職業紹介事業許可の条件に2025年1月から「お祝い金・転職勧奨」の禁止が追加された。違法行為を行う職業紹介事業者を求人企業が利用することがないよう、規制の内容などを丸山博美社会保険労務士に解説してもらう。(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部)
人材サービス業界でかねてより問題視されていた職業紹介事業における「お祝い金制度」について本格的な規制対象となりました。具体的には、金銭等提供および転職勧奨の禁止が職業紹介事業の許可条件に追加され、2025年1月1日付の新規許可・有効期間更新から順次適用されます。
目次
そもそも、職業紹介事業における「お祝い金」とは?
このたび規制される職業紹介事業の「お祝い金」とは、職業紹介事業者が求人企業から受け取る手数料の一部を、「お祝い金」として就職した人に支払う仕組みを指します。
職業紹介事業におけるお祝い金制度のカラクリ
なぜ、職業紹介事業者がこうしたお祝い金制度を活用するのかと言えば、「転職希望者を効率良く集めて多くの仲介実績を作ることで、紹介手数料収入増が実現する」、さらに「お祝い金制度によって作り上げた仲介実績を求人企業へのPR材料にできる」というメリットがあるからです。
求職者としては、就職が決まって、なおかつお祝い金がもらえるというのは大きな魅力となりますね。一方、求人企業側にとっても、仲介を依頼するのであれば、実績の多い職業紹介事業者を利用した方が良いという判断になるのは当然でしょう。
求職者と求人者が多く集まれば、職業紹介事業者が展開する事業はより大規模なものとなり、これに比例する形で収益を上げることができるようになるというわけです。
お祝い金制度特有の問題点
職業紹介事業者、求人企業、求職者それぞれにメリットが期待できるお祝い金制度ですが、一方では特有の問題点が指摘されています。一例としては、職業紹介事業者が、自ら紹介した就職者に対し転職したらお祝い金を提供するなどと持ちかけて転職を勧奨し、繰り返し手数料収入を得ようとするケースが挙げられます。
全国の労働局には、かねてより求人企業から「職業紹介事業者経由で就職した人が、お祝い金目的のためにすぐに離職してしまう」、「職業紹介事業者から追加の成功報酬を求められた」等の相談が寄せられていました。
お祝い金制度に対する規制の経緯
職業紹介事業のおけるお祝い金制度は、労働市場における需給調整機能を歪め、労働者の雇用の安定を阻害する恐れがあるとして、すでに2021年4月1日施行の改正職業安定法に基づく指針によって禁止されています。厚生労働省リーフレット「「就職お祝い金」などの名目で求職者に金銭等を提供して求職の申し込みの勧奨を行うことを禁止しました」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/news_topics/jyukyuuchousei_030303.html
しかしながら、指針レベルでの規制では状況改善につながらず、雇用仲介事業者の金品提供による転職勧奨が依然として後を絶たない実態がありました。こうした状況を受けて、2025年1月からさらなる追加措置を講じ、法的拘束力を持たせることで、規制の実効性が担保されることとなりました。
2025年1月1日施行 「金銭等提供・転職勧奨禁止」の職業紹介事業許可条件化
職業安定法指針に規定されている求職者への「金銭等提供禁止」および「就職後2年間の転職勧奨禁止」は、2025年1月から新たに職業紹介事業の許可条件に追加されます。これにより、お祝い金を目的とした就職および職業紹介事象者から求職者への転職勧奨に対する規制がさらに強化されることとなります。
職業紹介事業の許可条件に追加される内容
改正により具体的に変わるのは、「有料職業紹介事業許可条件通知書の記載内容」です。職業紹介事業の許可申請が下りると、事業者宛に有料職業紹介事業許可条件通知書が交付されますが、2025年1月以降、この通知書に次の2項目が追記されます。
・その紹介により就職した者(期間の定めのない労働契約を締結した者に限る。)に対し、当該就職した日から2年間、転職の勧奨を行ってはならないこと。
・求職の申込みの勧奨については、お祝い金その他これに類する名目で社会通念上相当と認められる程度を超えて求職者に金銭等を提供することによって行ってはならないこと。
冒頭でも触れましたが、上記の許可条件は2025年1月1日以降の職業紹介事業新規許可・有効期間更新から適用されます。既存の職業紹介事業者に対しても、有効期間の更新月までに本許可条件に係る違反が発覚した場合には指導対象となり、それでもなお違反が継続・反復すると許可取消となります。
募集情報等提供事業者も新たな規制対象に
さらに、現状規制の対象外となっている募集情報等提供事業者に対しても、金銭等の提供を原則禁止とする規定が職業安定法指針に設けられます。こちらは、2025年4月1日からの適用です。
ただし、次のケースに関しては、労働市場における適正な需給調整機能の発揮に支障をきたさない例として、規制の対象外となります。
- 提供するサービスの質の向上を図るため、サービス利⽤者からアンケート等への回答を求める場合であって、回答者全てに対してではなく、抽選による少数者に対して、500円程度の電⼦ギフト券等を提供するもの。
- イベント来場者を確保するため、転職フェアへの来場及びブース訪問者に対して、500円程度の電子ギフト券等を提供するもの。(求人サイトへの登録の対価として提供されるものを除く。)
なお、2022年10月1日から募集情報等提供事業の範囲が拡大され、事業運営のルールに変更が生じていますので、併せて確認しておきましょう。
参考:厚生労働省「募集情報等提供事業について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/boshuujouhouteikyou.html
労働力需給調整機能強化に向けたもう一本の柱「雇用仲介事業の更なる見える化」
職業紹介事業運営ルールに係るこのたびの改正は、労働力需給調整の観点からその適正性の担保に向けて行われるものです。今回は「法令順守徹底のためのルールと施行の強化」としてお祝い金・転職勧奨禁止の実効性確保、募集情報等提供事業の規制拡大を解説しましたが、もう一本の柱である「雇用仲介事業の更なる見える化」についてもおさえておく必要があります。
「雇用仲介事業の更なる見える化」については、2025年4月1日から次の2事項への対応が求められます。
職種ごとの紹介手数料実績の見える化
職業紹介事業者の手数料実績の公開が義務化されます。今後、省令改正により、職種ごとの常用就職(無期雇用又は4カ月以上の有期雇用)1件あたりに係る平均手数料率の実績について、人材サービス総合サイトへの開示が求められることとなります。開示の対象となるのは、各事業者の取扱い上位5職種に限定するものとし、年間10件以下の職種は対象外とされます。
参考:厚生労働省「第374回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会 資料1-2 職業安定法施行規則の一部を改正する省令案概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43415.html
違約金等に係るトラブルへの対応
募集情報等提供事業者の利用料金・違約金規約の明示が義務化されます。具体的には、利用者に対して、規約の内容を分かりやすく記載した書面や電子メールにより、利用料金・違約金に関わる事項を正確かつ明瞭に提示するよう、指針に規定されます。なお、違約金規約の明示については、職業紹介事業者にも同様に求められます。
参考:厚生労働省「第374回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会 資料1-3 職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等がその責務等に関して適切に対処するための指針の一部を改正する件案要綱(諮問文)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43415.html
今回は、2025年1月および4月に適用される、職業紹介事業および募集情報等提供事業の運営ルールの変更について解説しました。内容的には盛りだくさんとなりますが、企業コンプライアンスの観点から、禁止事項に抵触する可能性のある行為には実務上、十分留意しましょう。
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