2024年5月10日に、雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)が成立しました。改正の目玉は「雇用保険適用拡大」ですが、その他にも広範な変更が予定されており、今後雇用保険制度が大きく変わっていく予定です。改正法の施行は一斉ではなく、2024年5月から2028年10月1日にかけて段階的に行われます。企業の担当者は、いつから、何が変わるのかを正しく把握し、対応に向けた準備を進めましょう(文:丸山博美社会保険労務士、編集:日本人材ニュース編集部

「雇用保険適用拡大」含む改正雇用保険法が成立! 2024年~2028年までに段階的に施行される10施策をチェック

目次

  1. 改正雇用保険法 改正項目と施行時期一覧
  2. 改正雇用保険法 改正項目の概要
    1. 各改正項目に先行して施行される、育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保への改正
    2. 2024年度内にも改正予定の、教育訓練やリ・スキリング支援の充実に関わる施策
    3. 2025年4月施行予定、その他雇用保険制度の見直し項目についても要確認
    4. 改正雇用保険法の目玉! 「雇用保険適用拡大」は企業規模を問わず適用

改正雇用保険法 改正項目と施行時期一覧

このたび成立した改正雇用保険法の改正項目は多岐に渡りますが、各施策の柱は以下の4つです。

◎ 多様な働き方を効果的に支える「雇用のセーフティネット構築」
◎ 「人への投資」の強化等のため「雇用保険の対象拡大」
◎ 「教育訓練」や「リ・スキリング支援」の充実
◎ 育児休業給付に係る安定的な「財政運営の確保」

これらを実現すべく、講じられる施策を時系列で確認しておきましょう。

《2024年5月17日》
①育児休業給付に係る国庫負担引下げの暫定措置の廃止
②介護休業給付に係る国庫負担引下げの暫定措置の2026年度末までの継続

《2024年10月1日》
③教育訓練給付金の給付率引上げ

《2025年4月1日》
④自己都合退職者が、教育訓練等を自ら受けた場合の給付制限解除
⑤就業促進手当の見直し(就業手当の廃止及び就業促進定着手当の給付上限引下げ)
⑥育児休業給付に係る保険料率引上げ及び保険財政の状況に応じて保険料率引下げを可能とする弾力的な仕組みの導入
⑦教育訓練支援給付金の給付率引下げ及び当該暫定措置の2026年度末までの継続
⑧雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付の暫定措置の2026年度末までの継続
◆「出生後休業支援給付」・「育児時短就業給付」の創設
◆子ども・子育て支援特別会計の創設
◆高年齢雇用継続給付の給付率引下げ

上記◆印の施策は、雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)とは異なる枠組みのため、次号にて解説します。

《2025年10月1日》
⑨「教育訓練休暇給付金」の創設

《2028年10月1日》
⑩雇用保険の適用拡大

改正雇用保険法 改正項目の概要

今回は、前項に挙げた①~⑩の施策の概要について、内容ごとにポイントを解説します。

各改正項目に先行して施行される、育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保への改正

育児休業給付については、育児休業の取得者数増等を背景に、年々増加する支給額に対応すべく、財政基盤の強化が急務となっています。

今回の法改正では、他の施策に先行して、財政に関わる一部の改正項目が施行されています。

2024年5月17日(改正法公布日)~
①育児休業給付国庫負担割合を現行の1/80から本則の1/8に引き上げる
②介護休業給付国庫負担割合については、1/80(本則:1/8)とする暫定措置を2年間延長し、2026年度末まで継続とする

2025年4月1日~
⑥育児休業給付に係る保険料率を、現行の0.4%から0.5%に引き上げる改正を行うとともに、実際の料率は保険財政の状況に応じて弾力的に調整する仕組みを導入する

この仕組みとは具体的に、前年度の決算を踏まえた該当年度の積立金残高(見込み)と翌年度の収入(見込み)の合計額が、翌年度の支出(見込み)の1.2倍を超える場合は、翌年度の料率を0.4%とすることができることとすることを指します。つまり、法律上保険料率が0.5%に引き上げられても、保険財政が悪化しない限りは0.4%に据え置かれるということです。

