「生成AIの登場により、人の仕事は奪われる」そのような言葉が聞かれるようになりました。
しかし、使い方によっては仕事を進める上での強い味方になります。
では実際どのように活用できるのか、また使用の際にどのような点に注意しなければならないのでしょうか。
本連載では、生成AIの中でも主にChatGPTが人事や採用業務にどのような革新をもたらすのかについて、生成AI家庭教師として企業にコンサルティングを行う佐野創太氏に数回にわたって解説してもらいます。(文:佐野創太)(編集:日本人材ニュース編集部)
前回の記事はこちら▼
【第1回】ChatGPTはプロ人事になり得るか〜生成AIが得意な仕事、苦手な仕事とは?〜
【第2回】新卒採用の面接ヒアリングシートを、ChatGPTで10分で作成~忙しい採用担当は生成AIで先回り~
【第3回】採用活動のアイデア出しは生成AIで〜インターンシップのタイトルを5分で20個以上出すプロンプトを公開〜
【第4回】効果的な1on1の実施を生成AIがサポート~マネジャーの悩みを聞いてくれる熱血教師になんでも相談~
【第5回】メンターとしての生成AIの使い方~人事と現場が一緒になって業務改善を進めるための生成AI活用法〜
目次
AIは作業者なのか、先生なのか
「生成AIで求人票を作成する」そんな声を耳にするようになりました。貴社では採用活動にAIを使っているでしょうか。
試してみた人事の方からは「まだこれくらいの質なんですね」「私が書いた方が良いです」と実用レベルには達していないようです。私も同感です。第一印象とも言えるスカウトメールや求人票は、簡単には代替できません。
一方で「もうAIがないと怖くてスカウトメールも求人票も公開できないです」と仰る人事の方もいらっしゃいます。使っているAIは同じChatGPTです。ここまで反応が違うのはどうしてでしょうか。
実は同じAIでも「どんな存在か」と聞くと、まったく違う回答をいただきました。前者は「作業者であり部下」、後者は「添削者であり先生」でした。今回は「添削者であり先生としてのChatGPT活用」について解説します。
後者のAさんも最初は「AIはそこまで」という立場でした。そこから私とどうAIを使うようになっていったかをお伝えします。
「採用チームにどんなひとでも参画してもらえるなら誰を入れよう」と想像しながらご覧ください。その人物像をAIに演じさせればいいのです。
「自社の視点だけでは偏ってしまう」からAIを使いはじめた
「せっかく時間をかけて作ったスカウトメールなのに、返信率が低くて困っています…」
Aさんの最初の悩みの声です。工夫を重ねても「興味を持てない」と断られたり、せっかく応募してもらっても「イメージと違う」と辞退されたりする。
人事主導で考えていくと「自分たちの視点に偏りがあるのかも…」と悩みがループしてしまいます。
そんな「スカウトメールや求人票がうまくいかない」状況は、まるで霧の中を歩いているようなものです。「採用の霧」なんて共通言語をつけて、Aさんと解決策を練ってみます。
どうすれば「採用の霧」は晴れていくのでしょうか。
Aさんと考えたのは「もっと多角的な視点を取り入れてもいいのではないか。そのために最小のコストから始められることは何か」です。そこで注目したのがChatGPTです。
「生成AIで多角的な視点まで得られるのか」と懐疑的に思われたかもしれません。もちろん、最終判断を下すのは人事部であり人間です。生成AIをどう「添削者であり先生」として使ったかは、この先に公開するプロンプトと生成内容をご覧ください。
ポイントはChatGPTに「添削の先生」として振る舞ってもらうことです。貴社にとって生成AIはどんな存在でしょうか。
例えば今回のように「スカウトメールの返信率が上がらない」という目標や成果物があいまいなものは、人間でも得意と不得意が分かれます。しかし、生成AIは要件定義から力を貸してくれる先生や上司にもなれます。
Aさんの会社では自社のエンジニア採用がうまくいかず、スカウトメールの質を上げることが急務になっていました。
添削の先生としての生成AIの使い方を、プロンプトを含めて公開します。
AIに「候補者目線を知る先生」として振る舞ってもらう
始めはシンプルです。生成AIは添削の先生ですから、まずはそのまま悩みを吐露し、ChatGPTに考えてもらいます。人間がすることは「考えてほしいことを書くだけ」です。難しいプロンプトは不要です。
あなたは、IT業界で5年以上の経験を持つベテランエンジニアです。以下のスカウトメールを受け取りました。このメールの改善点を3つ挙げてください。
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[スカウトメール]
拝啓
佐野創太様
私どもは、急成長中のIT企業です。あなたのスキルと経験は、我が社にとって非常に魅力的です。我が社では、最新技術を使用した革新的なプロジェクトに携わる機会があります。給与は前職以上をお約束します。
ぜひ一度お会いしてお話しできればと思います。
弊社の情報はこちらをご覧ください。
https://〜〜〜〜
ご連絡お待ちしております。
敬具
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ChatGPTは候補者の視点から改善点を指摘してくれます。
