【まきチャレ2024記念インタビュー | Midwest Composites】マレーシアのスタートアップが開発する環境にやさしい複合素材

2024年10月、第3回となる牧之原市チャレンジビジネスコンテスト(以下、まきチャレ2024)が開催されました。2022年に始まった本事業は、静岡県牧之原市の「産業資源」と「観光資源」を活用し、自らの事業を地域と共に発展させる画期的なアイデアを全世界のスタートアップ企業から募集し、評価するビジネスコンテストです。

今年の最優秀賞を受賞したMidwest Composites社は、マレーシアを拠点とするサスティナブル複合素材のパイオニアであり、環境に優しい製造ソリューションが審査員に高く評価されました。100万円の賞金が授与される最優秀賞を同社が受賞したことは、コンテストの国際的な魅力を高めるとともに、国境を越えた協業を促進する可能性を広げています。

今回のインタビューでは、Midwest Composites社のCEO、Sethu Raaj氏に同社のバイオ複合素材を使った革新的なプロジェクト、まきチャレ2024での発表内容、牧之原市の地域産業とのコラボレーションについてお話を伺いました。

※本記事は、株式会社CFスタートアップパートナーズが運営する「CVC投資戦略研究所」のマンスリーレポート1月号に掲載された内容を、当メディアにて転載しております。また、当メディア向けに一部編集を行っております。


ー本日はお時間をいただきありがとうございます。よろしくお願いいたします。

よろしくお願いします。

ーまず初めに、ご自身について、またMidwest Composites社の起業に至った背景についてお聞かせください。

私は高校時代に複合素材に興味を持ち、アメリカでバイオ複合素材を含む複合材料の研究で学士号と修士号を取得しました。米国大手自動車メーカーとのタイアップを経験したのち、マレーシアに戻り金属部品の複合素材への置き換えに焦点を当てた最初のスタートアップを立ち上げました。

2020年、コロナウィルスのパンデミックをきっかけに将来の計画を考え直す必要に迫られ、Midwest Composites社を設立しました。同社では、私が常に情熱を注いできたバイオ複合素材に焦点を当てることにしました。EUの規制では現在、使用済み自動車に関する指令で、各車両に対して重量比で95%の割合で再利用または回収が可能な材料を使用することを要求しており、バイオ複合素材への関心は高まってきています。 コロナ禍ではありましたが、この状況をチャンスと捉え、地道な努力と粘り強さが成功へとつながると信じて事業拡大に奔走しました。

【まきチャレ2024記念インタビュー | Midwest Composites】マレーシアのスタートアップが開発する環境にやさしい複合素材

ーパンデミックをきっかけに新しい事業を始められたのですね。Midwest Compositesの製品やこだわり、モチベーションについても教えていただけますか?

私たちは、ケナフ、ジュート、パイナップル、バナナ、竹などの天然資源から作られた代替複合素材を提供しています。過去4年間、バスや電車などの公共交通機関をはじめ、航空宇宙、軍事、自動車などのセクターに注力してきました。また、大学向けのレーシングカー部品や農業用ドローンの部品も開発しています。後者については、地元のクライアントと協力し、農家が収穫するバイオマスや廃棄物を活用することで循環型経済を生み出しています。

同時に、需要の高まりに応えて土産品にも生産の幅を広げています。また、自動車産業や航空宇宙産業では厳しい要件に加えて認定まで長い時間がかかるため、私たちは持続可能な素材を使った家具や消費財にも関心を向けています。多くの企業は、サステナビリティへの貢献をアピールしたいと考えていますが、その施策の実現に苦労しています。Midwest Compositesは、クライアント企業が環境に配慮した取り組みを実証し、消費者に直接的なインパクトを与えるサポートをしています。また、未だに一般的な理解が得られていない持続可能な素材やその仕組みについて、市場に理解を広めることにも貢献しています。

私たちは、サステナビリティにおいてリスクを負うことを厭わない地元の中小企業との協力に大きな期待を寄せています。当社の戦略は、地域特有の自然素材を使用することに重点を置いており、持続可能なソリューションは環境責任を重視する企業にとってより魅力的なものとなっています。

ーケナフ、ジュート、パイナップル、バナナ、竹を複合素材の原料として採用した理由はなんでしょうか?

欧米の市場は亜麻繊維や麻繊維に重点を置いていますが、実はこれらの素材はサプライチェーンの制限や規制上の課題に直面しています。そこで私たちは、ケナフ、ジュート、パイナップル、バナナ、竹など、アジアに豊富にありながらほとんど見過ごされている代替繊維に目を向けました。パイナップルやバナナのような食用作物から出る廃棄物を利用して持続可能な製品を作れば、ケナフやジュートのような専用の繊維作物を栽培する必要性を減らすこともできます。このようなアプローチによって、アジアの農業の多様性は、世界的なサスティナブル・ソリューションのための貴重な資源としての可能性を見出すことができます。

【まきチャレ2024記念インタビュー | Midwest Composites】マレーシアのスタートアップが開発する環境にやさしい複合素材

ーバイオ複合素材をより持続可能なソリューションにするために、どのようなことが必要になってくるのでしょうか?