2024年度内にも改正予定の、教育訓練やリ・スキリング支援の充実に関わる施策

「人への投資」は、2023年5月に公表された「三位一体の労働改革の指針」における重要項目の1つです。 働き方が多様化する昨今、キャリアは「会社から与えられるもの」ではなく「一人ひとりが自ら選択するもの」に位置づけられるべきであり、こうした観点では教育訓練やリ・スキリングによる労働者の主体的な学びへの支援が不可欠となります。

2024年10月1日~
③教育訓練給付金の給付率の上限を、受講費用の「70%」から「80%」への引き上げ 具体的な給付率は、教育訓練講座の内容によって異なり、以下の通りとなります。

・専門実践教育訓練給付金(医療・社会福祉・保健衛生関係の専門資格やデジタル関連技術の習得講座等、中長期的キャリア形成に資する専門的・実践的な教育訓練講座を対象とする)
⇒教育訓練の受講後に賃金が上昇した場合、現行の追加給付に加えて、更に受講費用の10%(合計80%)を追加で支給

・特定一般教育訓練給付金(大型自動車等の運転免許関係や医療・社会福祉・保健衛生関係の講座等、速やかな再就職及び早期のキャリア形成に資する教育訓練講座を対象とする)
⇒資格取得し、就職等した場合、受講費用の10%(合計50%)を追加で支給

2025年4月1日~
④離職期間中や離職日前1年以内に、自ら雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練を行った場合、給付制限を解除する

現状、自己都合離職者に対しては、失業給付(基本手当)の受給に当たって、待期満了の翌日から原則2カ月間の給付制限期間が設けられています。この点、自己都合離職者が自ら教育訓練を受けた場合、給付制限をせず、雇用保険の基本手当を受給できるようになります。

併せて、通達の改正により、原則の給付制限期間を2カ月から1カ月へ短縮されます。実務上、こちらの方がより多くの離職者に影響する改正と言えるかもしれません。

ただし、5年間で3回以上の自己都合離職の場合には給付制限期間は3カ月とされます。

2025年10月1日~
⑨「教育訓練休暇給付金」の創設

現状、労働者が教育訓練に専念するために仕事から離れる際、訓練期間中の生活費を支援する仕組みがありません。この点、労働者の主体的な能力開発の支援を目的として、「教育訓練休暇給付金」が創設されます。

本制度により、雇用保険被保険者が教育訓練を受けるための休暇を取得した場合に、基本手当に相当する給付として、賃金の一定割合が支給されます。

2025年4月施行予定、その他雇用保険制度の見直し項目についても要確認

企業実務上、あまり携わることはないかもしれませんが、2025年4月に施行予定の以下の改正についても把握しておきましょう。

⑤就業手当の廃止、及び就業促進定着手当の上限について支給残日数の20%への引き下げ

⑦2024年度末までとされている「教育訓練支援給付金」について、給付率を基本手当の60%とし(現行では45才未満の者に基本手当の80%を訓練受講中に支給)、2026年度末まで延長とする

⑧2024年度末までとされている、「雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例」「地域延長給付の暫定措置」を2026年度末までとする

改正雇用保険法の目玉! 「雇用保険適用拡大」は企業規模を問わず適用

2028年10月1日より、雇用保険の被保険者の要件のうち、週所定労働時間を「20時間以上」から「10時間以上」に変更され、適用対象が拡大されます。適用拡大により新たに被保険者となる者について、現行の被保険者と同様に失業等給付(基本手当等、教育訓練給付等)、育児休業給付、雇用保険二事業の対象とするとのことで、雇用のセーフティネットが拡大されます。

週所定労働時間の要件変更に伴い、現状、「20時間」を基準に設定されている以下の各基準については、現行の1/2に改正し、適用される予定です。

2024年5月10日成立の改正雇用保険法が順次施行され、今後、従来の雇用保険制度が変わります。

改正項目の中には、「雇用保険適用拡大」のようなすべての企業に影響を及ぼすものも含まれます。

施行はまだ先となりますが、現場においては今後、事務処理や保険料負担を踏まえた対応を検討しなければなりません。もちろん、改正を受けて新たに被保険者となる従業員との協議も必要となるでしょう。

「まだ時間はある」と考えていればあっという間に施行時期を迎えてしまいますから、早め早めの取り組みを心掛けましょう。

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