決して多くはない。
逆風の中にいるタクシー業界
人手不足に加え、新型コロナウイルスの感染拡大もあり、タクシー業界はいま逆風の中にいる。特に新型コロナウイルスの終息はまだ終わりがみえない。再起に向けたモチベーションを維持できず、売却という道を模索するタクシー会社の経営者も少なからず出てくるだろう。
ちなみにタクシー業界では配車アプリの再編も進んでいる。配車アプリは業界最大手のJapanTaxiを筆頭に、DeNAやソニー、DiDi、Uberなどが展開しているが、このうちJapanTaxiとDeNAのタクシー配車事業が合流することになったことは記憶に新しい。
アプリ数が増えていけば、いずれは再編が進んでいく。タクシー事業者自体のM&Aだけではなく、配車アプリの事業統合などの流れにも注目だ。
将来的な「改革」も業界再編の引き金に
最後にもう一つだけ、業界再編が加速する可能性に関する視点を提供して記事を締めくくろう。
タクシー業界はいまさまざまな改革に取り組んでいる。「ダイナミックプライシング」(変動料金制)や「乗り放題タクシー」「相互レイティング(相互評価)」「事前確定運賃」「相乗り」などだ。このうち既に事前確定運賃は国が解禁しており、導入しているタクシー会社もある。乗り放題タクシーもいずれは解禁されていくかもしれない。
こうした改革はいずれも利用者の満足度の向上につながるものだが、小さなタクシー会社はこうした新たな改革のスピード感についていけないケースも考えられる。そして業界の革新から取り残されていけば、必然的にその会社のタクシー利用者は減っていくだろう。
コロナショックにより改革がスピードアップするタクシー業界
人手不足や収益悪化により、業界再編が進むタクシー業界ではさまざまな施策が検討されている。それらの改革への対応が遅れるタクシー会社が淘汰されることは、将来的な可能性として十分に現実となり得る話だ。こうした改革については導入に向けた実証実験も各地で実施されつつある。今後の動きにも要注目だ。
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文・岡本一道(経済・金融ジャーナリスト)