バイオ複合素材を作る過程では、先程挙げたような自然繊維をバインダーと混ぜ合わせる必要があります。現在、当社の複合素材がバインダーにポリエステル樹脂を使用しているのは、それが最も費用対効果の高い選択肢だからです。生分解性樹脂や再利用可能な樹脂は存在しますが、高価であることに変わりはなく、まだ商業的に実現可能でないものもあります。この問題に対処するためには、持続可能な素材に対する消費者の意識を高め、樹脂メーカーにバイオベースの選択肢を革新するよう促す必要があると思います。私たちの役割は、このような製品への関心を喚起し、メーカーによる迅速な解決策を後押しすることです。

ーバイオ複合素材の製造や使用量を増やす上で、どのような課題に直面しましたか?

課題のひとつは、人々の関心は常にコストに向いており、サステナビリティに十分な関心を寄せていなかったことです。そのため、最初の3年間は、東南アジアにおいて早期から持続可能な素材を推進してきた私たちにとって非常に困難な時期でした。しかし、ドイツ商工会議所のスタートアップ・ドイツ・プログラムに選ばれたことで、私たちの事業の可能性が認められるようになりました。その後、ASEAN経済研究所賞を受賞し、今年は他のバイオマテリアル企業とともにアメリカで開催されたスタートアップ・ワールドカップに参加しました。こうした努力によって私たちの持続可能なソリューションへの関心は高まり、ついに多くの顧客やビジネスチャンスをもたらすことになりました。

【まきチャレ2024記念インタビュー | Midwest Composites】マレーシアのスタートアップが開発する環境にやさしい複合素材

ーやはり知名度や認知が低迷していた時期は経済的な支援を得るのは難しかったのでしょうか?

実際、昨年までは資金を確保するのが難しかったのですが、現在は東南アジアにおけるサステナビリティに関する助成金の状況に変化が生じており、資金調達の活路を見出しています。2020年から4年間サステナビリティに貢献してきたことで、当社は他のスタートアップに対して優位に立つことができるようになりました。現在は、より多くの助成金を獲得し、さらなる機会を追求する前に、まずは資金を得たプロジェクトの完了を優先しています。このアプローチは、単に財政的な支援を集めるのではなく、真のインパクトを生み出すことへの私たちのコミットメントを示しています。最近、地元マレーシアのパートナーとともに漁網のリサイクルを始めることで海洋廃棄物の課題に取り組むための国連の助成金を獲得しました。廃棄された網は、テーブルやバス停の部品、再利用可能な樹脂ペレットなどの製品に再利用されています。

ーMidwest Compositesのクライアントは非常に多岐に渡り、様々な注文に合わせて多くのプロジェクトを行なっていますが、それはどうしてでしょうか?

顧客からの注文は多種多様なのは、マレーシアにおけるサステナビリティの注目度の低さや、大手企業の関心の無さに対応するため、可能な限りのあらゆる機会を捉えているからです。いま私は、当社の複合素材を採用するよう顧客を説得しています。自動車の部品から土産品まで、多様な製品を提供することで、ひとつの分野に限定することなく、業界を超えた当社の多用途性をアピールしています。このアプローチは一見、焦点が定まっていないように見えるかもしれませんが、当社の幅広い能力を示し、潜在的な顧客や投資家にアピールすることを可能にしています。当初は困難が伴うかもしれませんが、このような複雑な問題を早期に解決することが、将来の大きな成功につながると信じています。

ー会社にとって重要なブレークスルーとなったケーススタディやプロジェクトはありますか?

私たちはパートナーシップを通じて大きな進歩を遂げました。たとえば現在、マレーシアの空港で地元の運送会社KR Travels & Toursのために40台のバスをバイオ複合素材を使用して改装しています。使用した外装材には当社のQRコードを記載して、乗客に持続可能な素材を紹介しています。また、マレーシアの大手石油・ガス会社であるPETRONASと協力し、同社の50周年記念トーチを持続可能な素材を使って製作したことは、この分野におけるリーダーとしての当社の役割を確固たるものにしました。さらに、竹とネピアのプランテーションを対象とした農業用ドローン・プロジェクトも国際的な関心を集めており、スマート農業と循環経済を推進しています。

まきチャレ2024におけるMidwest Composites

ーまきチャレに参加を決めたきっかけについて教えてください。

ベトナムで開催されたグローバルスタートアップイベントでプレゼンをしていた際に、まきチャレの運営委員の方々とお会いしたことが最初のきっかけです。まきチャレは日本進出の足がかりになると言って、私たちをまきチャレに招待してくれました。Midwest Compositesという社名は、私が勤勉な中流階級の地域に親しみを感じていることを反映しており、まきチャレの理念にも共感を抱いています。また、マレーシアでお茶の廃棄物処理に携わっていたこともあり、この地域の茶畑にも惹かれました。SuzukiやYazakiのような大手企業に加え、家具や農業関連の企業があることも魅力的でした。最終的には、のんびりとした親しみやすい環境を通じて日本市場に参入するための理想的な足がかりになると考えました。

ー過去にビジネスコンテストに参加したご経験はありますか?