Aさんはこう感じました。
Aさん:「なるほど。自分たちにとっては書きすぎても読みたくないかなと思っていたことが、実は候補者にとっては物足りない場合もありそうですね。この視点を取り入れるだけでも、メールの質が上がりそうです」
「その3点を踏まえて作り直してください。」と指示を出してつくられたスカウトメールがこちらです。段々とスカウトメールらしくなってきました。しかし、貴社に見合う人材が振り向く可能性はまだ残っています。
AIに「採用のプロ」として振る舞ってもらう
次は、採用のプロの視点を借りてみましょう。ここでもChatGPTに指示を出します。
あなたは10年以上の経験を持つベテランの採用コンサルタントです。上記のスカウトメールを改善するためのアドバイスを3つ挙げてください。
追加情報は下記です。
[追加情報]
職種:ソフトウェアエンジニア
給与:経験に応じて決定
勤務地:東京都内
応募資格:
– プログラミング経験3年以上
– チームワーク力のある方
– 向上心のある方
仕事内容:
Webアプリケーション開発
ChatGPTは採用のプロの視点から改善点を指摘してくれます。
Aさんは以下のことに気づいたそうです。
Aさん:「確かに、当社の強みや特徴を伝えきれていませんでした。技術スタックや開発環境も具体的に書くことで、エンジニアの方々の興味を引けそうですね。」
同じように「その3点を踏まえて作り直してください。」と指示を出してつくられたスカウトメールがこちらです。
ここまで5分くらいですが、整ってきました。
この後に現場のエンジニアからもらった感想を反映させれば、貴社に見合う人材と出会える可能性がさらに高まります。
ここまでが攻めのAI活用です。採用には守りの観点も必須です。ChatGPTに手伝ってもらいましょう。
AIに「法律のプロ」として振る舞ってもらう
最後に、法律家の視点も取り入れてみましょう。ここではChatGPTに「あなたは労働問題に詳しい弁護士です。上記のスカウトメールの法的リスクを3つ指摘してください」という指示を出します。
ChatGPTは法律家の視点から改善点を指摘してくれます。
Aさん:「法的リスクの観点は盲点でした。これらの指摘を基に修正することで、トラブルを未然に防げそうです。弊社はもっと労務部との連携を深める必要があるかもしれません。採用チームは採用の知識だけで進めていたので、これから会社が成長したときには問題になる点も見逃していそうです」
同じように「その3点を踏まえて作り直してください。」と指示を出してつくられたスカウトメールがこちらです。
ここまで10分とかからないくらいです。
最初の「いかにも業務メール」だったものが、候補者が「ちょっと話を聞いてみようかな」と思えるスカウトメールに近づいたのではないでしょうか。
実際にこのたたき台をもとにつくったスカウトメールと、社員だけでつくったスカウトメールの反応率を比べると3倍の違いが出ました。
Aさんは「2日くらいかけて部下につくってもらっていましたが、かなり時間の効率化ができることを実感できました。空いた時間で他社はどんなメールを送っているのか、現場社員はどう感じるかといったさらに質を上げる仕事に時間を使えます」と手応えを感じていました。
採用広報の支援や著者の活動をしている私としては、昨今の採用環境の厳しさを考えると「ChatGPTが出してくる質だけでは不十分」とは思ってしまいます。
しかし、Aさんが仰るように「たたき台がすぐできることで浮いた時間」を使うことで、反応率が高く、かつ法的リスクも考慮したスカウトメールをつくることは十分可能だと感じました。
「生成AI」と聞くと「何かつくってくれるパートナー」と捉えることがほとんどです。
しかし、それ以上に効果的な使い方は「視点をくれる添削者」です。自社でつくった採用コンテンツに「ほんとにこれでいいのかな」「誰かプロにアドバイスしてもらいたい」と思ったら、AIが先生になってくれます。
会社によっては「Z世代やα世代の候補者として」や「マネジメント経験者が響く内容で」のように世代や経験を具体的にして添削先生をAIに担わせています。
AIを使って「あの人が採用チームにいてほしい」を実現させよう
繰り返しますが、もちろん人事のプロの視点からしたらAIがつくる採用コンテンツだけでは十分ではありません。
しかし、ここから人事部門内で「どの指摘を取り入れるべきか」「どうすれば自社の魅力を最大限に伝えられるか」と議論していくことで、スカウトメールや求人票の質が大きく向上します。
Aさんは苦笑いしていましたが、こんな声が現場から届けられるようになっています。
●これまで見逃していた視点があったことに気づくことができました。特に候補者視点は新鮮でした
●法的リスクの指摘は、人事部門だけでなく経営層にも共有した方がいいんじゃないでしょうか
●採用に関わりたかったので、たたき台を持ってきてもらえて助かりました。もっと連携しましょう
ここまでご覧いただき、「採用チームに入れたい人物像」はイメージできましたでしょうか。
その人物たちがAIを使えば「添削の先生」として呼び出せます。貴社の魅力がさらに伝わる採用コンテンツが量産できることを願っています。
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