日本でのビジネスコンテストは今回が初めてです。以前はマレーシア国内で当社の取り組みの認知度を高めることに専念していました。しかし、3年間当社の持続可能な素材のPRを続けた結果、私は認知度が必ずしも財務的な成長につながらないことに気づきました。2024年、私はドイツ、アメリカ、ベトナム、日本、中国、インド、インドネシアに事業拡大の機会を求め、当社の製品を高く評価してくれる海外市場を開拓する決断を固めました。

【まきチャレ2024記念インタビュー | Midwest Composites】マレーシアのスタートアップが開発する環境にやさしい複合素材

ーまきチャレでの発表内容についてお聞かせください。

私たちは、お茶の生産過程で廃棄されたバイオマスを部品に変換するオープンエンドな提案に取り組んでいます。初期段階として、消費財や土産品、さらにはテーブルのような家具へのバイオ素材の使用を考えています。長期的には、この材料を農業用トラクター、特に茶園で使用することを検討しています。廃棄物から作られた屋根やボンネットを持つトラクターは、循環型のソリューションを示すことで、茶農家に歓迎されるでしょう。また、自動車メーカーやオートバイメーカーにも、フェンダーなどの重要度の低い部品に同様の素材を使用することを打診する予定です。各企業との話し合いを通して関心度を評価し、生じる課題に対処するための態勢をとっています。

ー今回の受賞を受けて、国内外でのMidwest Compositesのこれからの成長をどのように描いていますか?

日本でのビジネスコンテストで優勝したことは、私たちにとって非常に大きな影響を与えました。マレーシアの人々は、日本の品質へのこだわりに強い信頼を寄せています。日本のコンテストで最優秀賞を受賞したことは、マレーシア政府や市場から高い評価を得るものであり、東南アジア全体でも同様の評価が得られると確信しています。マレーシアの人々が抱く日本へのポジティブなイメージの恩恵を受け、私たちの技術革新がより大きな舞台で認められることとなり、大きなやりがいを感じています。

ー日本では興味深い潜在的なパートナーやクライアントを見つけることはできましたか?

まだクライアントは決まっていませんが、改めて来日を予定しています。東京と牧之原市を訪れ、まきチャレの主催者と一緒に将来的なクライアントや地元のパートナーに会う予定です。

【まきチャレ2024記念インタビュー | Midwest Composites】マレーシアのスタートアップが開発する環境にやさしい複合素材

ー今後の抱負をお聞かせください。また、まきチャレで獲得された賞金はどのように活用されるのでしょうか?

来年はインド、日本、中国への進出を進めていく予定です。現在、私たちはすでに拡大戦略の重要な一環として、研究開発の拡充を行っています。潜在的な顧客やパートナーと商談を行う際には、保有するテクノロジーの実物サンプルを披露することで、実際に製品に触れていただけるようにすることを目標にしています。

いただいた賞金の大部分は、当社の技術を実証するための材料の購入やプロトタイプの開発に使う予定です。残りは、日本において様々なステークホルダーとの関係を構築するための出張の資金に充てられます。将来を見据えて、私たちはすでに来年、今度はより大規模なチームでの再来日を計画しています。

Midwest Compositesが日本の企業や牧之原市の人々と協力し、サステナビリティを推進することに、私たちは大きな期待を寄せています。このパートナーシップは、日本におけるバイオ複合素材技術の拡大を可能にし、日本が重点を置くサステナビリティの推進という目標と合致しています。当社と茶農家や自動車メーカーなどの地元産業が協力することで、世界的にインパクトを与え、地元に密着した環境に優しいソリューションを生み出す可能性を示していきます。

ーMidwest Compositesがサスティナブルな複合素材の普及に向けて、多種多様な産業と協業を進め、さらに牧之原市や地元企業との連携を通して持続可能な社会の実現を推進していることが分かりました。改めて、今回はインタビューの機会をいただきありがとうございました。

[会社概要]
【会社名】Midwest Composites Sdn. Bhd.
【URL】https://midwestcomposites.com.my/

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Midwest Composites - Your Engineered Composites Partner
Midwest Composites specializes in carbon fiber, glass fiber a midwestcomposites.com.my

【設立年月】2020年
【代表者】 Sethu Raaj
【所在地】スレンバン(マレーシア)